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8話

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「おかしいです!こんなの何かの間違いですよ!」


「フレデリカ、落ち着いて」


「だって!だって!私あんなに頑張って返してるのに!こんなのって!」


「フレデリカ!」


メイド長は私を叱る。
取り乱す私を大声でたしなめた。


「落ち着きなさい。これは、事実です」


「でもぉ!でもぉ!」


「大丈夫。大丈夫だから」


メイド長は私を優しく抱擁した。
そして泣きわめく私の頭を優しくなでてくれる。


「なんでぇ」


「おそらくですが、お父様が追加で借金をなされているのだと思います。旦那様は、性格はあれですが、お金はきちんと管理していますので」


メイド長の話によると、不正の線は薄いとのことだ。
お金のやり取りとなればポルコの独断では難しい。


きちんと監視する組織もるそうだ。
だからポルコの嫌がらせの線は、薄い。


と、なると考えられる可能性は、一つだけ。


父様だ。


父様がきちんと返していないのだ。
そして追加の借金までしている。


ウソだ。そんなのはウソだ。


だって、約束したのだ。
必ず迎えに来る。それまでの辛抱だから、と。


父は必ず迎えに来てくれる。
お金をきちんと返済してくれる。


指切りまでしたのだ。


あの言葉が、ウソであるはずがない。


「フレデリカ。絶望してはいけません。雨は必ず止むのです。だから、諦めないで」


メイド長は私の背中をさすってくれた。
彼女の胸を借りてわんわんと泣いた。


私のこの地獄の日々は、まだ、始まったばかりであったのだと気づいた。


「そろそろ、僕のものにならないか?フレデリカちゃん。君は捨てられたんだ」


ポルコが掃除中の私をなでながら告げた。
どうやらメイド長との会話を聞いていたようだ。


「・・・・・・」


「僕なら君を大切にする。だからほら、僕と結婚してしまおうよ。僕なら、君を捨てたりしない」


「・・・嫌です」


「そうか。まあ、ゆっくり考えるといいさ。時間はたっぷりあるんだからね」


ポルコはあまり食いつかずに、すぐに引いていった。
だがその顔は諦めたというより、楽しんでいるようだった。


私の心が、いつ折れるのかを待ち遠しく思っているようだ。


(必ず、必ず父様はお金を返す。今回はまた干ばつみたいなことが起こっただけ。そうに決まってる)


自分にそう言い聞かせて、日々の業務に耐える。
いつか、いつか必ず、父様は来ると信じて。


数ヶ月後。


ついに私がここに来てから丸一年になった。


父様が来る気配はない。
それどころか借金はどんどんと膨れ上がっていた。


「そろそろ担保一つだと限界かな~」


ポルコは嬉しそうに、言った。
わざと私に聞こえるような大声で。


これ以上借金が増えたら、私は担保として回収され、彼の妻にされる。


(嫌だ、嫌だ嫌だ、父様!どこにいるのですか、父様!)


いいかげん、諦めたらどうだい?」


「ッ!」


豚の手が臀部にふれる。
いやらしい手つきに、臭い息。


思わず呼吸をとめた。


彼は豚の様に私の頬を舐めてきた。


ネトネトとした臭い唾液。
ざらざらと生暖かい下の感触が頬をつたう。


「うう!」


思わず悲鳴を上げる。


「ああ、嫌がる顔も、美しい」


豚は喜びの笑みを浮かべた。
そのまま私の唇を奪おうとしてくる。


(いやあああああ)


抵抗した両手が豚公爵に掴まれる。
乾燥しガサガサとした豚の唇が、重なる。


後退するが、後ろは壁だ。
逃げられない。


目をつむる。
口を堅く閉じる。


けれど豚の舌の先っぽが、堅く閉じた唇の間に入り込んできて。
無理矢理口をこじ開けられる。


あっという間に口の中に入れられてしまった。


「むぐう!うう!」


私の口の中を、他人の舌が這いずり回っていく。


(くさい!くさい!くさい!くさい!)


豚の口臭が伝わってきた。
排水が流れるドブのような匂いだった


私の初めてのファーストキス。
大切な人に渡したかった大切なもの。


「おいしい!おいしいよお!」


こんな奪われ方をするなんて。
目から涙がこぼれ落ちた。


(お父様、いつ迎えに来てくれるのですか)


豚の興奮した鼻息。
生暖かい息を感じながら、今だ来ぬ父を思った。


「あと少しで、私のモノだ。フレデリカちゃん、一杯楽しい事をしようねえ」


「旦那様。まだ、フレデリカはあなたのものではございませんよ?」


「構わんさ。どうせ奴は返すきなどない。取れるだけとって逃げようという魂胆が透けて見えるよ」


「ウソです。そんなのウソに決まっています!」


メイド長とポルコの会話を聞きながら。
私は思わず叫んだ。


もう限界だった。
これ以上どうしろというのだ。


父様。
はやく、はやく来てください。


水道で口を注いだ。
匂いや感触が取れてくれない。


気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い!


「しかたないなあ。ちゃんと真実を見せてあげるよ」


そんな私に。、ポルコはそう告げるのであった。
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