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第一部
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王太子の婚儀まで後一ヶ月を切った頃、今日もジークハルトとカイルは働いていた。執務室付きの文官も働いているが、上に立つのは高位貴族の側近にと言われるからあっちこっちと色んな部署に命令書を渡して打ち合わせをして歩いていた。
厨房の料理長との打ち合わせを済ませて執務室に戻ろうとしたら一人の東宮付きの女官に呼び止められた。
「あの 申し訳ありません。王太子殿下の執務室の方でいらっしゃいますか」
王太子を籠絡したいと言う貴族令嬢方は多かった。そのため東宮の女官は王太子派の身元のしっかりした貴族令嬢から選ばれている。だからこの女官も安心できる女性のはずだ。自分もこんな知識が持てる様になったなぁと感慨深いジークハルトであった。
「あの 聞こえてらっしゃる?」
しまった!挙動不審なところを見られてしまった。
「あ はい すみません」
この人もミケーレ並みに圧が強いなと思った。
「私はダンドール子爵が娘マルガリータと申します。お忙しいのに申し訳ありませんがお話を聞いて頂きたくて」
まさか ニーナの望んだ展開か!
「ですが、ここでは人目があります。ちょっとよろしいでしょうか」
と手招きされた。もしやニーナの言う…と期待するジークハルト。連れて行かれたのは東宮の庭園のちょうど草木で人目がつかない場所だった。
「東宮の隅から隅まで存じておりますので、こんな場所も知っておりますが、普段から使ったりしていませんよ。誤解なき様に」
「なんの話だ?」
マルガリータは上目遣いできっと睨んだ。おお 気が強そうとのんびりジークハルトは思った。
「ここは女官や文官の相引き場所なんです!」
ああ そうなんだーとのんびり思った。自分には関係ないからね。マルガリータはこほんと咳払いして話を変えた。
「お話したいこととは、最近女官長がおかしいのです」
マルガリータは声を潜め始めたので、自然とジークハルトは身体をマルガリータに近づけ顔を寄せて耳を傾けた。マルガリータはジークハルトを見て少し頬を染めた。ジークハルトは中身は残念だが見た目は一級品なのだ。
「もうすぐ妃殿下になられるミケーレ様が東宮にお輿入れになります。そのあとは怒涛の様に婚儀の準備になりますが、ミケーレ様の身の回りの警護は固くすることになっています。あの 某国の…」
「ああ 某王女の件で」
「左様でございます。でしたら東宮にしろ王宮には身元がはっきりしない者を雇うはずはありませんし、商人も今まで取引したものしか入れません」
マルガリータはちょっと言葉を切った。ジークハルトはしっかりした子だなぁと感心していた。
「ですのに、女官長が勝手に自分が取引してるからと今まで出入りしてなかった商人を出入りさせ、自分で勝手に採用した厨房の料理人を三人入れたのです」
「女官長は確か…」
「左様でございます。女官長は王妃様のお輿入れの時に付いて来られた子爵夫人で王妃様の信頼厚い方です。ですから誰も否を言えません」
「いや 女官長が決めたのなら間違いないのでは?先程厨房で聞いたけれども外国からの賓客の個別の好みのため人手が足りないから増やして欲しいと言われたばかりだし」
「そうですが、管轄外の採用や出入りの商人を決めるのは女官長の仕事じゃありません。料理長と厨房専任の文官の仕事です。女官長の仕事はあくまで女官の取りまとめです」
拳を固く握りしめて言い募るマルガリータを見てこれは…と思った。
「わかった。調べてみる」
マルガリータはほっとした様に表情を緩めた。
「ありがとうございます。執務室の方は多忙なのはよくわかっているのですが、もしミケーレ様に何かあったらと心配で」
「ミケーレ嬢のことそこまで?」
マルガリータはどうしようかとためらった様に言葉を探していたが思い切った様に言った。
「我が子爵家は一昨年の土砂崩れで甚大な被害を被りました。私が借金返済の代わりに商人の後妻に行くしか無くなったところ、お茶会で仲良くしてくださっていたミケーレ様がそれを聞きつけて、我が家の綿花栽培の技術を売ってくれと言われて買っていただいたのです。それで子爵家を建て直すこともできて私も後妻に行かないで済みました。綿花栽培も公爵家との共同事業になったので、子爵家の維持もできる様になりました。この東宮に女官として働ける様になって、もう恩は返せないほどなのです」
話すほどにマルガリータの頬は紅潮して行く。それを見てマルガリータのミケーレを思う気持ちに間違いはないとジークハルトは思った。
「わかりました。ユリウス様とも話して一度調査します」
そう言うとマルガリータは蕾がほころぶように笑った。ジークハルトはその顔を見てドキンとした。いやいや惚れっぽいのは自覚があるからと頭を振って今の気持ちを追い出した。マルガリータと別れて、執務室に向かう。
執務室に帰ったら文官は出払いユリウスとカイルがいた。二人にマルガリータからの情報を伝えると、それは大変な問題だとユリウスが言った。王妃様の信頼の厚い女官長の問題はデリケートだ。王太子に報告しつつまず内検する事になった。
厨房の料理長との打ち合わせを済ませて執務室に戻ろうとしたら一人の東宮付きの女官に呼び止められた。
「あの 申し訳ありません。王太子殿下の執務室の方でいらっしゃいますか」
王太子を籠絡したいと言う貴族令嬢方は多かった。そのため東宮の女官は王太子派の身元のしっかりした貴族令嬢から選ばれている。だからこの女官も安心できる女性のはずだ。自分もこんな知識が持てる様になったなぁと感慨深いジークハルトであった。
「あの 聞こえてらっしゃる?」
しまった!挙動不審なところを見られてしまった。
「あ はい すみません」
この人もミケーレ並みに圧が強いなと思った。
「私はダンドール子爵が娘マルガリータと申します。お忙しいのに申し訳ありませんがお話を聞いて頂きたくて」
まさか ニーナの望んだ展開か!
「ですが、ここでは人目があります。ちょっとよろしいでしょうか」
と手招きされた。もしやニーナの言う…と期待するジークハルト。連れて行かれたのは東宮の庭園のちょうど草木で人目がつかない場所だった。
「東宮の隅から隅まで存じておりますので、こんな場所も知っておりますが、普段から使ったりしていませんよ。誤解なき様に」
「なんの話だ?」
マルガリータは上目遣いできっと睨んだ。おお 気が強そうとのんびりジークハルトは思った。
「ここは女官や文官の相引き場所なんです!」
ああ そうなんだーとのんびり思った。自分には関係ないからね。マルガリータはこほんと咳払いして話を変えた。
「お話したいこととは、最近女官長がおかしいのです」
マルガリータは声を潜め始めたので、自然とジークハルトは身体をマルガリータに近づけ顔を寄せて耳を傾けた。マルガリータはジークハルトを見て少し頬を染めた。ジークハルトは中身は残念だが見た目は一級品なのだ。
「もうすぐ妃殿下になられるミケーレ様が東宮にお輿入れになります。そのあとは怒涛の様に婚儀の準備になりますが、ミケーレ様の身の回りの警護は固くすることになっています。あの 某国の…」
「ああ 某王女の件で」
「左様でございます。でしたら東宮にしろ王宮には身元がはっきりしない者を雇うはずはありませんし、商人も今まで取引したものしか入れません」
マルガリータはちょっと言葉を切った。ジークハルトはしっかりした子だなぁと感心していた。
「ですのに、女官長が勝手に自分が取引してるからと今まで出入りしてなかった商人を出入りさせ、自分で勝手に採用した厨房の料理人を三人入れたのです」
「女官長は確か…」
「左様でございます。女官長は王妃様のお輿入れの時に付いて来られた子爵夫人で王妃様の信頼厚い方です。ですから誰も否を言えません」
「いや 女官長が決めたのなら間違いないのでは?先程厨房で聞いたけれども外国からの賓客の個別の好みのため人手が足りないから増やして欲しいと言われたばかりだし」
「そうですが、管轄外の採用や出入りの商人を決めるのは女官長の仕事じゃありません。料理長と厨房専任の文官の仕事です。女官長の仕事はあくまで女官の取りまとめです」
拳を固く握りしめて言い募るマルガリータを見てこれは…と思った。
「わかった。調べてみる」
マルガリータはほっとした様に表情を緩めた。
「ありがとうございます。執務室の方は多忙なのはよくわかっているのですが、もしミケーレ様に何かあったらと心配で」
「ミケーレ嬢のことそこまで?」
マルガリータはどうしようかとためらった様に言葉を探していたが思い切った様に言った。
「我が子爵家は一昨年の土砂崩れで甚大な被害を被りました。私が借金返済の代わりに商人の後妻に行くしか無くなったところ、お茶会で仲良くしてくださっていたミケーレ様がそれを聞きつけて、我が家の綿花栽培の技術を売ってくれと言われて買っていただいたのです。それで子爵家を建て直すこともできて私も後妻に行かないで済みました。綿花栽培も公爵家との共同事業になったので、子爵家の維持もできる様になりました。この東宮に女官として働ける様になって、もう恩は返せないほどなのです」
話すほどにマルガリータの頬は紅潮して行く。それを見てマルガリータのミケーレを思う気持ちに間違いはないとジークハルトは思った。
「わかりました。ユリウス様とも話して一度調査します」
そう言うとマルガリータは蕾がほころぶように笑った。ジークハルトはその顔を見てドキンとした。いやいや惚れっぽいのは自覚があるからと頭を振って今の気持ちを追い出した。マルガリータと別れて、執務室に向かう。
執務室に帰ったら文官は出払いユリウスとカイルがいた。二人にマルガリータからの情報を伝えると、それは大変な問題だとユリウスが言った。王妃様の信頼の厚い女官長の問題はデリケートだ。王太子に報告しつつまず内検する事になった。
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