不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺

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番外編など

ミオン先生は凝り性。子供と大人の狭間で。 <ライナス視点>

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きらきらと光を閉じ込めた鉱石を上から下から角度を変えて確かめる。
小粒な物、大粒な物、色が薄い物、濃い物、それぞれの石の特徴に合わせて予想した値段を書いていく。
ミオン先生はざっと眺めただけでそれぞれの石の値段がわかってるみたい。
全部の石を見終えて値段を書いた紙を渡す。
答え合わせはいつもドキドキする。今日はどうかな?

「よくできています。
ちゃんと石の特徴や値段の傾向も掴めていますね」

相場を掴めていると褒められてほっとする。
思ったより値段がずれているのもあったけどそれは流行りのせいで変動してるんだって。
その中でひとつだけ全然値段が違う物があった。

「ミオン先生、これはなんでダメだったの?」

弾かれた石を光に透かして見る。
キレイな色をしてると思うし、輝きも問題ないと思うんだけど。
何がダメなんだろう。

「小さいものですが、ここに傷があります」

言われてみれば輝きに隠れてわかりずらいけど確かに白くなっている箇所がある。
これひとつでこんなに価値が下がっちゃうのか。
ちょっと悔しい。しっかり見てたら気づけてたと思うのに。
僕を見てたミオン先生がふっと笑う。
興味があるなら次は宝飾品に加工した物の見分け方もやってみますかと聞かれたのでやりたい!と答えた。
楽しそう!という思いと、わかるようになったら騙されたりしないかなという理由の両方がある。
悪戯っぽく笑ったミオン先生がせっかくなのでこの傷がある石も加工してきますね、と僕が傷を見落とした石も手に取った。
ちなみにこういう傷は台座に収めるとわかりづらくなります、と笑うミオン先生。
う、なんか次はもっと難しいの出してきそう。
しっかり復習しておこうと心に決める。やっぱりわからないと悔しいし、できるようになりたいもん。
簡単に見分けてるように見えるミオン先生はすごい。

「ミオン先生はなんでも詳しいね」

「そんなことはありませんよ」

ミオン先生は否定するけれど、こうやって鑑定もできるし知識の幅も広い。
冒険者をやっていただけあって危険察知能力も高くて戦いにも慣れてる。
ルイ兄とリオ姉と一緒に冒険に行ったときは僕の護衛をしてたけれど、まだまだ余裕そうだった。
襲ってきた魔物を生け捕りにして僕に説明してたくらいだもん。
僕を連れていける場所だからそんなに危ない場所ではないんだろうけど、それでもすごい。
器用貧乏なだけですよと苦笑するミオン先生だけど、そんなことないと思う。

「ミオン先生はどうして冒険者を続けなかったの?」

毎回楽しそうに冒険に行くルイ兄とリオ姉の姿を思い出す。
また冒険に行きたいって思わないのかな?

「冒険者に向いてはいましたけれど、元々なりたくてなったわけではないので」

家庭教師こちらの方がおもしろそうだったのも理由のひとつですよ、と前置きをして答えてくれた内容が意外で目を瞬く。
周りにいるのが冒険者を楽しんでいる人ばかりだから、ミオン先生も冒険者に憧れてなったんだと勝手に思い込んでた。

「孤児院育ちが就ける仕事は限られていて、その中で一番早く生活が成り立ちそうなものを選んだんです。
その意味では冒険者になったのは正解でしたね」

他の仕事、例えば職人とかでは一人前になって生活が安定するまで時間がかかるし、商人なども同じで下働きの期間が長くて、頼る人のいなかったミオン先生はその道は選ばなかったんだって。
見習いの人は家族とか親方の家に住みながら修行を続けることが多いらしいから。

「そうだったんだ」

「ああ、誤解しないでください。
冒険者も楽しんではいました。
けれど自分の限界もわかっていたので長く続けるつもりはなかったんです。
俺はイクスさんやリオン様、ルイス様のような場所には行けない。
……だからイクスさんからライナス様の家庭教師を打診されたときは渡りに船だと思いましたよ」

冒険者を辞める時期を考えていたところに父上から家庭教師の話を聞いてすぐ飛びついたと話すミオン先生にひとつだけ聞いてみたくなった。

「同じ場所に行けるなら、ミオン先生は冒険者を続けたかった?」

僕の質問に虚を突かれたように目を見開く。
少しの沈黙があって、ミオン先生は首を振った。

「いいえ。
お三方のようには無理でも、冒険者を続けたければいくらでも道はありました。
でも、そちらの道を選ぼうとは考えもしませんでした。
だから、好きではなかったんでしょうね」

そっか、と心で呟く。
同じ場所に行けないって言ったとき少し残念そうに見えたから心配になったんだ。
もしかしたら冒険者を続けたかったのかなって。

「今の方が楽しいですよ。
新しいことを知ることができて、その知識を必要としてくれる方がいる」

おかげで自分を高める張り合いがありますと微笑むミオン先生に、僕も笑顔を返す。
良かった。仕方なく僕の先生をしてるわけじゃなくて。

「ミオン先生は職人にも商人にもなれたと思うけど、そうならなくてよかったって思う」

どうしてですか?と不思議そうな顔をする。
そんなの決まってるよ。

「だって職人とかを目指してたら他の知識は邪魔だって言われちゃうでしょう?
ミオン先生はそれじゃつまらないんじゃないかな」

その道について深く知ることも楽しいかもしれないけれど、先生を見てると次は何をしようかなって考えてる時がとっても楽しそう。
それでいくつも知識や技術を身に着けちゃうんだもん。すごいよ。
僕に教えるときも単純にひとつのことを教えるんじゃなくて、それが何と繋がってるのかを教えてくれる。

今日の鑑定で言えば石の加工技術の話から、宝石を縫い付けた衣装の話、刺繍の話まで広く聞かせてくれた。
宝石の新しい加工技術が発見されるとそれを使った宝飾品目立たせるために刺繍を施した衣装があんまり売れなくなるとか。国の経済の不調が続くと布や糸はごく普通の物を使って凝った刺繍を施した衣装が流行る、あるいは布の染め方で変化を付けてくるとか。習う知識がどんどん繋がって結びついていくのはとてもおもしろい。
それで糸の染色まで習ってくるのは何でなのかなと思うけど、染料に関する知識まで仕入れてくるから伯父上や母上は助かってるみたい。
ひとつ新しいことを始める度にその周辺の知識だったり技術だったりも一緒に習得してるって聞いてる。
さっきミオン先生は自分のこと器用貧乏って言ってたけど違うと思うな。

「ミオン先生は凝り性だから」

指示されて技術を磨くだけじゃ物足りないよきっと。
色んなことを調べて聞いてやってみて、それを楽しんでる。
だからあれだけ色々手を出しても形になるまで努力を怠らない。

「そう、かもしれませんね。
ここまでは知りたい、やってみたいと思うとどうにも止まらないので」

やっぱり。凝り性だよね。
ミオン先生くらい色々できたら、いつか僕がもっと大きくなって教師は必要じゃなくなったときにも再就職先には困らなそう。
でもいなくなってほしくはないから、ちょっと考えてることがある。

「ねえ、いつか先の話になるんだけどさ。
僕に教えたことを別の人にも教えてくれないかな?」

「それはどういう?」

「んー、まだはっきりとした考えがあるわけじゃないんだけど」

ミオン先生が習得した知識や技術を習うのが僕だけなんてもったいないと思うんだよね。

「例えば体験教室みたいな感じで初歩の技術を教えて、興味があればもっと深く教えるとか?」

「ああ、なるほど。
物になりそうな者がいれば職人へ紹介して腕を磨いてもらうのもありですね」

それはいいかも。伯父上にも相談してみよう。
援助してる鍛冶屋のお姉さんとか細工師のお兄さんとかにそろそろ弟子を取ってもらいたいとか言ってたよね。
優しいけど甘くないミオン先生が認めた人ならぴったりじゃないかな。
おもしろそうですね、と乗り気な顔なので早めに話を進めよう。

じゃないとどこかの商人から引き抜きとかされそうだもん。
ミオン先生が応えるとは限らないけど。
だからこそ悩む必要がないように今のうちに手を打っておきたい。
欲しいものをただ欲しいというのは子供だって伯父上も言ってた。
相手が自ら望んでくれるように環境を整えるのが大人の交渉というものだって。
いずれ伯父上の跡を継いだときに相談できる人が欲しいし、それはミオン先生がいいなって思ってる。
ルイ兄やリオ姉のことを困らせたりしない人材で、父上や母上にも信頼されていて、伯父上が時々相談をしてるくらい知識が広い人。
僕が今よりずっと小さい時から一人の人間として向き合ってくれて、誤魔化しや嘘を言わない人。
だから信頼してるし、これから先も手伝ってほしいんだけどな。
ちょっとずるいかなと考えてたらミオン先生が苦笑を見せた。

「順調に旦那様から交渉術を学ばれているようで何よりです」

なんかバレてた。
もしかしたら伯父上からも何か言われてたのかも。

「でも、そうですね。
他の方へ教えるのはいいですよ。
私が教える方の中からライナス様の側近となる方を見つけるというのも良いですし」

腕が鳴りますと微笑む顔から気迫が溢れてる。
あ、もしかしてこれも新しい楽しいことと思ってくれたのかも。
良かった。
交渉は成功、だよね。
不発ともいえる気がするけど、望んだ結果だから成功でいいよね!


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