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ヴァンの回想
しおりを挟む「あの変態は放置して、他の質問を聞こうか?」
大人の落ち着き。フィオには申し訳ないが、現状ヴァンのこの落ち着いた対応が落ち着く。下を見ると結構な衝撃だったのか、フィオが頭を抱え蹲っていた。
(私をドギマギさせた罰だ。しばらく苦しめ!)
フィオは放置し、レイは質問を続ける事にした。
「あの、ヴァンさんは魔王なんですか?」
「そうだ。俺はヴァレンティーノ・ルアルディ。現魔王だな」
うぉう。本当に魔王なのか。確かに強いけど、レイを縦抱きに抱き上げ、微笑みながら優しく髪を撫でているこの男が魔王だなんて誰が思うか。
「私はヴァンさんを倒すために召喚されたんですよね?ヴァンさんは私と戦うの?」
「ん?そうだな。最初はそのつもりだった。だが、レイは魔族領を奪おうとか戦争をしようとか思ってないだろ?今のところはレイと戦おうなんて考えてないよ」
「……今のところは???」
「あぁ。実はアッテムト国が勇者召喚をした時に、魔族領に攻めてくる前に殺してしまおうかと思って城まで行ったんだ。しかし、レイはそこに居なかったからな。殺さなくて良かった」
「えぇ?!本当に殺そうと…?」
微笑みながら話す内容ではない気がするが…。
「そうだな。まずは魔族について話そうか」
◇◇◇
魔族領は人族の国の東側にある。
魔族の中にも種族があり、それぞれの部族ごとに別れて生活をしている。魔王城の近くになるにつれ強者のいる部族が住み、人族や獣人族の領地に近くなるにつれ弱い部族が生活している。
各部族から武力であったり宝石であったりを納めさせているが、魔族は基本自由だ。好きな時に寝て、気が向いたら狩りをして、腹が減ったら飯を食い、大好きな自然に囲まれ、世界をただ眺める。
魔王であるヴァンもそんな生活をしていた。
この世界、魔力の高さによって寿命が変わる。寿命が変わるというよりも、老化スピードが遅くなると言った方が良いかもしれない。魔王であるヴァンも高魔力であり長い人生いかに暇せず過ごせるか考えていた。
そんなある日、この世界に異物が侵入した。
いや、侵入したのではない。同種である人間に強制的に引っ張りこまれたのだ。
人間はなんて残酷なことをするのか。自分と同じ種であるのだろうに。
人間たちは、どうやらこの魔族が住む森が欲しいらしい。ただ、人間では魔族にどうしても勝てない。だからこそ、強き者を無理矢理攫い、洗脳し、戦わせるのだ。くだらないな。
羽虫が騒いでいるくらいに思っていたら、ある日、召喚した者を連れて人間どもが森へと攻めて来た。
弱い者達が集団で俺の大事な森を破壊していく…。
ーーー 許せない。
俺の大切な森を破壊するとは。
ヴァンは初めて怒りを覚えた。
二度と攻めてこようと思わぬように、人間が思い上がらないように、徹底的に絶望を見せてやろう。恐怖を刻み付けよう。暇だったしちょうどいい。
さぁ、人間ども、沢山の死を聞き取ると良いよ。
普段、狩など生き物を殺す時はいつもは喉を先に潰す。でも今日は、存分に鳴いてもらおう。
腕に自信があるのか、10人程の人間が襲いかかって来た。全員の四肢の腱を丁寧に早く切る。
他の場所では他の魔族が圧倒的な力で人間どもを殺しているようだ。甚振っているのは俺だけらしい。
いつもは煩わしい叫び声も何故か心地良い。
こんなに鈍くて弱いお前らが、よくも魔族領を攻め落とそうと考えられるものだ。
もがく物体を1つずつ、直ぐ死なないように、太い血管を少し傷付ける。
火の攻撃魔法が飛んでくる。森で火など使えばどうなるか分からないのか?俺の大切な森が火事になったらどうするんだ?馬鹿ばかりだ。盾にした一人の体が燃える。
「ひいひィ~!火っ火っ火がぁ~!!た…たすけて~えっえっあぁ~」
呻くだけでなく、恐怖で鳴けば良いのに。
慌てた誰かの声。
誰かに救いを求める声。
断末魔のような叫び声。
血を吐く音。
固いものがぶつかる音。
何かが折れる音。
続く叫び声や、助けを求める声が途中で途切れる。
血の海が広がる。水の上を歩くようなピチャッとした足音。
逃げ出す人間の足音がする。逃がさない。全員地獄を見て死ねばいい。森を出て人間の国へと逃げ出した者も追いかける。
「もう二度とちょっかい出そうなんて思わないように徹底的に痛めつけてあげよう」
「ひっぁが…ぁ……助け、て」
「俺を覚えておけよ。お前達が再び魔族領にちょっかい出そうとしたら俺は出てくるぞ?きちんと覚えておくんだ」
「ひぃぃっ!これはぁ!国王からの命令で」
「あぁ、そうだな。そっちも後で片付けに行くよ」
「ひゃあぁぁ!あぐぁっ!」
「必ず記憶しなよ。絶対忘れるな?お前達は短命だからな。文献にでも必ず残して子孫にも教え込めよ」
「あっぎゃあぁあぁぁぁー!」
その時、一人の男が目に入った。
「勇者様!早く魔法で魔王を退治してください!!」
ガタガタ震え、瞬きを忘れたかのように、こちらを凝視してくる男に、騎士や魔導士が縋っている。なるほど。あれが召喚勇者か。煌びやかな装備を身につけご立派な事だ。
「思えばお前も可哀想な男だな。だが、それでも貴様の足でここまで来たんだ。俺たちを殺しに来たのなら、殺される覚悟も出来てるよな?」
「お…おれは…まだ死にたくねぇ。死にたくねえ~~~っ!!」
頭を抱え込み、半狂乱で叫び出した召喚勇者。不味いな。魔力が増大している。
「おい!全員逃げろ!」
咄嗟に思わず叫んでしまっていた。
逃げ出したその瞬間、大地を焼き尽くす大爆破が起こった。
一瞬だった。
植物も…生き物が何もいない死の大地が出来上がった。
人間も魔族もたくさん死んだ。
俺の好きな森も欠けてしまった。
自身にも怪我を負ってしまった。
何なんだ?人間とは。勝手に攻めて来て、殺しに来て、いざ自分が殺される時には醜く泣き喚く。死にたくないと。じゃあ何故来たんだ?何のために?変な生き物だ。
ヴァンは初めて人間に興味を持った。なんて予測出来ない生き物なんだ。短命のくせにさらに寿命を短くしようとする。
気になる。
確かめたい。
この意味不明な生き物の観察をするのも良いかもしれない。今までのつまらない人生から抜け出せそうな気がした。
あれだけのダメージを受けたなら、人間も再び襲ってこようとは思わないだろう。魔族や獣人族と共存共栄を望む人族の国がある。
そこで人間を観察してみよう。
しばらくしてヴァンは冒険者になった。
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