不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺

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番外編など

子供は育ち大人になる。今の家族と幸せと。 <兄視点>

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視察を兼ねて援助している工房を見に来ていたら、しばらくぶりの声が飛び込んできた。
挨拶をして工房主を探す瞳が俺に止まり、驚き、そして喜色を表す。

「伯父上お久しぶりです!
見てください、これ!」

「伯父様、こんにちは!
すごいでしょう!? これ私が見つけたの!」

流れるような挨拶と大発見の報告が続いて笑ってしまう。
二人は子供の頃から変わらない。何か変わったものやおもしろいものを見つけるたびに俺やレインに目を輝かせて報告してきては俺たちを驚かせたものだった。

「リオンもルイスも久しぶり。
帰っていたんだな」

先ほど街に着いたばかりだという二人はまた成長したようだ。
ルイスは俺と身長が変わらなくなったし、リオンは子供らしい硬さが取れ女性らしい体つきになってきた。
二人とも肩を見ればしっかりと鍛えられているのが見られる。冒険者としても成長しているようだ。
なによりも生命力あふれる瞳を見れば冒険者生活を全力で楽しんでいるのがわかる。
しっかりと自分たちで道を踏みしめて歩いているのがわかり胸を撫で下ろす。
心配がなくなることはないが、それよりも二人が楽しんで生きていけるようサポートするのが俺の仕事たのしみでもある。
この工房もその一環だ。

「そうなんです、屋敷に帰る前にライナスへのお土産の加工をしてもらおうと思って」

俺に見せたものとはまた違う鉱石を取り出す。
銀に似ているが多分違うだろう。
二人がライナスに持ってくるものがそんな一般的な物なわけがない。

「ライナスもタイピンとか使う年頃ならそういった装飾品に加工してもらおうかと思ったんですけど、どうですか伯父様?」

「いや、うちは辺境だからな。
タイを締めて出かける先なんてそうないし、飾りボタンの方が普段から着けられていいと思うぞ」

王都に近い地方なら普段からそういった装いをしているんだろうがこっちの方ではあまり見ない。
二人もどうせならよく身に着けてもらいたいだろう。
飾りボタンなら成長に関係ないしな。

「そうですか、じゃあそれで」

「アタシは鍛冶屋であって細工師じゃないんですけどね、やるけど!」

気軽にルイスに頼まれた工房主は若干文句を言っていたが、やるからには最高の物を仕上げてくれる。
しかし彼女の言うことも尤もだな。今後のことを考えると細工師もいた方がいいか。
リオンとルイスが持ってくる素材を加工できる腕を持った、口が堅く二人やウチの家族に不利益をもたらさない信頼のできる職人というのが中々難しい。
……レインがイクスに貰った素材を耳飾りに加工してもらった職人がいたな。
あんな特殊な素材を加工できるなら腕はいいだろう。
屋敷に戻ったら調べてみるか。

「そういえばまだ先の話ですが、ライナスの社交界デビューの衣装や装飾品は伯父上が用意するんですか?」

「ああ、俺がほどほどの物を用意してやる」

俺たちも準備に関わりたい。持って帰った素材を使ってほしい。という思いが透けて見えるルイスをそっと止める。

「ええ?! ほどほどにするの?
せっかく素材いっぱいあるのに!」

リオンも残念そうだが、ちゃんと理由がある。

「あんまり希少だったり高価な物を使った装いは注目を集める」

説明するがリオンもルイスもぴんと来ないようだ。
反感を買う、も理由の1つだがもっと大きな理由がある。

「嫁げば自分にも希少な素材を使ってドレスやらアクセサリーを作ってくれるだろう、なんて頭の軽い令嬢がライナスの元に押し掛けたらどうするんだ」

「それはダメ!!」

「それは嫌です」

わかりやすい懸念を説明すると強めの反対が返ってきた。そうだろうとも。
ライナスを溺愛している二人がそんな令嬢を認めるわけがない。
だからだ、と告げると納得した。
ちゃんと良い物を使って作るから安心しろ。
普通に流通してる、良い物を。




リオンとルイスを連れて屋敷に戻るとライナスが門の近くで待っていた。
どうやら二人が帰ってくる兆候を掴んだらしい。
嬉しそうに二人を出迎え、共にいる俺に目を瞬かせた。
レインの子供たちはみなレインによく似ている。
幼い頃にも見た表情に懐かしさと喜びと悔しさや安堵などが入り混じった複雑な感情が湧いてくる。
あの時自分が当主だったらあんな結婚はさせなかったのにと。

レインが嫁いでいったのはまだ16歳になったばかりの頃だった。
他の娘はまだ婚約者を探していたり、お互いを知るための婚約期間を取ったりしていたなかで随分と早い結婚だった。
早く子供が欲しいというあちらの家の都合で若くしてひとり嫁ぐ妹が心配でならなかった。
父親に何度抗議したかしれないが、あちらの家から譲られた利権に目が眩んでいた父親は俺の話に全く耳を傾けなかった。

『貴族として家を繁栄させるための采配をするのは当然だ』

あの利しか見ていない冷たい目。
レインの結婚は家を繁栄させるための手段、最大限の利益が得られる相手に嫁がせたのだと語る父親に怒りと深い嫌悪を抱いたことを忘れられはしない。
何もできない自分に歯噛みしつつ、それでも心配でレインと手紙のやり取りは欠かさなかった。
案の定、結婚相手は浮気三昧でレインの元にはほとんど帰らず子供もできることはなかった。
あちらの家は息子を窘めることもせずレインに責任を押し付ける。何度抗議をしに行こうと思ったことか。
抗議することを許さなかった父親が急逝し、当主を継ぎ忙しくなったことでレインの様子を見に行くことができなくなった。
それまでは父親の代理で王都に行く途中などに顔を見に行く機会を作っていたが、領地から離れられず。
やむなく手紙だけのやり取りを続けていたところ、結婚相手が浮気相手の一人に入れあげていてもしかしたらそのうち離縁を切り出されるかもしれない、そうなったら戻っても良いだろうかと問う手紙が届いた。
もちろん戻ってこいと返事を書き、状況を逐一報告するよう伝えていた。

その矢先だ。レインが追い出されたのは。
一方的に追い出すなんて暴挙を考えもしなかった俺の落ち度だ。
レインが不貞を働き、しかも不貞相手の子供を身籠ったので当家から追い出した、ついてはそんな娘を寄越したこちらの家へも賠償を求める。
そんなふざけた報せを受け取った俺がその場で使者を殴らなかったのは、レインの行方を捜すのが優先であるという一点のみだった。
浮気相手が固定されたと報されたその時点で誰か人をやっていればと悔やんでも遅い。
至急レインを捜す手配をと焦っていたときにイクスに連れられたレインが帰ってきたのだった。
あの数時間の焦りと安堵を超える体験はない。
俺の人生で一番不安だった瞬間だと、今でも言える。

それからだ。
リオンとルイスが生まれて、レインが離婚を決意して。
賠償まで付けてやりたかったがレインの言う通り二人の親権をこちらの家が手に入れることが最優先だったので止めておいた。
完全に縁を切れるならその方がレインのためだとも思ったしな。
この家に戻ってきてからのレインはいつも幸せそうに笑っている。
作ったものではなく、自然に浮かぶ笑顔に幸せが溢れていた。
俺も、幸せだと思った
リオンやルイスの笑い声が響く屋敷は明るく幸せな気配しかしない。
やがてイクスが加わりライナスが生まれて、家族が広がっていく。



二人が戻ってきたことを聞いたレインが二人を迎えに下りてきた。
残念ながらイクスはいないが、また次に揃う時を楽しみに待てばいい。
最大限の利益を求めずとも領地は繁栄しているし、家族はみな幸せそうに笑っている。
誰も幸せにしなかった父親とは違うやり方で領地も家族も幸福になる手伝いをしていく。
こう言うとレインに自分の幸せも考えてほしいと言われるが、俺はもう幸せなんだ。

誰かを守る幸せも、教え導く楽しさも、信じて送り出す誇らしさも知っている。
酒に付き合ってくれる友人も、酒には付き合ってくれないが話を聞いてくれるヤツもいる。
新しく見つけた才能を咲かせるきっかけを作ることも、それを利用して領地を発展させていくのも楽しくてしかたがない。

いつだったかレインがあの結婚生活は今の幸せのためにあったのだと思いますと言っていた。
そこまでの言葉は言えないが。
今、俺は確かに幸せだ。


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