不揃いの七勇者〜七人目の勇者は、かつて帝国を裏切った婚約者でした〜

水先 冬菜

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人間嫌いの勇者

VS勇者 前編

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「これは…………」

 《世界勇者評議会》が借り切っている宿舎。

 その一室にて、勇者正彦は部屋へ戻るなり、ある一通の手紙を読んでいた。

『今夜、東の森の湖で待つ。必ず、一人で来られたし』

 来なかった場合、同行者がいた場合は問答無用で町が不幸に見舞われると、続きには書いてあった。

 まず間違いなく、自分が狙いなのは分かった。

 そして、差出人は女神様が言っていた人物だろう。

 女神様の言う通りなら、その人物の性格からしてこれは脅しではない。

 必ずやる。

 そう言った類の文面だ。

 だから、私は言われた通りに所定の場所に来た。

 そして、そこで目にしたのは湖の中央に佇むフードを被った謎の少女だった。

------------------------------------------

「来たか…………」

 俺は目的の奴が来たのを確認すると、思わず頬が緩む。

 相手はいつでも戦闘態勢に入れるように剣に手をかけていた。

 とりあえず、まずは咳払いをして会話を始める。

「ようこそ、いらっしゃいました勇者様。今宵は満月。とても煌びやかで、幻想的な日だと思いませんか……?」

 妙に演技がかった仕草で話し掛けると勇者正彦は警戒するように、無言で俺の様子を窺っていた。

「特に最近の勇者様は私にゾッコンのようで…………。正直、わたくしも非常に迷惑を被っている訳ですよ」

「……………………」

「ですから、勇者様…………。

 ここで------------死んでくれません……?」

「くっ!!」

 俺が勇者の前へと一気に距離を詰めると、右手に持っていたもので斬り付けた。

 まあ、そこは勇者。

 初見で見切った上で、防いじゃうんだからさ…………。

「流石は勇者様。なら、これならどうかな!?」

「させない!!」

 俺の追撃を何度も受け流し、かわし続ける勇者。

 流石に場慣れしている上、聖剣の力で身体機能を強化しているみたいだな…………。

 しかも、ちゃっかり俺の情報を読み取ろうとしている。

「やっぱり、この姿のままじゃ押し切れないか」

「はあっ!!!!」

「おっと…………!」

 顔スレスレで聖剣の刃をバックステップを用いて回避したが…………。

「へぇ~…………」

 完璧に回避したと思ったが、フードの一部が切れていた。

 一応、防刃素材なんだが、やはり、聖剣は侮るべきではなさそうだ。

「大人しく投稿してくれないかい?」

 勝利を確信しているのか?

 勇者はそんな事を聞いてくる。

 もう俺が誰だか、理解しているようだ。

「女神様達から聞いた。

 君の力があれば、魔王軍との戦況を一変させる事が出来ると…………。

 なら、その力を力無き者達のために生かすべきだよ」

 はあ……? 

 何言ってんのこいつ……?

 何か、説得始めちゃったよ。

「今も何処かで、誰かが私達、勇者の助けを待っている。

 だから、君も…………」

「滅べばいいじゃん」

「は……?」

 俺の発言に勇者が間の抜けた顔をする。

 何を言っているのか、分からない、といった感じだ。

「だから、滅べば良いんだよ。こんな世界も、人間も…………」

「な、なっ…………!?」

 勇者は明らかに狼狽していた。

 俺は気にする事なく、話を続ける。

「何か、あんたは色々と勘違いしているみたいだが…………。

 俺はそもそも勇者をやるなんて言ってねえよ」

「…………ふざけているのか……?」

 段々と状況を理解出来てきたのか、勇者の顔が見る見る怒りに染まっていく。

「ふざけてなどいるもんか。

 良いか……?

 耳の穴かっぽじって良く聞けよ?

 俺は何処で誰が死のうが知った事じゃねぇ…………。

 むしろ、死んでくれて清正するぜ」

「……………………」

 勇者の聖剣の柄を握る手が強く握られる。

「大体、何で俺が人間なんてもんを守らなくちゃいけないんだ?

 こんな醜くて、浅ましい生きもんを守って何の意味がある?

 守っても、喜ぶのはお前みたいな偽善者だけだろうが…………」

 俺も俺で、いつにも増して饒舌に話している。

 やっぱり、ストレス溜まりまくっていたみたいだ。

 あぁ、気持ちが楽になる。

「だから、私達に協力しないと……?」

「する訳ねぇじゃん!

 何、君……?

 もしかして、クラスでいう委員長タイプみたいな奴なの……?」

 明らかに小馬鹿にしたように勇者を笑うと、勇者は一気に動いた。

 そして、振り上げた聖剣を振り下ろし--------

「きゃあああっ! や~ら~れ~る~…………」

 わざとらしい悲鳴を上げて余裕で回避。

 振り下ろされた聖剣は湖へと吸い込まれて--------そのまま、湖の水そのものを蒸発させた。

「わおっ!? おっかないなあ~…………」

「っ!? 貴様!!」

 その目は憎々しげに俺を睨み付ける。

 俺は右手に手にしているもの…………刀状の魔道具を勇者に切っ先を向け、構える。

「さて、第二ラウンドと行きましょうか? ねぇ、勇者様…………」

 俺は邪悪に微笑み、勇者へと駆け出した。

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