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4 市場
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「うっわ、すご…」
今日はまた活気がすごい。
仕事柄色々な街や村にも行くけれど、この街は本当に活気に満ち溢れている。
王都のような整理された美しさはないけれど、街の隅々まで活動している感じがした。
朝食がてら市場に来ていたソフィアはにぎやかさに感嘆しながら歩く。
屋台で好きな物を買って近くのベンチで食べる。歩きながら食べるのは人にぶつかりそうなので諦めた。
お腹を満たしたら商人として市場を端まで歩く。
ソフィアは一人で行動しているのであまり大きな物は持ち歩けない。
軽く、嵩張らず、売れる物。装飾品や機能的な道具などを主に扱っていた。
後はソフィアには必要のない情報を商人仲間に売って生活している。
例えばどこどこの村では上質な綿織物を作っているとか、海辺の寒村では魚の骨を使った工芸品があるとか。
ソフィアでは扱えないけれど魅力のある品というのがたくさんある。
そういった情報と引き換えに商品を少し高く買ってもらったり、逆に商品の仕入れの時に少し値引きしてもらう。
生活に困らないくらいの収入を得られているのは運と培った技術のおかげ。
幼い頃から目利きや交渉の術などを学んでいた甲斐があった。
こうして王国中を旅する行商人になるなんてあの頃は全く想像していなかったけれど、身につけておいて何よりだ。
定期的に走る馬車のおかげで隣の隣の街くらいなら行き来は難しくない。
交通網が発達しつつある今、魅力ある品は存在さえ知られれば取引は容易になりつつある。
昔なら自分たちで隊商を組むなどして街から街へ移動するしかなかったけれど、二十年程前に当時の王様が主要な都市を結ぶ道路を大々的に整備した。
そして馬車が定期的に街々を移動するようになると人や物品の移動も盛んになり、商人たちは活発に王国全土で商売をするようになり、その地位を上げてきている。
貴族たちは自分たちよりも経済を操る商人たちを疎ましく思いながらも流れに乗り、自分でも商会を立ち上げる者も出始めていた。
それこそソフィアのお婆様の時代なら考えられなかったことだ。今では貴族様が商売なんて、と眉を顰めるのは古い風潮として笑われる。
特に商人の間では実力さえあれば相手が貴族だろうが気にしないというのが一般的だ。
保守的な貴族には一部にそういった考えが残っているものの、同じ貴族たちですら同調はしない。
良くも悪くも変化の途中、といったところだ。
「うーん、これは高いなぁ」
市場に店を広げていた織物屋で呟く。
自分で扱うには大きい品なので買うつもりはないけれど、少し値段が高い気がした。
「おいおい、聞き捨てならないな。
これは王都でも人気の品なんだぞ?」
店主の説明を聞いて納得する。
王都でも流行ってるという付加価値に値段を乗せているみたいだ。
「ごめんなさい、私の財布じゃ買えないなって思っただけなの。 立派な敷物ね」
適当なことを言って商品を褒める。
店主はまんざらでもなさそうに商品を説明し始めた。
説明を聞き流しながら他の商品を眺める。
その中に気になった物があった。
「おじさん、それは?」
「ん? これか?」
隅っこに置かれた小さな織物は布地に小さな刺繍が施された物。
これだけでは使い様がないと思うのだけれど、刺繍は見事で見つめているとため息が出そうな精緻さだった。
「これはなぁ…」
渋い顔でおじさんが説明してくれる。
この街で古本屋を営んでいる女性が趣味としてやっている物だけど、小さいので中々買い手がいなくて困っていると言う。
「そんなのをどうして扱ってるの?」
品物を置けるスペースが限られてるのにどうして片隅とはいえ置いてあげてるのか聞くと突然おじさんが顔色を変える。
「い、いや、それは色々世話になってるところだからな?!」
若干声も裏返っていた。
「ふーん」
興味がないのでそれ以上聞かずに流す。
おじさんはほっとした顔で織物をしまう。
「ねえ、その人ってどこの本屋さん?」
聞くと訝しげな顔をしながら教えてくれる。
「何しに行くんだ? 旅人に本は邪魔になるだろう?」
何をしに行くのか聞かれたので家族にお土産として持って帰れるような小さくてきれいな織物があるか見せてもらいに行くと答えた。
本当の狙いは違うけれど、それを説明する必要はなかった。
額に入れて飾れるような品物があれば商品として仕入れたい。
あれだけの美しさなら富裕層のご婦人や令嬢がきっと気に入るはず。
こういうのは早い者勝ちだ。
教えてくれたおじさんには悪いが、そこは良家が好む物を知っていたソフィアの知識による先見なので遠慮はしない。
もし目に適う物がなければ、依頼して作ってもらおうと考えながら市場を出た。
今日はまた活気がすごい。
仕事柄色々な街や村にも行くけれど、この街は本当に活気に満ち溢れている。
王都のような整理された美しさはないけれど、街の隅々まで活動している感じがした。
朝食がてら市場に来ていたソフィアはにぎやかさに感嘆しながら歩く。
屋台で好きな物を買って近くのベンチで食べる。歩きながら食べるのは人にぶつかりそうなので諦めた。
お腹を満たしたら商人として市場を端まで歩く。
ソフィアは一人で行動しているのであまり大きな物は持ち歩けない。
軽く、嵩張らず、売れる物。装飾品や機能的な道具などを主に扱っていた。
後はソフィアには必要のない情報を商人仲間に売って生活している。
例えばどこどこの村では上質な綿織物を作っているとか、海辺の寒村では魚の骨を使った工芸品があるとか。
ソフィアでは扱えないけれど魅力のある品というのがたくさんある。
そういった情報と引き換えに商品を少し高く買ってもらったり、逆に商品の仕入れの時に少し値引きしてもらう。
生活に困らないくらいの収入を得られているのは運と培った技術のおかげ。
幼い頃から目利きや交渉の術などを学んでいた甲斐があった。
こうして王国中を旅する行商人になるなんてあの頃は全く想像していなかったけれど、身につけておいて何よりだ。
定期的に走る馬車のおかげで隣の隣の街くらいなら行き来は難しくない。
交通網が発達しつつある今、魅力ある品は存在さえ知られれば取引は容易になりつつある。
昔なら自分たちで隊商を組むなどして街から街へ移動するしかなかったけれど、二十年程前に当時の王様が主要な都市を結ぶ道路を大々的に整備した。
そして馬車が定期的に街々を移動するようになると人や物品の移動も盛んになり、商人たちは活発に王国全土で商売をするようになり、その地位を上げてきている。
貴族たちは自分たちよりも経済を操る商人たちを疎ましく思いながらも流れに乗り、自分でも商会を立ち上げる者も出始めていた。
それこそソフィアのお婆様の時代なら考えられなかったことだ。今では貴族様が商売なんて、と眉を顰めるのは古い風潮として笑われる。
特に商人の間では実力さえあれば相手が貴族だろうが気にしないというのが一般的だ。
保守的な貴族には一部にそういった考えが残っているものの、同じ貴族たちですら同調はしない。
良くも悪くも変化の途中、といったところだ。
「うーん、これは高いなぁ」
市場に店を広げていた織物屋で呟く。
自分で扱うには大きい品なので買うつもりはないけれど、少し値段が高い気がした。
「おいおい、聞き捨てならないな。
これは王都でも人気の品なんだぞ?」
店主の説明を聞いて納得する。
王都でも流行ってるという付加価値に値段を乗せているみたいだ。
「ごめんなさい、私の財布じゃ買えないなって思っただけなの。 立派な敷物ね」
適当なことを言って商品を褒める。
店主はまんざらでもなさそうに商品を説明し始めた。
説明を聞き流しながら他の商品を眺める。
その中に気になった物があった。
「おじさん、それは?」
「ん? これか?」
隅っこに置かれた小さな織物は布地に小さな刺繍が施された物。
これだけでは使い様がないと思うのだけれど、刺繍は見事で見つめているとため息が出そうな精緻さだった。
「これはなぁ…」
渋い顔でおじさんが説明してくれる。
この街で古本屋を営んでいる女性が趣味としてやっている物だけど、小さいので中々買い手がいなくて困っていると言う。
「そんなのをどうして扱ってるの?」
品物を置けるスペースが限られてるのにどうして片隅とはいえ置いてあげてるのか聞くと突然おじさんが顔色を変える。
「い、いや、それは色々世話になってるところだからな?!」
若干声も裏返っていた。
「ふーん」
興味がないのでそれ以上聞かずに流す。
おじさんはほっとした顔で織物をしまう。
「ねえ、その人ってどこの本屋さん?」
聞くと訝しげな顔をしながら教えてくれる。
「何しに行くんだ? 旅人に本は邪魔になるだろう?」
何をしに行くのか聞かれたので家族にお土産として持って帰れるような小さくてきれいな織物があるか見せてもらいに行くと答えた。
本当の狙いは違うけれど、それを説明する必要はなかった。
額に入れて飾れるような品物があれば商品として仕入れたい。
あれだけの美しさなら富裕層のご婦人や令嬢がきっと気に入るはず。
こういうのは早い者勝ちだ。
教えてくれたおじさんには悪いが、そこは良家が好む物を知っていたソフィアの知識による先見なので遠慮はしない。
もし目に適う物がなければ、依頼して作ってもらおうと考えながら市場を出た。
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