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22)酷くされたい*

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 その日自宅ドアの前で俺を出迎えた由岐は、泣き腫らした俺の顔を見て少し驚いた表情をした。


「忙しいって言ってたのに、無理言って悪いな」
「いいえ。翔李さんの方から『今すぐどうしても会いたい』なんて言ってもらえるのは、素直に嬉しいです」


 何も聞かずに俺をリビングに通した由岐は、珍しくペットボトルの水ではなく、温めたミルクティーを出してくれた。


「なんとなく、こっちの方が今の翔李さんには合っている気がして」


 そう笑った由岐に、俺は自嘲気味に笑みを返した。


「いや。むしろ、今は優しくしないでくれないか。今日はなるべく酷いプレイをしてくれよ。頭真っ白にしたいんだ。痛くても苦しくても、文句言わないからさ」
「えっ……でも。……良いんですか?」
「ああ。俺を助けると思って、思いっ切り頼む」


 出されたミルクティーを飲み干した俺は、目の前の由岐を抱きしめた。
 華奢な体を抱きしめる手が震える。人肌のぬくもりに涙が溢れる。けれど、ユウキとは違う由岐の甘い香りが、俺を安心させた。
 ただならぬ俺の様子に聞きたいこともあるだろうに、由岐はただ静かに俺の背中に腕を回す。密着した体から伝わる由岐の静かな鼓動が、今はとても心地良かった。


「……分かりました」


 由岐の答えに安堵しながら、俺はじわりと湧いた涙を由岐に気付かれないように袖口で拭った。





◆◇◆◇◆◇





「少々準備をしてきます」 


 そう言ってリビングのソファに俺を残して別室に消えた由岐が、俺を呼ぶために戻ってきたのは十分ほど後の事だった。俺が由岐に招かれるまま向かったのは、いつもの寝室だ。


「翔李さん、服を脱いでベッドで待っていて下さい」


 由岐はそう言って、俺に背を向けた。言われた通りに服を脱ぎ捨てた俺は、ベッドに上がった。


「今日は拘束はしません。貴方は自らの意思で、僕に酷いプレイをされに来た」
「ああ」
「逃げないでくださいね?」
「勿論。二言はないし、これでも根性はあるほうだ」
「……そういう意味じゃなくて」


 由岐が困った顔で首を傾げたが、上手い言葉が見つからなかったのだろう。小さな溜息をついて首を振った。

 由岐は使い捨てのニトリル手袋と、菓子箱ほどの大きさの黒い小さなケースを取り出した。手袋を付けた手でケースを開けると、中には銀色の細長いマドラーのような器具が何本か収納されているのが見える。その中の一本を選びだした由岐は、それらを消毒しながら俺の方へと近付いた。


「本来なら、一番細くて柔らかいシリコンのものから始めると楽なんですけど」


 由岐はそう前置きをして、おもむろにまだ萎えたままの俺のペニスを掴んだ。何をするのだろう、とぼんやり由岐を見ていた俺のそこに、おもむろに金属棒の先端があてがわれる。
 持ち手の部分にリングの付いた、緩く湾曲したマドラーのような謎の器具。接触した部分からひんやりと金属特有の冷たさが伝わって、俺の背筋にはゾクリと未知への恐怖心が湧き上がる。

 由岐はその金属に沿わせるように、見慣れないジェルのような物を丁寧に絡めた。そのまま金属の先端をペニスの先、尿道口へと突き立てた由岐は、ツツ……と僅かに棒の先端に力を入れた。


「い゛ッ…………!!!??」


 じくり、と強い痛みが俺の敏感な場所を襲った。間違っても普段何かを挿れるような場所ではない、ごく狭い粘膜の小径。それを、由岐が金属の棒を使ってゆっくりと押し拓いている。

 痛い、痛い、痛い…………っ!!!

 そう叫びたいけれど、俺がそれをすれば、きっと由岐が辛い。
 これは俺の都合で頼んだ行為だ。由岐を第二のジンにしてはいけない。俺はちらりと由岐を見るが、行為を行う由岐はいつもの微笑みを浮かべるばかりで、感情は読み取れない。


「ぐぅ…………っ、ぁぁ……ッッッ!」


 口から勝手に漏れ出る呻きを必死に抑えた俺は、側にいる由岐の肩にしがみついた。
 昨夜散々泣き腫らして、もういい加減いつ枯れてもおかしくない涙。だが、その涙は今度は生理的な痛みによるそれに変わり、再び俺の顔を伝う。


「これ、尿道ブジーって言うんです。簡単に言うと、尿道を開発するための器具」
「あっ、あ……ッ」


 重量のあるその棒は、由岐が僅かに支えるだけでぬぷぷ……と自重でゆっくり奥へと進んでいく。が、比較的早い段階で細すぎる粘膜の道に阻まれて止まった。
 無理矢理拓かれるのかと怯んだ俺の考えを見透かすように、由岐は上目遣いで俺を見上げて優しく視線を合わせた。


「ここはとても繊細な場所なので、無理矢理拓くような真似はしませんよ」


 そう言った由岐は、中を傷つけないように優しい動きでブジーを捻った。
 由岐の指の腹で転がすようにゆっくりと回される金属の器具は、捻じられる度に尿道の内側の繊細な粘膜をチリリと刺激する。それでも強い異物感が堪らず、俺は顔をしかめた。


「ふふ、泣くほど辛いんですね」
「あ、違……っ、ヘー、キ………っ……! あっ……!」


 狭い亀頭のあたりを通り抜けたブジーが、再びゆっくりと俺の尿道を犯し始める。

 痛み、異物感、恐怖心。


 ボロボロと流れる涙は、俺がしがみついている由岐の肩をも濡らす。わなわなと震えながら耐える俺を励ますように、由岐は鎖骨や胸元へ優しいキスを落とした。

 ブジーを使って悪魔のように痛みを与えて、俺を泣かせる由岐。
 一方で、優しいキスで俺を慰める、天使のような優しさを持つ由岐。
 どちらも同じ由岐だ。

 いつも天使のように微笑む由岐の本性は、果たしてどちらなのだろうか。
 感情があまり出ないその表情から由岐の考えを読むことは難しい。
 それはその行動や仕草からも同様だった。


「全部挿入りましたよ」
「……っふ、んん」


 耳元でそう囁いた由岐が、そのまま耳に口付けた。耳の軟骨を唇で挟むようにしながら甘噛みすると、耳の穴を舌でなぞる。
 舌先でチロチロと穴の入口を舐め犯される感覚に、痛みで遠のいていた性感がゆるりと頭をもたげた。


「僕は翔李さんの穴という穴を全て犯したかった。思いのほか早く、望みが叶いそうですね」
「あっ……駄目だ由岐……っ、気持ちいい、から……っ」


 ユウキへ対する罪悪感。それは快楽を得れば得るほど、俺の中で比例するように大きくなっていく。
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