不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺

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番外編など

甘い甘いホットチョコレートをふたりで。子供たちにはまだ早いかも、です。

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今日は何を着ていこうかしら。
いつもよりも浮き立った気分で服を選ぶ。
晴れているとはいえ冬なので暖かい格好にしないと。でもしっかりと着込みすぎるのも重苦しそう。
悩みながら選んだのは白いワンピースに濃い赤で刺繍を入れた物。コートは気に入ってよく着ている薄い灰色に白い襟が付いた物。
外を歩くから足元はブーツにしました。
玄関ホールに下りると先に準備を終えていたイクスが振り返る。
黒い上着にグレーの襟は暖かい素材を使用した物でふわふわしている。温かそうね。

「待たせてごめんなさい」

「いいや、待っているのも楽しいものだよ。
なんといっても今日はデートだから」

イクスの言葉に微笑む。
今日は珍しく夫婦ふたりでのデートです。

「母上、行ってらっしゃい!」

「ライナスのことは心配しないでふたりでゆっくりしてくるといい」

ライナスと兄が見送りにきてくれました。
二人がくれた貴重な機会ですもの、楽しんできますね。



馬車を降りた途端吹いてきた風に身を竦めるとイクスが肩を抱き寄せてくれました。
意外と風がありますね。髪が崩れないよう編み込んできてよかったです。

「じゃあ行こうか」

差し出された手を取ります。
手を繋ぐってデートっぽくて良いですね。

ゆっくりと街を歩いていると、イクスと一緒にこの街まで旅をした時のことを思い出します。
何にも知らない娘を相手に大変だったのではないでしょうか。
身重だった私を気遣ってか良い宿に部屋を取ってくれました。後から聞いたとき安全のためと体調管理のために必要だったからと言っていましたが、普通の冒険者ではあそこまで気を配るのは中々難しいことらしいです。
出会ってから今でもずっと、気遣い守ってくれている存在に改めて感謝と愛情を感じました。
石畳の上をブーツで踏みしめながら街を歩きます。
建物の影に積もった小さな雪の山には、子供が越えていったんでしょうか小さな足跡が付いています。
通りには雪は残っていませんが、時々凍った場所があるので注意が必要ですね。

少し歩いて目的のお店にたどり着きました。
店内は恋人や夫婦に見える人々でいっぱいです。
ずいぶん賑わっているお店ですが、運良く並ばずに入れました。
お店の方が持ってきてくれたメニューを開くとメニュー名の下に説明が書いてあります。
わかりやすくていいですね。
私は一番上に書いてあったデザートと紅茶、イクスはホットチョコレートを頼んでいました。
心の中でそっと首を傾げます。
イクスは甘い物も普通に食べますが、甘い飲み物を飲んでいるのを見たことがありません。
せいぜい果汁くらいでしょうか。
普段紅茶にもコーヒーにも砂糖やミルクをいれませんし、どうしたんでしょう珍しい。
疑問は口には出さずに別のことを話題にします。

「このお店は私たちのような二人連れが多いですね」

「そうだね、今日は特にじゃないかな」

今日何かあるのかしらと思っているとデザートと飲み物が運ばれてきました。

私の前に置かれたのは球体です。

目を瞬いて目の前の球を見つめます。
チョコレートにナッツやドライフルーツを使ったデザートと書いてあったんですが。
確かに球体はチョコレートでできているようですが、これをどうしたらいいんでしょうか。
予想外の姿に戸惑っていると失礼しますと声を掛けられました。

お店の方が手に持った器を傾けると球体のチョコレートにかけ始めました。すると球体の上部が溶けていきます。
驚きました。
まさかこんなデザートがあるなんて!
溶けた球体の中にはムースのようなものと、その周りにナッツやドライフルーツが散らしてあります。
素敵!
味もとても美味しく感動しました。
チョコレートのかかったナッツはあんなに美味しいものだったんですね。
ゆっくりと味わいながら時折紅茶で甘みを散らします。
食べ終えてほうっと息をつきました。
こんな素敵な体験をさせてもらえるなんて、イクスに感謝ですね。
連れて来てくれてありがとうとイクスにお礼を言うと、喜んでもらえて良かったと微笑みが返ってきます。
ですが手元のカップを見るとほとんど減っていません。
やっぱり甘い飲み物は好きではないのかしら。
私の視線を受けたイクスがここに誘った理由を教えてくれました。

「少し思い出したことがあって。
俺の育った地域では、ある冬の日に夫婦や恋人同士で一緒にチョコレートを食べるといつまでも幸せにいられるっていう、言い伝えというか風習があるんだ。
それで最近チョコレートで有名な店ができて、その風習を真似する人がいるって聞いたからレインと一緒に来てみたくなった」

そうだったの。
聞けば今日がその特別な日だという。
どうりでお店が夫婦や恋人ばかりなのね。
納得したけれど、そうなるとカップの中身が減らないのが気になるわ。
思ったよりホットチョコレートが甘くて……と苦笑いするイクスに笑ってしまう。
無理しなくていいと言うのは簡単だけれど、きっと最後まで頑張ってしまうわね。
ひとつ閃いたことがあったので、お店の方に追加でホットミルクとコーヒーを頼む。
運ばれてきたホットミルクとコーヒーをテーブルの中央に置いて、イクスからホットチョコレートをもらう。
スプーンを添えながら零さないようにホットチョコレートをコーヒーとホットミルクに半分ずつ注ぐ。
綺麗にカップの中身がなくなったところでスプーンでかき混ぜ、コーヒーの方をイクスに差し出す。

「一緒に分け合って飲むともっと幸せになりそうね」

微笑んでミルクのカップの方を持ち上げる。
目を丸くしていたイクスがコーヒーと混ぜたカップへ手を伸ばした。

「君といると幸せでいる未来しか浮かばない、本当に」

大げさなことを言ってカップに口を付ける。
先ほどよりずいぶん飲みやすくなったと、イクスがうれしそうに口元を緩めた。

「あなたがいてくれることが、もう幸せだもの」

ミルクに溶けた甘いチョコレートを飲みながら答えると「本当に、君には敵わない」と返ってきた。

ホットチョコレートを飲み終えて店を出ようとしたら、お店の方にあの飲み方を広めてもいいですか!?と興奮した口調で聞かれました。

全然気づかなかったけれど、私たちの会話が他のテーブルにも聞こえていて、同じ飲み方をしたいとホットチョコレートやコーヒーの注文が相次いでいたらしいです。

特に構うこともないので、どうぞと答えるとありがとうございます!と力一杯お礼を言われました。
ひとつのメニューとしてホットチョコレートとコーヒー2つ、もしくはホットチョコレートとミルクとコーヒーのセットにしようかと真剣な顔で話し合っています。
せっかくだから愛や幸福を象ったチョコレートを添えて出せばもっとそれらしくなるんじゃないかしらと、ついでに浮かんだことを伝えたら更に興奮が高まりました。
余計なことを言ったかしら?
でもお代は結構です!アイディア使わせていただきます!!とお店の方みんなで見送ってくれたから喜んでもらえたのよね、きっと。

ホットチョコレートで温まったイクスと手を繋ぐ。
手袋をしなくても寒くない。
ふと子供たちにもいつかチョコレートを分け合うような相手が現れるのかしらと思う。
楽しそうに冒険者生活を送っているリオンとルイス。
いつの間にか兄に勉強を教わっているライナス。
そうね、いつかそういう日も来るのよね。
でも、様子を見ている限りその日はまだ遠そうです。
そんな人を連れてきたら、今日のことを話して聞かせましょうか。
3人はどんな人とチョコレートを分け合うんでしょう。
今から楽しみですね。


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