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山茶花時雨 【12月短編】
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「しらたきのくつしたをつくる!」とおみが豪語したのは、ついにこの山にも初雪が降った日のことだった。夜のうちにチラチラと降ったようで、朝庭を見るとうっすらとだが白く染まっていた。
この山は気温が低く、雨も降りやすい。しかしおみの修行に必要なこともあって滝は決して凍らない。その影響かは分からないが、大雪で埋もれるということも起こらない。
とはいえ、底冷えからは逃れることは出来ず、分厚い靴下がないと耐えられない。それを体感したためか、おみはしらたきの分も靴下が必要と思ったのだろう。
我が家の誰よりも暖かそうな格好をしているが。それとこれとは別問題らしい。
「作るのはいいけど、どうやって?」
「マフラーみたいにあみあみする」
「編むのか……」
数ヶ月前、どこかから出てきた毛糸玉を使ってしらたきのマフラーを編んだことがある。その時は規則的に編めばよかったからそこまで難しくもなかった。
もちろん網目はガタガタで、不格好といえばその通りではあったけれど。しらたきの首に巻いてやるとそこまで目立ちはしない。だが靴下は。どうしてそう、いきなりハードルを上げるんだ。
「おみはかぼちゃで、りょーたがおいもだから……」
「な、なにが?」
「いろ! かぼちゃとおいも!」
「なるほど」
いかにもおみらしい表現の仕方だ。橙色の靴下と、紫色の靴下を見てすぐに食べ物を思いつくとは。さすが食いしん坊。
この靴下は余っていた毛糸玉で織田さんが作ってくれた特注だ。ふわふわで暖かくて柔らかい。肌触りも心地よいから最近ずっとおみのお気に入りになっている。
それを、大好きなしらたきにも味わってもらいたかったんだろう。おみ特性のマフラーをつけて背負われているしらたきが、期待に満ちたようにキラキラした瞳をこちらに向けていた。
「しらたきは、うーん……おねぎ?」
「緑にするのか」
「ん」
毛糸玉がたくさん入っている箱に顔を突っ込んで、ごそごそ中を漁っている。背が低いためか足が少し浮いていた。割と大きめの箱だから、小さなおみには探しにくいだろう。
中身を全部ひっくり返したほうが探しやすいだろうけれど、今のおみにはそこまで考える暇はなかったようだ。
小さな足がパタパタと暴れている。尻尾が忙しなく揺れ、むーむー鳴く声も聞こえてきた。新しい生き物かな?
「りょーた、これ、けだま、みゃっ!?」
「あらー」
きっとこうなるだろう、と思っていた通り、重さに耐えきれなかった箱がぐらりと揺れた。そして、そのまま横に倒れていく。
当然顔を突っ込んでいたおみも一緒に。
「みっ……!」
「あーあ。おみ、大丈夫か?」
「ぬあー……びっくり……!」
大量の毛糸玉に助けられたのか、痛さや衝撃よりも驚きの方が大きかったようだ。
昔はびっくりしただけで泣いてたのに。成長したなぁ。
「りょ、りょーた、これなに!?」
「何って、毛糸だろ」
「みああああ動けないいい!」
何とか立ち上がったのはいいが、身体中に毛糸が絡みついていた。尻尾はもろちん、髪にまで絡まっていて、少しでも変な動きをしたら全ての毛糸がおみを襲ってきそうだ。
仕方ない。お前はどうして、そう毎日とんでもないことをしでかすんだ。
「みゃあああ……!」
「あー、ほらほら、大丈夫だからな」
さすがに二人での生活と長くなってきたからおみの涙を止める方法は掴めていた。
「おみ、変に動くなよ?」
「みあああ……」
毛糸まみれの体を抱き上げ、一つ一つ丁寧に解いていく。半泣きになったままのおみはいつも通り俺に抱きつき、ひとしきりみぇみぇ泣いたあとお昼寝の体勢に入ってしまった。
そっと膝に抱き上げ頭を撫であげる。気持ちようさうに喉を鳴らすおみ見て、簡単な靴下の編み方を調べてみよう。相変わらずの変な鳴き声を聞きながら、明日の予定を確認しておこう。
ふわふわであったかいしらたきの靴下を作ってやるために。
この山は気温が低く、雨も降りやすい。しかしおみの修行に必要なこともあって滝は決して凍らない。その影響かは分からないが、大雪で埋もれるということも起こらない。
とはいえ、底冷えからは逃れることは出来ず、分厚い靴下がないと耐えられない。それを体感したためか、おみはしらたきの分も靴下が必要と思ったのだろう。
我が家の誰よりも暖かそうな格好をしているが。それとこれとは別問題らしい。
「作るのはいいけど、どうやって?」
「マフラーみたいにあみあみする」
「編むのか……」
数ヶ月前、どこかから出てきた毛糸玉を使ってしらたきのマフラーを編んだことがある。その時は規則的に編めばよかったからそこまで難しくもなかった。
もちろん網目はガタガタで、不格好といえばその通りではあったけれど。しらたきの首に巻いてやるとそこまで目立ちはしない。だが靴下は。どうしてそう、いきなりハードルを上げるんだ。
「おみはかぼちゃで、りょーたがおいもだから……」
「な、なにが?」
「いろ! かぼちゃとおいも!」
「なるほど」
いかにもおみらしい表現の仕方だ。橙色の靴下と、紫色の靴下を見てすぐに食べ物を思いつくとは。さすが食いしん坊。
この靴下は余っていた毛糸玉で織田さんが作ってくれた特注だ。ふわふわで暖かくて柔らかい。肌触りも心地よいから最近ずっとおみのお気に入りになっている。
それを、大好きなしらたきにも味わってもらいたかったんだろう。おみ特性のマフラーをつけて背負われているしらたきが、期待に満ちたようにキラキラした瞳をこちらに向けていた。
「しらたきは、うーん……おねぎ?」
「緑にするのか」
「ん」
毛糸玉がたくさん入っている箱に顔を突っ込んで、ごそごそ中を漁っている。背が低いためか足が少し浮いていた。割と大きめの箱だから、小さなおみには探しにくいだろう。
中身を全部ひっくり返したほうが探しやすいだろうけれど、今のおみにはそこまで考える暇はなかったようだ。
小さな足がパタパタと暴れている。尻尾が忙しなく揺れ、むーむー鳴く声も聞こえてきた。新しい生き物かな?
「りょーた、これ、けだま、みゃっ!?」
「あらー」
きっとこうなるだろう、と思っていた通り、重さに耐えきれなかった箱がぐらりと揺れた。そして、そのまま横に倒れていく。
当然顔を突っ込んでいたおみも一緒に。
「みっ……!」
「あーあ。おみ、大丈夫か?」
「ぬあー……びっくり……!」
大量の毛糸玉に助けられたのか、痛さや衝撃よりも驚きの方が大きかったようだ。
昔はびっくりしただけで泣いてたのに。成長したなぁ。
「りょ、りょーた、これなに!?」
「何って、毛糸だろ」
「みああああ動けないいい!」
何とか立ち上がったのはいいが、身体中に毛糸が絡みついていた。尻尾はもろちん、髪にまで絡まっていて、少しでも変な動きをしたら全ての毛糸がおみを襲ってきそうだ。
仕方ない。お前はどうして、そう毎日とんでもないことをしでかすんだ。
「みゃあああ……!」
「あー、ほらほら、大丈夫だからな」
さすがに二人での生活と長くなってきたからおみの涙を止める方法は掴めていた。
「おみ、変に動くなよ?」
「みあああ……」
毛糸まみれの体を抱き上げ、一つ一つ丁寧に解いていく。半泣きになったままのおみはいつも通り俺に抱きつき、ひとしきりみぇみぇ泣いたあとお昼寝の体勢に入ってしまった。
そっと膝に抱き上げ頭を撫であげる。気持ちようさうに喉を鳴らすおみ見て、簡単な靴下の編み方を調べてみよう。相変わらずの変な鳴き声を聞きながら、明日の予定を確認しておこう。
ふわふわであったかいしらたきの靴下を作ってやるために。
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