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番外編など
子供たちの作った波紋。子供たちへ及ぶ波紋。 <ミオン視点>
しおりを挟む机の上には読み終えた多数の手紙。
眉間の皺を揉んでいる旦那様へ声を掛ける。
「ずいぶん頭を悩ませていらっしゃいますね」
ああ、と答える声が重くて旦那様の心労が伝わってくる。
「こうなるとわかってたんだが、実際に起こると煩わしいな」
先日の、リオン様とルイス様の魔鳥での帰還が遅れて王都を騒がせているという。
空を飛ぶ魔物を従えたなら辺境から王都まで一日での来訪を可能にするだろう。
情報伝達を担えば国として有利に立てる。
他国への牽制に使えるのではないか。
反対に他国から脅威と見なされる可能性があり危険だ。
などなどなど。
勝手なことだ。
お二人は冒険を楽しんでいるだけだというのに。
そこに色々な思惑を見出したり考えたりする者が多い。
「ライナスに来る縁談を断るのが一番面倒だな」
「王家に年の合う子供がいなくてよかったと思います」
もしそんな存在がいたらライナス様が生まれたと同時に婚約が決まっていたっておかしくなかったはずだ。
「まあな、けれどいたとしても強行はしないだろう。
『精霊のいとし子』の機嫌を損ねるような真似は自分たちの不利益になるからな」
『精霊のいとし子』の不興を買うことがあれば精霊が怒る、程度の差はあれ広くそう信じられている。
「そういえば『精霊のいとし子』の婚約者を無理矢理王命で奪い、その結果王都では雨が降らず作物の不作による飢えや渇きに苦しんだという文献が図書室にありましたね」
加担した者たちの領地だけに雨が降らなかったことから精霊によるものだと恐れられた。
リオン様とルイス様が生まれてから旦那様が集め始めたという『精霊のいとし子』に関する文献や寓話はいつも示唆に富んでいて、おもしろくも恐ろしい。
人知を超えた存在による戒めなのだろうか。
信じない者にとっては寓話の形をとった先人たちの自戒にすぎないが。
横暴なことをすればどんな形であれ報いを受けることになるという程度の。
実際に『精霊のいとし子』に接している身としてはそのようなことが起こっても不思議でないとは思う。
リオン様とルイス様の周囲にはいつも驚きが満ちている。
お二人が満たされているからかその驚きはいつも楽しさや幸福に満ちているが、反転すれば天変地異が起きてもおかしくない。そのくらいお二人の周りには不思議なことが起きていた。
「そうだな、あれもそんな昔の話じゃない。
だから王家にできるのはライナスが興味を持ちそうな令嬢を近づけることくらいだ。
ライナスが興味を示さなければ引くだろう」
そんなものなのか。それなら一安心か。
立場上強行できるのは王家くらいだ。
もちろんこの家より爵位が上の家などいくつもあるが、婚約というのは一方的に結ぶことはできない。
圧力をかけて断れなくする、などの手も難しいだろう。
ここは良くも悪くも辺境の田舎なので基本的に自給自足で成り立っている。
どこかの家のように他家から食料を仕入れねば需要が賄えないなどということもなく、逆に食料が溢れて供給する先がないと困るような穀倉地帯でもない。
他領との売買が止まったら立ち行かないなんてことはないのだ。
仮にどこかの家が圧力をかけても、他の家と取引すれば良いだけなので困った事態になることは考えづらいだろう。
一部の品は入ってこなくなったり高騰したりするかもしれないからそれは避けたいが。
「断るには口実がいるし、会わせてみるにも順番がな」
レインに任せてもいいんだが、と呟くがそうはしたくないのだろう。
レイン様が茶会を開き、そこにたまたまライナス様が顔を出したという手前なら複数の相手を同時に合わせられる。
しかし多数の令嬢を集めるのは避けたい。
「牽制を始めたら余計に面倒だしな」
あそこの家にだけは譲りたくない、などの意地の張り合いに巻き込まれたくないし、余計なものがついて来るのも面倒だ。
「ライナス様の婚約者候補はついでで、旦那様の伴侶か愛人狙いの可能性もありますからね」
令嬢が一人で来るには遠い場所なので付き添い人を付けられるよう求められるかもしれない。その付き添いが本命かもしれないのだ。
あえて口にした予想にうんざりした顔をしている。
「もう全部『まだ考えていない』で押し通すか」
ライナス様のお年ならその回答でも問題はない。
その次に友人として親交を深めるのはどうかと言われるのが目に見えているが。
「相手が納得すればいいですが」
多少は減るかもしれない。
よりしつこい者が残るとも言える。
「ライナス様ご自身はどのように?」
「リオンとルイスの邪魔にならない者だと。
あとはなんとなく気があえば良いとさ」
そのなんとなく気が合う相手というのが一番難しい。
条件でふるい落とす方がよほど楽だ。
リオン様たちの邪魔にならなそうな相手、で絞られはするが。
「よし、とりあえず放っておこう」
「よろしいのですか?」
旦那様の言い放った言葉に疑問を抱く。
そうもいかないからここ数日考え込んでいたのではないのか。
「どうせまだ来る。
ある程度集まったところでライナスに見せた方が手間が少ないだろ」
面倒になったのかもしれないが、一理あると思ったので黙っておいた。
ライナス様なら意外と即決しそうな気がする。
積まれた手紙を分けて箱にしまう。
すでに箱から溢れるくらい申し込みの手紙が届いている。ライナス様に渡す前に分類しないと。
酷そうな者だけ弾いておこうかと過るが、それも含めてご自身で判断するだろう。
余計なことを考えるのを止めて蓋を閉じて部屋の隅に置く。
旦那様が棚からグラスを取り出した。
とりあえず面倒事を片づけたのでこの後は飲むつもりのようだ。
「たまには付き合えよ」
「あなたとは飲みません」
酒は理性や判断力を失わせる。
それを理由にされるのは御免だった。
「酒のせいにしないなら付き合いますよ?
カードでも盤上遊戯でもなんでも」
「負ける気がないくせに」
勝つ気でやらないと勝負事はおもしろくない。
それでいいというのでグラスを片してテーブルの向かいに座る。
ふとこの家に人が増えるならどんな方だろうと思った。
「ライナス様はどんな方を選ばれるのでしょうね」
「こういうのは縁だからな決まるときにはすぐ決まるものだ」
その旦那様の言葉がすぐ現実になるとは、さすがに思わなかった。
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