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#3:慣れてきた学院生活~新たな出会い
#3-6.追加はザッハトルテとアップルパイ
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ある日の放課後の事だった。
その日は生徒会のお手伝いもなく、ダンス部もお休みの日で、それならばと行った図書室には運悪く「整備点検のため関係者以外立入禁止」と貼り紙がしてあった。
(んー……どうしようかしら)
こういう時は、友人たちと買い物に行ったりカフェで駄弁ったりするのだと知識としては知っているが、如何せんそういう相手がいないと気付き、さてどうしようかと考えた。
(そうだ、マルセルの訓練している所も見てみたかったのよね)
マリナが前に見に行きたいと言った時は、「絶対に来ないで」とかなりの勢いで拒否されたが、そんなものは行ったもん勝ちだと思っている。
今日もマルセルは授業が終わればさっさと行ってしまったし、ほぼ毎日鍛錬しているはずだから不意に行っても大丈夫だろう。
(確か……窓から見える所でやってたよね)
いつもの3階北側の窓からは、遠目に誰が誰だかどれがマルセルだか判別は付かないが、騎士部が集まっている場所は何となく見えていた。
(影からこそっと見る分にはバレないでしょ)
広い校舎の中を、騎士部の場所に当たりをつけて歩いていた時だった。
「あれ、君……」
「?」
アカデミーを訪れたお客様だろうか。
廊下の向こうから数人の侍従を引連れてこちらへ歩いてくる男性を見掛けて、すれ違いざまに立ち止まって会釈をすると声が掛けられた。
顔を上げて声がする方を見やると、穏やかな笑みを浮かべた紳士が振り返ってこちらを見ていた。
(えっと……知り合い……じゃないわよね?)
幾つぐらいなのか、どこかで見たような気もするが思い出せない。
柔らかそうな少し癖のある金髪を後ろに流して額を出した髪型といい、ピンストライプの入った品のいいブルーグレーの細身のスーツといい、随分若く見えるがもしかして父と同年代ぐらいかもしれない。
滅多に屋敷を訪れる外部の人はいないが、お目にかかった事があっただろうか。
「入学おめでとう。制服似合っているね」
「あ、ありがとうございます。あの……」
「覚えてないかな。君の面接をしたのは私なんだけれどね」
「え?あ……申し訳ありません」
そう言われて、確かに学院長室でマリナの向かいに座っていた人がこんな人だったなと思い当たる。
(通りで見たことがあるなと……)
普段なら一度見た顔は忘れない。
だが、如何せんあの日は「合格したくないけど合格しなきゃ!」と変に緊張していたし、顔を合わせて即「合格」と言われ驚いたのもあって前後の記憶があやふやだ。
「面接ではありがとうございました」
「なんの、礼を言われるほどのことではないよ。合格したのは君の実力だ」
そう言われても、面接しかしていないマリナには、何をもってして実力だと言われているのか未だに合格の理由がわからない。
まさか「魔王」であることが実力だと……いやいや、まさか。
「そうだ、時間はあるかい?良ければカフェにでもご一緒願えないかな」
「え?」
「こんなおじさんとじゃ嫌かな」
「いえまさか!」
自虐気味に自分の事を「おじさん」と言う全くおじさんに見えない立派な紳士に、そう言って悲しげな顔をされマリナは慌てて否定する。
「じゃあ決まりだ」
マリナが否定したのは、あくまでも彼がおじさんでは無い事だったのだが、いいように受け取られてカフェへ同行する事になってしまった。
お付きの侍従に二言三言声を掛け、先程の憂いを帯びた顔は嘘かのように笑顔を浮かべ、紳士はすっと近寄ってきて左腕を差し出した。
「さあ行こうか」
「は、はい」
そのあまりにも自然な仕草に、マリナはなんの疑問も持たず腕を取った。
隣に並ぶと紳士の背が随分高いのがわかる。
マリナが見上げると穏やかに微笑む蒼い瞳と目があった。
「私のお薦めの店でもいいかな」
「はい」
マリナの父も背が高いため、より一層父と腕を組んでいる気分になった。
ただ、ふわりと鼻腔をくすぐる香りだったり、目の端に映る金の髪だったり、話し掛けてくる穏やかな声音だったりと、父とは随分違う雰囲気にマリナは少し戸惑ってもいた。
・‥…‥・◇・‥…‥・◇・‥…‥・
アカデミーの中には、新鮮な食品を取り扱うマルシェから焼き立てパンが評判のベーカリー、各種スイーツ店やレストランまでが軒並み揃っている。
カフェも、気軽なテイクアウト専門店から給仕が付く少し敷居の高い店まで数件あり、マリナもいつか行ってみたいと思っていたケーキが美味しいと名高いウルバーン王都の有名店もアカデミー内に店を構えていた。
「ここなんだけど」
着いたのは、今正にマリナが行ってみたいと思っていたカフェだった。
紳士のエスコートで人気店の割に待たずに店内に入り案内されたのは、中に長椅子が1つとローテーブルがある全体的にシックな色調で落ち着いた雰囲気の奥まった場所にある個室だった。
「わあ、素敵ですね」
「気に入っていただけたかな。ここは私もよく使う所でね、特にモンブランがお気に入りなんだよ」
甘い物好きといえば女性のイメージが強いが、マリナの父もああ見えてスイーツが大好きだ。
難しい顔をして仕事をしながら「糖分が……」と言って、マカロンやフィナンシェなど片手で摘める菓子を好んでよく食べている。
それもあって、目の前の少し恥ずかしそうに「モンブランがお気に入り」と言う彼が、失礼ながら少し可愛らしく思えた。
長椅子に並んで座っていると、少ししてワゴンを押した店員がやってきた。
ワゴンには小さめのケーキが何種類も並んでいて、好きなだけ選んでいいという。
「……悩みます」
「ははっ、ゆっくり選んで」
紳士は、淹れられた香茶のカップを手に、真剣にケーキを選ぶマリナの横顔を優しい眼差しで見つめていた。
マリナは、悩みに悩んでお薦めのモンブランとフルーツタルトと苺のショートケーキに決め、サーブされたケーキをフォークで切り取り口に運ぶ。
「!!!美味しいです!」
「それは良かった」
マリナは、ペロリとモンブランを食べ終わり、次にショートケーキに手を付けた。
こちらも申し分ない美味しさで、あっという間に食べ終わる。
最後のフルーツタルトにナイフを入れようとして、ふと隣に座っている紳士の視線に気が付いた。
「あの、今更で大変失礼ではありますが……学院長ではないですよね?貴方は何方なのでしょうか?」
面接があった日、学院長室に案内されて会ったから当然のように彼が学院長だと思っていたが、アカデミー内で時々見かける学院長とは別人だ。果たしてあの日彼は何と名乗っただろうか。
今日だって、アカデミーで出会って自分の事を知っているていで話しかけてきたから何も考えずに着いてきたが、もし彼が危険な人だったら一体どうするのか。
「ああ、私は……理事の中の一人……というところかな」
「そうなんですね」
今頃そこが気になるんだねと苦笑いしながら、紳士はそう答えてくれた。
取り敢えず、嘘偽りなくアカデミーの関係者だったことに一安心する。
「さては君、入学式で話を聴いていなかったね」
「…………すみません……」
「もしかして、寝てた?」
(ぎくっ!)
笑って誤魔化してもすっかりバレているのだろう。
もしかして目の前の紳士の来賓挨拶でもあったのだろうか。
だとしたら、覚えていない上にひょっとして聴いてもいない可能性に申し訳なくなる。
「構わないよ、アレは読んでいる私も退屈で寝そうだった」
「でも寝なかったんですね」
「さすがにスピーチしながらはね」
聴いてるだけなら寝てたとそう言って二人で笑い合う。
そうしてマリナは、美味しいケーキを食べ香茶を飲むうちに、緊張もいつしか解け気楽に話せるようになっていた。
「今更なんですけど、お名前を伺っても?」
「そう言えば名乗ってなかったね。そうだね、私の事はリアンと」
「リアン様」
紳士はそう名乗ったが、もしかしたら本名では無いのかもしれない。
「君はマリネッテ嬢だね」
「はい。どうぞわたしの事はマリナとお呼び下さい」
「わかったよ、マリナ」
リアンはマリナの名を呼びながら、何かを愛でるような優しい手付きで頭を撫でてきた。
「綺麗な髪だね」
「ありがとうございます。寮に入ってお手入れが大変なんですけど、父も好きだと言ってくれる髪なので」
「そう、お父上が」
「はい、色は違うけれど母にそっくりだとかで」
「……なるほど」
そうしてマリナは幸せな気持ちでフルーツタルトを食べ終わり、お代わりでさらにケーキを二つ食べたのだった。
その日は生徒会のお手伝いもなく、ダンス部もお休みの日で、それならばと行った図書室には運悪く「整備点検のため関係者以外立入禁止」と貼り紙がしてあった。
(んー……どうしようかしら)
こういう時は、友人たちと買い物に行ったりカフェで駄弁ったりするのだと知識としては知っているが、如何せんそういう相手がいないと気付き、さてどうしようかと考えた。
(そうだ、マルセルの訓練している所も見てみたかったのよね)
マリナが前に見に行きたいと言った時は、「絶対に来ないで」とかなりの勢いで拒否されたが、そんなものは行ったもん勝ちだと思っている。
今日もマルセルは授業が終わればさっさと行ってしまったし、ほぼ毎日鍛錬しているはずだから不意に行っても大丈夫だろう。
(確か……窓から見える所でやってたよね)
いつもの3階北側の窓からは、遠目に誰が誰だかどれがマルセルだか判別は付かないが、騎士部が集まっている場所は何となく見えていた。
(影からこそっと見る分にはバレないでしょ)
広い校舎の中を、騎士部の場所に当たりをつけて歩いていた時だった。
「あれ、君……」
「?」
アカデミーを訪れたお客様だろうか。
廊下の向こうから数人の侍従を引連れてこちらへ歩いてくる男性を見掛けて、すれ違いざまに立ち止まって会釈をすると声が掛けられた。
顔を上げて声がする方を見やると、穏やかな笑みを浮かべた紳士が振り返ってこちらを見ていた。
(えっと……知り合い……じゃないわよね?)
幾つぐらいなのか、どこかで見たような気もするが思い出せない。
柔らかそうな少し癖のある金髪を後ろに流して額を出した髪型といい、ピンストライプの入った品のいいブルーグレーの細身のスーツといい、随分若く見えるがもしかして父と同年代ぐらいかもしれない。
滅多に屋敷を訪れる外部の人はいないが、お目にかかった事があっただろうか。
「入学おめでとう。制服似合っているね」
「あ、ありがとうございます。あの……」
「覚えてないかな。君の面接をしたのは私なんだけれどね」
「え?あ……申し訳ありません」
そう言われて、確かに学院長室でマリナの向かいに座っていた人がこんな人だったなと思い当たる。
(通りで見たことがあるなと……)
普段なら一度見た顔は忘れない。
だが、如何せんあの日は「合格したくないけど合格しなきゃ!」と変に緊張していたし、顔を合わせて即「合格」と言われ驚いたのもあって前後の記憶があやふやだ。
「面接ではありがとうございました」
「なんの、礼を言われるほどのことではないよ。合格したのは君の実力だ」
そう言われても、面接しかしていないマリナには、何をもってして実力だと言われているのか未だに合格の理由がわからない。
まさか「魔王」であることが実力だと……いやいや、まさか。
「そうだ、時間はあるかい?良ければカフェにでもご一緒願えないかな」
「え?」
「こんなおじさんとじゃ嫌かな」
「いえまさか!」
自虐気味に自分の事を「おじさん」と言う全くおじさんに見えない立派な紳士に、そう言って悲しげな顔をされマリナは慌てて否定する。
「じゃあ決まりだ」
マリナが否定したのは、あくまでも彼がおじさんでは無い事だったのだが、いいように受け取られてカフェへ同行する事になってしまった。
お付きの侍従に二言三言声を掛け、先程の憂いを帯びた顔は嘘かのように笑顔を浮かべ、紳士はすっと近寄ってきて左腕を差し出した。
「さあ行こうか」
「は、はい」
そのあまりにも自然な仕草に、マリナはなんの疑問も持たず腕を取った。
隣に並ぶと紳士の背が随分高いのがわかる。
マリナが見上げると穏やかに微笑む蒼い瞳と目があった。
「私のお薦めの店でもいいかな」
「はい」
マリナの父も背が高いため、より一層父と腕を組んでいる気分になった。
ただ、ふわりと鼻腔をくすぐる香りだったり、目の端に映る金の髪だったり、話し掛けてくる穏やかな声音だったりと、父とは随分違う雰囲気にマリナは少し戸惑ってもいた。
・‥…‥・◇・‥…‥・◇・‥…‥・
アカデミーの中には、新鮮な食品を取り扱うマルシェから焼き立てパンが評判のベーカリー、各種スイーツ店やレストランまでが軒並み揃っている。
カフェも、気軽なテイクアウト専門店から給仕が付く少し敷居の高い店まで数件あり、マリナもいつか行ってみたいと思っていたケーキが美味しいと名高いウルバーン王都の有名店もアカデミー内に店を構えていた。
「ここなんだけど」
着いたのは、今正にマリナが行ってみたいと思っていたカフェだった。
紳士のエスコートで人気店の割に待たずに店内に入り案内されたのは、中に長椅子が1つとローテーブルがある全体的にシックな色調で落ち着いた雰囲気の奥まった場所にある個室だった。
「わあ、素敵ですね」
「気に入っていただけたかな。ここは私もよく使う所でね、特にモンブランがお気に入りなんだよ」
甘い物好きといえば女性のイメージが強いが、マリナの父もああ見えてスイーツが大好きだ。
難しい顔をして仕事をしながら「糖分が……」と言って、マカロンやフィナンシェなど片手で摘める菓子を好んでよく食べている。
それもあって、目の前の少し恥ずかしそうに「モンブランがお気に入り」と言う彼が、失礼ながら少し可愛らしく思えた。
長椅子に並んで座っていると、少ししてワゴンを押した店員がやってきた。
ワゴンには小さめのケーキが何種類も並んでいて、好きなだけ選んでいいという。
「……悩みます」
「ははっ、ゆっくり選んで」
紳士は、淹れられた香茶のカップを手に、真剣にケーキを選ぶマリナの横顔を優しい眼差しで見つめていた。
マリナは、悩みに悩んでお薦めのモンブランとフルーツタルトと苺のショートケーキに決め、サーブされたケーキをフォークで切り取り口に運ぶ。
「!!!美味しいです!」
「それは良かった」
マリナは、ペロリとモンブランを食べ終わり、次にショートケーキに手を付けた。
こちらも申し分ない美味しさで、あっという間に食べ終わる。
最後のフルーツタルトにナイフを入れようとして、ふと隣に座っている紳士の視線に気が付いた。
「あの、今更で大変失礼ではありますが……学院長ではないですよね?貴方は何方なのでしょうか?」
面接があった日、学院長室に案内されて会ったから当然のように彼が学院長だと思っていたが、アカデミー内で時々見かける学院長とは別人だ。果たしてあの日彼は何と名乗っただろうか。
今日だって、アカデミーで出会って自分の事を知っているていで話しかけてきたから何も考えずに着いてきたが、もし彼が危険な人だったら一体どうするのか。
「ああ、私は……理事の中の一人……というところかな」
「そうなんですね」
今頃そこが気になるんだねと苦笑いしながら、紳士はそう答えてくれた。
取り敢えず、嘘偽りなくアカデミーの関係者だったことに一安心する。
「さては君、入学式で話を聴いていなかったね」
「…………すみません……」
「もしかして、寝てた?」
(ぎくっ!)
笑って誤魔化してもすっかりバレているのだろう。
もしかして目の前の紳士の来賓挨拶でもあったのだろうか。
だとしたら、覚えていない上にひょっとして聴いてもいない可能性に申し訳なくなる。
「構わないよ、アレは読んでいる私も退屈で寝そうだった」
「でも寝なかったんですね」
「さすがにスピーチしながらはね」
聴いてるだけなら寝てたとそう言って二人で笑い合う。
そうしてマリナは、美味しいケーキを食べ香茶を飲むうちに、緊張もいつしか解け気楽に話せるようになっていた。
「今更なんですけど、お名前を伺っても?」
「そう言えば名乗ってなかったね。そうだね、私の事はリアンと」
「リアン様」
紳士はそう名乗ったが、もしかしたら本名では無いのかもしれない。
「君はマリネッテ嬢だね」
「はい。どうぞわたしの事はマリナとお呼び下さい」
「わかったよ、マリナ」
リアンはマリナの名を呼びながら、何かを愛でるような優しい手付きで頭を撫でてきた。
「綺麗な髪だね」
「ありがとうございます。寮に入ってお手入れが大変なんですけど、父も好きだと言ってくれる髪なので」
「そう、お父上が」
「はい、色は違うけれど母にそっくりだとかで」
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そうしてマリナは幸せな気持ちでフルーツタルトを食べ終わり、お代わりでさらにケーキを二つ食べたのだった。
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