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しおりを挟む「至らなかったのは、むしろ俺です。だから、もし貴方が…王族である俺に償いをさせる為に『結婚』という手段を取ったのだとしたら、今からでも遅くありません。望みを撤回して下さい」
「……は…?」
「理由は何でもいいです。俺が思ってたより我儘だったとか…そんな感じで俺の所為にすれば、貴方の経歴にも評判にも傷はつかないでしょう。大丈夫です、…多分城には戻れないけど…償いはきちんとしま、」
「ニース王子!」
肩を掴まれながら見上げた彼は、驚愕と怯えが混じったような表情をしていて、どうしてそんな顔をするのか分からなくて、首を傾げた。
「……アルアドル卿…?」
「…王子は、先程から何の話をしているのですか? 償いだとか…その為に結婚しようとしてるだとか…どう、して……どうして、そんなことを…仰るのですか…」
「………」
酷い人だな、それを俺に言わせるのか。
「俺は…貴方だけがいればよかった」
彼の目から怯えが消え、純粋な驚きだけが輝くの表情は、幼い頃の悪戯が成功したときのような反応とまるで同じで。
彼は彼のままだと、少しだけ…笑みを溢した。
「誰に何を言われても、貴方が側にいてくれるなら…。例え、どれだけ泥を被せられようと、第三王子として生きていけると思っていました。でも、俺は無知だった。だから貴方を俺から解放しなければと…いつ死ぬかも分からない俺なんかの側に、置いておくべきではないと…そう、俺が王に望んだのです」
「………………、俺の、為…?」
俺の言葉を呑み込むように言葉を溢した彼は、呆然とした様子で俯いた。力が抜けた手が、俺の肩から滑り落ちる。
「……そんなこと…っ、俺に、仰ってくれれば…」
「貴方に、『俺の側にいるのは苦痛か』って…? そんなこと聞いても意味がないじゃないですか。肯定したら、罪に問われます。例えそれが二人きりの空間での問答だとしても。誰かに聞かれたりしたら、それは貴方の足枷になる」
空に垂れ下がっていた手が、屈辱そうに握り締められる。
「……………っ、それは…」
「……貴方は、真面目だから…。もしそれが真実だとしても、きっと俺に気を遣って首を縦には振らなかったでしょう?」
「……………」
「ふふ…。ほら、図星だ」
押し黙る彼に、つい笑みを零す。どこまでいっても誠実で、真面目人。
………けど、彼にそのまま肯定されるのが怖かったのも、本当だった。…それに、気遣った言葉でも彼に否定されていたらーーきっといつまでも決心がつかなかっただろうから。
「……では、王子は…そんな理由で、俺を傍から外されたのですか…?」
「…そうですね」
「…信用できる供もいない中、お一人で…外交、を……」
「……どんな想像をしているかは分かりませんが、貴方がそんな顔をする必要は無いんですよ。俺が、決めたことです」
「……………っ、」
やっぱり優しいなぁ…、望んで侍っていたわけではない、俺の為にまだそんな辛そうな顔をするなんて。関係なくなったと突き放せばいいのに。
ーー俺はずっと、貴方のそういうところに救われてきた。
だから、もういいんだ。俺の為に身を削る必要はない。
「………俺。城に、戻るよ」
どれだけ恨まれているのかと思ったけど、少なくとも奴隷にしたり、殺したいほどのものじゃないのだろう。……何でまた俺のところに戻ってきたいと思ったのか、分からないけど。
まずは物理的な距離をとって、お互いに頭を冷やした方がいい。
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