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定番になりつつある異世界転生【学校編】ー2年目ー
43話 出逢っちゃいました。sideガーデン
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僕はクリスタ国の貴族の第二夫人の息子として産まれた。
本妻にも息子がいたので父は僕にはただ優しく甘やかして育ててくれた。
クリスタ国では魔法を使える貴族が多い。
我が家は僕だけが使えなかった。
使えないからって差別もされない。
でも僕だけ仲間外れなのは寂しかったし、お母様は少し気にしている様だった。
クリスタ国は大陸の中でも豊かだ。
気候にも恵まれ日々の暮らしに苦労する事はない。
兄さんとは仲が良くなかったが別宅で何不自由ない生活を日々過ごしていた。
僕が大きくなるとアレクサンダー陛下に第一王子が産まれた。
国は大いに賑わった。
アレクサンダー陛下の治世は繁栄していて、よりクリスタ国は豊かになった。
王女も産まれた。
そこまで話題にもならなかったけど、のちのち王女も度々話に出る様になった。
本が流通して色んな本が読める様になった。
そして、学校という教育機関が作られた。
父さんは通いたかったら通えば良いと言ってくれた。
兄さんも通うと聞いて興味が湧いて僕も通う事にした。
学校はとても面白かった。
授業は今まで家庭教師に教わった内容もあったがそれ以外や勉強だと思えない内容など色々あって僕達を驚かせた。
直接会った事がなかったカイル王子やレイチェル王女と一緒のクラスで勉強出来するのは凄い緊張したが2人の聡明さや人柄に大きな衝撃を受けた。
他国の王族や貴族はそんな事なかったが、クリスタ国の上位貴族には下級貴族や本妻の子供ではない僕みたいな生まれを馬鹿にする人がいて、お2人がそんな事を許さないと自ら示してくれた。
お2人とも分け隔てなく全ての生徒と会話して同じ態度をとった。
しばらくすると馬鹿にしてきた人達もそんな事は出来なくなっていった。
1番偉い人達が分け隔てないのに他の人がそんな態度は出来なくなっていった。
お2人にそれぞれお昼ご飯を一緒に良いかと聞かれた時は緊張で美味しい筈のご飯の味も一切分からなかった。
カイル王子は人を見抜く事にとても長けた人だった。
僕の事も次々言い当てられて冷や汗をかいた。
レイチェル王女は小さい妹みたいだと思っていたが授業の度に全ての人を驚かせた。
教室中の誰もがレイチェル王女が発言する時は緊張するのが伝わってくる。
2人の噂は入学前に聞いていたが実物の方が衝撃が大きかった。
噂は凄さの10分の1も伝わらないと思った。
僕の様に本妻の子供ではない場合、他の爵位を買い与えられるか聖職者になる事が多い。
でも、僕は物語を書いて生活してみたかった。
誰にも言えていない秘密だったのにカイル王子は僕の手を見た瞬間に書き物が好きなのかと聞いてきた。
僕の心臓が大きく跳ねた。
周りの友人にも話していなかったので友人も呆けていた。
レイチェル王女には内緒で書いている物を読ませて欲しいと懇願された。
レイチェル王女は色んな才能の作家を見つけてはポケットマネーで自費出版している事を知った。
わざわざその為にもう一つの平民の学校にも通っているみたいだった。
僕の作品を面白いと言って違う名前での出版を薦めてくれた。
僕の作品が書店に並んだ時は心から何か感じた事のない気持ちが溢れた。
僕は愛されていても所詮は庶子。
嫡子(正妻の子)と庶子(妾の子)にはとても大きな違いがあった。
別宅で不自由のない生活が出来ても何もかも本妻、本宅の次にだ。
お母様も決して本妻の前に出てはいけないし一歩二歩三歩後ろでなければいけない、僕も兄さんより賢くてはいけないし前に出てはいけない。
僕が魔法を使えない事は結局良かったんだと今はみんなが思っているのを知っていた。
成長するにつれて色んな事が分かってくると何だが未来をワクワク出来なくなってしまったみたいだ。
学校は本当に楽しいのにそれを活かせる未来が僕には待ってない気がしていた。
でもレイチェル様が僕に違う未来を見せてくれた。
2年目は医術の勉強やクラブ活動なども取り入れるそうだ。
僕は2年目も学校に通いたいと父に懇願していた。
1年目でレイチェル様が僕の心の中に大きく刻まれていた。
今だに寝る前にベットに横になりながら思い返して僕の胸を熱くさせる。
倫理の授業で《この世は平等か不平等か?》っという問題に殆どの人は不平等だが平等になる様に努力すべきみたいな意見を言っていた。
僕もそんな意見を言った。
レイチェル様だけが全く違う意見を言った。
レイチェル様も不平等を許さないと言うのかと思っていたら全く違う事言った。
「この世は不平等です。そして、私はその不平等こそ大切だと思います。平等である必要を感じません。不平等だからこそ違いがあるんです。みんな一緒だったら競争なども起こりません。私は女で2番目に産まれたからこそ王位継承権を持たない私です。カイルお兄様は先に生まれて男だからこその第一位王位継承者です。そこには明確な差、言うなれば不平等があります。これが平等で同じ権利を持ったなら私達の関係は違ったでしょう。…私は誰かと一緒である意味を特に感じません。違うからこそ良いと思うのです。ただ違う事を差別する事は間違っていると思いますが…不平等で私は良いと思います。」
レイチェル様の意見に誰もが唖然としていた。
誰しも平等を夢見てそれを実現する為に努力していると思っていた。
全く違う考え方の人が居て、その考え方の人の行動こそ平等を目指していると思っていたのにそれが全く違っていた衝撃がみんなに広がったのが分かった。
不平等で良い。
それを聞いてから確かに僕が庶子だからこそ物語を書いて生活したいなんて夢を見れるし、父に甘やして貰えたんだと思うと嫌だった事も良い事に思えてきた。
レイチェル様が僕に色んな変化をくれて、未来を楽しいワクワクするものに変えてくれた。
2年目の医術やクラブ活動もそうだった。
僕は魔法を使える様になった。
思わず使えた時は涙が流れた。
それからは毎日練習をした。
レイチェル様ですら練習するしか上手くならないと毎日練習していた。
天才はこの世にいるけど自分は天才ではないと笑って言っていた。
レイチェル様は僕から見たら天才だけど本人はそんな事ないと本当に日々勉強や色んな事を努力していた。
僕が5歳の時は何をしてたかのすら思い出せないのにレイチェル様は日々をとても急いでいるのが見ていて分かった。
2年目の途中に大きな事件が起きた。
国々に前代未聞の感染症が発生したのだ。
発症者の1人目が出たその日に大陸全土に緊急事態の伝令が即座に飛び交った。
レイチェル様が確立した緊急事態の連絡方法のお陰ですぐに国境封鎖がその日にされた。
その日すぐに外出禁止がクリスタ国でも発令された。
国外に出ていた人の隔離、出ていた人と接触した人達も隔離された。
学校も休校になる中《世界向上クラブ》の生徒にはレイチェル様名義で封書が届いた。
学校に行くとレイチェル様が今まで見た事のない表情をして立っていた。
着ている制服は所々が汚れていた。
レイチェル様は感染症を食い止めたいので手を貸して欲しいと頭を下げた。
カイル殿下はそんなレイチェル様を痛ましい顔で見つめていた。
レイチェル様が頭を下げる必要なんてないと思った。
半年間色々考えていた。
魔法を使える様になって色んな病気の人を見てきて。
レイチェル様は僕達に何も強要してこなかった。
でも精一杯色んな事を伝えてくれていた。
そのレイチェル様から必死の懇願が伝わってくる。
誰かを救えるなら救ってみせたい。
そんな事半年前は考えた事無かった。
みんなが決意を胸に立ち上がる。
フェルミナ国に移動するとそこは今まで自分の目で見た何処よりも凄惨な所だった。
レイチェル様は近くにいた僕にしか分からない程小さく震える手で血だらけの性別も判別できない人の手を握りしめ微笑んだ。
そして、魔法が発動してその人を包みこんだ。
レイチェル様の魔法はいつも綺麗に光り輝いていて美しくて見惚れてしまう。
その魔法に触れた事がある人はみんな知っている。
彼女がどれ程相手を守りたい、救いたい、治ると思っているのか。
僕達も絶対治せると信じてくれているのが触れられる手から伝わってきた。
その力が僕達1人1人を強くしているのが分かる。
1人1人に触れながら制服に追加の付与魔法を施してくれた。
そして、一言一言言葉をかけて送り出してくれた。
僕が行くのは同盟国ではないラルジェ国だ。
同盟国ではないけれど王都で話が分かる人に話してあるとレイチェル様が言っていた。
ドアを友人とくぐると現地の人が待っていてくれた。
レイチェル様の名前を言うとすぐに建物に通された。
フェルミナ国に行っていた商人の人達が隔離されているそうだ。
まだ発症していないがもう感染している可能性が高い為隔離をしたそうだ。
接触した人達も隔離をお願いする。
そして、その人達にも行動ルートを聞き接触した人などを隔離していく。
そして、まず感染の可能性の高い人から治療していった。
商人が接触していない人も次の日には発症して運び込まれてきた。
次の日からはレイチェル様に習ったトリアージを実践して重篤の人から治療していった。
その人達も隔離してと毎日てんやわんやになった。
隔離と人の動きを止める為に発症した場合、家の上に赤い布をあげてもらう様に変更した。
朝一番に赤い布の家を回って隔離と発症者はトリアージで重篤度を分けていった。
毎日1人に魔法の流れを流して制服を渡した。
僕はその人の手を取り目を見て質問する。
「大切な人はいますか?」
その人にとって大切な誰かが病気の時その力は大きく発現する事を僕は知った。
この質問は僕もレイチェル様にされた事があった。
レイチェル様から大切な誰かの為になら人は予想以上の力が使える事を教えて貰った。
その人の瞳が強く光っているのを確認すると魔力を流す。
この人にとって大切な誰かを治せる力をと心から願う。
6日目の夜、12人の治療者と一緒に発症者を周り終わって力尽きてベットに倒れこむ。
そこにレイチェル様が現れた。
1人1人の手を握って励ましてくれた。
そして、外に出て違う場所に行く前に跪くと空に向かって手を組み何かを強く願っていた。
他の人には見えなかった様だが、僕にはレイチェル様から光の粒が弾けて周りに降り注いだ様に見えた。
その光の粒はまるで星空の星の様に夜の闇の中をキラキラ輝いて見えた。
レイチェル様は立ち上がると制服を置いてまたドアをくぐっていった。
次の日から発症者の病状は軽くなり隔離されていた人の中から魔法が使える人が出てきた。
レイチェル様のあの願いがみんなに伝わったのだと僕は思った。
魔法が使える人には制服を渡して治療するのを見てもらってから治療に駆けずり回った。
9日目には新しい発症者が出なかった。
10日目には発症者の治療も完了した。
11日目も滞在したけど新しい発症者はやはり出なかった。
大陸中が治療開始から10日目には新しい発症者を出さなかった。
15日まで慎重の為大陸閉鎖は続いていたが15日目で国境封鎖は解除された。
僕がクリスタ国に帰ると《世界向上クラブ》の生徒達は英雄として各国から絶賛されていた。
クリスタ国からも偉大な功績を残した者に与えられる薔薇勲章の授与が伝えられた。
父もお母様も泣いて喜んでくれた。
薔薇勲章は一族みんなの評判をあげたと兄さんや本妻からも喜ばれた。
僕はなんだか不思議な気持ちだった。
レイチェル様に最後会った時の事を思い出す。
レイチェル様は真っ赤に腫らした顔と誰よりも汚れた制服姿で立っていた。
洗浄効果が僕達と同じ様についている筈なのにレイチェル様の制服はそれでも取りきれない程血を吸っているんだと思った。
「皆さんのお陰で被害は最小限に止められました。本当にありがとうございます。でも…。」
そこまで言って唇を強く噛んだ。
そして、頭を深く下げた。
「今日までの11日間の時間を私の我儘に付き合ってくれてありがとうございます。この御恩は一生忘れません。」
そう言って下げたレイチェル様の顔の下の床は濡れていった。
僕も悔しい気持ちが込み上げてきて目頭を熱くした。
確かに救えた人もいた。
でも救えなかった人もいた。
あのレイチェル様ですら悔しさを感じているのを見て今まで我慢していた物が込み上げてきてしまった。
気づくとみんな泣いていた。
そんな事を思い出すとみんなが英雄と褒められても心から喜べないんじゃないかと思った。
授与式にレイチェル様は参加していたが授与は辞退していた。
レイチェル様はとても嬉しそうな顔で拍手をしていた。
僕はまた本を書いた。
1人の女の子が冒険をして沢山の人を救う話だ。
モデルにしたのはレイチェル様だ。
その本はベストセラーになるのはまた少し先の話。
僕は出逢った。
僕の世界を変える人に。
僕は出逢った。
とても優しい人に。
僕は出逢った。
自分にとても厳しい人に。
僕は出逢った。
世界を変える人に。
レイチェル・サン・ヴィクトリア
その人に僕は出逢った。
本妻にも息子がいたので父は僕にはただ優しく甘やかして育ててくれた。
クリスタ国では魔法を使える貴族が多い。
我が家は僕だけが使えなかった。
使えないからって差別もされない。
でも僕だけ仲間外れなのは寂しかったし、お母様は少し気にしている様だった。
クリスタ国は大陸の中でも豊かだ。
気候にも恵まれ日々の暮らしに苦労する事はない。
兄さんとは仲が良くなかったが別宅で何不自由ない生活を日々過ごしていた。
僕が大きくなるとアレクサンダー陛下に第一王子が産まれた。
国は大いに賑わった。
アレクサンダー陛下の治世は繁栄していて、よりクリスタ国は豊かになった。
王女も産まれた。
そこまで話題にもならなかったけど、のちのち王女も度々話に出る様になった。
本が流通して色んな本が読める様になった。
そして、学校という教育機関が作られた。
父さんは通いたかったら通えば良いと言ってくれた。
兄さんも通うと聞いて興味が湧いて僕も通う事にした。
学校はとても面白かった。
授業は今まで家庭教師に教わった内容もあったがそれ以外や勉強だと思えない内容など色々あって僕達を驚かせた。
直接会った事がなかったカイル王子やレイチェル王女と一緒のクラスで勉強出来するのは凄い緊張したが2人の聡明さや人柄に大きな衝撃を受けた。
他国の王族や貴族はそんな事なかったが、クリスタ国の上位貴族には下級貴族や本妻の子供ではない僕みたいな生まれを馬鹿にする人がいて、お2人がそんな事を許さないと自ら示してくれた。
お2人とも分け隔てなく全ての生徒と会話して同じ態度をとった。
しばらくすると馬鹿にしてきた人達もそんな事は出来なくなっていった。
1番偉い人達が分け隔てないのに他の人がそんな態度は出来なくなっていった。
お2人にそれぞれお昼ご飯を一緒に良いかと聞かれた時は緊張で美味しい筈のご飯の味も一切分からなかった。
カイル王子は人を見抜く事にとても長けた人だった。
僕の事も次々言い当てられて冷や汗をかいた。
レイチェル王女は小さい妹みたいだと思っていたが授業の度に全ての人を驚かせた。
教室中の誰もがレイチェル王女が発言する時は緊張するのが伝わってくる。
2人の噂は入学前に聞いていたが実物の方が衝撃が大きかった。
噂は凄さの10分の1も伝わらないと思った。
僕の様に本妻の子供ではない場合、他の爵位を買い与えられるか聖職者になる事が多い。
でも、僕は物語を書いて生活してみたかった。
誰にも言えていない秘密だったのにカイル王子は僕の手を見た瞬間に書き物が好きなのかと聞いてきた。
僕の心臓が大きく跳ねた。
周りの友人にも話していなかったので友人も呆けていた。
レイチェル王女には内緒で書いている物を読ませて欲しいと懇願された。
レイチェル王女は色んな才能の作家を見つけてはポケットマネーで自費出版している事を知った。
わざわざその為にもう一つの平民の学校にも通っているみたいだった。
僕の作品を面白いと言って違う名前での出版を薦めてくれた。
僕の作品が書店に並んだ時は心から何か感じた事のない気持ちが溢れた。
僕は愛されていても所詮は庶子。
嫡子(正妻の子)と庶子(妾の子)にはとても大きな違いがあった。
別宅で不自由のない生活が出来ても何もかも本妻、本宅の次にだ。
お母様も決して本妻の前に出てはいけないし一歩二歩三歩後ろでなければいけない、僕も兄さんより賢くてはいけないし前に出てはいけない。
僕が魔法を使えない事は結局良かったんだと今はみんなが思っているのを知っていた。
成長するにつれて色んな事が分かってくると何だが未来をワクワク出来なくなってしまったみたいだ。
学校は本当に楽しいのにそれを活かせる未来が僕には待ってない気がしていた。
でもレイチェル様が僕に違う未来を見せてくれた。
2年目は医術の勉強やクラブ活動なども取り入れるそうだ。
僕は2年目も学校に通いたいと父に懇願していた。
1年目でレイチェル様が僕の心の中に大きく刻まれていた。
今だに寝る前にベットに横になりながら思い返して僕の胸を熱くさせる。
倫理の授業で《この世は平等か不平等か?》っという問題に殆どの人は不平等だが平等になる様に努力すべきみたいな意見を言っていた。
僕もそんな意見を言った。
レイチェル様だけが全く違う意見を言った。
レイチェル様も不平等を許さないと言うのかと思っていたら全く違う事言った。
「この世は不平等です。そして、私はその不平等こそ大切だと思います。平等である必要を感じません。不平等だからこそ違いがあるんです。みんな一緒だったら競争なども起こりません。私は女で2番目に産まれたからこそ王位継承権を持たない私です。カイルお兄様は先に生まれて男だからこその第一位王位継承者です。そこには明確な差、言うなれば不平等があります。これが平等で同じ権利を持ったなら私達の関係は違ったでしょう。…私は誰かと一緒である意味を特に感じません。違うからこそ良いと思うのです。ただ違う事を差別する事は間違っていると思いますが…不平等で私は良いと思います。」
レイチェル様の意見に誰もが唖然としていた。
誰しも平等を夢見てそれを実現する為に努力していると思っていた。
全く違う考え方の人が居て、その考え方の人の行動こそ平等を目指していると思っていたのにそれが全く違っていた衝撃がみんなに広がったのが分かった。
不平等で良い。
それを聞いてから確かに僕が庶子だからこそ物語を書いて生活したいなんて夢を見れるし、父に甘やして貰えたんだと思うと嫌だった事も良い事に思えてきた。
レイチェル様が僕に色んな変化をくれて、未来を楽しいワクワクするものに変えてくれた。
2年目の医術やクラブ活動もそうだった。
僕は魔法を使える様になった。
思わず使えた時は涙が流れた。
それからは毎日練習をした。
レイチェル様ですら練習するしか上手くならないと毎日練習していた。
天才はこの世にいるけど自分は天才ではないと笑って言っていた。
レイチェル様は僕から見たら天才だけど本人はそんな事ないと本当に日々勉強や色んな事を努力していた。
僕が5歳の時は何をしてたかのすら思い出せないのにレイチェル様は日々をとても急いでいるのが見ていて分かった。
2年目の途中に大きな事件が起きた。
国々に前代未聞の感染症が発生したのだ。
発症者の1人目が出たその日に大陸全土に緊急事態の伝令が即座に飛び交った。
レイチェル様が確立した緊急事態の連絡方法のお陰ですぐに国境封鎖がその日にされた。
その日すぐに外出禁止がクリスタ国でも発令された。
国外に出ていた人の隔離、出ていた人と接触した人達も隔離された。
学校も休校になる中《世界向上クラブ》の生徒にはレイチェル様名義で封書が届いた。
学校に行くとレイチェル様が今まで見た事のない表情をして立っていた。
着ている制服は所々が汚れていた。
レイチェル様は感染症を食い止めたいので手を貸して欲しいと頭を下げた。
カイル殿下はそんなレイチェル様を痛ましい顔で見つめていた。
レイチェル様が頭を下げる必要なんてないと思った。
半年間色々考えていた。
魔法を使える様になって色んな病気の人を見てきて。
レイチェル様は僕達に何も強要してこなかった。
でも精一杯色んな事を伝えてくれていた。
そのレイチェル様から必死の懇願が伝わってくる。
誰かを救えるなら救ってみせたい。
そんな事半年前は考えた事無かった。
みんなが決意を胸に立ち上がる。
フェルミナ国に移動するとそこは今まで自分の目で見た何処よりも凄惨な所だった。
レイチェル様は近くにいた僕にしか分からない程小さく震える手で血だらけの性別も判別できない人の手を握りしめ微笑んだ。
そして、魔法が発動してその人を包みこんだ。
レイチェル様の魔法はいつも綺麗に光り輝いていて美しくて見惚れてしまう。
その魔法に触れた事がある人はみんな知っている。
彼女がどれ程相手を守りたい、救いたい、治ると思っているのか。
僕達も絶対治せると信じてくれているのが触れられる手から伝わってきた。
その力が僕達1人1人を強くしているのが分かる。
1人1人に触れながら制服に追加の付与魔法を施してくれた。
そして、一言一言言葉をかけて送り出してくれた。
僕が行くのは同盟国ではないラルジェ国だ。
同盟国ではないけれど王都で話が分かる人に話してあるとレイチェル様が言っていた。
ドアを友人とくぐると現地の人が待っていてくれた。
レイチェル様の名前を言うとすぐに建物に通された。
フェルミナ国に行っていた商人の人達が隔離されているそうだ。
まだ発症していないがもう感染している可能性が高い為隔離をしたそうだ。
接触した人達も隔離をお願いする。
そして、その人達にも行動ルートを聞き接触した人などを隔離していく。
そして、まず感染の可能性の高い人から治療していった。
商人が接触していない人も次の日には発症して運び込まれてきた。
次の日からはレイチェル様に習ったトリアージを実践して重篤の人から治療していった。
その人達も隔離してと毎日てんやわんやになった。
隔離と人の動きを止める為に発症した場合、家の上に赤い布をあげてもらう様に変更した。
朝一番に赤い布の家を回って隔離と発症者はトリアージで重篤度を分けていった。
毎日1人に魔法の流れを流して制服を渡した。
僕はその人の手を取り目を見て質問する。
「大切な人はいますか?」
その人にとって大切な誰かが病気の時その力は大きく発現する事を僕は知った。
この質問は僕もレイチェル様にされた事があった。
レイチェル様から大切な誰かの為になら人は予想以上の力が使える事を教えて貰った。
その人の瞳が強く光っているのを確認すると魔力を流す。
この人にとって大切な誰かを治せる力をと心から願う。
6日目の夜、12人の治療者と一緒に発症者を周り終わって力尽きてベットに倒れこむ。
そこにレイチェル様が現れた。
1人1人の手を握って励ましてくれた。
そして、外に出て違う場所に行く前に跪くと空に向かって手を組み何かを強く願っていた。
他の人には見えなかった様だが、僕にはレイチェル様から光の粒が弾けて周りに降り注いだ様に見えた。
その光の粒はまるで星空の星の様に夜の闇の中をキラキラ輝いて見えた。
レイチェル様は立ち上がると制服を置いてまたドアをくぐっていった。
次の日から発症者の病状は軽くなり隔離されていた人の中から魔法が使える人が出てきた。
レイチェル様のあの願いがみんなに伝わったのだと僕は思った。
魔法が使える人には制服を渡して治療するのを見てもらってから治療に駆けずり回った。
9日目には新しい発症者が出なかった。
10日目には発症者の治療も完了した。
11日目も滞在したけど新しい発症者はやはり出なかった。
大陸中が治療開始から10日目には新しい発症者を出さなかった。
15日まで慎重の為大陸閉鎖は続いていたが15日目で国境封鎖は解除された。
僕がクリスタ国に帰ると《世界向上クラブ》の生徒達は英雄として各国から絶賛されていた。
クリスタ国からも偉大な功績を残した者に与えられる薔薇勲章の授与が伝えられた。
父もお母様も泣いて喜んでくれた。
薔薇勲章は一族みんなの評判をあげたと兄さんや本妻からも喜ばれた。
僕はなんだか不思議な気持ちだった。
レイチェル様に最後会った時の事を思い出す。
レイチェル様は真っ赤に腫らした顔と誰よりも汚れた制服姿で立っていた。
洗浄効果が僕達と同じ様についている筈なのにレイチェル様の制服はそれでも取りきれない程血を吸っているんだと思った。
「皆さんのお陰で被害は最小限に止められました。本当にありがとうございます。でも…。」
そこまで言って唇を強く噛んだ。
そして、頭を深く下げた。
「今日までの11日間の時間を私の我儘に付き合ってくれてありがとうございます。この御恩は一生忘れません。」
そう言って下げたレイチェル様の顔の下の床は濡れていった。
僕も悔しい気持ちが込み上げてきて目頭を熱くした。
確かに救えた人もいた。
でも救えなかった人もいた。
あのレイチェル様ですら悔しさを感じているのを見て今まで我慢していた物が込み上げてきてしまった。
気づくとみんな泣いていた。
そんな事を思い出すとみんなが英雄と褒められても心から喜べないんじゃないかと思った。
授与式にレイチェル様は参加していたが授与は辞退していた。
レイチェル様はとても嬉しそうな顔で拍手をしていた。
僕はまた本を書いた。
1人の女の子が冒険をして沢山の人を救う話だ。
モデルにしたのはレイチェル様だ。
その本はベストセラーになるのはまた少し先の話。
僕は出逢った。
僕の世界を変える人に。
僕は出逢った。
とても優しい人に。
僕は出逢った。
自分にとても厳しい人に。
僕は出逢った。
世界を変える人に。
レイチェル・サン・ヴィクトリア
その人に僕は出逢った。
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