俺の可愛いお嬢さまを離さない

真風月花

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一章

2、俺とお嬢さま【2】

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 暖炉では薪がよく燃えていた。びしょ濡れになったお嬢さんは、女中の手で着替えさせてもらい、今は頭に手拭いをかぶっている。
 ソファーでは暖炉から遠いので、床に敷物を敷いて二人で並んで暖炉の前を陣取る。

「もう、あんな危ないことせんといてくださいよ」
「ええ、しないわ」

 嘘や。ここしばらく冨貴子お嬢さんに仕えとうけど。この子は興味があるもんを見つけたら、すぐに暴走する。
 なんで元軍人の俺が、こんな小さい子の護衛というか御守りなんだと思たけど。
 まぁ、要するに危ないのだろうな。
 外は俥やら馬車やら走っているし。学校に通うのも危険だ。

 ぱちぱちと薪の燃える音。真ん中が燃え尽きた薪は、火の粉を散らしながら、ごとんと崩れ落ちた。

「冨貴子お嬢さま、静生さん。甘酒をお持ちしました」
「ああ、ありがとう」

 女中が運んできた盆に載せられた湯呑みに、湯気の立つ甘酒が入っている。生姜の匂いが強いのは、お嬢さんの体を温める為だろう。

 お嬢さんもお礼を言って、湯呑みを受け取る。

「ねぇ、知ってる? 静生。甘酒には二種類あるらしいの。でね、冨貴子が飲んじゃいけないのがあるんですって」
「へぇ。そうですか」

 この辺りは水がいいからか、酒蔵が多い。新酒を仕込む秋には、通りを歩くと甘酒みたいな甘い匂いが町中に漂っている。

「冨貴子が飲んでいいのは、麹の甘酒なんですって」
「酒粕で出来たのは、飲んだらあかんのですか?」
「あのね、よっちゃうんですって」

 ふうふうと、甘酒に息をかけて冷ましながらお嬢さんが教えてくれた。
 まぁ、俺は別にどっちでも問題ないけど。こんな小さい子ぉには、酒粕でもきついんかな。

 生姜の利いた甘酒をひとくち飲んで、俺は「ん?」と首を傾げた。
 これ、酒粕で作ったヤツだ。味も違うし、麹の粒々が入っていない。

「お嬢さん。ちょっと待ち」
「なぁに?」

 俺は湯呑みを取り上げようとしたが、時すでに遅し。お嬢さんはもう甘酒を飲んでいた。

「大丈夫ですか?」
「なにが? ふふ、へんな静生」

 うーん、これ酔っているよな。

 取り敢えず湯呑みを取り上げて、しばらく様子を窺う。
 何ともなかったらええんやけど。まぁ、酒粕いうてもたいして酒精も強ないしな。
 そう安心した時やった。

「静生、だーいすき」
「何やて?」

 突然、お嬢さんが隣に座る俺に抱きついてきた。
 なんや、このおませさん。
 あんた(いや、お仕えするお嬢さんを「あんた」呼ばわりはあかんけど)は、まだ十歳やろ。俺はもう二十四歳やで。
 大人と子どもや。
 好きとかそういう範疇には入らへん。

 そう、入らへんのに。困ったことにこのお嬢さんは可愛いんや。
 俺だけを真っすぐに見つめて、花でも虫でもなんでも真っ先に俺に見せにくる。

――ねぇ、見て。静生。このお花かわいいでしょ。
――ねぇ、静生。夕焼けがきれいねぇ。

 そう俺に教えてくれる冨貴子お嬢さんが一番可愛いやなんて……口が裂けても言えるか。絶対に。

 ほんのひとくちの甘酒で酔ったお嬢さんは、俺の膝に頭をあずけて眠ってしまった。

 その静かな寝顔も、やっぱり可愛かった。
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