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五章 国王降臨
28 政務室にて
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シャルスの部屋に行くかと思っていたら官僚棟の方に連れていかれ、立派な黒檀の部屋の前にアズールがいて僕に礼をする。
「こちらへ」
隣には衛兵である近衛隊の服の人がいて、どうにもなんとも不安になった。
「あのう、魔剣ロータスはどうしますか?」
第一騎士団の襟章の近衛兵に聞くと真っ青になったから、どうしようかと思った挙句、レーンが両手を出すので預ける。レーンが平然としているから、やはり魔剣ロータスは眠っているらしい。
広い机には大量の書類と椅子に腰掛けているシャルスがいて、その横にグレゴリーがいた。この執務室はどう見ても国王の政務室だ。オーガスタ時代に入ったことがある。
「ノリン、怪我は?父上の授業を受けたのでしょう?」
椅子から降りて軍服のシャルスが僕に駆け寄り、首筋を見てハッとする。
「首に怪我を!」
は?あ、アーネストの野郎、痕をつけやがったんだ。
「シャルス様、こ、これはですね」
「刃が当たってしまったのですね。父上……っ」
いや、刃なんて当たってないから。
「手当を」
「大丈夫ですよ」
とりあえずハンカチで首元を押さえた。でもシャルスが譲らなくて、年嵩のメイドが入ってくると、僕は意味のない消毒とガーゼを貼られながらグレゴリーとシャルスの様子を見た。
「国王陛下が金曜日の午後の剣技実践の教師になりたいと申し出ました。先週、剣技実践の教師を潰した挙句のことです、殿下」
グレゴリーはシャルスの机の横に立って、サインや指示を出す書類をより分けていた。陳情も多くオーガスタ時代書類ごとが苦手なアーネストをかなり手伝ったもんだ。
「え、では剣技実践の授業は」
「国王陛下が講師だ。受講しているのは君だけだかな」
グレゴリーの言い方に僕は彼に向かって、呻いてしまう。この部屋にはグレゴリーとシャルスだけで、僕は一体何をしにきたんだかって思う。
僕は国関係の書類を見ないようにして、さっきのアーネストの流麗な剣捌きを思い出していた。重い剣を振り回すくせに、王族の剣技をしっかりと身につけているアーネストの技術が羨ましい。
「ぼんやりしている場合か。ノリン・ツェッペリン」
グレゴリーに声を掛けられた一瞬、僕は
「は?」
とオーガスタ時代のようなおっさんくさい呟きを上げてから、グレゴリーを見上げてしまう。
オーガスタ時代も今もぼんやりしているわけではなく、色々考えていると現状がうわの空になってしまうだけで、考え事とか色々あるのに、『ぼんやり』と一括りにされてしまうのはどうなんだろうか。解せないな、うん。
「『は?』ではないわ、殿下のお相手をせぬか」
「今、ここでですか?」
グレゴリーに言われて、僕は思わずシャルスを見た。シャルスが苦笑しながら、
「ノリンと会うのですが、閨事ではないことがバレてしまいました」
と僕に顔を向けた。
「えーーじゃあ……」
顔を見合わせた僕とシャルスのその様子を見ていたグレゴリーが
「お前に期待をしていたわけではないが、まさか準備された状態で一時間話をしていただけどはな。ノリン・ツェッペリン、お前には野望はないのか」
とぼやいたが、それってどうなんだよ。
「シャルス様とのお喋りの時間は楽しかったですよ」
僕がそう話すとグレゴリーが首を横に何度も振った。
「殿下を名前呼ばわりか……まあ親密なのはよい。ノリン・ツェッペリン。ああ、わしも、ノリンで構わんか。お前は王宮の今の状態を知っているのか?」
目の前でシャルスがどう見ても王様の業務をしているとか、アーネストが王様の軍服を着ていないのと、魔剣ロータスが発動してないこととか?
「僕は最近学舎に入学したばかりでよくわかりません」
「その割にはあれとやり合い、無事にいるな。腕が立つのかーーふむ」
グレゴリーが考え込んでいるから、僕は難しい顔をしているシャルスの書類をひょいと見た。
「シャルス様、計算間違っていますね。ほらここ、違いますよ。財務省は相変わらずザルですね」
うっかり本音がでた。グレゴリーが顔を引き攣らせていて、僕は
「あ、やば」
とさらに口に出してしまう。
「ノリン、見てすぐに分かるのですか?」
「兄に学びました」
一応可愛らしく見えるように小首を傾けて見せた僕に、シャルスがにっこりと笑う。昔のシャルスみたいだなあ、可愛いなぁって僕の頬が緩んだ。
泣き虫だったシャルスは大人になった。何があったか知らないが、アーネストの代わりに国王の仕事をしているようだ。
グレゴリーが真面目な顔で僕をじっと見つめて来た。
「殿下の話し相手兼護衛係にしよう。ノリンには学舎に行くより、殿下の助手になってもらおう。殿下もその方がよろしいでしょう」
そう言って、シャルスに視線を投げた。シャルスは即座に頷いている。
「や、あの、僕、貴族学舎を卒業……」
「金曜日しか来られず、全てを教科書で学び試験を受けようとしているらしいではないか。金曜日の二つの試験もクリア出来るだろう」
確かに試験はパスするよ。貴族学舎の授業よりはるかに難易度の高い学習をしてきたからな、こちらは。それに護衛ってなんだよ。近衛がいるだろうが。
「こちらへ」
隣には衛兵である近衛隊の服の人がいて、どうにもなんとも不安になった。
「あのう、魔剣ロータスはどうしますか?」
第一騎士団の襟章の近衛兵に聞くと真っ青になったから、どうしようかと思った挙句、レーンが両手を出すので預ける。レーンが平然としているから、やはり魔剣ロータスは眠っているらしい。
広い机には大量の書類と椅子に腰掛けているシャルスがいて、その横にグレゴリーがいた。この執務室はどう見ても国王の政務室だ。オーガスタ時代に入ったことがある。
「ノリン、怪我は?父上の授業を受けたのでしょう?」
椅子から降りて軍服のシャルスが僕に駆け寄り、首筋を見てハッとする。
「首に怪我を!」
は?あ、アーネストの野郎、痕をつけやがったんだ。
「シャルス様、こ、これはですね」
「刃が当たってしまったのですね。父上……っ」
いや、刃なんて当たってないから。
「手当を」
「大丈夫ですよ」
とりあえずハンカチで首元を押さえた。でもシャルスが譲らなくて、年嵩のメイドが入ってくると、僕は意味のない消毒とガーゼを貼られながらグレゴリーとシャルスの様子を見た。
「国王陛下が金曜日の午後の剣技実践の教師になりたいと申し出ました。先週、剣技実践の教師を潰した挙句のことです、殿下」
グレゴリーはシャルスの机の横に立って、サインや指示を出す書類をより分けていた。陳情も多くオーガスタ時代書類ごとが苦手なアーネストをかなり手伝ったもんだ。
「え、では剣技実践の授業は」
「国王陛下が講師だ。受講しているのは君だけだかな」
グレゴリーの言い方に僕は彼に向かって、呻いてしまう。この部屋にはグレゴリーとシャルスだけで、僕は一体何をしにきたんだかって思う。
僕は国関係の書類を見ないようにして、さっきのアーネストの流麗な剣捌きを思い出していた。重い剣を振り回すくせに、王族の剣技をしっかりと身につけているアーネストの技術が羨ましい。
「ぼんやりしている場合か。ノリン・ツェッペリン」
グレゴリーに声を掛けられた一瞬、僕は
「は?」
とオーガスタ時代のようなおっさんくさい呟きを上げてから、グレゴリーを見上げてしまう。
オーガスタ時代も今もぼんやりしているわけではなく、色々考えていると現状がうわの空になってしまうだけで、考え事とか色々あるのに、『ぼんやり』と一括りにされてしまうのはどうなんだろうか。解せないな、うん。
「『は?』ではないわ、殿下のお相手をせぬか」
「今、ここでですか?」
グレゴリーに言われて、僕は思わずシャルスを見た。シャルスが苦笑しながら、
「ノリンと会うのですが、閨事ではないことがバレてしまいました」
と僕に顔を向けた。
「えーーじゃあ……」
顔を見合わせた僕とシャルスのその様子を見ていたグレゴリーが
「お前に期待をしていたわけではないが、まさか準備された状態で一時間話をしていただけどはな。ノリン・ツェッペリン、お前には野望はないのか」
とぼやいたが、それってどうなんだよ。
「シャルス様とのお喋りの時間は楽しかったですよ」
僕がそう話すとグレゴリーが首を横に何度も振った。
「殿下を名前呼ばわりか……まあ親密なのはよい。ノリン・ツェッペリン。ああ、わしも、ノリンで構わんか。お前は王宮の今の状態を知っているのか?」
目の前でシャルスがどう見ても王様の業務をしているとか、アーネストが王様の軍服を着ていないのと、魔剣ロータスが発動してないこととか?
「僕は最近学舎に入学したばかりでよくわかりません」
「その割にはあれとやり合い、無事にいるな。腕が立つのかーーふむ」
グレゴリーが考え込んでいるから、僕は難しい顔をしているシャルスの書類をひょいと見た。
「シャルス様、計算間違っていますね。ほらここ、違いますよ。財務省は相変わらずザルですね」
うっかり本音がでた。グレゴリーが顔を引き攣らせていて、僕は
「あ、やば」
とさらに口に出してしまう。
「ノリン、見てすぐに分かるのですか?」
「兄に学びました」
一応可愛らしく見えるように小首を傾けて見せた僕に、シャルスがにっこりと笑う。昔のシャルスみたいだなあ、可愛いなぁって僕の頬が緩んだ。
泣き虫だったシャルスは大人になった。何があったか知らないが、アーネストの代わりに国王の仕事をしているようだ。
グレゴリーが真面目な顔で僕をじっと見つめて来た。
「殿下の話し相手兼護衛係にしよう。ノリンには学舎に行くより、殿下の助手になってもらおう。殿下もその方がよろしいでしょう」
そう言って、シャルスに視線を投げた。シャルスは即座に頷いている。
「や、あの、僕、貴族学舎を卒業……」
「金曜日しか来られず、全てを教科書で学び試験を受けようとしているらしいではないか。金曜日の二つの試験もクリア出来るだろう」
確かに試験はパスするよ。貴族学舎の授業よりはるかに難易度の高い学習をしてきたからな、こちらは。それに護衛ってなんだよ。近衛がいるだろうが。
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