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雨冷え【10月番外編】
10
しおりを挟むりょうたさんに揺られながら、無事にぼくたちはさかぐちさんのお家に到着しました。いやはや、なんとも大変な冒険でしたね。あとは晩ご飯を食べて、お風呂に入って、絵日記を書いたら寝るだけです。
と、思っていたのですが。
「やっと帰ってきたか! コロッケが冷めるところだったぞ」
「あらやだ、りょうちゃんたら両手に花ね」
なぜかおださんまでいらっしゃいました。お座敷の机には大きなお鍋が置かれています。その隣にはたくさんの揚げたてコロッケと、ボウルに山盛りの橙色をしたサラダまで。
今日は何かのお祭りなんでしょうか。
「うにゅ……おだしゃ……?」
「さ、おみちゃん! お着替えするわよ!」
「おきがえ? りょーた、おみ、おきがえするの?」
「悪いようにはされないはずだから。多分」
なんとも不安げな言葉です。しかし、気づいたらご主人さまはおださんの腕の中。ついでにぼくも連れていかれます。
一体どうなってしまうのでしょう……!?
「ぱぱーん! りょーた、おみオオカミさんになった!」
おださんに着替えさせてもらったのは、可愛らしい狼の着ぐるみでした。全身ふわふわで、ちゃんと尻尾もついています。
なんとぼくの分もあって、ご主人さまとお揃いです! がおー!
「似合うなぁ、おみ」
「おみみふわふわー! がおー!」
さっきまでの泣き顔は何処へやら。気づけばご主人さまのお顔は笑顔になっていました。嬉しそうに走り回っては、何度もりょうたさんにじゃれついています。
お昼に出来なかった分、今思い切り甘えているのでしょうか。
「ささ、はやく食べましょ! りょうちゃんは何を持ってきたの?」
「俺はシチューです。かぼちゃたっぷりの」
そう言って、机に置かれていた鍋の蓋を開けます。ほわほわと湯気が立ち上り、かぼちゃとミルクの甘い香りがしました。
ご主人さまのお腹がさっそくきゅるきゅる鳴っています。
「おいしそー!」
「んじゃ、おみ坊が号令な」
「うぃ! 手を合わせてください」
その言葉を合図に、全員ぺちりと手を合わせました。
「いただきまーす!」
「ふふ、召し上がれ」
「たくさん食べろよ、おみ坊」
「熱いから火傷するなよ」
深皿に注がれたシチューを堪能しつつ、かぼちゃサラダの甘さを噛み締めています。それから黄金色の衣をまとったかぼちゃコロッケをサクサク音を立てながら頬張り、そうしてまたシチューを口に運びます。
ご主人さま、お味はいかがですか?
「おいしーい! ぜんぶおいしい!」
「そいつァよかった」
「でも、なんでみんないるの? あと、オオカミさんも」
「ふふ、それはね、おみちゃん」
お口の端についていたコロッケの衣をぬぐいながら、おださんが小さく笑った。
まるて「ぼく」を見透かすような、不思議な目線でした。
「ハロウィンは仮装するものなの。今のおみちゃはキュートな狼さんよ」
「あとは? おみ、何したらいいの?」
「あとは、そうねえ」
おださんは、ご主人さまに小さなかぼちゃ型のバケツを手渡しています。これは一体……?
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