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人外

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 私は風になっていた。 

 田園地帯を駆け巡り、都市部をもすり抜けて。行き着いた先は、見覚えのある民家の屋根の上。 

(懐かしいな、母方のおばあちゃんちじゃないか) 

 祖母亡き後、人手に渡ったので、この家には久しく近づいてなかった。

 夢の中だから出来る特権で、屋根に座って郷愁に浸っていると、何者かが真下のドアを勢いよく開ける音がした。 

「何で誰も俺にメールくれないんだよ!!」 


(騒々しいな、誰だろうかまってちゃんは) 

 私は屋根からシュッと身体を反転させ、降り立った。人物は10代後半くらいの少年で、私を見て狼狽えた。 

「ええ⁈ だ、誰っすか? 屋根から降りて来ましたよね!」 

(あれ?私の姿、見えるんだ) 

 取り敢えず私は口を開いた。 

「ああ、私はこの家の…」 

 そこまで言いかけて私はふと首を傾げる。 


(そもそも私とは?元々の持ち主は私から見て祖母だから『孫』か?何者と言えばいいんだろう) 


「この家の『キオク』だ」 

(いいや。どうせ不思議な出現したし。夢だから超人的な事できるし) 


 少年は私の返答に、恐る恐る口を開く。 

「『キオク』ですか…? この家に、以前住んでいた人ですか?」 


 彼は私が『人の姿をした人外(霊含む)』であると考えたようだ。 

(うわー、失敗したな。『人外』設定なら白装束とか黒ローブとか、それっぽい服装にすれば良かった。普通の服装だったよ…)


 どうにもならない事を悔やみつつ、私は答えた。

「住んだ事は無いけどね! 君、何を叫んでいたんだ?」 

「自分、実は中学を出てから漁師をしてまして…」 

「へえ、若いのに珍しい。今ってそういう時代?」 

(今は未来だろうし、彼にとっては私の言い回しが古く感じられているかな…?)

 かと言って、仰々しい言い回しをする趣味はないが。

「いえ、少数派です。…仕事になると数週間とか、船上になって連絡取れなくなるから、中学時代の友達も自分に連絡くれなくなっちゃって」 

「なるほどねー。向こうも向こうの学校で友達できるだろうしね」 

 話を聞いてあげつつ、ぼんやり考えた。 

(今が何年先の未来なのかは分からないけど、若者の悩みは変わらないんだな) 

 
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