不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺

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番外編など

子供だなんて侮れない。彼じゃないとイヤ。 <シェリル視点①>

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胸元に掛かる重みにほうっと息を吐く。
戻ってきてからライナス様のことばかりを考えている自分に呆れてしまうわ。
『精霊のいとし子』の溺愛する弟君へ縁談を申し込むなんて無謀なことをしたと今も思うのに、まさか受け入れてもらえるなんて。
病気療養と偽って押しかけた私を不快に思って遠ざけても不思議ではないのに、滞在を許してくれただけでなく、ライナス様自ら遊びに来てくれた。
私の様子を窺う意味もあったのでしょうけれど、本当に楽しい時間だったの。
自由に自分の進みたい場所で生きているお二人への憧れがあったのも本当だったし、伯父様の役に立つと思って行動したのも事実。
自分の未来を誰かに委ねるのではなく、行動してみたいと初めて思った。

初めて会ったライナス様はまだ少年らしい面差しをした子供だった。
伯父様の書簡を見た領主様が屋敷への滞在を拒否したことも、完全に私の存在を拒んだわけではないこともわかっているようで、理知的な子だと感じた。
最初から嘘だとわかるような病気療養の名目を指摘することなく、私の要望を聞いてあちらこちらと案内してくれたり領地の話を聞かせてくれた。
一緒に過ごすことを普通に楽しんでいる自分がいることに気づいてからは素の自分を出すことにしたわ。ライナス様は嫌がらないと思ったから。
相手が望んでいる自分を演じることよりも自分らしい自分でいることを優先するなんて、これまでなら考えられないことね。

それが良かったのかライナス様は私を伴侶に迎えると言ってくださった。
まさかこんな贈り物まで渡されるとは思わなかったけれど。
目を閉じるとペンダントの魔石からライナス様の気配を感じる。
幼い頃から魔力が馴染んでいったせいなのかそれとも私がそう思いたいだけなのかわからないけれど、ライナス様の気配がすることに安堵と落ち着かなさを同時に感じるわ。

『きっと大好きになるよ』

真っ直ぐ目を見て告げられた言葉を思い出してしまった。頬が紅潮していくのを感じる。
自分よりずっと年下だと思っていたのに。

「あんなの、反則だわ……」

純粋にそうなると信じている瞳に心が持っていかれてしまったみたい。
ライナス様のことを考えては騒ぎだす胸を落ち着かせる日々が続いていた。

そんな日々が終わったのは戻ってきてから十日ほどのこと。





「お父様、今なんと……?」

告げられた事が信じられなくて問い返してしまう。
同じことを二度聞くと怒られてしまうのに。

「同じことを何度も言わせるな、と言いたいところだがめでたい事だからな。
『精霊のいとし子』の弟との縁談が我が家に持ち込まれた。
先方はお前の伯父に配慮したのかお前を指名してきたが、末娘のエルシーの方が相手の一つ下と年回りも丁度良いし、お前と違って愛らしいからな。
エルシーと婚約させる。
きっと相手も喜ぶだろう」

勝手なことを、名指しで縁談が来ているのに相手を変えて婚約を進めるなんて酷いわ。

「ライナス様は私を伴侶にすると約束してくれたのです!
それを……!」

「どうせ子供の戯言たわごとだろう。
他に良い条件の娘がいれば意見は変わる」

ライナス様はそんな人じゃないわ!
それに彼の家も伯父様も馬鹿にした話が通ると本気で思っているの?

「伯父様がそれに黙っていると思うのですか?
だってこの家の跡継ぎは……!」

「知っての通りお前のすぐ下の妹が継ぐ。
自分が余ることを心配しているのか?
心配するな、お前の縁談もちゃんと用意してある」

にやりと笑う顔の気持ち悪さに鳥肌が立った。
とても自分の娘に向けるものとは思えない悪意の籠った笑み。

「お前はハガード卿のところに嫁いでもらう。
もうすぐ隠居の身だが、金はたんまりあるし議会へのコネもあるからな」

すでにいくつか口利きの約束を交わしていると聞いて青褪める。

「冗談じゃないわ……」

絶対に嫌よ!
すぐに伯父様に相談して対策を考えないと。
話の途中だったけれど背を向ける、こんな男と話している時間はないわ。
自室へ取って返そうとした私の目の前に見慣れない従僕が立ちふさがる。

「余計なことをされると困るからな。
エルシーの婚約が調うまでかハガード卿がお前を迎え入れる準備ができるまで大人しくしててもらうぞ」

「ちょっと、離して!」

必死に抵抗したけれど、暴れる私をものともせず担ぎ上げた従僕によって屋根裏部屋へ閉じ込められてしまった。





叫んでも扉を叩いても反応は返ってこない。
もう近くには誰もいないのでしょう。
屋敷の離れにこんな部屋があったなんて。
埃っぽい部屋で蹲りながらどうしたらいいのか考える。
幸い生活に必要なものはそろっているみたい。
あの男が言っていたようにいずれ私を出すつもりなら食事は運ばれてくるでしょう。
抵抗する意思を無くすために一日二日は食事を抜かれる可能性もあるけれど。

「こんなことで、私が諦めると思ったの?」

声に出して自分を鼓舞する。

「私はライナス様の伴侶になるの!
他の誰かに嫁がされるなんて絶対にイヤ!」

叫ぶと胸の辺りに熱が生まれる。
そうよ、諦めるのはまだ全然早いわ。
伯父様だってこの家が私を捨てるというのなら黙っていないでしょうし、ライナス様だって……。

「私が良いと言ってくださったのだもの……」

だから私が諦めるわけにはいかないわ。
これから起こることを何パターンも思い浮かべて、そのときにどう行動すればよいのか考えを巡らせる。
ここから出る機会は必ず来る。
絶対に諦めないんだから。
機会を待つと決めて埃の臭いのするベッドに横になった。


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