国民が熱狂する英雄譚は、全て虚構。最高視聴率番組の裏側でゴブリンADが王国の闇を記録し始めた。王国広報局番組『ブレイブ・ハート』ON AIR

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テイク13「作られた英雄たち」中編

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【映像ログ:未公開(魔王軍基地・廊下・深夜)】

(廊下。トビーがレオの部屋の前に立っている)

(トビーが深呼吸する)

(ドアをノックする)

レオ:
「……誰だ」

トビー:
「トビーです」

レオ:
「……何の用だ」

トビー:
「話があります」

(5秒の沈黙)

レオ:
「……入れよ」

(トビーが部屋に入る)

(レオはベッドに座っている。窓の外を見つめている)

レオ:
「……何だよ」

トビー:
「情報が入りました」

レオ:
「……」

トビー:
「新勇者アレクについて」

レオ:
「……聞きたくねえ」

トビー:
「……それでも、聞いてください」

レオ:
「……」

トビー:
「アレクは、プロトタイプ02です」

レオ:
「……」

トビー:
「そして、レオさんは……プロトタイプ01」

レオ:
「……」

(レオが振り向く)

レオ:
「……どういう意味だ」

トビー:
「レオさんとアレクは、同じ設計図から作られた」

レオ:
「……」

トビー:
「レオさんは、試作品。アレクは、改良版」

レオ:
「……」

トビー:
「エリクシール社は、レオさんを『感情制御に失敗した不完全品』と見なしている」

レオ:
「……」

(10秒の沈黙)

レオ:
「……そうか」

トビー:
「……」

レオ:
「俺は……不完全品か」

トビー:
「……」

レオ:
「作られた存在で、しかも失敗作」

トビー:
「レオさん……」

レオ:
「笑えるな」

トビー:
「……」

レオ:
「俺、ずっと自分の顔が最高だと思ってた」

トビー:
「……」

レオ:
「でも、その顔は俺のものじゃなかった」

トビー:
「……」

レオ:
「誰かが作った顔だ。俺は、それを借りてただけ」

トビー:
「……」

レオ:
「しかも不完全品」

(レオが笑う。乾いた笑い)

レオ:
「……マジで笑えるわ」

トビー:
「レオさん」

レオ:
「何だよ」

トビー:
「一つだけ、聞いてください」

レオ:
「……」

トビー:
「エリクシール社が『失敗』と呼ぶもの」

レオ:
「……」

トビー:
「感情制御の失敗。不完全な演技。予測できない行動」

レオ:
「……」

トビー:
「それは、俺たちにとっては『成功』です」

レオ:
「……何言ってんだ」

トビー:
「レオさんは、完璧な演技ができない」

レオ:
「……悪かったな」

トビー:
「でも、本物の感情を持っている」

レオ:
「……」

トビー:
「アドリブで『仲間を守る』と言えたのは、感情があるからです」

レオ:
「……」

トビー:
「アレクには、それができない」

レオ:
「……」

トビー:
「彼は完璧な演技ができる。でも、本物の感情がない」

レオ:
「……」

トビー:
「だから、レオさんの勝ちです」

レオ:
「……マリアと同じこと言ってんな」

トビー:
「事実ですので」

レオ:
「……」

(レオが俯く)

レオ:
「……俺さ」

トビー:
「はい」

レオ:
「ずっと、自分の顔が好きだった」

トビー:
「……」

レオ:
「鏡を見るたびに、『俺の顔、最高だな』って思ってた」

トビー:
「……」

レオ:
「でも、その顔は俺が選んだものじゃない」

トビー:
「……」

レオ:
「誰かが作った顔だ」

トビー:
「……」

レオ:
「それでも……俺は、この顔が好きだ」

トビー:
「……」

レオ:
「作られた顔でも、俺の顔だ」

トビー:
「……」

レオ:
「不完全品でも、俺は俺だ」

(レオが顔を上げる)

レオ:
「……そう思っていいのか」

トビー:
「……」

トビー:
「当然です」

レオ:
「……」

トビー:
「レオさんは、レオさんです」

トビー:
「誰に作られたかなんて、関係ありません」

レオ:
「……」

トビー:
「ノアさんも、カイルも、被験者として作られた」

トビー:
「でも、彼らは彼らです」

トビー:
「レオさんも同じです」

レオ:
「……」

(レオが小さく笑う)

レオ:
「……お前、いいこと言うじゃん」

トビー:
「ゴブリンですので」

レオ:
「……意味分かんねえけど」

トビー:
「よく言われます」

-----

【個別インタビュー】
勇者レオ/告白部屋(自室)

(レオが窓の外を見ながら)

レオ:
「俺は、プロトタイプ01」

レオ:
「作られた存在で、失敗作」

レオ:
「……笑えるよな」

トビー(画面外):
「……」

レオ:
「でもさ」

トビー:
「はい」

レオ:
「俺、この顔が好きなんだ」

トビー:
「……」

レオ:
「誰かが作った顔でも、俺はこの顔で生きてきた」

レオ:
「この顔で、みんなと出会った」

レオ:
「この顔で、仲間を守ろうとした」

トビー:
「……」

レオ:
「だから、俺の顔だ」

(レオがカメラを見る)

レオ:
「作られたものでも、俺が選んだものにする」

レオ:
「俺は俺だ。プロトタイプでも、失敗作でも」

レオ:
「勇者レオだ」

トビー:
「……」

レオ:
「……これ、カッコよかった?」

トビー:
「……まあまあでした」

レオ:
「まあまあかよ!」

トビー:
「最後の一言で台無しです」

レオ:
「……うるせえよ」

-----

【映像ログ:未公開(魔王軍基地・食堂・翌朝)】

(食堂。全員が朝食を取っている)

(レオが普通に食事をしている)

マリア:
「……おい」

レオ:
「何だよ」

マリア:
「食ってんじゃん」

レオ:
「腹減ったから」

マリア:
「……」

ノア:
「レオさん、大丈夫ですか」

レオ:
「大丈夫だ」

ノア:
「……」

レオ:
「俺は、プロトタイプ01らしい」

マリア:
「……」

レオ:
「作られた存在で、失敗作だってさ」

ノア:
「レオさん……」

レオ:
「でも、いいんだ」

マリア:
「……」

レオ:
「俺は俺だ。誰に作られたかなんて関係ねえ」

(レオがノアを見る)

レオ:
「ノア、お前だって被験者だろ」

ノア:
「……はい」

レオ:
「でも、お前はお前だ。番号じゃない」

ノア:
「……」

レオ:
「俺も同じだ。プロトタイプ01じゃない。勇者レオだ」

ノア:
「……」

(ノアが微笑む)

ノア:
「はい。レオさんは、レオさんです」

カイル:
「……」

カイル:
「意外とまともなこと言うじゃん」

レオ:
「意外とって何だよ」

カイル:
「いつもはナルシスト全開だから」

レオ:
「ナルシストは今も全開だぞ」

マリア:
「そこは直せよ」

レオ:
「直さねえよ。俺の顔は最高だからな」

マリア:
「……」

レオ:
「作られた顔でも、最高だ」

マリア:
「……」

(マリアが小さく笑う)

マリア:
「……バカだな」

レオ:
「褒めてんのか」

マリア:
「褒めてねえよ」

-----

【映像ログ:未公開(魔王軍基地・会議室・午前10時)】

(会議室。作戦会議が行われている)

ザック:
「状況を整理する」

トビー:
「お願いします」

ザック:
「エリクシール社は、新勇者パーティーを投入した」

ザック:
「これは、俺たちの海賊放送への対抗措置だ」

マリア:
「……」

ザック:
「同時に、『幻術残留痕』という偽の証拠を提示して、俺たちの映像を捏造扱いにした」

カイル:
「あんなもん、存在しねえのに」

ザック:
「一般市民には判断できない。エリクシール社の嘘が、真実として広まっている」

トビー:
「……」

ザック:
「俺たちの海賊放送は、ある程度の効果があった」

ザック:
「情報提供者が現れ、一部の市民は真実に気づいた」

ザック:
「だが、大多数はまだエリクシール社を信じている」

マリア:
「どうすんだ」

ザック:
「第二波の攻撃が必要だ」

トビー:
「第二波……」

ザック:
「今度は、もっと決定的な証拠を見せる」

ノア:
「決定的な証拠?」

ザック:
「情報提供者の中に、元研究員がいる」

ザック:
「彼が持っている内部資料を、放送で公開する」

トビー:
「……」

ザック:
「PROJECT VESSELの全貌を、世界に晒す」

レオ:
「……」

ザック:
「被験者計画だけじゃない。勇者量産計画も」

レオ:
「俺のことも、か」

ザック:
「……ああ」

レオ:
「……」

(5秒の沈黙)

レオ:
「いいぜ」

ザック:
「……いいのか」

レオ:
「俺は隠すことなんてねえ」

レオ:
「作られた存在でも、俺は俺だ」

レオ:
「それを世界に見せてやる」

マリア:
「……」

レオ:
「新勇者アレクが完璧な演技をするなら」

レオ:
「俺は、本物の感情を見せてやる」

レオ:
「どっちが本当の勇者か、国民に判断してもらう」

ザック:
「……」

トビー:
「……」

マリア:
「……」

(マリアが立ち上がる)

マリア:
「俺も出る」

ザック:
「マリア?」

マリア:
「俺の出自も、調べてくれ」

トビー:
「……」

マリア:
「俺も辺境の村出身だ。被験者かもしれねえ」

マリア:
「隠し続けるより、全部さらけ出す方がいい」

ザック:
「……」

マリア:
「俺が何者でも、俺は俺だ」

(マリアがレオを見る)

マリア:
「……お前の受け売りだけどな」

レオ:
「……」

レオ:
「パクりかよ」

マリア:
「いいこと言ったと思ったら、使われるんだよ」

レオ:
「……」

(レオが笑う)

レオ:
「……まあ、いいか」
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