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動き始めた歯車
懇願
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「レムリア」
その日は特にやることが無く、家でゴロゴロ過ごしていたらリュシルがやって来た。
「どうしたのリュシル」
「一昨日…さ」
迷う様に視線を彷徨わせていたリュシルは、覚悟を決めた様にこちらを向く。
「一昨日、ヴォーグさんと一緒に居るところを知り合いが見たって言ってて」
「一昨日…。ああ!ヴォーグさんと商会に行ったよ」
私がそう言うとリュシルは少し険しい顔をして話す。
「レムリア。俺がこんな事言うのは間違ってるしそんな権利ないって分かってるけど…。お願いだからなるべく彼に近付かないでくれ」
何を馬鹿な…。そう言いかけたが余りにも真剣なその表情を見て違和感を感じた。
「それは何で?」
リュシルの気持ちは分かっている。何年もはっきりと好きだと言われているのだから。だから嫉妬心でそんな事を言ってるのかと思ったのだが…。
「正直な所、嫉妬している所もある。でも、それ以上に嫌な感じがするんだ」
「嫌な感じ?」
「うん。初めて会った時も感じた。けど、俺はまだ子供だったから自分より大人のあの人に嫉妬してるんだと思ってた。でも、大きくなってもそれは変わらなかった。むしろ、成長するにつれて嫌な感じが大きくなる」
それを聞いてふと蘇る記憶。
『あいつ嫌い』
『リュシル?』
『あいつなんか嫌な感じがする』
リュシルがヴォーグさんと初めて会った日の彼の言葉。あれから7年も経っている。それに、普段の彼は誰かをこんな風に言う人物では無い。
「お願いレムリア。なるべくあの人には近付かないで」
それはもはやお願いでは無く懇願だった。そんな彼を見て私は躊躇いながら頷く。
「…わかった。少しの間だけヴォーグさんに近付かない様にする」
「レムリア!ありが」
「ただし!」
リュシルの言葉を途中で遮る。
「ただし、本当に少しの間だけ。話しかけられたら最低限の会話もするし、様子を見て大丈夫だと判断したら今まで通りにする」
これが私の出来る最大の譲歩だ。
「それでもいい。ありがとう、話を聞いてくれて」
そう言い彼は帰って行った。
その日は特にやることが無く、家でゴロゴロ過ごしていたらリュシルがやって来た。
「どうしたのリュシル」
「一昨日…さ」
迷う様に視線を彷徨わせていたリュシルは、覚悟を決めた様にこちらを向く。
「一昨日、ヴォーグさんと一緒に居るところを知り合いが見たって言ってて」
「一昨日…。ああ!ヴォーグさんと商会に行ったよ」
私がそう言うとリュシルは少し険しい顔をして話す。
「レムリア。俺がこんな事言うのは間違ってるしそんな権利ないって分かってるけど…。お願いだからなるべく彼に近付かないでくれ」
何を馬鹿な…。そう言いかけたが余りにも真剣なその表情を見て違和感を感じた。
「それは何で?」
リュシルの気持ちは分かっている。何年もはっきりと好きだと言われているのだから。だから嫉妬心でそんな事を言ってるのかと思ったのだが…。
「正直な所、嫉妬している所もある。でも、それ以上に嫌な感じがするんだ」
「嫌な感じ?」
「うん。初めて会った時も感じた。けど、俺はまだ子供だったから自分より大人のあの人に嫉妬してるんだと思ってた。でも、大きくなってもそれは変わらなかった。むしろ、成長するにつれて嫌な感じが大きくなる」
それを聞いてふと蘇る記憶。
『あいつ嫌い』
『リュシル?』
『あいつなんか嫌な感じがする』
リュシルがヴォーグさんと初めて会った日の彼の言葉。あれから7年も経っている。それに、普段の彼は誰かをこんな風に言う人物では無い。
「お願いレムリア。なるべくあの人には近付かないで」
それはもはやお願いでは無く懇願だった。そんな彼を見て私は躊躇いながら頷く。
「…わかった。少しの間だけヴォーグさんに近付かない様にする」
「レムリア!ありが」
「ただし!」
リュシルの言葉を途中で遮る。
「ただし、本当に少しの間だけ。話しかけられたら最低限の会話もするし、様子を見て大丈夫だと判断したら今まで通りにする」
これが私の出来る最大の譲歩だ。
「それでもいい。ありがとう、話を聞いてくれて」
そう言い彼は帰って行った。
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