不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺

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子供たちへの愛とはまた違います。イクスからの深い愛を感じます。

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翌朝、目を覚ましたときにはベッドの隣が空になっていました。
屋敷の者に聞くと朝早く出て行ったとの話です。
何も言わずどこへいったのでしょう。起きた隣にイクスがいないなど初めてのことなので落ち着きません。屋敷にいるときはいつも私が目を覚ますまで側にいてくれるのに。
子供たちは特に心配していないようで三人で遊んでいます。
不安、とも心配、とも少し違います。
もしかしたら寂しいのかもしれません。
側にいない時の方が長いのに、会える時に会えない方が寂しく感じるとは不思議ですね。
子供たちに一緒に遊ぼうと手を引かれたので、寂しさは振り払って子供たちとめいいっぱい遊ぶことにします。

お母様水出してー、とせがまれ空中に水のボールを作ります。
ぽーんと投げるとルイスが軽く手を当ててリオンに飛ばしました。リオンも柔らかいボールを難なく受け止めます。
こっちこっちと手を振るライナスが取りやすいように少し高くボールを上げたリオン。上を見上げて慎重に距離を測るライナス。伸ばした手がボールを見事キャッチしました。
やったーとはしゃいだライナスが手に力を入れた瞬間「あ」と私たちは思いました。加わった力に耐えられずボールは弾けて周りに飛び散ります。
当然ボールを持っていたライナスもびしょ濡れ。

何故か濡れた本人は大喜びです。

もう一回!とはしゃぐライナスに水のボールを渡すと壊さないように、でも全力でボールを投げました。狙われたルイスは危なげなくボールを受け止めリオンへ送ります。
少し速さの増したボールに、打ち返そうとしたリオンの手元でボールが弾けます。
力加減を間違えて水浸しになったリオンが悲鳴のような声を上げました。
ルイスとライナスが可笑しそうに笑っています。
ムキになったリオンはルイスを集中的に狙っています。何度目かでようやくルイスに水を掛けられたリオンが快哉を上げました。
お昼が近づいた頃にはみんなびしょ濡れです。
私はボールを破裂はさせませんでしたが、ライナスに抱きつかれたので結局濡れてしまいました。
着替えてから昼食にしましょうね。こんなに濡らしてしまって後で怒られるかもしれません。



イクスのいない昼食を終え、テラスで久しぶりの読書をします。
ライナスは午前中遊び過ぎて疲れたのかお昼寝中、リオンとルイスはミオンから留守中のライナスの話を聞いています。
屋敷に漂う雰囲気が活発なのを感じますね。
しばらく読書に没頭した後、丁度いいページで本を閉じました。
お茶を淹れようかと顔を上げると入口にイクスが立っていて驚きました。いつからいたのでしょうか。

「おかえりなさい、イクス。
いつから見ていたんですか? 声をかけてくれてよかったのに」

「見ていたかったんだ」

微笑む顔のやわらかさに胸の奥が高鳴ります。
立ち上がってハグをするとゆっくりと腕を回して抱きしめ返してくれました。
大きな身体に抱きしめられていると、幸せに力が抜けていきます。
出会った頃から変わらず逞しい身体は今も現役の冒険者として衰えることなく力強いです。
ひとしきり抱きしめ合った後、お茶を淹れ直して腰を下ろしました。

「朝はごめん、君が心配していたと聞いたよ」

「そんな心配なんて……。
でも寂しかったです」

いつもならなんてことのないベッドの空白も、埋めてくれる人がいると思っているときは寂しさが増すものです。

「ごめん」

立ち上がったイクスが目元にくちづけを落としました。甘やかすように髪を撫でる手に身を委ねます。

「これを取りにいってたんだ」

イクスが見せたのは小さな白い鱗?でしょうか。
虹色に淡く光を反射し、輝いています。

「これは一度だけ物理攻撃から守ってくれるアイテムだ。
ギルドに預けっぱなしにしてたのを思い出して、慌てて取りにいったんだ」

これをレインに持っていてほしいと言われ渡されます。

「ありがとうございます、でもそんな効果があるものならイクスが持っていた方が良いのではないですか?」

日常的に危険があるイクスの方がこのアイテムを必要としているのではないでしょうか。
私の疑問にイクスが首を振りました。

「それが意外と使い所が難しいアイテムで。それはある程度のダメージまでしか防げないんだ。しかも武具や魔法で防御できて実際の肉体にダメージが入っていなくても使用条件を満たして効果が自動で発動してしまうから俺のような冒険者では必要な場面の前に壊れてしまうんだ」

使い勝手が悪いからずっと預けていたんですね。
売るにも希少性に見合わない値段だったから放置していたとか。小さいので場所も取りませんしね。

「もちろん、君に危険を冒してほしい訳じゃないけれど、守るために動きたいと思うことを否定したくない。だからこれを持っていてほしい」

そうすれば少しは安心して出かけられるから。
そう言われて目が潤むのを感じました。
イクスの愛は深くて優しいです。
私も同じだけの想いで応えたい。

「明日、細工師を呼ぼうと思います」

不思議そうな顔をするイクス。私の喜びがわかるでしょうか。

「耳飾りに加工して、いつも身に着けています。
決して壊さない。
イクスが守ってくれる私を、私自身も大切にして守ります」

こんなにうれしいことがあるでしょうか。
イクスは私の身を案じるだけではないのです。
私の意志も大切に考えてくれた上でこのアイテムを取りにいってくれました。
言葉で言い表せないくらい『幸せ』と『うれしい』と『大好き』が胸に湧いて、愛しさが溢れてきます。

絶対に壊さず自分もライナスも屋敷の皆も守り切ると覚悟を決めました。
それが、こんな素敵な気持ちを贈ってくれるイクスに返せる私の気持ちです。
帰ってくる度に耳飾りを見て今回も使うことなく無事だったと安心してほしい。
その想いを込めてイクスを見上げます。

「本当に、君には敵わない」

愛おしげに頬を撫で、うれしそうに笑んだ顔が近づいてきます。
私は昔からこの表情に弱いのです。
触れ合った唇は優しく深い幸せの味がしました。


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