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カゲロウ
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私は無言の夫がぼやけて見えていた。
まるでカゲロウのように、淡い光で顔もハッキリ見えない感覚に襲われた。
もう一年が過ぎた。
しかし、一つの変化が起きかけた。
「おはようございます」
「おはよう」
聞き間違い?
いや、夫の声だった。
「おかりなさい」
「ただいま」
(えっ?)
挨拶を返してくれた。
それから毎日、返事を返してくれるようになった。
挨拶だけだったが、それでも私の生活は一変した。
朝と晩が楽しみになった。
それから更に一か月後。
「ミサ、バスタオル忘れた。用意してくれ」
「は…はい!!」
「明日の夕方に電気点検が来るから、立ち合いを頼む」
「はい!!」
「今日は遅くなるぞ」
「はい、分かりました」
日に日に会話をしてくれるようになった。
また一か月後。
「今日から晩飯食べるから作ってくれ」
「はい!!!」
とうとうご飯も食べてくれるようになった。
嬉しかった。私は腕によりをかけて作った。
「美味いな」モグモグ食べる夫の姿がとても可愛く見えた。
誰かのために作るから美味しくなる、母の言葉の通りだ。
その日は私も、食事がとても美味しく感じた。
「コーヒーか、お茶いりますか?」
「ん…お茶くれ」
「はい」
その夜はうれし泣きをした。
それを実家に報告した。兄も姉もいる。
「そうか!晩飯も食べるようになったか」久しぶりの父の笑顔だ。
「ちょっとぉ…これって早く復縁するんじゃないのぉ」姉がからかう。
「まだ、早いよ」でも期待してる。
「ねぇ、アキ兄?もう大丈夫でしょ?ミサの努力よ」
「…いや、浮かれるのは早いよ」
「またぁ?何があるって言うのよ」
アキ兄さんは慎重な面持ちをしてた。
「ちよっと早い気がするんだ」
「そんなの人それぞれでしょう?きっとマサルさんも認めたのよ」
「そんな簡単な話じゃない」
くるっと私を見た。
「まだ浮かれるなよ。何かあるはずだ、たかが一年とちょっとだ」
「…う、うん」
兄はこの後、マサルさんと直接話すことになった。
その内容を聞かせれて愕然とした。
「こんばんは」
「済まないね、時間割いてもらって」
「いいえ、いつか連絡が来ると思ってましたから」
「やっぱりか、君のことだから想定済みか?」
「どうしてミサと話すようになったんだ?」
「ははっ、やっぱり兄さんは気づいてましたか…」
「時期が早すぎる」
「敵わないなぁ」
「何言ってんだ、あんな難しい条件出しておいて…俺だって思いつかなかったよ」
「あはは…で、今日は兄としてですか?それとも同じ経験者として?」
「両方かな…まぁ兄として妹を心配もしてる、けど夫婦に口挟むほど野暮じゃない」
「嫌いじゃないですよ、そういう感覚は」
「で、どうしてなんだ」
「ふぅー…実は海外に移住しようかと思ってまして」
「それって転勤か?」
「いえ、独立ですよ。シンガポールの友人が新しくファンドを立ち上げましてね。誘われてるんです」
「そうか、金融屋だもんな」
「迷ってたんですが、ミサのこともあっていい機会かな…と」
「ミサはどうなる?」
「連れてはいけません。向こうでは一人から始めます」
「なら、どうして話出したんだ。復縁を願ってる妹には酷だぞ」
「彼女はこの一年以上の間、よく耐えましたよ。話さない俺の攻撃にもなんとか我慢した」
「だからどうして?」
「兄さんなら分るでしょう? 口だけの復縁要請に意味はないことを…」
「まぁ、確かにな」
「だから行動で示してもらったんですよ。この一年でミサは強くなりました、私には充分です」
「もしかして、最初から…?」
「へへっ、まぁ…」
「許していたのか?」
「間違いは誰にでもある。しかし浮気は浮気です。それ自体を認めるわけにはいかない。これから彼女は強く生きていくためには試練は必要でしたから。それに俺にできることはこれぐらいのもんです」
「つまり、置き土産ってことか?」
「内緒ですよ」
「いつ発つんだ?」
「来月です。もう会社には辞表を出しました」
「まいったなぁ…なんかやられた気分だよ」
私は一瞬気を失った。
家族のみんなも黙り込んだ。
「それって…」さすがの姉も言葉が出なかった。
父も母も泣いていた。
「それからこれを渡してくれと頼まれた」
一冊の通帳だった。
「えっ?どういうこと?」
寝室の引き出しに置いてあった生活用の通帳には、四十万しかなかった筈なのに六百万円も入っていた。
「お前が払っていた家賃と、川上裕也の慰謝料五百万円だそうだ」
「ねぇ、それってどういうことなの?」
「マサル君は復縁要請の意思を確かめたんだ。お前はこの一年で働いて家賃を払い、無言の圧力にも耐えた。彼はそれをどこまで続けられるか確かめたかった。最初から慰謝料とか取るつもりはなかったんだよ」
涙が出た。
「お金なんていらない!!マサルさんが居てくれればいいの、ねぇ、あの人はどこにいるの?」
「もうあのマンションには戻らないそうだ」
「いや!!いやいや!!会いたい、会いたい!!」
私は子供のように叫んだ。
私は実家を飛び出してマンションに走った。
部屋の明かりが付いていた。
(いる!!)
部屋に駆け込んで迎えたのはガランとした風景だった。
どこを探してもいない。
電話をかけるも解約されていた。
メールも届かない。
兄が遅れてきた。
「ねぇ…いないの!どこにもいないの!やだやだ」
私は兄に抱きついた。黙って優しく頭を撫でてくれた。
兄はスッと携帯を出した。
「おそらくこの便にのると思う」
それはフライトスケジュールだった。
「なんで分かるの?」
「旅行代理店勤務だぞ、まぁ本来はダメなんだが航空会社の知り合いに片っ端から連絡した」
「兄さん…」
「行ってこい。すべてぶちまけてこい」
私は空港にいた。
ひたすら彼を待った。
いた。
「マサルさん!!!」
彼は驚いていた。
「どうして分かったんだ」
私は兄から預かった手紙を渡した。
彼は読んで一笑して見せてくれた。
<すまん、俺は口が軽い。やられた借りを返す>
「口止めしたのになぁ」
「どうして?どうしてダメなの?」
「もう決めたことなんだよ」
「いや!!私も行く!! お願い、そばいさせて?絶対邪魔しないからぁ」
「連れては行けないよ」
「ダメ!!行かせない!! 絶対ヤダ!」
周りのことなんて気にしてられなかった。
「ミサ、どうしてもダメなんだよ」
「ごめんなさい、いっぱいいっぱい謝るから。なんでもします!!だから、ついてこいって言って!」
彼は抱き着いた私を離した。
「君の過ちを忘れることは出来ないんだ。俺たちはもう終わったんだ」
「私は終わってない!」
「このまま君といれば、俺はもっと君を責めてしまう。それはしたくないんだ」
「責める?」
「兄さんに話したが、浮気そのものを認めるわけにはいかない。そのトゲはずっと心に刺さってるんだ。これから君は自分の力で歩かなきゃならない。もう俺たちは一緒には歩けないんだ」
この時、私は彼とは違う場所にいるのだ、と気付いてしまった。
「…どうしてもダメなの?」
「すまんが、もう君とともには暮らせない」
「…」
「お金は届いたか?」
黙って頷いた。
「あれは、君の努力の証だ。もう大丈夫だ、これから第二の人生だから大切に使えよ」
「もう会えないの?」
「…たぶんな」
「私がシンガポールに行くって言ったら?」
彼は黙って首を振った。
「もう、行かなきゃ」
「ねぇ、やだ!!もっと…」
「ありがとう。これからは本当に幸せをつかめよ」
そういって彼はゲートの向こうに消えて行った。
帰り道はよく覚えていない。
夜に家について、私は部屋に閉じこもった。
いつの間にか寝てしまった。
翌日、昼過ぎに起きた。
(日曜日か…)
茶の間には兄と姉がいた。
「大丈夫かい?」母が心配してる。
「ミサ…」姉の抱いてる甥っ子だけが元気だ。
チャイムが鳴った。
「お届け物でーす」
兄が受け取った。
「えっ?おい、ミサ!!」
持ってきた封筒には彼の名前が書いてあった。
中から手紙が出てきた。
<こんな形での別れ方を謝りたい。今の気持ちを書き留めておく。
どうしても君の過ちを許すことが出来ない俺がいる。
どうしたら良いのか悩んだ。
正直、復縁を望むとは思っていなかった。だが、君の弱い心では無理だと思った。
だから、俺は嫌われる覚悟で仕打ちをすることにした。だけど君は耐え抜いた。兄さんたちの支えもあって
踏みとどまって逃げなかった。素直に凄いことだと思っている。
久しぶりの君の手料理はとても美味しかった。我慢したけど泣きそうなぐらい美味しかったよ。
もう二度と食べられないんだ、と思うと残念で仕方ない。
パーティーのドレスはとてもよく似合っていた。きれいだった。自慢したいぐらいだ。
でも、出来なかったよ。やっぱり引っかかるんだ。
このまま君を許すと、俺は俺でなくなる気がした。
離れるから許せるのかも知れない。人の気持ちはままならないものだと思う。
俺たちは区切りが必要なんだ。
君も縛られることなく、これからの人生を歩んでほしい。
幸せになってほしい。
俺も遠い地で、これからを歩いていくことにする。
最後になるけど、君と出会えて良かった。本心から思う。
ミサのこれからの人生が良いものになるよう、心より祈っています。
二階堂 大より>
追伸
最後は君自身の手で出しておいてほしい。
奥に一枚の離婚届が入っていた。彼と保証人の欄は記入済みだった。
これで終わったんだ、と実感した。
部屋の窓から空を眺めた。
(この空の下のどこかにいるんだ)
いつも大きな愛で守られていたんだな、と父が呟いた。
私は離婚届にサインした。
明日、これを届けて全てが終わる。
まるでカゲロウのように、淡い光で顔もハッキリ見えない感覚に襲われた。
もう一年が過ぎた。
しかし、一つの変化が起きかけた。
「おはようございます」
「おはよう」
聞き間違い?
いや、夫の声だった。
「おかりなさい」
「ただいま」
(えっ?)
挨拶を返してくれた。
それから毎日、返事を返してくれるようになった。
挨拶だけだったが、それでも私の生活は一変した。
朝と晩が楽しみになった。
それから更に一か月後。
「ミサ、バスタオル忘れた。用意してくれ」
「は…はい!!」
「明日の夕方に電気点検が来るから、立ち合いを頼む」
「はい!!」
「今日は遅くなるぞ」
「はい、分かりました」
日に日に会話をしてくれるようになった。
また一か月後。
「今日から晩飯食べるから作ってくれ」
「はい!!!」
とうとうご飯も食べてくれるようになった。
嬉しかった。私は腕によりをかけて作った。
「美味いな」モグモグ食べる夫の姿がとても可愛く見えた。
誰かのために作るから美味しくなる、母の言葉の通りだ。
その日は私も、食事がとても美味しく感じた。
「コーヒーか、お茶いりますか?」
「ん…お茶くれ」
「はい」
その夜はうれし泣きをした。
それを実家に報告した。兄も姉もいる。
「そうか!晩飯も食べるようになったか」久しぶりの父の笑顔だ。
「ちょっとぉ…これって早く復縁するんじゃないのぉ」姉がからかう。
「まだ、早いよ」でも期待してる。
「ねぇ、アキ兄?もう大丈夫でしょ?ミサの努力よ」
「…いや、浮かれるのは早いよ」
「またぁ?何があるって言うのよ」
アキ兄さんは慎重な面持ちをしてた。
「ちよっと早い気がするんだ」
「そんなの人それぞれでしょう?きっとマサルさんも認めたのよ」
「そんな簡単な話じゃない」
くるっと私を見た。
「まだ浮かれるなよ。何かあるはずだ、たかが一年とちょっとだ」
「…う、うん」
兄はこの後、マサルさんと直接話すことになった。
その内容を聞かせれて愕然とした。
「こんばんは」
「済まないね、時間割いてもらって」
「いいえ、いつか連絡が来ると思ってましたから」
「やっぱりか、君のことだから想定済みか?」
「どうしてミサと話すようになったんだ?」
「ははっ、やっぱり兄さんは気づいてましたか…」
「時期が早すぎる」
「敵わないなぁ」
「何言ってんだ、あんな難しい条件出しておいて…俺だって思いつかなかったよ」
「あはは…で、今日は兄としてですか?それとも同じ経験者として?」
「両方かな…まぁ兄として妹を心配もしてる、けど夫婦に口挟むほど野暮じゃない」
「嫌いじゃないですよ、そういう感覚は」
「で、どうしてなんだ」
「ふぅー…実は海外に移住しようかと思ってまして」
「それって転勤か?」
「いえ、独立ですよ。シンガポールの友人が新しくファンドを立ち上げましてね。誘われてるんです」
「そうか、金融屋だもんな」
「迷ってたんですが、ミサのこともあっていい機会かな…と」
「ミサはどうなる?」
「連れてはいけません。向こうでは一人から始めます」
「なら、どうして話出したんだ。復縁を願ってる妹には酷だぞ」
「彼女はこの一年以上の間、よく耐えましたよ。話さない俺の攻撃にもなんとか我慢した」
「だからどうして?」
「兄さんなら分るでしょう? 口だけの復縁要請に意味はないことを…」
「まぁ、確かにな」
「だから行動で示してもらったんですよ。この一年でミサは強くなりました、私には充分です」
「もしかして、最初から…?」
「へへっ、まぁ…」
「許していたのか?」
「間違いは誰にでもある。しかし浮気は浮気です。それ自体を認めるわけにはいかない。これから彼女は強く生きていくためには試練は必要でしたから。それに俺にできることはこれぐらいのもんです」
「つまり、置き土産ってことか?」
「内緒ですよ」
「いつ発つんだ?」
「来月です。もう会社には辞表を出しました」
「まいったなぁ…なんかやられた気分だよ」
私は一瞬気を失った。
家族のみんなも黙り込んだ。
「それって…」さすがの姉も言葉が出なかった。
父も母も泣いていた。
「それからこれを渡してくれと頼まれた」
一冊の通帳だった。
「えっ?どういうこと?」
寝室の引き出しに置いてあった生活用の通帳には、四十万しかなかった筈なのに六百万円も入っていた。
「お前が払っていた家賃と、川上裕也の慰謝料五百万円だそうだ」
「ねぇ、それってどういうことなの?」
「マサル君は復縁要請の意思を確かめたんだ。お前はこの一年で働いて家賃を払い、無言の圧力にも耐えた。彼はそれをどこまで続けられるか確かめたかった。最初から慰謝料とか取るつもりはなかったんだよ」
涙が出た。
「お金なんていらない!!マサルさんが居てくれればいいの、ねぇ、あの人はどこにいるの?」
「もうあのマンションには戻らないそうだ」
「いや!!いやいや!!会いたい、会いたい!!」
私は子供のように叫んだ。
私は実家を飛び出してマンションに走った。
部屋の明かりが付いていた。
(いる!!)
部屋に駆け込んで迎えたのはガランとした風景だった。
どこを探してもいない。
電話をかけるも解約されていた。
メールも届かない。
兄が遅れてきた。
「ねぇ…いないの!どこにもいないの!やだやだ」
私は兄に抱きついた。黙って優しく頭を撫でてくれた。
兄はスッと携帯を出した。
「おそらくこの便にのると思う」
それはフライトスケジュールだった。
「なんで分かるの?」
「旅行代理店勤務だぞ、まぁ本来はダメなんだが航空会社の知り合いに片っ端から連絡した」
「兄さん…」
「行ってこい。すべてぶちまけてこい」
私は空港にいた。
ひたすら彼を待った。
いた。
「マサルさん!!!」
彼は驚いていた。
「どうして分かったんだ」
私は兄から預かった手紙を渡した。
彼は読んで一笑して見せてくれた。
<すまん、俺は口が軽い。やられた借りを返す>
「口止めしたのになぁ」
「どうして?どうしてダメなの?」
「もう決めたことなんだよ」
「いや!!私も行く!! お願い、そばいさせて?絶対邪魔しないからぁ」
「連れては行けないよ」
「ダメ!!行かせない!! 絶対ヤダ!」
周りのことなんて気にしてられなかった。
「ミサ、どうしてもダメなんだよ」
「ごめんなさい、いっぱいいっぱい謝るから。なんでもします!!だから、ついてこいって言って!」
彼は抱き着いた私を離した。
「君の過ちを忘れることは出来ないんだ。俺たちはもう終わったんだ」
「私は終わってない!」
「このまま君といれば、俺はもっと君を責めてしまう。それはしたくないんだ」
「責める?」
「兄さんに話したが、浮気そのものを認めるわけにはいかない。そのトゲはずっと心に刺さってるんだ。これから君は自分の力で歩かなきゃならない。もう俺たちは一緒には歩けないんだ」
この時、私は彼とは違う場所にいるのだ、と気付いてしまった。
「…どうしてもダメなの?」
「すまんが、もう君とともには暮らせない」
「…」
「お金は届いたか?」
黙って頷いた。
「あれは、君の努力の証だ。もう大丈夫だ、これから第二の人生だから大切に使えよ」
「もう会えないの?」
「…たぶんな」
「私がシンガポールに行くって言ったら?」
彼は黙って首を振った。
「もう、行かなきゃ」
「ねぇ、やだ!!もっと…」
「ありがとう。これからは本当に幸せをつかめよ」
そういって彼はゲートの向こうに消えて行った。
帰り道はよく覚えていない。
夜に家について、私は部屋に閉じこもった。
いつの間にか寝てしまった。
翌日、昼過ぎに起きた。
(日曜日か…)
茶の間には兄と姉がいた。
「大丈夫かい?」母が心配してる。
「ミサ…」姉の抱いてる甥っ子だけが元気だ。
チャイムが鳴った。
「お届け物でーす」
兄が受け取った。
「えっ?おい、ミサ!!」
持ってきた封筒には彼の名前が書いてあった。
中から手紙が出てきた。
<こんな形での別れ方を謝りたい。今の気持ちを書き留めておく。
どうしても君の過ちを許すことが出来ない俺がいる。
どうしたら良いのか悩んだ。
正直、復縁を望むとは思っていなかった。だが、君の弱い心では無理だと思った。
だから、俺は嫌われる覚悟で仕打ちをすることにした。だけど君は耐え抜いた。兄さんたちの支えもあって
踏みとどまって逃げなかった。素直に凄いことだと思っている。
久しぶりの君の手料理はとても美味しかった。我慢したけど泣きそうなぐらい美味しかったよ。
もう二度と食べられないんだ、と思うと残念で仕方ない。
パーティーのドレスはとてもよく似合っていた。きれいだった。自慢したいぐらいだ。
でも、出来なかったよ。やっぱり引っかかるんだ。
このまま君を許すと、俺は俺でなくなる気がした。
離れるから許せるのかも知れない。人の気持ちはままならないものだと思う。
俺たちは区切りが必要なんだ。
君も縛られることなく、これからの人生を歩んでほしい。
幸せになってほしい。
俺も遠い地で、これからを歩いていくことにする。
最後になるけど、君と出会えて良かった。本心から思う。
ミサのこれからの人生が良いものになるよう、心より祈っています。
二階堂 大より>
追伸
最後は君自身の手で出しておいてほしい。
奥に一枚の離婚届が入っていた。彼と保証人の欄は記入済みだった。
これで終わったんだ、と実感した。
部屋の窓から空を眺めた。
(この空の下のどこかにいるんだ)
いつも大きな愛で守られていたんだな、と父が呟いた。
私は離婚届にサインした。
明日、これを届けて全てが終わる。
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