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子供たちと過ごした日々はとてもとても幸せでした。旅立ちは全てを祝福するような青天です。
しおりを挟むいよいよその日が来ました。
冒険者の旅装に身を包んだ二人が旅立つ日です。
リオンが腰に着けているのは兄が作らせた白銀鋼でできた剣とナイフです。
あの日王都へ行った兄はなぜか鍛冶師をリオンとルイスへのお土産として連れてきました。
自分たちに合った武具を自由にオーダーさせるためだと言って。
手に入れた素材をここで加工できるようになれば、戻ってくる機会も増えるとリオンとルイスは喜んでいました。
後で私に、使わなかった素材が流通すれば領地も発展するしなと言っていましたが、それだけじゃないのも知ってます。
可愛い姪っ子甥っ子に会いたいですもんね。
領地のために『精霊のいとし子』に関わってほしいのも事実。
伯父として家族として可愛い子供のために何かしてあげたいのも事実。
それは両立するものですから、ね。
ルイスが纏っているのはいつだったか袋一杯集めてきた羽を使用したローブです。防御力を高めるために他の素材も入っているそうです。なんでも他の素材と混ぜ合わて生地を作るのは、つい最近発見された新技術だとか。枕にしないで良かったですね。
二人の晴れ姿にライナスがきらきらとした目を向けています。
自慢の姉兄がいなくなるのは寂しいと言っていましたが、それ以上に二人がする冒険を楽しみにしているのです。
ルイスがライナスを抱き上げて頬ずりをし、リオンがライナスの頭を撫でています。別れを惜しむ、というよりは土産話を楽しみにしていてほしいと語りかけていました。
イクスが感慨深げに目を細めて、最後の注意をしています。
これからは二人だけで切り抜けていくのですから、二人の実力を知っていても心配は尽きません。
ライナスをおろしたルイスがこちらを見ました。
リオンが駆けてきます。
「お母様! 泣かないで!」
焦ったように言われても涙が止まりません。
ぼやける視界を作り出す涙が、拭いても拭いても溢れてきます。
「母上……」
ルイスにまで困った声を出されてしまいました。
こんなことではいけませんね。
「違うの、うれしくて。
こんなに大きくなって、立派に旅立つことがうれしくて……」
リオンとルイスが生まれてからの幸せな記憶が胸にあふれてきます。
「ありがとう、リオン、ルイス。
私の元に生まれてきてくれて、あなたたちの母になれてとても幸せだったわ」
「お母様……。
私たちこそ、お母様の子供に生まれて幸せだったわ!
お母様の子供で本当にうれしい!!」
「リオンの言う通りです。
俺たちを産んでくれて、育ててくれて、守ってくれて、ありがとう。
これからも、俺たちは母上の子供です。
帰るのは母上の元ですから」
抱きしめた二人は身長も私より大きくなりました。
まだ顔つきは少し幼いところもありますが、これからもっと成長していくことでしょう。
また会えたときにその成長を見るのが楽しみです。
「ありがとう、元気で。
無理はしないで、身体を大事にね」
「もちろんよ!
お母様こそ、風邪ひいたりしないでね」
「そうですよ。
母上が元気でいてくれなくては、俺もリオンもライナスも父上も、心配で気が気でなくなってしまいますから」
それに、と続いた言葉に涙が止まりました。
「できるだけ早く空を飛べる魔物を捕まえます。
そうしたら遠くへ冒険に行ってもすぐにまた会えますから」
ルイスが本気なのはすぐにわかりました。
空飛ぶ大型の魔物を従えた者も、魔物に乗って空を飛んだ者も未だいません。
成せば前人未到の偉業になりますね。
そして、二人なら本当にやってのけるだろうと思います。
いきなり空を飛ぶ魔物で現れる二人を想像して笑ってしまいました。
「ふふっ、楽しみにしてるわ。
リオンもルイスも冒険楽しんできてね!」
「「はい!!」」
満面の笑みを浮かべたリオンとルイスの頭を撫で、身を離します。
次に会ったときは頭を撫でるのも大変になっているかもしれません。
子供の成長というのは本当に早いものでした。
「気をつけてね! いってらっしゃい!!」
手を振って旅立つ二人に屋敷のみんなが手を振ります。
「「いってきます!!」」
二人を身籠ってから色々ありましたが幸せでした。
リオンとルイスはこれからも波乱万丈な人生を歩くと思いますが、幸せになることでしょう。
イクスに贈られた耳飾りが肯定するようにしゃらりと小さく鳴ります。
そして私も、イクスも、ライナスも、兄もミオンも屋敷のみんなも楽しく幸せで、時々ちょっと驚く日々が続くのでしょう。
抜けるような青天の空に、そう確信したのでした。
Fin.
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