147 / 247
八章
31、お膝【1】
「翠子さん、おいで」
縁側に座っていらっしゃる旦那さまに手招きされて、わたくしは隣に腰を下ろしました。
夏の盛りなので午前中とはいえ暑いのですけど、二人してぴったりと身を寄せます。
旦那さまもわたくしも、糊のきいた浴衣に着がえています。
琥珀糖もさくらんぼも大好物ですけれど、やはり一番は旦那さまです。
ええ、比べるべくもありません。
たとえお菓子やさくらんぼやお茄子がたくさんあっても、旦那さまがいらっしゃらなければ、おいしさは半減……いえ、九割以上失われてしまうんですもの。
沓脱ぎ石に足をおろした旦那さまは、どうやら膝枕をしてくださるご様子。
いつでしたかしら。わたくしが旦那さまに膝枕をしてさしあげて、その後、散々に虐められましたから。少し躊躇してしまいます。
「お嬢さまは、わたくしめの膝枕はお好みではございませんか?」
「そんなことないです」
ほんのわずかでも離れるのが寂しくて、わたくしは旦那さまのお膝に頭を預けました。
見上げると、旦那さまのあごから首がよく見えます。
「どう?」
「少し腿が硬い気がします」
「うーん。せめて引き締まっていると言ってくれないかな」
困ったように微笑みながら、旦那さまはわたくしを見つめました。
少し前かがみになったと思うと、青空も入道雲も見えなくなり、視界は旦那さまだけになりました。
そのまま、そっと唇に接吻なさいます。
「もう一度してください」
「お嬢さまのお望みとあらば、何度でも」
自分からキスしてほしいとか、抱いてほしいなんてせがむのは、はしたないことです。でも、そんな日だってありますもの。
旦那さまは片膝をお立てになりました。ですから、わたくしの上体も一緒に持ち上がります。
何度もキスしてくださるから、わたくしは旦那さまの首に手をまわしてしがみつきました。
「疲れるだろうから、最後まではしないよ」
その言葉の意味を察して、わたくしはうなずきました。今日はただ、ずっと触れていてほしいのです。離さないでいてほしいのです。
旦那さまの頬を指でなぞると、旦那さまはわたくしの頬にくちづけをなさいます。首筋に触れると、やはり同じように首にキスを与えられます。
これはもしかして、恥ずかしいことになるのではないかしら。
わたくしは慌てて旦那さまから手を離しました。
「次はどうする?」
やはりそうです。自分の考えが確信に変わりました。
どうしましょう。今ここで、恥ずかしいからとやめるわけにはいきません。
でも、自分からキスしてほしいところを指定するなんて。
こんなにも外は明るくて、まだお昼にすらなっていないのに。
「翠子さん?」
「あ、あの……」
急かされて、わたくしは旦那さまの唇に指を触れさせました。当然、すぐにわたくしの唇も塞がれます。
つ、次はどこに?
考えもつかずに、旦那さまの唇の間に指を入れます。正確には、指が入ってしまいました。
旦那さまは驚いたように目を見開きましたが、それも一瞬のこと。軽く口を開いて、わたくしの指を口内に受け入れました。
指先に、湿って熱い旦那さまの舌が触れます。
でも、これって……舌に接吻してくださいってことになるのでは?
ええ。もちろん、すぐにそうなりました。
歯列を割って、旦那さまの舌がわたくしの口腔に入りこんできます。舌を絡ませあうような形で、口を閉じることができずに、唇の端からはしたなくも唾液がこぼれていきます。
「ん……んんっ」
「もうこれでいいのかい?」
旦那さまの言葉が、わたくしの喉の奥へと吸い込まれていきます。
唇をふさいだまま、そんな風に仰らないで。なのに旦那さまは「教えてくれないと、分からないよ」なんて、からかう口調なんですもの。
わたくしに「おいで」と仰ったのは旦那さまですのに。
縁側に座っていらっしゃる旦那さまに手招きされて、わたくしは隣に腰を下ろしました。
夏の盛りなので午前中とはいえ暑いのですけど、二人してぴったりと身を寄せます。
旦那さまもわたくしも、糊のきいた浴衣に着がえています。
琥珀糖もさくらんぼも大好物ですけれど、やはり一番は旦那さまです。
ええ、比べるべくもありません。
たとえお菓子やさくらんぼやお茄子がたくさんあっても、旦那さまがいらっしゃらなければ、おいしさは半減……いえ、九割以上失われてしまうんですもの。
沓脱ぎ石に足をおろした旦那さまは、どうやら膝枕をしてくださるご様子。
いつでしたかしら。わたくしが旦那さまに膝枕をしてさしあげて、その後、散々に虐められましたから。少し躊躇してしまいます。
「お嬢さまは、わたくしめの膝枕はお好みではございませんか?」
「そんなことないです」
ほんのわずかでも離れるのが寂しくて、わたくしは旦那さまのお膝に頭を預けました。
見上げると、旦那さまのあごから首がよく見えます。
「どう?」
「少し腿が硬い気がします」
「うーん。せめて引き締まっていると言ってくれないかな」
困ったように微笑みながら、旦那さまはわたくしを見つめました。
少し前かがみになったと思うと、青空も入道雲も見えなくなり、視界は旦那さまだけになりました。
そのまま、そっと唇に接吻なさいます。
「もう一度してください」
「お嬢さまのお望みとあらば、何度でも」
自分からキスしてほしいとか、抱いてほしいなんてせがむのは、はしたないことです。でも、そんな日だってありますもの。
旦那さまは片膝をお立てになりました。ですから、わたくしの上体も一緒に持ち上がります。
何度もキスしてくださるから、わたくしは旦那さまの首に手をまわしてしがみつきました。
「疲れるだろうから、最後まではしないよ」
その言葉の意味を察して、わたくしはうなずきました。今日はただ、ずっと触れていてほしいのです。離さないでいてほしいのです。
旦那さまの頬を指でなぞると、旦那さまはわたくしの頬にくちづけをなさいます。首筋に触れると、やはり同じように首にキスを与えられます。
これはもしかして、恥ずかしいことになるのではないかしら。
わたくしは慌てて旦那さまから手を離しました。
「次はどうする?」
やはりそうです。自分の考えが確信に変わりました。
どうしましょう。今ここで、恥ずかしいからとやめるわけにはいきません。
でも、自分からキスしてほしいところを指定するなんて。
こんなにも外は明るくて、まだお昼にすらなっていないのに。
「翠子さん?」
「あ、あの……」
急かされて、わたくしは旦那さまの唇に指を触れさせました。当然、すぐにわたくしの唇も塞がれます。
つ、次はどこに?
考えもつかずに、旦那さまの唇の間に指を入れます。正確には、指が入ってしまいました。
旦那さまは驚いたように目を見開きましたが、それも一瞬のこと。軽く口を開いて、わたくしの指を口内に受け入れました。
指先に、湿って熱い旦那さまの舌が触れます。
でも、これって……舌に接吻してくださいってことになるのでは?
ええ。もちろん、すぐにそうなりました。
歯列を割って、旦那さまの舌がわたくしの口腔に入りこんできます。舌を絡ませあうような形で、口を閉じることができずに、唇の端からはしたなくも唾液がこぼれていきます。
「ん……んんっ」
「もうこれでいいのかい?」
旦那さまの言葉が、わたくしの喉の奥へと吸い込まれていきます。
唇をふさいだまま、そんな風に仰らないで。なのに旦那さまは「教えてくれないと、分からないよ」なんて、からかう口調なんですもの。
わたくしに「おいで」と仰ったのは旦那さまですのに。
あなたにおすすめの小説
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
「職場では隙のない完璧な先輩が、家ではゆるニットで甘えてくる。それでも彼女は、まだ俺の恋人じゃない」
まさき
恋愛
会社では完璧で、誰も近づけない先輩。
そんな彼女と、俺は同じ部屋で暮らしている。
「…おかえり」
ゆるニット姿の彼女は、家でだけ甘い声を出す。
近い。甘い。それでも――
「ちゃんと付き合ってから」
彼女は知っている。自分が好きになりすぎることを。
嫌われるのが怖くて、迷惑になるのが怖くて。
だから一歩手前で、いつも笑って止まる。
最初から好きなくせに、言えない彼女と。
気づいているのに、待っている俺の話。