泣き虫龍神様

一花みえる

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梅雨【6月長編】

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「たのもー!    たのもー!」
「なんだィ、こんな朝早くから……」
「おはよー!」
    ぼくたちがたどり着いたのは、さかぐちさんのおうちでした。ご主人がおひとりで行ける場所はそう多くありません。
    さかぐちさんのおうちか、修行のための滝か、畑の裏くらいです。
「さかぐちー!    おみだよー!」
    しらたきもいますよ!
「んにゃあ」
    ちびちゃんもいます!
    おはようございます、さかぐちさん!
「朝っぱらから元気だなァ」
「さかぐちは、ねむむ?」
「お前さんのおかげで目が覚めたよ」
「よかったねー」
    さかぐちさんは、そう言うご主人を片手でつまみ上げ、おうちに入れてくれました。ついでにぼくたちもぷらんも宙に浮いてしまいます。
    あわあわ言っているご主人にくっついたまま、ぼくたちはさかぐちさんのお家へと入って行きました。

「で、なんだってこんな時間にオレのとこに来たんだ」
「んとねー、さかぐちに、ききたいことがあるの」
「へェ」
    これくらいしかねェぞ、と言って、さかぐちさんはご主人のために大きなおにぎりを作ってくれました。どうやらご主人のお腹がグゥグゥ鳴っていたのを心配したのでしょう。
    なんてお優しい方!
「聞きたいことがあるなら、室生の坊と来ればいいだろうに」
「んー……おみ、ちょっと、たびにでたかったの」
「旅ねェ」
    そうですとも。ご主人にとって、おひとりでお出かけするのは旅に他なりません!    ぼくとちびちゃんがいるので、実際は三人ですが。
    しかしやっぱりぼくも気になります。どうしてりょうたさんと一緒に来なかったのでしょうか。何か聞かれたくないことがあるのですか?
「さかぐちは、えっと……さかぐちには、ぱぱとまま、いる?」
「んァ?」
「ぱぱとまま、どんなひと?」
「お前……なるほど、それでか」
    さかぐちさんは一度あごの辺りをゆっくりと撫でて、それからお茶を飲みました。そうして深いため息をついたあとに、ご主人の方をじっと見つめてきます。
    ぼくはその視線に、おもわずしっぽがふるりと震えてしまいました。
「ま、旅の恥はかき捨てって言うからなァ。聞かせてやるよ」
「まー!」
    やりましたね、ご主人!
    さかぐちさんとお話ができますよ!
    がんばったかいがありました!
「ったく……ちゃんと話してから逝けってんだ、室生のヤツ」
    ぽつりと呟いたさかぐちさんの言葉は、ご主人に届いていません。でも、ぼくにはそれがどこか寂しそうに聞こえてなりませんでした。
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