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第二章 中二病には罹りません ー中学校ー

第224話 暗躍する者たち (3) (side:高木康太)

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”コトッ“
テーブルにそっと差し出された一杯のカップ。
鼻腔をくすぐる香ばしい匂い、
口に運ぶと温かな液体が身体の強張りを優しくほぐしてくれる。
季節の移ろいは心も身体も冷たく凍てつかせるが、
一杯のコーヒーが僕の癒しになってくれるのだ。

「如月さん、コーヒー淹れるのさらに上達してない?これめちゃくちゃ美味しいんだけど。」

この親友は相変わらず情緒をぶち壊すのが得意だ。まぁ、それも彼の魅力ではあるのだが。

「それで康太君どうしたの?いつもは駄菓子屋で駄弁るのに今日はお家にご招待なんて、珍しくない?まぁ、俺は康太ママの手作りスイーツが頂けるんで嬉しい限りですが。康太ママ、このアップルパイ絶品です。お土産をお願いします。」(懇願)

ハハハハ、なんだこの自由人。木村君大変なんだろうな~、時々レインでぼやいてるもんな~。(遠い目)

「それで親友、今日はひろし君対策のその後の進展について、お互いの意見を交わしたくってね。まず僕の方から幾つか報告するよ。」

テーブルにカップを戻し、僕はゆっくりと語り始める。

「まずは市議会の方からだね。市議会議員の柳沢先生、かなりアグレッシブに動いてくれたみたいだね。各区町村の役場に”夫婦円満窓口”と言う専用窓口を開設、職員を各地区の婚姻世帯に派遣し現在抱えている不満や問題について口頭調査を行ったらしい。
その結果多くの家庭で妻、夫共に不満を抱えていたことが分かったんだって。
やはり妻側は相当危機的状況だったようで、離婚秒読みの家庭が複数発見されたって事だよ。
そこで妻側に親友のスタジオから販売されているDVDを配布、夫側には鬼ごっこ同好会のスペシャルDVDと第一回逃走王決定戦のDVD、第二回逃走王決定戦ディレクターカット版DVDを記念にと言って渡したんだって。
これでどうなったと思う?今まで悪化する一方だった市内離婚件数がピタッと収まったんだって、笑えるよね。
これは一時的なものだし対処療法的な感じだけど、変革の兆しとしては悪くないと思うんだよね。」

親友は売上貢献ありがとうございますと的外れな事を言っているが、まぁこれも親友のDVD配布作戦を聞いた僕が柳沢市議にお勧めした事だし、バカみたいだけど本当に何で効果あるんだろうね?

「次に国の動きなんだけど、ウチの市の現状と県内の一連の動き、相当詳しく調べたみたいだね。親友のDVD作戦、かなり高く評価されてるみたい。でもあれ凄いよね、県内の不登校児童数軒並み回復してるじゃん。学校内の暴力事件及び女子生徒によるセクハラ暴行事件件数、全国で最小数になってたよ。県教育委員会ではいずれゼロにするって、今度は小学生向けのモノを制作できないか依頼しようという流れがあるそうだよ。
おそらく来春の新入生用の注文が全国から殺到するはずだから、ライセンス契約での外注生産を考えた方がいいと思うよ、件数シャレにならないから。
もしかしたら教育庁から直接注文が入るんじゃないかな~、絶対無理って納期設定で。この辺は天下りの関係でいずれそっちのノウハウを奪うのが目的の連中が動くと思うんだよね。
スタジオS&Bはレーベルさんとも親しい間柄なんだよね、そっちを頼ってみるといいんじゃない。君のお母さんそう言った騙し合い得意そうだし大丈夫だとは思うけど。
離婚問題はまだ議論が進まないみたい。研究部会は立ち上がってるみたいなんだけど、いかんせん実感がね。
国をひっくり返す勢いの事件でも起きない限り、連中動き鈍いからね。
伝えることは伝えてるし、現状を知った方が話速いからひろし君に一度暴れて貰った方がいいのかなってのが僕の考え。」

コーヒーのカップを眺めながら何やら考える様子の親友。
絶対ろくな事考えてないんだろうな~。
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