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山茶花時雨 【12月短編】
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「靴下? また難しいものを作ろうとしてるのね」
「おだしゃ……むずかし?」
「ううん。大丈夫。ゆっくり作れば出来るわよ」
おみは、いそいそと色とりどりの毛糸玉を風呂敷に詰め、しらたきを抱っこして織田さんの店へとやってきた。俺はその後ろを黙ってついて行く。
先日、織田さんにモコモコの靴下を作ってもらった。俺とおみの二人分だ。それはそれは暖かく、片時も手放すことができない。
その心地良さを是非とも大好きなしらたきにも! と思ったおみは、家の倉庫から毛糸玉を探し出し、ひとしきり大騒ぎをした後、ようやく織田さんに教えを乞う準備が出来た。ちなみにお目当ての毛糸玉を探し出すことが出来ず、またしても半泣きになりつつ毛糸玉を風呂敷に詰めていた。
なんとも忙しいことだ。
「しらたきも、くつしたがないとさむいよねって」
「あら、おみちゃんは優しいのね」
「うにゅ……」
おみは相変わらず織田さんに弱い。
「そうねぇ、作ってあげたいのは山々だけど……少しやることがあるのよね」
「あやーおだしゃ、いそがし?」
「代わりにイネとマイにお願いしましょうね。アタシほどではないけれど、編み物は出来るはずよ」
「わーい!」
店の奥にある応接間へとパタパタ走っていく。尻尾が楽しそうに揺れていた。久しぶりに三人で遊べることが嬉しいようだ。出雲ではイネとマイによく会っていたが、おみはその時会合に出ていた。
立場は違うが、お互い仲のいい遊び相手として接しているようだ。
「さて。ここからは仕事の話しね」
「ですね」
文机に、向かい合わせになって座る。織田さんが差し出したのはここ数日の気象をまとめたレポートだった。俺も同じように記録をしているが、複数の資料を照らし合わせていく必要がある。
これを週に一度、時間を見つけて行わないといけない。先日、坂口さんが持ってきてくれた資料もこれだ。
「大変よねぇ。いくら室生の家だからと言って、ここまでしないといけないなんて」
「まとめるだけですから。そこまで大変じゃないですよ」
「まあ、これが本業だものね」
「織田さんは副業が本業みたいですね……」
俺が営んでいる「室生書房」は、かつて祖父が始めたものだった。その頃はまだ山の近くに人が住んでいて、怪しまれないようにと始めたものらしい。
途中から近所の人から譲り受けた本を売るようになり、奥には簡単な立ち飲み屋を設置して、好き勝手楽しんでいたそうだ。ちなみに坂口さんはその常連であり、今でも定期的に我が家へ酒を飲みに来る。
「今は便利ですよ。全部ネットで出来ますから」
「割と高く売れるんですって?」
「プレミアがついてたりするんです」
おみが普段読んでいる本は、情操教育と世間を学ぶために室生の家が用意したものだ。毎日少しずつ読み、終わったら次を読んでいく。
そして読み終わった本たちを売るのが「室生書房」だ。今ではネットで店舗を開き、注文を受けたら発送しているため実店舗はおみの遊び場となっている。
「さて、そろそろ靴下の様子を見に行きましょうか」
「確かに。イネとマイに任せっきりだ」
「完成したらみんなでおやつ食べましょうね」
「おみが聞いたら喜びますよ」
そんなことを話していると、応接間から楽しそうな笑い声が響いてきた。弾けるような声にこちらもつい口元が緩んでくる。
扉を開けると、眩しいほどの笑顔でおみが迎えてくれた。それは、冬の朝に見る澄んだ水面のようだった。
「おだしゃ……むずかし?」
「ううん。大丈夫。ゆっくり作れば出来るわよ」
おみは、いそいそと色とりどりの毛糸玉を風呂敷に詰め、しらたきを抱っこして織田さんの店へとやってきた。俺はその後ろを黙ってついて行く。
先日、織田さんにモコモコの靴下を作ってもらった。俺とおみの二人分だ。それはそれは暖かく、片時も手放すことができない。
その心地良さを是非とも大好きなしらたきにも! と思ったおみは、家の倉庫から毛糸玉を探し出し、ひとしきり大騒ぎをした後、ようやく織田さんに教えを乞う準備が出来た。ちなみにお目当ての毛糸玉を探し出すことが出来ず、またしても半泣きになりつつ毛糸玉を風呂敷に詰めていた。
なんとも忙しいことだ。
「しらたきも、くつしたがないとさむいよねって」
「あら、おみちゃんは優しいのね」
「うにゅ……」
おみは相変わらず織田さんに弱い。
「そうねぇ、作ってあげたいのは山々だけど……少しやることがあるのよね」
「あやーおだしゃ、いそがし?」
「代わりにイネとマイにお願いしましょうね。アタシほどではないけれど、編み物は出来るはずよ」
「わーい!」
店の奥にある応接間へとパタパタ走っていく。尻尾が楽しそうに揺れていた。久しぶりに三人で遊べることが嬉しいようだ。出雲ではイネとマイによく会っていたが、おみはその時会合に出ていた。
立場は違うが、お互い仲のいい遊び相手として接しているようだ。
「さて。ここからは仕事の話しね」
「ですね」
文机に、向かい合わせになって座る。織田さんが差し出したのはここ数日の気象をまとめたレポートだった。俺も同じように記録をしているが、複数の資料を照らし合わせていく必要がある。
これを週に一度、時間を見つけて行わないといけない。先日、坂口さんが持ってきてくれた資料もこれだ。
「大変よねぇ。いくら室生の家だからと言って、ここまでしないといけないなんて」
「まとめるだけですから。そこまで大変じゃないですよ」
「まあ、これが本業だものね」
「織田さんは副業が本業みたいですね……」
俺が営んでいる「室生書房」は、かつて祖父が始めたものだった。その頃はまだ山の近くに人が住んでいて、怪しまれないようにと始めたものらしい。
途中から近所の人から譲り受けた本を売るようになり、奥には簡単な立ち飲み屋を設置して、好き勝手楽しんでいたそうだ。ちなみに坂口さんはその常連であり、今でも定期的に我が家へ酒を飲みに来る。
「今は便利ですよ。全部ネットで出来ますから」
「割と高く売れるんですって?」
「プレミアがついてたりするんです」
おみが普段読んでいる本は、情操教育と世間を学ぶために室生の家が用意したものだ。毎日少しずつ読み、終わったら次を読んでいく。
そして読み終わった本たちを売るのが「室生書房」だ。今ではネットで店舗を開き、注文を受けたら発送しているため実店舗はおみの遊び場となっている。
「さて、そろそろ靴下の様子を見に行きましょうか」
「確かに。イネとマイに任せっきりだ」
「完成したらみんなでおやつ食べましょうね」
「おみが聞いたら喜びますよ」
そんなことを話していると、応接間から楽しそうな笑い声が響いてきた。弾けるような声にこちらもつい口元が緩んでくる。
扉を開けると、眩しいほどの笑顔でおみが迎えてくれた。それは、冬の朝に見る澄んだ水面のようだった。
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