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第四章 ラブコメって言ったら学園じゃね…

第361話 キャンプへ行こう (5) (side:那須葵)

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「薪から立ち上る炎、その熱にあぶられて、その身を焼かれて。
上空より降りかかるは白い粉、これは粗塩?
焼けて焦げ目の付いた皮、その身から立ち昇る芳香。
大きな口がそれを捉える。」

「「「旨い、川魚最高~!!」」」

「って言うかのっぺり、さっきから変なナレーション入れるな!私たちは怪物か、悪魔か何かなのか?
ただ川魚を塩焼きで食べてるだけじゃないか、なに荘厳な雰囲気を出そうとしてるんだお前は。」
焼き立ての川魚を頬張りながら文句を言う篠原さん。

「え~、だって俺頑張ったじゃん、一人二匹ずつ、全部で八十匹よ?もっとありがたがって食べてもいいと思わない?」

「「「ご苦労だった、のっぺり。また頼む。」」」

「うわ~、こいつらひで~、ありがたみの欠片も無いでやんの。」
がっくり肩を落とす佐々木君、まったく報われない話だ。

それにしても彼は凄かった。その辺の木の棒を銛の様に加工し、わずかな時間でクラス全員分の川魚を仕留めるその技。傍から見ていてもなにが起きているのか分からない光景だった。彼が銛を打てば魚が掛かる。何匹か捕るところを見ていたが、まるで魚が自《みずか》ら銛に撃たれに行っているかの様であった。

「ん?」

「どうしたのっぺり?トイレか?」

「そんなんじゃないわい!ちょっと抜ける。俺の分の肉取っといてね~。」

「「「それは保証できない。」」」

「酷い、せめてお野菜だけでもお願いします。」
深々と頭を下げる佐々木君。

「「「仕方がない、玉ねぎとピーマンは焼いておいてやろう。」」」

「ありがたき幸せ~。」
そう言うと、佐々木君は離席しどこかへ向かい歩いて行った。

「葵、のっぺりどこかへ行っちゃったけど、どうするの?」
そんな事は決まっている。

「無論、後をつけます。」
「そう来なくっちゃ。ほら、彩夏いつまで食べてるのよ、行くよ。」
「”ふぉむふぉむふぉむ”」
「何言ってるのか分からん。ごめんね皆、私たちこれからのっぺりの尾行をして来るから、先生が来たら上手く言っといて~。」

「OK、面白い事があったらあとで教えて~。」
ノリの良いクラスメートで助かる。こうして私たち三人は佐々木君ターゲットの尾行を開始した。


「おいっす木村君、康太君も丁度良かった。」

佐々木君が向かっていたのはAクラスのキャンプスペースであった。
彼は以前共に部活見学に来ていたAクラスの木村英雄君と同じくAクラスの高木康太君に何やら話し掛けていた。

「親友、それってマジな話なの。」
「うん、おそらくもうすぐ始まる。他の生徒に被害が出ないようにさりげなく誘導してくれると助かる。あっちは下手に弄ると被害が拡大しそうだし、多分大丈夫なんじゃない?彼だし。
こっちは他の対処に回るから。」
「分かった、佐々木もあまり無理はするなよ。」
「了解~。うまい事やっとく~。」

佐々木君は話しは終わったとばかりに手を振りながら二人のもとを去っていった。
残った二人は数グループの班に声を掛け、端のテーブルへと移動を促していた。

「ねぇ、これからどうする?のっぺりどこか行っちゃうよ?」

「う、うん。」
私が一瞬躊躇しているとき、それは起こった。

「君たちはウチの生徒じゃないよね?どうしたのかな?」
声をした方を振り向くと、そこには三人の女子生徒と対峙する一人の男子生徒。
あれは私の憧れ、愛しのひろし様。

「いやだな、行き成り何を言うんですか、高宮君?私たちはそちらのキャロラインさんにご挨拶に来ただけですよ。それがどうしましたか?」
キョトンとした顔で答える女子生徒。

「う~ん、どこから言った方が分かってもらえるのかな?まず僕の事を高宮君って呼ぶ人はこの学園にはいないよ?それにこっちにいるのはキャロルさんであってキャロラインさんじゃないんだけど。それにね、君たちのそのウイッグ、良く出来てるけど見る人が見たらバレバレだよ?最後に僕って中等部の生徒会長をやってたからこの学年の内部進学生徒の顔は全部覚えてるんだよね。それじゃ私たちは外部進学生徒ですって言いそうだけど、少なくとも君たちみたいな外部進学生徒はいなかったかな?」

ひろし様は事も無げにそう答えました。とたん動きを止める女子生徒、いえ、侵入者たち。

「本当ならもっと穏便に事を運びたかったのですが仕方がありません。キャロライン様、どうかこちらに来てはいただけないでしょうか?我々も乱暴な手段に出るのは本意ではないのです。」
腰をやや低く構えを取りながら語り掛ける侵入者、それに対し怯えながらも毅然と立ち上がる、あれは留学生の女子生徒。
彼女は引き留めようとする別の留学生の女子生徒を振り切り、一歩踏み出そうとする。
そんな二人の間に割って入る形で立ち塞がるひろし様。

「ひろし様、もうよろしいのです。私の我が儘で多くの生徒を危険にさらしている。今、私が取るべき態度はこの身をとして多くの者の安全を図る事。これだけ堂々と現れているのです、ここにいる彼女達だけの犯行とも思えません。
皆の安全の為に盾になる、これは王家の人間としての務めなのです。」
凛とした態度でそう己を鼓舞する留学生、しかし恐怖からくる体の震えは隠せない。

ひろし様はそんな彼女の頭にポンと手を添え優しく微笑まれます。

「そんなに頑張らなくってもいいんだよ?君はただの留学生キャロルさんなんだから。」
ひろし様はそう言うと再び侵入者の方を向き今度は優しい笑みを浮かべました。

”ガバッ“

背後から大ぶりのナイフを引き抜き警戒する侵入者、そんな彼女たちに彼は語り掛けます。

「どうしたんだいお嬢さんたち、そんな物騒なものを握りしめて。」

その潤んだ瞳はとても悲しく、悲痛な思いが伝わってくる。

「僕は君たちがそんなものを振り回し暴力に支配されていくのを見るのがとても辛い。君たちだって本当はこんな事したい訳じゃないんだ。でも見えないナニカに支配されて、本心を偽って。
今まで辛かったね、悲しかったね。
もういいんだよ、今までずっと頑張って来たんだもん。
さあ、こっちにおいで。」

スッと差し出された右の手。
ひろし君はゆっくりと彼女達へと近づきます。
彼の頬に流れる一筋の涙。

”カランッカランッ“

彼女達の手にはもうナイフは握られていません。
そこには幼子の様に泣きながらひろし君に抱き縋る三人の女性がいるだけでした。
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