不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺

文字の大きさ
43 / 49
番外編など

子供の戯言なんかじゃない。キミとの出会い。 <ライナス視点①>

しおりを挟む


病気療養の名目でやってきた令嬢を見つめて感嘆のため息をつく。
僕より2つ3つ上だろうか。
濃い金の髪に母上とは系統の違う緑の瞳は、夏の日差しにも負けずに伸びる葉のような強い色。
領地に訪れる夏の緑の色は生命力に満ち溢れていた。



「なるほど、療養ね」

彼女が持ってきた手紙を見て伯父上が口元を笑みに崩す。
なりふり構わないその手段が気に入ったのか不快に感じるよりもおもしろがっているように僕には見える。

「領地への滞在は好きにすると良い。
落ち着いた良い宿があるのでそちらを紹介しよう」

宿を用意するという、歓迎に見える拒否の言葉。
伯父上は滞在は認めるけれど屋敷へは泊めないとはっきりと告げた。

「まあ、ご厚情に感謝いたします。
ままならぬ身ゆえのご迷惑をかけてしまうことが心苦しかったのですが、宿を手配してくださるのであれば皆様へご面倒をおかけすることが避けられます。
明日には早々に宿へ移りますのでどうぞよろしくお願いいたします」

明確な一線を引かれても綺麗な笑みで返す彼女に、すごい人が来たなと思ったのだった。


夜は疲れていなければ晩餐を一緒にとの誘いを断るわけもなく彼女を加えた晩餐の準備が進められた。
普段家族しかいない屋敷に他人がいるというのはかなりの違和感がある。
同じ食卓に着いた彼女を見つめるとにこりと微笑まれる。その微笑みはとても美しく作られていた。
同じように微笑みを返して彼女の話に耳を傾ける。
リオ姉がいるときもそうだけど、女性が増えると華やかで明るい雰囲気になるね。
王都近郊の話やここに到るまでの旅の話などは興味深い。
ほとんど供を付けずに来た彼女は旅の間の苦労話を母上に楽しそうに話している。
おかげでとても楽しい時間だった。
どんな思惑があるかは別として楽しい人だな。
それが僕の彼女シェリルへの初対面の感想だった。




辺境の夜は早い。
それは夏が近づいた頃でも変わらず、窓を開けると森から聞こえる夜の鳥の声しかしない。
少しじっとりするような熱を感じ窓を閉めようとしたとき、少し離れたところから呼びかける声が聞こえてきた。

「こちらでは随分早く暗くなるのですね」

他の街ではまだ家々から漏れる灯りで明るいのにと呟く彼女は、王都の眩さを思い出しているのか目を細めて外の闇を見つめた。
隣に並んだ彼女から視線を外して窓の外を見る。

「暗闇は怖いですか?」

僕の問いに微かに笑った気配がした。
いいえ、と答える声には率直な感情が宿っていた。

「こちらの闇は優しいので恐ろしいとは感じません」

森からは生き物の気配がし、見上げる空には数多の星が輝いている。

「何が蠢いているのかわからない王都の闇とは違います」

「こちらの闇にも恐ろしい物はいますが、近づかない限りはただそこに在るだけですからね」

恐ろしさの種類が違うのは確かだと思う。
動物はわざわざ忍び込んで危害を加えには来ない。
どうしてここを通りがかったのかと思えば、伯父上から宿についての話を聞いていたようだ。

「先ほど宿の手配が済んだと伺いましたので、明日にはお約束通りそちらに移らせていただきます」

微笑む彼女からはこの屋敷に滞在できない残念さや素気無すげなくされた悔しさは見えない。
こんな辺境まで単身来るだけあって底の見えないしたたかさを持っているみたいだ。
彼女はどうしてここに来たんだろう。

「よかったら遊びに行ってもいいですか」

ああ、もちろん体調が許せばの話ですけれどと言葉を添える前に「是非!」と力強く返事が返ってきた。
きらきらと輝く緑の瞳は純粋な喜びに満ちていて、その喜びの理由を知りたいと思ったのだった。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。

夏灯みかん
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。 妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」  私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。 「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」  愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。 「――あなたは、この家に要らないのよ」  扇子で私の頬を叩くお母様。  ……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。    消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

処理中です...