不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺

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番外編など

子供とある小動物(擬態)の平和な一日。賑やかな生活に慣れ。 <シルバードラゴン視点>

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我の名はシルゥ。
本来の名前はもっと長くて仰々しいものだが今はそう呼ばれている。
なんとも力の抜ける音だがこの姿には合っていて良いだろう。
幼体よりも小さな身体にそう思う。
その名を付けた者の寝顔を見下ろし、くぁとあくびをする。
まだ幼い顔はあどけない寝顔を晒しており、彼の者が心配するのも道理だ。
ドラゴンとは違い人は弱くて儚い。
幼子であれば尚のこと。
守れと言い渡してきたことに多少の不満はあれどここの暮らしに不満はない。
穏やかで衣食住満ち足りた暮らしを存外気に入っていた。
多少の無礼は水に流してやってもよい。
ここに来るきっかけになった精霊との出会いを思い返し、忘れはしないがなと呟いて横に伏せる。
幼子はまだ昼寝からは目覚めないだろう。
寝息を拾っているうちに眠気に襲われる。
昼寝から目覚めればまた遊びに付き合わされるのだろう。
しばしの平穏を満喫するべく目を閉じる。
目を覚ましたら今度は何をしてやろうか。
そんなことを考えてしまう己に気づく。
子守りに慣れてきた己に苦笑するが、不快ではなかった。







誰も訪れるはずのない住処に現れたのは人間のような気配を纏った精霊だった。
ゆっくりと首を持ち上げ珍しいものを観察する。
銀の髪と紫の瞳を持つ人間の子供の姿を見ても、なぜこのような場所にとは思わない。
長い年月を生きている我には目の前の存在が何かしっかりとわかる。
人間のような気配を纏っているが精霊だ。それもかなりの力を持った。

「精霊が何の用だ」

こんな奥深くの洞窟まで何をしにきたのか知らないがどうでもいい。
相手をするのも億劫で、早く要件を済ませろと急かす。

「君にとっても悪い話じゃないと思うよ。
俺の弟を守ってほしいんだ」

ふざけたことを、と思ったし断るつもりだった。
次の言葉が聞こえるまでは。

「報酬は、魂の修復かな」

「何?」

精霊は何でもないことのようにさらりと告げたが聞き流すことのできない内容だった。

「その呪い?
だよね、深く刻み込まれてる。
死ぬようなものではないみたいだけど、けっこう痛そうだ」

刻まれた呪いを読み解くように紫の瞳を細める精霊に顔を顰める。
自身の体を見下ろす。忌々しい呪いが絡みつく様に湧き上がる苛立ちを、息を吐くことで収めた。

「美しくない呪いだよね」

「呪いが美しいわけがないだろう」

呪うという行為はそれ自体が醜く忌むべきものだ。
絡みついたこの呪いは悪意を操り我を弱らせ意思を奪わんとするものだ。
ドラゴンを操り何をするつもりだったのかは知らんがろくな事ではあるまい。
忌々しい呪いの枷を引きちぎって住処まで戻ってきたのはいいが周到に絡みついた呪いはすべてを解けず、時間をかけて癒しているところだった。

自身の魔力の馴染む住処であれば数十年程度で癒えるだろうが、その間はそれなりに辛い。
いっそ眠りにつければ楽なのだが。
寝つきの悪い身が残念だ。

「ウチにくれば精霊の加護で覆われた安全な寝床を提供できるし、精霊の祝福で実った果実もある。
傷ついた身を癒やすのには良い環境だと思うよ?」

時々君の力になりそうな素材を見つけたら持ってきてあげるし、と語る精霊。
どうやら人間の冒険者のようなことをやっているらしい。
精霊が何故そんなことをしているのか。
聞けばいとし子を守るため自らも人間として側で見守っているらしい。
人間のような気配をまとっているのはそれが理由か。

「随分な無茶をしたな。
本来ならもう消えていてもおかしくないだろう」

人の身に宿り子供として生まれてくるなど通常であれば己の存在が不確かになりその場で消えかねない。
上手くいったとしても成長に伴い精霊としての自我を失うか、精霊の力に耐えかねた肉体が崩壊し人としての死を迎えるかだ。

「まあね。
多少の無理はしたけど、結果こうして生きてられてる。
俺は幸運だよ」

目の前の存在が、その無茶を通せるほどの力を持った存在なのがそれで知れる。
呆れ半分感心半分で見ていると、精霊から「それで?」と問いを向けられる。

「ウチに来る決心がついたかな?」

「行くことが決まったような言い方をするな」

少し心惹かれてるのは確かだが決めつけられるのは癪に障る。

「断らないで欲しい」

断るかもしれないと示唆しただけで纏っていた空気が一変する。

「今の君よりは俺の方が上だ」

狭い洞窟内に冷気が漂う。
まさか力で従わせるつもりか。
弱った身とはいえドラゴン相手に愚かな方法だ。

「お願いだから大人しく頷いてほしい」

パキパキと岩肌を覆っていく氷に口を開いた。

「断ったら」

ただの興味本位だった。
戯れの言葉遊びのような。
余計な事を言ったと後悔するのはすぐだった。

「君の住処を破壊して住めなくする」

「なんだと?」

すでに天井まで氷で覆われている。
精霊の合図ひとつで岩を砕き洞窟を崩落させると言う。

「せっかく長い年月かけて君の魔力を馴染ませた良い住処のようだけど。
壊した後は火の精霊が好む魔石でも置いていこうかな」

「なんだと!」

そんなことをされたら火の精霊が集まってきて快適な環境ではなくなるではないか!
気温の上がった洞窟など住めたものではない。
暖かい気温を好むレッドドラゴンなどの同族に住処を奪われる想像に歯噛みする。

「君が是と答えてくれたらそんなことはしなくて済むんだ、さあ……」

どこからか取り出した赤橙色の魔石に悲鳴を飲み込んだ。

「わかった……、お前について行く」

ありがとうと微笑んだ精霊の顔を睨む。
まさか断ったら脅してくるとは。
なんてヤツだ。

洞窟のある山を降りてからの一言でまた一悶着あった。
その身体だと大きくて邪魔だから小さくなれだと?!
先に言え!

まったく失礼な精霊だ。
その後生まれた存在があれと似てなくて本当によかった。






ぺしぺしと身体を叩く感触で目が覚める。
まん丸の茶色い瞳が見下ろしていて遊ぼうと訴えかけていた。
穏やかな眠りを得たためか、気持ちの良い目覚めだ。
一日に何度も眠ることができる幸せに目を細めた。
ここにきて良かったことのひとつによく眠れるようになったことがある。
幼子と共に身体を休めていると眠気が訪れやすい。
思わぬ副産物である。
伸びをして羽を羽ばたかせると瞳の輝きが強くなった。
次の遊びは追いかけっこで良いだろうか。
羽を掴もうと手を伸ばす幼子を躱し部屋の中をゆっくりと飛ぶ。
あの精霊が旅に出ている間は平和で良い。
扉を開けて入ってきた幼子の母が笑みを浮かべて我に礼を言う。
この屋敷の人間は小さく擬態しているとはいえドラゴンにも普通に接してくる。

「ライナスの面倒をみてくれてありがとう。
身体は疲れていない?」

首を縦に振って大丈夫だと示す。
羽を動かして上下に飛んでいる我へ手を伸ばす幼子を抱き上げ、よかったら少し休んでと微笑む姿を見ているとあの精霊が母と慕うのも道理だと思う。
我へ手を伸ばす幼子をあやし部屋を出ていった。
せっかくなのでもう少し休むかと残された部屋で寝台に伏せる。

「……」

さっきまでとは違い静かな部屋では眠気もやってこず、ひんやりしたシーツは冷たい。
住処の方がずっと静かで涼しかったというのに。
結局休むこともできず二人を追いかける。
そしてきゃっきゃとはしゃぐ幼子が飽きるか疲れて眠るまで遊びに付き合うのだった。


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