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パイロット:レオンからの電話
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ここで、ロマノスとの初めて会った日の、数日後に話は戻る。
その日、外出準備をしていると、電話が鳴った。
メイクの最中だったので応答しそこねて、番号を確認すると、知らない番号。
これは、レオン?
早速サイトにログインして、レオンにメッセージを送った。もしかして、私に電話した?と書いた。
銀行に寄ってから、友達との待ち合わせに向かうことになっていた。
銀行のATM機の前に立った途端、携帯が鳴る。
バッグから携帯を取り出すと、さっきと同じ電話番号。
「Hello? 」
応答すると、なんとも快活な声が飛び込んで来た。
「Hey ミラ!レオンだよ」
「こんにちは。さっきは電話取れなくてごめんなさい。今、ATM機のところだから、少し待っててください」
慌ててそう返答し、現金を取り財布に入れると、銀行を出ながら電話に戻った。
レオンは、ものすごくいい声をしている。
声だけで、絶対イケメンってわかるような感じだ。
英語の喋り方はアメリカンな感じだが、下品にならない程度にくだけている。
かなりのスピードで話すが、単語のひとつひとつがはっきりと発音されているので、聞き取りやすい。
ここで忘れてはならないのは、「レオンは偽パイロットである」という可能性。
疑う理由は数えきれないほどある。
レオンは簡単に自己紹介をした後、私についての質問を口にした。
電車に乗りながら、彼の質問に答えていった。
どれくらいドイツに住んでいるのか。
どんな仕事をしているのか。
今の夫との関係や、離婚のめどがつく予定についてとか。
いずれ、他の街に引っ越すことも可能なのか(これについては、子供の成長に関係するから、時期により可能、と答えた)
このような質問に答えたところで、私の個人情報が漏れるわけではない(電話番号だけはバレているが)ので、正直に答えておいた。というのも、相手はシングル。私は子持ちでまだ正式に離婚していない状態なので、最初からその辺りをはっきりと説明しておかないと、後から問題が生じかねないからだ。
とはいっても、このレオンが、本物である証拠なんてないし、しかも住む街も違う。この電話から私達の間に何かが始まるかなんて、疑わしいものだ。
ただ、話している限りでは、ものすごく率直で、頭がよく、冗談や笑いが大好きな明るい性格だということだけはわかった。
友達との待ち合わせ場所についた時には、およそ30分は喋っていた。
今から友達と会うので、と伝えたら、Okay、また電話するから、と言ってレオンは電話を切った。
二日後の夕方6時頃、また携帯が鳴る。
レオンから二度目の電話。
話は猛烈な勢いで進んだ。彼の旅行先(あるいはフライト先)での話や、私の仕事に関する話。若干業界が近いこともあり、お互いの仕事上での話で大笑いする。そんな話を延々と、気がつけば2時間もずっと喋っていた。
飛行機や航空業界の話にとても詳しく、彼が、パイロットになった経緯や、就職した航空会社での諸々の話から、だんだん、この人は本当にパイロットであるのではという気がして来た。
パイロットでしか分からないような、宇宙に関するアカデミックな話や、航空業界の裏話、飛行機の機体についての話や、離陸着陸、コックピット内でどのような仕事をしているのかなど、偽パイロットとは思えないほど、はっきりとした内容を教えてくれる。
パイロットのスケジュールの仕組みのことや、機体操縦に関することなども私が知らないことばかりだ。
例えば、フルタイムのパイロットは月に13日の休みがあることとか。
着陸時は基本、オートパイロット(自動操縦)であり、手動操縦は行わないとか。
歴史的に残っている過去のフライトの話とか。
勿論、飛行機オタクなら知っていても不思議ではないので、これらが、レオンが本物のパイロットであるという証拠にはならないのだが。
面白い話のひとつは、とあるフライトの日の話。
空港に到着し、キャプテンの彼は、いつも通り、IDでチェックインしようとしたところ、機器にエラーが表示されたらしい。同乗する副操縦士も同じくエラーが出ていた。
おかしい、と担当者が調べたところ、なんと、そのフライトは機体の不具合によりキャンセルになっていたらしい。しかも、航空会社は、乗客にはキャンセルの連絡しておいて、肝心のパイロット達には連絡を忘れていたというオチ。
次から次へと興味深い仕事の話をしてくれるけれど、彼がただのパイロットオタクであるという可能性は、そう簡単には消えない。ライセンスとかID的なものでも見せてもらわない限り、この疑いを払拭することは不可能だろう。
ダメもとで、どの航空会社か教えてといったところ、とあるドイツ系の航空会社を即答で答えたので、拍子抜けした。かなりメジャーな航空会社だ。
しかも、彼はキャプテンであり、その優秀さ上に、トレーナー(パイロットのスキルチェックをする監督者)でもあるという、かなりの地位の人間だ(事実なら)。
「なんで貴方みたいな人が、あんな出会い系サイトに登録しているの?貴方は面白いし、パイロットなら、沢山の女性がアプローチしてくるでしょう?」
素朴な疑問をぶつけると、レオンは大笑いして、「僕みたいなのが登録したらダメなのかな?」と言う。
「ダメじゃないけど、出会いなんて、身の回りにたっくさん有るんじゃない?」と返した。
「それはそうだけど、普段と違うことを試すのも悪くないだろう?これまでの環境で、結婚する相手に出会わなかったんだから、いつもとは違う場所で出会ってみるのも、ありだと思ったんだよ」
なるほどね。
それは、一理ある。
レオンがノンストップで様々な話を続ける事ができるのは、これまで沢山の国を訪れており、現在も、国際線パイロットとして、世界各国を訪れているので、話題に事欠かないからだ。
何度もいうが、彼が本当にパイロットなら、のことだけど。
話の中でわかるのは、彼が、とても深い人間であるということだった。
政治に関することから、人種差別に関することまで、これまでの体験を元に、本人は、この世の不公平さを指摘し、自分がどのように考えているかを語った。そんな真面目でディープな話の合間にも、所々上手いタイミングで冗談を入れて来て、大笑いしてしまう。
私の持ちネタの話もよく聞いてくれて、大笑いしてうまい切り返しで私を笑わせるという、話術に長けた人だった。
竹を割ったような性格といってもいいかもしれない。
レオンは、その2日後の夜にも電話をくれた。
同じように、いろんな話が途切れることもなく、2時間はあっという間に過ぎていった。
その後も、2、3日置きにレオンからの電話が来る。
フライトでドイツを離れている間(本当にパイロットなら)は、サイトにログインすることは稀なようだ。
話は仕事のことから世界温暖化、移民問題、高齢化社会、人工知能、宇宙開発など、多岐にわたる。その合間に、彼の友人達との飲み会の話や、学生時代の話なども聞いた。
こんなに沢山のことを話していて、すっかり、電話友達になってしまっているもの、果たして、この関係が一体なんなのかも全然分からない。
大笑いしながら、彼が「あぁ、僕たちは本当にそのうち会って話すべきだよ」と言ったが、私はただ、そうだねーと答えておいた。
当然だけど、私がわざわざ彼の住む街に電車で5、6時間かけて会いにいくという選択肢は、ない。
世界中を飛び回っている、フットワークの軽い彼が、私の住む街まで来てくれるなら、会う事も可能だろう。
彼はものすごく用心深い性格なのか、絶対にメールやSNSで繋がろうとはしない。
電話オンリーと、固く決めているらしい。
私だけじゃなく、他の人とも電話している可能性は決して少なくない。けれど、週に2、3回、毎回2時間以上話しているのだから、本当に彼がパイロットなら、自宅での限られた暇な時間を私と話すために費やしてくれているということだ。つまり、彼は、私との会話を楽しんでいるということだろう。
確かに、電話だと、お互いの性格や考え方など、しっかりと伝え合うことが出来る。
顔を見ながらだと、雑念に捕われて、思った事を話せないことだってあるだろうし。
私だって、目の前にすごいイケメンパイロットがいたら、本音で話せず、気に入られようと思ってしまい、真の姿をさらけ出す事が出来ないだろう。
彼も同じかもしれない。電話だからこそ、オープンに話せることもあるだろう。
電話の回数を重ねるごとに、まるで昔からの友達みたく、話題もカジュアルな分野も交じって来た。
例えば、携帯電話の話。
「僕はパンツの前ポケットに携帯を入れているんだ。ある日、トイレで『大』のほうをした後、立ち上がった拍子に、携帯が滑りでて、そのトイレにダイブしてしまってね。しかも、流す前という、最悪のパターン。さて、ここで君ならどうする?決死の覚悟でその携帯を取り上げるか?」
なんて話もあれば、昆虫を食べる事ができるかという討論から始まった、虫の話。
東南アジアのジャングルを散歩していた彼の思い出。
「ジャングルを散歩した時に、『小』をしたくなって、皆から離れて、少し森の奥に入ったんだ。早速ディックを出して、用を足そうとした途端、下半身のあちこちに激痛が走り、見たら、大量の蟻が噛み付いていた。パニックになってその場を離れ、必死で無数の蟻と格闘したが、あいつらの顎には、しっかり僕の皮膚や肉片がついていた。どうやら、たまたま蟻の巣の近くに立ってしまったせいらしかったよ。毒はない蟻だったけれど、あれは痛かった」
他にも、蟻に関する話。
「東南アジアのホテルに泊まっていた時、同僚の誕生日だったから、フロントでバースデーケーキを手配させたんだ。皆で酔っぱらってホテルに戻って、薄暗い部屋で酒をあおりながら、早速チョコレートケーキを食べ始めたんだ。クリスピーな歯触りと、檸檬のような酸味とチョコレートの絶妙な味に、皆、これはうまい、うまいって喜んでてね。同僚の一人が、何かの理由で、部屋の電気をつけて、室内が真っ昼間みたく明るくなったんだ。見たら、チョコレートケーキには無数の蟻がたかっていたんだよ。あの、クリスピーな歯触りと、檸檬のような酸っぱさは、蟻だったんだ。僕は、虫は食べたくない主義だけれど、それでも、あの蟻付きのチョコレートケーキは絶品だったと今でも思う。同僚も皆同じ事いってたしね」
とにかく、話が面白くて面白くて、全然、飽きがこない。
果たして、この長電話で構築していく友情関係が、いつまで続くのか。あるは、この関係が続いて、実際に面と向かい合う日がくるのだろうか。
14歳下のロマノスと比較して、4歳下のレオンのほうが、年も近く、仕事をしている業界も微妙に重なっている分、わかりあえるところは多い。
ロマノスの英語には、時々誤りがあるけれど、レオンの英語は完璧だ。
ロマノスが本物であることは、確認済み。勤め先も知っている。
レオンが本物であるかは、未だに不明。声は聞いているが、顔は写真でしかみたことがない。
レオンに会った事がないし、いつか会うかどうかもわからない限り、今の私にとって、実際に会う事が出来るロマノスのほうと付き合ってみるという選択肢しかない。それか、この2人以外に、新たな人との出会いを探すか。
恋愛から遠ざかって随分時間が立っている私。
こんなことを考え始めると止まらなくなる。そのせいか、やや不眠気味になってしまい、4時間くらいしか眠れないという夜も出て来てしまった。
その日、外出準備をしていると、電話が鳴った。
メイクの最中だったので応答しそこねて、番号を確認すると、知らない番号。
これは、レオン?
早速サイトにログインして、レオンにメッセージを送った。もしかして、私に電話した?と書いた。
銀行に寄ってから、友達との待ち合わせに向かうことになっていた。
銀行のATM機の前に立った途端、携帯が鳴る。
バッグから携帯を取り出すと、さっきと同じ電話番号。
「Hello? 」
応答すると、なんとも快活な声が飛び込んで来た。
「Hey ミラ!レオンだよ」
「こんにちは。さっきは電話取れなくてごめんなさい。今、ATM機のところだから、少し待っててください」
慌ててそう返答し、現金を取り財布に入れると、銀行を出ながら電話に戻った。
レオンは、ものすごくいい声をしている。
声だけで、絶対イケメンってわかるような感じだ。
英語の喋り方はアメリカンな感じだが、下品にならない程度にくだけている。
かなりのスピードで話すが、単語のひとつひとつがはっきりと発音されているので、聞き取りやすい。
ここで忘れてはならないのは、「レオンは偽パイロットである」という可能性。
疑う理由は数えきれないほどある。
レオンは簡単に自己紹介をした後、私についての質問を口にした。
電車に乗りながら、彼の質問に答えていった。
どれくらいドイツに住んでいるのか。
どんな仕事をしているのか。
今の夫との関係や、離婚のめどがつく予定についてとか。
いずれ、他の街に引っ越すことも可能なのか(これについては、子供の成長に関係するから、時期により可能、と答えた)
このような質問に答えたところで、私の個人情報が漏れるわけではない(電話番号だけはバレているが)ので、正直に答えておいた。というのも、相手はシングル。私は子持ちでまだ正式に離婚していない状態なので、最初からその辺りをはっきりと説明しておかないと、後から問題が生じかねないからだ。
とはいっても、このレオンが、本物である証拠なんてないし、しかも住む街も違う。この電話から私達の間に何かが始まるかなんて、疑わしいものだ。
ただ、話している限りでは、ものすごく率直で、頭がよく、冗談や笑いが大好きな明るい性格だということだけはわかった。
友達との待ち合わせ場所についた時には、およそ30分は喋っていた。
今から友達と会うので、と伝えたら、Okay、また電話するから、と言ってレオンは電話を切った。
二日後の夕方6時頃、また携帯が鳴る。
レオンから二度目の電話。
話は猛烈な勢いで進んだ。彼の旅行先(あるいはフライト先)での話や、私の仕事に関する話。若干業界が近いこともあり、お互いの仕事上での話で大笑いする。そんな話を延々と、気がつけば2時間もずっと喋っていた。
飛行機や航空業界の話にとても詳しく、彼が、パイロットになった経緯や、就職した航空会社での諸々の話から、だんだん、この人は本当にパイロットであるのではという気がして来た。
パイロットでしか分からないような、宇宙に関するアカデミックな話や、航空業界の裏話、飛行機の機体についての話や、離陸着陸、コックピット内でどのような仕事をしているのかなど、偽パイロットとは思えないほど、はっきりとした内容を教えてくれる。
パイロットのスケジュールの仕組みのことや、機体操縦に関することなども私が知らないことばかりだ。
例えば、フルタイムのパイロットは月に13日の休みがあることとか。
着陸時は基本、オートパイロット(自動操縦)であり、手動操縦は行わないとか。
歴史的に残っている過去のフライトの話とか。
勿論、飛行機オタクなら知っていても不思議ではないので、これらが、レオンが本物のパイロットであるという証拠にはならないのだが。
面白い話のひとつは、とあるフライトの日の話。
空港に到着し、キャプテンの彼は、いつも通り、IDでチェックインしようとしたところ、機器にエラーが表示されたらしい。同乗する副操縦士も同じくエラーが出ていた。
おかしい、と担当者が調べたところ、なんと、そのフライトは機体の不具合によりキャンセルになっていたらしい。しかも、航空会社は、乗客にはキャンセルの連絡しておいて、肝心のパイロット達には連絡を忘れていたというオチ。
次から次へと興味深い仕事の話をしてくれるけれど、彼がただのパイロットオタクであるという可能性は、そう簡単には消えない。ライセンスとかID的なものでも見せてもらわない限り、この疑いを払拭することは不可能だろう。
ダメもとで、どの航空会社か教えてといったところ、とあるドイツ系の航空会社を即答で答えたので、拍子抜けした。かなりメジャーな航空会社だ。
しかも、彼はキャプテンであり、その優秀さ上に、トレーナー(パイロットのスキルチェックをする監督者)でもあるという、かなりの地位の人間だ(事実なら)。
「なんで貴方みたいな人が、あんな出会い系サイトに登録しているの?貴方は面白いし、パイロットなら、沢山の女性がアプローチしてくるでしょう?」
素朴な疑問をぶつけると、レオンは大笑いして、「僕みたいなのが登録したらダメなのかな?」と言う。
「ダメじゃないけど、出会いなんて、身の回りにたっくさん有るんじゃない?」と返した。
「それはそうだけど、普段と違うことを試すのも悪くないだろう?これまでの環境で、結婚する相手に出会わなかったんだから、いつもとは違う場所で出会ってみるのも、ありだと思ったんだよ」
なるほどね。
それは、一理ある。
レオンがノンストップで様々な話を続ける事ができるのは、これまで沢山の国を訪れており、現在も、国際線パイロットとして、世界各国を訪れているので、話題に事欠かないからだ。
何度もいうが、彼が本当にパイロットなら、のことだけど。
話の中でわかるのは、彼が、とても深い人間であるということだった。
政治に関することから、人種差別に関することまで、これまでの体験を元に、本人は、この世の不公平さを指摘し、自分がどのように考えているかを語った。そんな真面目でディープな話の合間にも、所々上手いタイミングで冗談を入れて来て、大笑いしてしまう。
私の持ちネタの話もよく聞いてくれて、大笑いしてうまい切り返しで私を笑わせるという、話術に長けた人だった。
竹を割ったような性格といってもいいかもしれない。
レオンは、その2日後の夜にも電話をくれた。
同じように、いろんな話が途切れることもなく、2時間はあっという間に過ぎていった。
その後も、2、3日置きにレオンからの電話が来る。
フライトでドイツを離れている間(本当にパイロットなら)は、サイトにログインすることは稀なようだ。
話は仕事のことから世界温暖化、移民問題、高齢化社会、人工知能、宇宙開発など、多岐にわたる。その合間に、彼の友人達との飲み会の話や、学生時代の話なども聞いた。
こんなに沢山のことを話していて、すっかり、電話友達になってしまっているもの、果たして、この関係が一体なんなのかも全然分からない。
大笑いしながら、彼が「あぁ、僕たちは本当にそのうち会って話すべきだよ」と言ったが、私はただ、そうだねーと答えておいた。
当然だけど、私がわざわざ彼の住む街に電車で5、6時間かけて会いにいくという選択肢は、ない。
世界中を飛び回っている、フットワークの軽い彼が、私の住む街まで来てくれるなら、会う事も可能だろう。
彼はものすごく用心深い性格なのか、絶対にメールやSNSで繋がろうとはしない。
電話オンリーと、固く決めているらしい。
私だけじゃなく、他の人とも電話している可能性は決して少なくない。けれど、週に2、3回、毎回2時間以上話しているのだから、本当に彼がパイロットなら、自宅での限られた暇な時間を私と話すために費やしてくれているということだ。つまり、彼は、私との会話を楽しんでいるということだろう。
確かに、電話だと、お互いの性格や考え方など、しっかりと伝え合うことが出来る。
顔を見ながらだと、雑念に捕われて、思った事を話せないことだってあるだろうし。
私だって、目の前にすごいイケメンパイロットがいたら、本音で話せず、気に入られようと思ってしまい、真の姿をさらけ出す事が出来ないだろう。
彼も同じかもしれない。電話だからこそ、オープンに話せることもあるだろう。
電話の回数を重ねるごとに、まるで昔からの友達みたく、話題もカジュアルな分野も交じって来た。
例えば、携帯電話の話。
「僕はパンツの前ポケットに携帯を入れているんだ。ある日、トイレで『大』のほうをした後、立ち上がった拍子に、携帯が滑りでて、そのトイレにダイブしてしまってね。しかも、流す前という、最悪のパターン。さて、ここで君ならどうする?決死の覚悟でその携帯を取り上げるか?」
なんて話もあれば、昆虫を食べる事ができるかという討論から始まった、虫の話。
東南アジアのジャングルを散歩していた彼の思い出。
「ジャングルを散歩した時に、『小』をしたくなって、皆から離れて、少し森の奥に入ったんだ。早速ディックを出して、用を足そうとした途端、下半身のあちこちに激痛が走り、見たら、大量の蟻が噛み付いていた。パニックになってその場を離れ、必死で無数の蟻と格闘したが、あいつらの顎には、しっかり僕の皮膚や肉片がついていた。どうやら、たまたま蟻の巣の近くに立ってしまったせいらしかったよ。毒はない蟻だったけれど、あれは痛かった」
他にも、蟻に関する話。
「東南アジアのホテルに泊まっていた時、同僚の誕生日だったから、フロントでバースデーケーキを手配させたんだ。皆で酔っぱらってホテルに戻って、薄暗い部屋で酒をあおりながら、早速チョコレートケーキを食べ始めたんだ。クリスピーな歯触りと、檸檬のような酸味とチョコレートの絶妙な味に、皆、これはうまい、うまいって喜んでてね。同僚の一人が、何かの理由で、部屋の電気をつけて、室内が真っ昼間みたく明るくなったんだ。見たら、チョコレートケーキには無数の蟻がたかっていたんだよ。あの、クリスピーな歯触りと、檸檬のような酸っぱさは、蟻だったんだ。僕は、虫は食べたくない主義だけれど、それでも、あの蟻付きのチョコレートケーキは絶品だったと今でも思う。同僚も皆同じ事いってたしね」
とにかく、話が面白くて面白くて、全然、飽きがこない。
果たして、この長電話で構築していく友情関係が、いつまで続くのか。あるは、この関係が続いて、実際に面と向かい合う日がくるのだろうか。
14歳下のロマノスと比較して、4歳下のレオンのほうが、年も近く、仕事をしている業界も微妙に重なっている分、わかりあえるところは多い。
ロマノスの英語には、時々誤りがあるけれど、レオンの英語は完璧だ。
ロマノスが本物であることは、確認済み。勤め先も知っている。
レオンが本物であるかは、未だに不明。声は聞いているが、顔は写真でしかみたことがない。
レオンに会った事がないし、いつか会うかどうかもわからない限り、今の私にとって、実際に会う事が出来るロマノスのほうと付き合ってみるという選択肢しかない。それか、この2人以外に、新たな人との出会いを探すか。
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