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5 暁の神殿
15 鈴木、女騎士を押す!
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「ストラーダ。蟻王は無数の脚による突きと火炎弾が主な攻撃手段だ。素早さもかなり高く、脚を斬り落としても、まごまごしている間に再生するという少し厄介なボスだぞ」
俺は階段の下のフロアを守護する蟻王を見下ろしながら、ストラーダに蟻王の能力を説明した。
最後にニコリと笑いかけると、ストラーダは眉をひそめて赤い唇をキュッと横一文字に閉めた。
「……少しどころか、かなり厄介だぞ?」
「回復すると言っても回数制限があるから難易度的にはそんなでもない。ちなみに、遠距離攻撃手段を持ってる場合は階段の上から攻撃し続ける事で討伐可能だ」
俺は一応攻略方法も教えてやるが、別に親切心からではない。
「いやいや、普通に階段登って来るでしょ?」
当然、そういった質問や疑問は全プレイヤーが思った事だが、答えはNOだ。
俺はゆっくりと首を横に振る。
「来ないの?!」
「うむ。所詮昆虫だからな……」
たかだかダンジョンのギミックボスの一つにそんなリソース使えないだろ?とかメタな事を言ってもストラーダには分かんないよね。
「…………」
「まぁ、ストラーダは遠距離スキル持ってないみたいだし!ガチンコで行ってみようか!」
「ええ?!そんな……簡単な攻略方法があるというのに……」
「ズルは良くないよ!」
「存在自体がズルなお前……スズキだけには言われたくないぞ?」
まだブチブチとゴネるストラーダの背を押して階段を進ませる。
「おい!こら押すなよ!」
「押すなって事は押せって事と同義やで~」
セイヤッ!とストラーダの背中を押せば、彼女は蟻王まで一直線にぶっ飛んで行く──
「あ……加減間違えた」
「この馬鹿やろおおおおおおお!」
幅跳びのような感じで階段を飛び降りる……形になってしまった彼女は当然ながら怒りの声を上げた。若干涙目だったが──
「キシャァァァァ!」
「もうヤケだ!てりゃぁぁぁ!」
蟻王の制空権に入った事で、蟻王は耳障りな威嚇の声を上げた。
頭部をグリンとストラーダに向ける蟻王目掛け、俺に押された勢いそのままに、ストラーダは腰の剣を振り抜いた!
★☆★
「ッ──硬い!」
私はスズキに押された勢いを利用して剣を抜き、大上段からの振り下ろしを放つ!
キンッ!
何か硬いもの同士がぶつかったような硬質な音が奴の、蟻王の頭部から聞こえる。
一刀の下に斬り伏せられれば……という私の思いはアッサリと弾かれ、私は舌打ちしつつ着地。
「ギギギギギギギ!」
「うわっ!」
蟻王の正面に着地してしまった私は奴が振りかぶった前脚を横に転がる事で回避する!
「良く避けたぞストラーダ~」
「うるさいぞ馬鹿野郎!」
階段の上からは私を押すだけ押してふんぞり返って観戦を決め込んでいるスズキの声が降りてくる。
「後で絶対に殴ってやる!」
「おーおー。威勢がいいのはいいけど前に見ろよ?」
慌てて振り向けば蟻王が再び私に前脚を振りかぶっていた。
「ギギギギギギギ!」
「あわわっ」
ゴロゴロと再び転がり、その勢いを利用して起き上がる。
「せえええい!」
蟻王が身体を向ける前に、私は奴の横をすり抜け、そのまま横薙ぎの一撃!
「ギャギャギャギャギャ!」
中と後ろ脚を薙いだ私の一撃は奴のソレを絶ち、気味の悪い緑色の液体を撒き散らす。
「おおおおお!」
チャンスと見た私は飛び、奴の尻目掛けて渾身の一撃を振り下ろすが──
「なっ!剣が──」
奴の身体に深々と傷を付けたまでは良かったが、あまりにも深く入りすぎた一撃に、剣がメリ込み抜けなくなってしまった!
奴の胴体に足を着けて必死に抜こうとするが、痛みに暴れる蟻王によりぶっ飛ばされてしまう!
「ぐッ──」
壁まで飛ばされた私は強かに背中を打ち、肺から空気が漏れる。
そこには一瞬のスキがあった。
気が付けば蟻王が放ったであろう火炎弾が目前まで迫っていた。
「キャァァァァァ──」
死ぬ──と思った瞬間、私の口からはみっともない悲鳴が出る。
焼かれたらきっと消し炭になってしまうんだろうなぁなんて、迫る火炎弾の前でどうでもいい事が頭に浮かぶが──
「エアトスハンマー!」
ガオン!
突然、身体を持って行かれる程の強烈な風が塊のように吹き付けられると、今にも私を消し炭にせんと迫る火炎弾を打ち消した。
あれ──生きてる?
「エアトスハンマー!」
「ギシャァァァァァ──」
ガツン!
重い音が蟻王から聞こえ、同時に耳障りな声を上げて側面にぶっ飛ぶ蟻王。
そして声に振り返れば、掌を前に突き出したスズキが見えた。
「油断するな!」
「うるさいうるさい!剣が抜けなかったんだから仕方ないだろ!」
「剣なんて飾りなんだよ!拳を使え拳を!」
「こ、こぶし?!」
「両の拳をこう──ガチン!と合わせろ!」
階段の上でガチン!と拳を合わせる奴を見て、私は言われた通りに拳を合わせる。
──ガチン──
するとどうしたことか、篭手が金色の光に包まれた。
「その光がある今ならダメージを与えられる!行け!殴れ!撲殺せよ!」
なんだか気の抜ける声援?を受け、私は力一杯地面を蹴った!
「ギギ──」
「いっけええええええ!」
ダメージから回復を図る蟻王の横っ面を思いっきり殴り飛ばす!
ドゴッ!
蟻王の顔面がべコリとへこみ、ゴキャッと何かが折れたような手応えが伝わった──同時に側面の壁までぶっ飛び、壁にヒビを入れる蟻王。
「──え?」
あまりにもの出来事に思わず手を見る私。だって騎士とは言え女だぞ?こんなアマゾネスみたいな力がある分けがないのだ。
「呆けているな!畳み込め!」
「あ──……うん。やー……とー……」
なんだか釈然としないものがあるけれど、言われるまま蟻王を殴り続ける。
ガツン!ガチン!ドギャ!
既に半分ほど壁にメリ込んでいた蟻王は更に壁にメリ込み、身動きが取れない所を一方的に殴り続けることしばらく──
「キ────キシャア……」
蟻王は悲哀の籠もった断末魔の声を上げて黒い塵へと変わったのだった。
俺は階段の下のフロアを守護する蟻王を見下ろしながら、ストラーダに蟻王の能力を説明した。
最後にニコリと笑いかけると、ストラーダは眉をひそめて赤い唇をキュッと横一文字に閉めた。
「……少しどころか、かなり厄介だぞ?」
「回復すると言っても回数制限があるから難易度的にはそんなでもない。ちなみに、遠距離攻撃手段を持ってる場合は階段の上から攻撃し続ける事で討伐可能だ」
俺は一応攻略方法も教えてやるが、別に親切心からではない。
「いやいや、普通に階段登って来るでしょ?」
当然、そういった質問や疑問は全プレイヤーが思った事だが、答えはNOだ。
俺はゆっくりと首を横に振る。
「来ないの?!」
「うむ。所詮昆虫だからな……」
たかだかダンジョンのギミックボスの一つにそんなリソース使えないだろ?とかメタな事を言ってもストラーダには分かんないよね。
「…………」
「まぁ、ストラーダは遠距離スキル持ってないみたいだし!ガチンコで行ってみようか!」
「ええ?!そんな……簡単な攻略方法があるというのに……」
「ズルは良くないよ!」
「存在自体がズルなお前……スズキだけには言われたくないぞ?」
まだブチブチとゴネるストラーダの背を押して階段を進ませる。
「おい!こら押すなよ!」
「押すなって事は押せって事と同義やで~」
セイヤッ!とストラーダの背中を押せば、彼女は蟻王まで一直線にぶっ飛んで行く──
「あ……加減間違えた」
「この馬鹿やろおおおおおおお!」
幅跳びのような感じで階段を飛び降りる……形になってしまった彼女は当然ながら怒りの声を上げた。若干涙目だったが──
「キシャァァァァ!」
「もうヤケだ!てりゃぁぁぁ!」
蟻王の制空権に入った事で、蟻王は耳障りな威嚇の声を上げた。
頭部をグリンとストラーダに向ける蟻王目掛け、俺に押された勢いそのままに、ストラーダは腰の剣を振り抜いた!
★☆★
「ッ──硬い!」
私はスズキに押された勢いを利用して剣を抜き、大上段からの振り下ろしを放つ!
キンッ!
何か硬いもの同士がぶつかったような硬質な音が奴の、蟻王の頭部から聞こえる。
一刀の下に斬り伏せられれば……という私の思いはアッサリと弾かれ、私は舌打ちしつつ着地。
「ギギギギギギギ!」
「うわっ!」
蟻王の正面に着地してしまった私は奴が振りかぶった前脚を横に転がる事で回避する!
「良く避けたぞストラーダ~」
「うるさいぞ馬鹿野郎!」
階段の上からは私を押すだけ押してふんぞり返って観戦を決め込んでいるスズキの声が降りてくる。
「後で絶対に殴ってやる!」
「おーおー。威勢がいいのはいいけど前に見ろよ?」
慌てて振り向けば蟻王が再び私に前脚を振りかぶっていた。
「ギギギギギギギ!」
「あわわっ」
ゴロゴロと再び転がり、その勢いを利用して起き上がる。
「せえええい!」
蟻王が身体を向ける前に、私は奴の横をすり抜け、そのまま横薙ぎの一撃!
「ギャギャギャギャギャ!」
中と後ろ脚を薙いだ私の一撃は奴のソレを絶ち、気味の悪い緑色の液体を撒き散らす。
「おおおおお!」
チャンスと見た私は飛び、奴の尻目掛けて渾身の一撃を振り下ろすが──
「なっ!剣が──」
奴の身体に深々と傷を付けたまでは良かったが、あまりにも深く入りすぎた一撃に、剣がメリ込み抜けなくなってしまった!
奴の胴体に足を着けて必死に抜こうとするが、痛みに暴れる蟻王によりぶっ飛ばされてしまう!
「ぐッ──」
壁まで飛ばされた私は強かに背中を打ち、肺から空気が漏れる。
そこには一瞬のスキがあった。
気が付けば蟻王が放ったであろう火炎弾が目前まで迫っていた。
「キャァァァァァ──」
死ぬ──と思った瞬間、私の口からはみっともない悲鳴が出る。
焼かれたらきっと消し炭になってしまうんだろうなぁなんて、迫る火炎弾の前でどうでもいい事が頭に浮かぶが──
「エアトスハンマー!」
ガオン!
突然、身体を持って行かれる程の強烈な風が塊のように吹き付けられると、今にも私を消し炭にせんと迫る火炎弾を打ち消した。
あれ──生きてる?
「エアトスハンマー!」
「ギシャァァァァァ──」
ガツン!
重い音が蟻王から聞こえ、同時に耳障りな声を上げて側面にぶっ飛ぶ蟻王。
そして声に振り返れば、掌を前に突き出したスズキが見えた。
「油断するな!」
「うるさいうるさい!剣が抜けなかったんだから仕方ないだろ!」
「剣なんて飾りなんだよ!拳を使え拳を!」
「こ、こぶし?!」
「両の拳をこう──ガチン!と合わせろ!」
階段の上でガチン!と拳を合わせる奴を見て、私は言われた通りに拳を合わせる。
──ガチン──
するとどうしたことか、篭手が金色の光に包まれた。
「その光がある今ならダメージを与えられる!行け!殴れ!撲殺せよ!」
なんだか気の抜ける声援?を受け、私は力一杯地面を蹴った!
「ギギ──」
「いっけええええええ!」
ダメージから回復を図る蟻王の横っ面を思いっきり殴り飛ばす!
ドゴッ!
蟻王の顔面がべコリとへこみ、ゴキャッと何かが折れたような手応えが伝わった──同時に側面の壁までぶっ飛び、壁にヒビを入れる蟻王。
「──え?」
あまりにもの出来事に思わず手を見る私。だって騎士とは言え女だぞ?こんなアマゾネスみたいな力がある分けがないのだ。
「呆けているな!畳み込め!」
「あ──……うん。やー……とー……」
なんだか釈然としないものがあるけれど、言われるまま蟻王を殴り続ける。
ガツン!ガチン!ドギャ!
既に半分ほど壁にメリ込んでいた蟻王は更に壁にメリ込み、身動きが取れない所を一方的に殴り続けることしばらく──
「キ────キシャア……」
蟻王は悲哀の籠もった断末魔の声を上げて黒い塵へと変わったのだった。
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