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7話

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「はは!またお前かよ!ずいぶんと豚に気に入られたな!」


「・・・最悪です」


あれから数ヶ月の月日がたった。


私はだいぶ今の生活に慣れつつあった。
すでにメイドのお仕事はかなり上達してきている。


もともと素養もあったようで、かなりの腕前になった。


けれど嬉しい事ばかりではなかった。
時間がたつにつれてポルコの行動も、過激になってきてるのだ。


特に夜などはひどいモノだ。


三回に一回程度は私が選ばれている。
誰が見ても私だけ担当が多いのだ。


アリスさんは笑っているが、私からして見れば笑い事などではない。
おそろしい事態であった。


今でも服は別の所に脱ぐように指示をされている。
それどころか最近は、私はポルコの専用のお風呂に入るようにまで命令されている。


私がお風呂からでると、いつも偶然を装ってポルコが入ってくる。
驚く私をみて、醜い笑みを浮かべてくるのだ。


裸の私をみて。
タオルもわざと小さいモノにされている。


しかも、その後にポルコは私が入ったお風呂に入っていく。
わざわざ一番風呂ではなく、私の後を選んでくるのだ。


完全に目を付けられていた。


(あんなのと結婚したら、私どうなっちゃうんだろう)


今はまだ、過激なことはされていない。
私が借金の担保であるからだ。


返却する可能性があるから、丁寧に扱われているらしい。


「悲惨なもんだぜ?親が逃げちまったやつは」


アリスさんはため息交じりに告げた。
妻になれば、ポルコはもう容赦はしないらしい。


考えただけで、体が震える。
あれ以上の地獄があるなど、考えたくもなかった。



数日後。


「今まで、お世話になりました」


同室の子が一人、ここを去っていった。
どうやら親が借金を完済したためらしい。


(そこは律儀なんだ)


あの豚さんも約束はきちんと守るようだ。
地獄のような職場だが、救いはまだあるみたい。


とはいえ私たちが出来るのは日々の仕事を頑張ることだけだ。
借金の返済は完全に外部の家族頼りだ。


(今、どのくらいなのだろう)


私がここに来てからもう半年だ。
領地はだいぶ復興してきているだろう。


私も特別手当を全額返済に充ててもらっている。
父様もあたしを救うために頑張ってくれているはずだ。


まだまだ完全返済までは遠いだろうけど。


だが、確実に減っているはずだ。
苦しい日々だが、終わりがあるのだ。


終われば、また皆が待っている家に帰れる。
そう思うとこの地獄も耐えられる気がした。


さらに数ヶ月後。


「またな、フレデリカ!私がいなくても、頑張れよ!」


「はい。いままで、ありがとうございました、アリスさん」


アリスさんと抱擁しあう。
どうやら彼女の両親も借金を返済し終えたらしい。


短い時間だったが彼女には何度も救われた。
もう親友のようなものだった。


彼女がいなくなってしまうのは、悲しい。
おめでたいことなのだけれど、いなくならないでほしかった。


「お前が出てきたら、今度は外で会おうぜ。今度は、普通の友達として」


「はい。お手紙も書きます。お元気で」


「ああ、またな」


こうして私はアリスさんと別れた。
お互いに姿が見えなくなるまで手を振り合った。


彼女が見えなくなる。
一人私だけが残されてしまう。


どうしよう、一人ぼっちになっちゃった。
メイド達はちょくちょくと入れ替わっている。


最初と比べるとだいぶ顔ぶれが変わってきていた。


よく話していた子はもういない。
これからはとてもさみしくなる。


(でも、みんな帰って行くんだ。私の番だってそう遠くはないはず)


そう思い、沈んだ心を振い立たせる。


さらに数ヶ月後。


どんどんとメイドさん達が入れ変わっていく。
それに対して、私の返済は終わる気配すら見せていない。


(おかしい。こんなのおかしいよ)


私達の借金は確かに膨大だ。
けれどそれ以上に多かった子ですら、もう返されているのだ。


それなに、どうして私はいまだにここにいるのだ。


特別手当だってすべて返済に充てている。
父様だって頑張ってくれているだろうに。


どうして。


「あ、あの!」


「どうしましたか、フレデリカ?」


「今の私の返済状況を、教えていただけないでしょうか」


メイド長に頼み込む。
最初は無理だと断られてしまった。


けれど何度も諦めずにお願いすると、メイド長はやっと折れてくれた。


「・・・フレデリカ」


「はい」


「気を、落とさないように」


「え?」


メイド長が私に書類を手渡す。
父がポルコにしている借金額が書かれた紙だ。


メイド長は、深刻な顔つきで警告していた。


おそるおそる。書類を開く。


「な、なんで!」


書類に書かれた数字を見て、叫ぶ。


「ふ、増えてる!」


数字は、以前よりも増えているのであった。
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