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第一章 男女比世界へようこそ
第12話 私は男性保護観察官 (side:小川 葉子)
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私の名前は小川葉子、職業は男性保護観察官です。男性保護観察官とは、女性により心身を傷付けられた男性に寄り添い、共に治療に励む、そんな仕事だと自負しています。
この仕事の人気は高く、女性の憧れ、男性の希望などと言われる事も。
私自身、養成所を卒業し現場配属の決まった日は、友人と祝いあったものです。
しかしながら、現実はそんなに甘いものではありませんでした。ダンカンの寿命は5年から7年。それがなにを意味するのか、当時の私は解っていませんでした。
「葉子~、一緒に飲もうよ~♪」
「咲、あんたまた飲んでるの?
明日は例の小学生との顔合わせがあるから、絶対飲まないでって言ったじゃない!」
彼女は川村咲、養成所を同期で卒業して以来、一緒に仕事をしてきた仲間です。
「でもさ~、明日からの案件って、男児監禁未遂の奴でしょ。何時もの比じゃない位、繊細な話しじゃん。男児の絶望に満ちた死んだ目線、あたしもう耐えられないよー。」
そう、彼女はとても優しいのです。基本的にダンカンに成る女性は、男性を支えたい、共に歩みたいと言う気持ちの持ち主です。
それ故に、この世の全てに絶望した男性から向けられる視線は、私達の心を深く抉るのです。
彼女の様に酒に溺れたり、精神を病んで辞めて行く職員は後を絶ちません。
「なに言ってるのよ、咲。私達より、保護対象の男の子の事を考えてあげなさいよ。」
「でもさ、彼まだ11才よ、酷すぎるよ。そんなに幼い子供が、こんな目に遭うなんて、理不尽過ぎるよ。」
彼女は優し過ぎます。
加害者女性が与えてしまった罪を、自身の罪の様に感じているのです。
彼女も限界が近いのかも知れません。
「そんな事言ってないで、明日も早いんだから早く寝るわよ。」
「解ったから、耳引っ張らないでよ~。」
咲とこの先も一緒に仕事をして行きたい。これは私の我が儘なのでしょうか。
「本日より配属されます、男性保護観察官の小川葉子、川村咲、両名、只今到着致しました。着任書類及び身分証の確認をお願いいたします。」
現場責任者であろう、学校長に着任の挨拶を交わします。彼女は心労からだろうか、かなり老け込んで見えました。
「ようこそいらっしゃいました。私は学校長を務めています、木村菜々子と申します。早速ですが、担当していただく生徒をご紹介致します。普段通りの生活がしたいとの本人の希望で、現在園芸委員の仕事をしていますので、花壇までお越しください。」
どう言う事だろうか?
私達ダンカンが呼ばれる案件の男性は、精神的に不安定で、怯えているか攻撃的になっている事がほとんど。自ら仕事をこなすほど回復している事など聞いた事もありません。
「木村先生、つかぬことをお伺いいたしますが、今から会う生徒さんが今回の被害者児童なのでしょうか?」
こちらの質問の意図を察したのだろう。前を歩く彼女はどこか遠い瞳をしながら、「あぁ、彼は、なんと言うか特殊ですから…。」と答えてくれました。
諦念の籠った声色は、私の心を混乱させるだけでした。
「あちらで水やりをしているのが、今回担当していただく生徒です。」
学校長の指差す方に目をやると、
天使様?
亜麻色のウェーブの掛かった髪は、日の光にキラキラと輝き、花を見つめる瞳は慈愛に満ち、その微笑みは、私の心の底に積もっていた暗く醜い感情を、優しく浄化していく様でした。
「あぁ、癒しの天使様…」
は、いけない、私とした事が。保護対象にこんな気持ちを持つなんて。
今の独り言、聞かれてなかったかしら?お願い、聞いてなかったことにして。
一縷の望みを持ちながら、そっと咲の方を伺うと…
「これは運命! 私の王子様、あなたの咲が会いに参りました♥️」
え、ちょっと待って、ダンカンの犯罪は重罪よ?一般人の何倍も重いのよ?
私は彼女の肩を掴むと、無言で鳩尾に膝を叩き込むのでした。
この仕事の人気は高く、女性の憧れ、男性の希望などと言われる事も。
私自身、養成所を卒業し現場配属の決まった日は、友人と祝いあったものです。
しかしながら、現実はそんなに甘いものではありませんでした。ダンカンの寿命は5年から7年。それがなにを意味するのか、当時の私は解っていませんでした。
「葉子~、一緒に飲もうよ~♪」
「咲、あんたまた飲んでるの?
明日は例の小学生との顔合わせがあるから、絶対飲まないでって言ったじゃない!」
彼女は川村咲、養成所を同期で卒業して以来、一緒に仕事をしてきた仲間です。
「でもさ~、明日からの案件って、男児監禁未遂の奴でしょ。何時もの比じゃない位、繊細な話しじゃん。男児の絶望に満ちた死んだ目線、あたしもう耐えられないよー。」
そう、彼女はとても優しいのです。基本的にダンカンに成る女性は、男性を支えたい、共に歩みたいと言う気持ちの持ち主です。
それ故に、この世の全てに絶望した男性から向けられる視線は、私達の心を深く抉るのです。
彼女の様に酒に溺れたり、精神を病んで辞めて行く職員は後を絶ちません。
「なに言ってるのよ、咲。私達より、保護対象の男の子の事を考えてあげなさいよ。」
「でもさ、彼まだ11才よ、酷すぎるよ。そんなに幼い子供が、こんな目に遭うなんて、理不尽過ぎるよ。」
彼女は優し過ぎます。
加害者女性が与えてしまった罪を、自身の罪の様に感じているのです。
彼女も限界が近いのかも知れません。
「そんな事言ってないで、明日も早いんだから早く寝るわよ。」
「解ったから、耳引っ張らないでよ~。」
咲とこの先も一緒に仕事をして行きたい。これは私の我が儘なのでしょうか。
「本日より配属されます、男性保護観察官の小川葉子、川村咲、両名、只今到着致しました。着任書類及び身分証の確認をお願いいたします。」
現場責任者であろう、学校長に着任の挨拶を交わします。彼女は心労からだろうか、かなり老け込んで見えました。
「ようこそいらっしゃいました。私は学校長を務めています、木村菜々子と申します。早速ですが、担当していただく生徒をご紹介致します。普段通りの生活がしたいとの本人の希望で、現在園芸委員の仕事をしていますので、花壇までお越しください。」
どう言う事だろうか?
私達ダンカンが呼ばれる案件の男性は、精神的に不安定で、怯えているか攻撃的になっている事がほとんど。自ら仕事をこなすほど回復している事など聞いた事もありません。
「木村先生、つかぬことをお伺いいたしますが、今から会う生徒さんが今回の被害者児童なのでしょうか?」
こちらの質問の意図を察したのだろう。前を歩く彼女はどこか遠い瞳をしながら、「あぁ、彼は、なんと言うか特殊ですから…。」と答えてくれました。
諦念の籠った声色は、私の心を混乱させるだけでした。
「あちらで水やりをしているのが、今回担当していただく生徒です。」
学校長の指差す方に目をやると、
天使様?
亜麻色のウェーブの掛かった髪は、日の光にキラキラと輝き、花を見つめる瞳は慈愛に満ち、その微笑みは、私の心の底に積もっていた暗く醜い感情を、優しく浄化していく様でした。
「あぁ、癒しの天使様…」
は、いけない、私とした事が。保護対象にこんな気持ちを持つなんて。
今の独り言、聞かれてなかったかしら?お願い、聞いてなかったことにして。
一縷の望みを持ちながら、そっと咲の方を伺うと…
「これは運命! 私の王子様、あなたの咲が会いに参りました♥️」
え、ちょっと待って、ダンカンの犯罪は重罪よ?一般人の何倍も重いのよ?
私は彼女の肩を掴むと、無言で鳩尾に膝を叩き込むのでした。
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