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#4:宿泊研修~準備編
#4-余談6④.上司が言えばカラスも白い
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……なんて、思ってた頃もありました。
あれから10年、お嬢様も私もすくすくと成長し、私はともかく、お嬢様は立派なレディーにお育ちあそばされました。
お嬢様の遊び相手ぐらいは……と思っていた私ですが、お嬢様は齢5歳にして家庭教師が付き、公爵家跡取りとしてお勉強の日々を忙しくお過ごしです。
私がお屋敷に来てから1年ほど経って、どういう経緯か従弟様がお嬢様の双子の弟君になられご家族が一人増えるということがあったり、前世陸上部で名を馳せた脚力が引き継がれたのか目を付けた全身黒い格好をした人にスカウトされ特殊な訓練を受けるようになったり、秘書としての情報処理能力を買われそちらでの仕事も増えたりと、まあまあ孤児にしては充実した日々を過ごしていた時。
唐突に旦那様に呼び出されました。
恐れながら、前世25歳+今世15歳=アラフォーの私、そこそこいい年した大人の自覚がありますので呼び出しを受けるような不手際をしでかした覚えはとんとございませんが、一体何のご用件でしょうか。
「旦那様、シノでございます」
控えめにノックを三回。
それでも静まり返った廊下には大きく響きます。
応答を待つと、扉を開けてくれたのは執事長。
日頃の癖で足音を立てずにするりと中へ入ると、静かに扉が閉まります。
「お呼びと伺いましたが」
お屋敷に来て10年、旦那様とお会いしたのは数えるほどです。
それも遠くからお見かけする程度。
こんなのお近くで拝見したのは初めてのことです。
さすがお嬢様のお父上とあって、四十路過ぎには見えない艷やかで豊かな黒髪をサイドに流し、お座りになっていてもわかる立派な体躯。見事な美丈夫で、現代語で言うところの「イケおじ」です。
そんな不躾な視線に気付かれたのか、顔を上げてこちらを見るお嬢様よりは少し濃い紫の瞳は、私ごときの浅はかな心の奥底まで覗かれそうであまりに畏れ多く、思わず目を伏せてしまいました。
「シノと言ったか、マリナと同い年だそうだな」
「はい、そうでございます」
旦那様は書き物をしていたペン先を執事長に向けると、執事長より数枚の書類が渡されました。
その後は、再び私を見ることもなくまた書き物に戻られました。
「シノは読み書き、算術は習得していましたね」
「はい」
転生に気付いて暫くして、習わずとも私にはこの国の、というかこの世界の文字が読み書きできることに気付きました。
正確には読み書きできているのかわかりませんが、日本語と変わらず何不自由なく読み書きできて通じているからそうなんだろうと思っています。
おそらく「外国語」と言われるものも、私には日本語として読み書きできるようです。
うーん、この能力前世で欲しかったです。
算術に至っては、日本において最高学府を出ていたことが功を奏し、余裕でクリアです。
「でしたら、あとはこの国の歴史さえ詰め込めば試験はクリアできるでしょう」
「試験?」
「急なことですが、シノには来年からお嬢様と坊ちゃまには内緒で同じアカデミーに通ってもらいます」
「アカデミー?」
アカデミーって学校のこと……ですよね?
「貴族でないシノは本来なら同じクラスにはなれませんが、同じアカデミーに通い、お嬢様方を影で守る為『モリー・ブロワ』という名のオージェ家末端の男爵令嬢の役割を与えます」
「マジで?」
思わず地が出てしまい、「マ……真面目に魔法も使えない私がアカデミーへなど通えるものなのでしょうか」と慌ててごまかしました。
「そこは軽い魔法が使えるような魔道具を渡すから心配せずとも良いです。好成績を収める必要もない。逆に目立っては困りますからね」
それはそうだ、一先ず安心。
「あとはゲネルに指示してありますからよく聞くように」
「わかりました」
渡された書類を胸に、執務室を出るとそこには音もなく佇むゲネルさんが。
「気配消されると怖いんですけど」
「おや、あなたに怖いものなどあるんですか?」
この小馬鹿にしたものの言いよう。
いくら今世で年上だからって、アラフォー舐めんじゃないわよ。
そう、このゲネル、つい一週間ほど前にアカデミーを卒業して戻ってきたっていう3歳上の執事補佐。
黙ってみてれば寡黙なイケメンなんだけど、それはお嬢様の前でだけだって私は知ってるのですよ。
特殊な訓練を受けたはずの私より気配を消すのが上手いこの男は、3年前までストーカー、今じゃすっかり変質者の域です。
この3年どうやって過ごしてきたのか、いっそ気になります。
「まあ、そんな事どうでもいいんですけど。お役目、しっかり果たして下さいね」
「言われなくても」
とんとんと私が持っていた書類の端を叩き、ふふんと鼻で笑いながらゲネルは足音もなく去って行きました。
(あの陰険男、馬鹿にして……こんな試験簡単にクリアしてやるわよ)
受験勉強に明け暮れた日々に比べたら、歴史の勉強なんて……なんて……まあどうにかなったからいいわ。
……とは思ったものの、恐るべしアラフォーの記憶力。老いってコワい!(ガクブル)
あれから10年、お嬢様も私もすくすくと成長し、私はともかく、お嬢様は立派なレディーにお育ちあそばされました。
お嬢様の遊び相手ぐらいは……と思っていた私ですが、お嬢様は齢5歳にして家庭教師が付き、公爵家跡取りとしてお勉強の日々を忙しくお過ごしです。
私がお屋敷に来てから1年ほど経って、どういう経緯か従弟様がお嬢様の双子の弟君になられご家族が一人増えるということがあったり、前世陸上部で名を馳せた脚力が引き継がれたのか目を付けた全身黒い格好をした人にスカウトされ特殊な訓練を受けるようになったり、秘書としての情報処理能力を買われそちらでの仕事も増えたりと、まあまあ孤児にしては充実した日々を過ごしていた時。
唐突に旦那様に呼び出されました。
恐れながら、前世25歳+今世15歳=アラフォーの私、そこそこいい年した大人の自覚がありますので呼び出しを受けるような不手際をしでかした覚えはとんとございませんが、一体何のご用件でしょうか。
「旦那様、シノでございます」
控えめにノックを三回。
それでも静まり返った廊下には大きく響きます。
応答を待つと、扉を開けてくれたのは執事長。
日頃の癖で足音を立てずにするりと中へ入ると、静かに扉が閉まります。
「お呼びと伺いましたが」
お屋敷に来て10年、旦那様とお会いしたのは数えるほどです。
それも遠くからお見かけする程度。
こんなのお近くで拝見したのは初めてのことです。
さすがお嬢様のお父上とあって、四十路過ぎには見えない艷やかで豊かな黒髪をサイドに流し、お座りになっていてもわかる立派な体躯。見事な美丈夫で、現代語で言うところの「イケおじ」です。
そんな不躾な視線に気付かれたのか、顔を上げてこちらを見るお嬢様よりは少し濃い紫の瞳は、私ごときの浅はかな心の奥底まで覗かれそうであまりに畏れ多く、思わず目を伏せてしまいました。
「シノと言ったか、マリナと同い年だそうだな」
「はい、そうでございます」
旦那様は書き物をしていたペン先を執事長に向けると、執事長より数枚の書類が渡されました。
その後は、再び私を見ることもなくまた書き物に戻られました。
「シノは読み書き、算術は習得していましたね」
「はい」
転生に気付いて暫くして、習わずとも私にはこの国の、というかこの世界の文字が読み書きできることに気付きました。
正確には読み書きできているのかわかりませんが、日本語と変わらず何不自由なく読み書きできて通じているからそうなんだろうと思っています。
おそらく「外国語」と言われるものも、私には日本語として読み書きできるようです。
うーん、この能力前世で欲しかったです。
算術に至っては、日本において最高学府を出ていたことが功を奏し、余裕でクリアです。
「でしたら、あとはこの国の歴史さえ詰め込めば試験はクリアできるでしょう」
「試験?」
「急なことですが、シノには来年からお嬢様と坊ちゃまには内緒で同じアカデミーに通ってもらいます」
「アカデミー?」
アカデミーって学校のこと……ですよね?
「貴族でないシノは本来なら同じクラスにはなれませんが、同じアカデミーに通い、お嬢様方を影で守る為『モリー・ブロワ』という名のオージェ家末端の男爵令嬢の役割を与えます」
「マジで?」
思わず地が出てしまい、「マ……真面目に魔法も使えない私がアカデミーへなど通えるものなのでしょうか」と慌ててごまかしました。
「そこは軽い魔法が使えるような魔道具を渡すから心配せずとも良いです。好成績を収める必要もない。逆に目立っては困りますからね」
それはそうだ、一先ず安心。
「あとはゲネルに指示してありますからよく聞くように」
「わかりました」
渡された書類を胸に、執務室を出るとそこには音もなく佇むゲネルさんが。
「気配消されると怖いんですけど」
「おや、あなたに怖いものなどあるんですか?」
この小馬鹿にしたものの言いよう。
いくら今世で年上だからって、アラフォー舐めんじゃないわよ。
そう、このゲネル、つい一週間ほど前にアカデミーを卒業して戻ってきたっていう3歳上の執事補佐。
黙ってみてれば寡黙なイケメンなんだけど、それはお嬢様の前でだけだって私は知ってるのですよ。
特殊な訓練を受けたはずの私より気配を消すのが上手いこの男は、3年前までストーカー、今じゃすっかり変質者の域です。
この3年どうやって過ごしてきたのか、いっそ気になります。
「まあ、そんな事どうでもいいんですけど。お役目、しっかり果たして下さいね」
「言われなくても」
とんとんと私が持っていた書類の端を叩き、ふふんと鼻で笑いながらゲネルは足音もなく去って行きました。
(あの陰険男、馬鹿にして……こんな試験簡単にクリアしてやるわよ)
受験勉強に明け暮れた日々に比べたら、歴史の勉強なんて……なんて……まあどうにかなったからいいわ。
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