美しき吸血鬼は聖女に跪く

朝飯膳

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☆酒好き追放聖女×俺様系伝説の吸血鬼

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 内心ではさっき以上に焦り、なんならもう服の下は嫌な汗でびっしょりなのだが、それを悟られないようにわたしは優雅に笑って見せる。パトリッチェ家で叩きこまれた教育が成果を見せている。

「あら王子。わたしはもう貴方の婚約者じゃないから自由にしてもいいでしょう?」

「マシバ、ここがどこか分かっているのか? 王城だぞ。その男の身元が分からない以上、見逃すわけにはいかない」

 ごもっともである。正論過ぎて反論が出来ない。
 でも、ノアト王国内で処理出来なかった問題を解決するためにわたしは今ここにいるのだ。下手に出る必要はない。……はず。

「……王子。ここは王城なのでしょう? 王城では客人の部屋を許可もなく開けるのが常識なのかしら」

 反論が出来ないので、論点をずらそうと試みたが、「不審者がいると報告を受けた場合は開けることもある」と言い返されて閉まった。駄目だ、こっちが完全に悪いので、何を言っても簡単に言いくるめられてしまう。

「ご、ごめんなさい、先代様。私、誤魔化しきれなくて……」

 このタイミングで謝るなんて、本当に聖花ちゃんは悪いと思っているのだろうか。わざとなら腹が立つし、本気の謝罪なら救いようがない。

「セイカ、君が謝る必要はない。君は何も悪くないのだからね」

 第二王子によるフォロー。
 元をたどれば確かに忍び込んだシルムに問題があるものの、彼女がわたしの返事を待たずに扉を開けなければバレなかったはずなのだ。

 それなのに、目の前でそんなやりとりをされると普通にふつふつと、苛立ちがわいてくる。
 どう言ってこの場を納めたものかな、と考えていると、王子が声を荒げた。

「マシバ、君は他国のスパイにでもなったのか!? あんな金額を吹っ掛けて、他者を王城に招き入れて……!」

 話がぶっ飛びすぎだろ、とは思うけれど、確かに行動だけ見れば、そう言われても仕方がない。
 他国のスパイ、という言葉に、近衛兵たちがざわつき始める。

「近衛兵! マシバを捕らえろ!」

 その言葉に、ザッと近衛兵が動いた。

 命令を下した王子の顔を見て――わたしは察した。これは、仕組まれたことだったのだ、と。

 聖花ちゃんの表情を見るに、彼女がこの計画に参加しているのかは分からない。でも、わたしに途中で難癖をつけて、捕らえる、というたくらみがあったのだろう。
 だから、あんなにも移動時間で寝るようなスケジュールになるほど、治療する相手が転々としていたのか。

 この順番で、と渡された資料は、どうにも効率の悪い順番だった。もっと考えて回ればいいのに、と思わなかったわけじゃないが、でも重症度とかもあるし、と黙ってその順番に従ったが――今思えば、政府の関係者などが組み込まれていたのかもしれない。

 そして、その最低限治療して欲しい人間の傷が癒えたので、今すぐわたしが治療に回る必要性がなくなって――捕らえる、という計画に移ったのか。
 自由になるために力を使え、と脅されたりするのか、と身構え、どう逃げるか考えていると、ふわっと体が浮いた。

「聖女に随分な扱いだ。人間とは、愚かなものだな」

「シルム……」

 シルムが、わたしを抱きかかえていた。
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