【第一部】没落令嬢は今宵も甘く調教される

真風月花

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八章

32、お膝【2】

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 わたくしは勇気を出して、旦那さまの胸元に手を添えました。
 きっと顔は真っ赤に染まっていたことでしょう。
 昨夜も自分から旦那さまを求めて、今は求めさせられて。
 本当に本当に恥ずかしいんです。

「……焦らさないで」

 今にも消え入りそうな声で訴えると、旦那さまはわたくしをぎゅっと抱きしめてくださいました。
 そして帯が解かれていきます。

 はらりと縁側に落ちていく帯。縛るもののなくなった浴衣は、しどけなくはだけて、わたくしの胸元が露わになります。
 胸を隠すわたくしの右腕を、旦那さまが掴みます。
 そして胸の頂きにキスをなさいました。

 そよ風が触れるほどの軽さで、もどかしいほどのくちづけです。
 でも、それも一瞬のこと。
 痛みを感じて、初めてわたくしは噛まれたのだと知りました。

「や……ぁ。いた……っ」

 歯を立てられる痛みと同時に、もう片方の胸はやわやわと指先で揉まれています。
 快感と痛み。どちらに反応していいのか分からなくなります。

「嫌ならやめるけど」

 わたくしは小さく首を振って、旦那さまの髪に指をさし入れました。
 ご存じのくせに。わたくしが痛いくらいの方が好きだから、そうなさっているくせに。

「翠子さんは、俺にどうされるのが好きだっけ?」
「……言えません」
「言えるよ。ここには俺しかいないんだ。誰もあなたの恥ずかしい言葉を聞いたりしない」

「さぁ、言ってごらん」と促されて、わたくしは痺れる甘さと、鈍い痛みの間をたゆたいながら、とうとう口を開きました。

「翠子は……痛くされるのが……好きです」
「誰に?」
「旦那、さまに」
「どんな風に?」

 言葉で攻め立てられて、耳が千切れそうに熱くなります。

「わ……我を忘れるほど、して、ください」
「難しい注文だね」

 旦那さまの低く甘い声が、耳元で聞こえます。それだけで体の奥が痺れそうです。
 大きなてのひらが、わたくしの下腹部を撫でます。
 旦那さまの手は徐々に下にいき、でもあと少しというところで動きを止めてしまいます。

「昨夜は琥太郎兄さんがいたから、加減したが。今はいいよ。存分に乱れなさい」

 その言葉と同時に、わたくしの体を強烈な快感が走り抜けました。

「や……っ、ひぁっ。あぁ……っ。だめ……ぇ」

 花芯をつままれ、頭の中が白く弾けます。なのに、それだけで終わるはずがありません。胸も、そして秘された場所もゆるゆると愛撫され、噛まれ、つねられ……愉悦とも痛みともつかぬ感覚に支配されます。

「まったく困るね。そんな風に誘われると」
「ちが……あぁ、んっ」
「今日はあなたを抱かないと決めたんだ。我慢できなくなると困るだろう?」

 わたくしを追い立てているのは旦那さまですのに。
 達しそうになると、手を引いて。わたくしがねだると、また極限の寸前まで追い詰めて。
 そうやってわたくしを甘美な檻にとらえて離さないのに。
 
 あまりにも青い空と、浴衣をこれっぽっちも着崩さない旦那さまに翻弄されて、焦らされて。
 自分から望んだこととはいえ、わたくしばかりが乱れているのが恥ずかしくて。でも、その羞恥がさらに、快感につながるなんておかしいでしょうか。

 庭ではきっとセミも鳴いているでしょうに。
 今のわたくしには、旦那さまの声以外は何も聞こえません。

 いつまでも終わらない愛撫に、このまま旦那さまの腕の中で、とろけてしまいそうです。
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