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番外編
君に幸せが訪れますように
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「なんだ、これは」
普段よりも何故か緊張した顔で訪れた周が差し出したのは、小さな紙の包だった。いつもは開店と同時に訪れるのに、今日は少しだけ遅かったのはこれと関係があるのだろうか。いや、別に客の私情に興味はないけど。
「いや、君に、どうしても渡したくて」
「それは……ありがとう」
「うん」
ただお礼を言っただけなのに、周は至極嬉しそうに笑う。なんだ、それは。俺までつられて口元が緩んでしまうじゃあないか。
必死に袂で口元を隠しながら、周に差し出された包み紙を開く。中に入っていたのは。
「……花?」
「うん、そう」
「なんで、花なんて」
白くて小さな花束だった。瑞々しい葉に、鈴のような白い花弁。かすかに振ると音が聞こえてきそうだ。
この辺りでは見たことがない。でも、可憐で可愛らしい形は目を引くものがあった。
「外国ではこの日に花を贈るそうなんだ」
「へぇ。洒落てるな」
「だからどうしても君にこの花を贈りたくて」
「……なんで俺に」
まだ出会って一ヶ月も経っていないのに。どうして花なんか贈りたがるんだ。確かに客の中には陰間に好かれようとたくさんの贈り物をする奴もいる。でもすぐに枯れる花なんて。一体、どんな気持ちで選んだんだろう。
とはいえ。花に罪はない。ここは素直に受け取っておこう。
「ありがとう。飾らせてもらうよ」
「そうしてもらえると有難いな」
「なんて名前なんだ? この花」
今日の質問はこれしかなかった。これさえ分かればそれで満足だったし、あとは適当に時間を潰せばいい。
そんな、半ば適当な気持ちで尋ねた質問にも、周はふわりと微笑んだ。
「鈴蘭だよ、それは」
「たしかに、鈴みたいな形をしているな」
「可愛らしい形だけど、毒があるんだ。これは大丈夫だけど」
「なんでそんな物騒なものを……」
やっぱりこの男は不思議でならない。興味を持たないようにしようと思っても、たくさん色々なことを知りたくなる。
その日も、結局、夜が開けるまでずっと語り続けてしまった。
***
「本当、貴方も飽きないな」
差し出された鈴蘭の花束に、思わず笑ってしまった。初めてこの花を貰ってから何年が経っただろう。俺たちの関係が変わっても、周は毎年この日なると必ず鈴蘭を買っては俺に渡してくる。
たった一輪、わざわざ横濱の山手まで行って買い付けてくる。そんなに遠くまで行かなくていいから、早く帰ってきて欲しいと思いはするが。
「どうしても君に渡したかったんだ」
「うん……ありがとう」
今でも周は俺に贈り物をすることが楽しいそうで、仕事で見かけたからとか、話題になっていたからとか、あらゆる理由をつけては定期的に贈り物を用意してくれる。
それでも、毎年皐月の初めには鈴蘭と決まっているのだ。
「俺も何か用意すればよかった」
「君が居てくれるだけで十分だ」
「本当に? 毎晩、共寝するだけじゃ満足できないくせに」
そう揶揄うと、耳まで真っ赤にして俯いてしまう。全く、いつまで経っても初心なことで。
「でも、この贈り物の意味は昔から変わらないよ」
「うん。知ってる。ありがとう」
腕に絡みついて、耳元に唇を寄せる。吐息と一緒の言葉を吐き出すと、周の喉がひくりと戦慄いた。
「そんなに、揶揄わないで……!」
「可愛いなぁ、周は」
「どっちが!」
耳まで真っ赤にした周が、がばりと抱きしめてくる。笑いながら胸元に頬を寄せると、白檀の柔らかい香りがした。
「君に幸せがありますように」
「貴方にも。幸せでいてくれ」
「君を愛せることが何よりも幸せだよ」
それじゃあ今日はたくさん愛してもらおう。夜が明けるまで。二人の声が枯れるまで。それはなんて、幸せなことなんだろう。
普段よりも何故か緊張した顔で訪れた周が差し出したのは、小さな紙の包だった。いつもは開店と同時に訪れるのに、今日は少しだけ遅かったのはこれと関係があるのだろうか。いや、別に客の私情に興味はないけど。
「いや、君に、どうしても渡したくて」
「それは……ありがとう」
「うん」
ただお礼を言っただけなのに、周は至極嬉しそうに笑う。なんだ、それは。俺までつられて口元が緩んでしまうじゃあないか。
必死に袂で口元を隠しながら、周に差し出された包み紙を開く。中に入っていたのは。
「……花?」
「うん、そう」
「なんで、花なんて」
白くて小さな花束だった。瑞々しい葉に、鈴のような白い花弁。かすかに振ると音が聞こえてきそうだ。
この辺りでは見たことがない。でも、可憐で可愛らしい形は目を引くものがあった。
「外国ではこの日に花を贈るそうなんだ」
「へぇ。洒落てるな」
「だからどうしても君にこの花を贈りたくて」
「……なんで俺に」
まだ出会って一ヶ月も経っていないのに。どうして花なんか贈りたがるんだ。確かに客の中には陰間に好かれようとたくさんの贈り物をする奴もいる。でもすぐに枯れる花なんて。一体、どんな気持ちで選んだんだろう。
とはいえ。花に罪はない。ここは素直に受け取っておこう。
「ありがとう。飾らせてもらうよ」
「そうしてもらえると有難いな」
「なんて名前なんだ? この花」
今日の質問はこれしかなかった。これさえ分かればそれで満足だったし、あとは適当に時間を潰せばいい。
そんな、半ば適当な気持ちで尋ねた質問にも、周はふわりと微笑んだ。
「鈴蘭だよ、それは」
「たしかに、鈴みたいな形をしているな」
「可愛らしい形だけど、毒があるんだ。これは大丈夫だけど」
「なんでそんな物騒なものを……」
やっぱりこの男は不思議でならない。興味を持たないようにしようと思っても、たくさん色々なことを知りたくなる。
その日も、結局、夜が開けるまでずっと語り続けてしまった。
***
「本当、貴方も飽きないな」
差し出された鈴蘭の花束に、思わず笑ってしまった。初めてこの花を貰ってから何年が経っただろう。俺たちの関係が変わっても、周は毎年この日なると必ず鈴蘭を買っては俺に渡してくる。
たった一輪、わざわざ横濱の山手まで行って買い付けてくる。そんなに遠くまで行かなくていいから、早く帰ってきて欲しいと思いはするが。
「どうしても君に渡したかったんだ」
「うん……ありがとう」
今でも周は俺に贈り物をすることが楽しいそうで、仕事で見かけたからとか、話題になっていたからとか、あらゆる理由をつけては定期的に贈り物を用意してくれる。
それでも、毎年皐月の初めには鈴蘭と決まっているのだ。
「俺も何か用意すればよかった」
「君が居てくれるだけで十分だ」
「本当に? 毎晩、共寝するだけじゃ満足できないくせに」
そう揶揄うと、耳まで真っ赤にして俯いてしまう。全く、いつまで経っても初心なことで。
「でも、この贈り物の意味は昔から変わらないよ」
「うん。知ってる。ありがとう」
腕に絡みついて、耳元に唇を寄せる。吐息と一緒の言葉を吐き出すと、周の喉がひくりと戦慄いた。
「そんなに、揶揄わないで……!」
「可愛いなぁ、周は」
「どっちが!」
耳まで真っ赤にした周が、がばりと抱きしめてくる。笑いながら胸元に頬を寄せると、白檀の柔らかい香りがした。
「君に幸せがありますように」
「貴方にも。幸せでいてくれ」
「君を愛せることが何よりも幸せだよ」
それじゃあ今日はたくさん愛してもらおう。夜が明けるまで。二人の声が枯れるまで。それはなんて、幸せなことなんだろう。
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