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宮殿での生活
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ルカとの視察を終えてからというもの、私は騎士たちから一目置かれる存在となった。宮殿ですれ違う時は必ず立ち止まって挨拶をされる。
普通の令嬢ではありえない光景が私の日常になっていった。
最初こそ驚いてやめて欲しいと言ったけれど、「あれだけの実力を見せられて挨拶せずにはいられません!」と何故か尊敬の眼差しで見られて以来、皆んながいいなら別にいいか、と半ば諦めて受け入れることにした。
ルカは相変わらず忙しそうだが、視察の際は必ず先頭を切って進んでいく。状況を確認した上で指示を出し、他の騎士たちに任せるのだ。
オレフィスが騎士団長ではあるものの、実質的にはルカが全てを従えているようだった。部下に危ない思いをさせたくはないという、ルカなりの考えがあるようだ。
初めは騎士団長として信用がないのではないかと悩んだ時期もあったそうだが、ルカの思いを聞いてからは考えを変えたという。
騎士は主人を守るものだと教えられてきたが、ルカは部下を守るのが主人の務めだと言ったそうだ。危険な場所に行く時も自分の危険を顧みずに進むため、こちらがヒヤヒヤすると、オレフィスが困ったように笑っていた。
「美味しいか?」
「はいっ、とっても!」
「それは良かった」
ルカは約束(?)通り、視察後は私の好物ばかりを食卓に並べた食事を振る舞ってくれた。その席には必ずルカがいる。
その時間が私にとっては何よりも幸せだった。お菓子やフルーツまで並べられており、どれを食べても美味しいのだ。
この世界の特徴なのか、食べても食べても全く体重に変化もない。幸せの極みだ。なんて幸せなんだろう。
ルカは私がもぐもぐと幸せそうに食べる姿を見て、笑いながら「よく噛んで食べろ」と注意しつつもどこか嬉しそうだった。
馬での移動にも徐々に慣れてきた。ルカに教えてもらい、私は一人でも馬に乗れるようになった。
「ルカ皇太子様、乗れました!!」
やった!
馬に乗るのってこんなに楽しいんだ。
最初は怖かったけれど、馬との信頼関係を少しずつ積み重ねてきたからか、私が落ちないように速度も調整してくれているようだった。知らなかった、馬ってこんなにも賢いのね。
「…あぁ、そのようだな」
颯爽と馬を走らせる私を見て、どこか不満げな様子のルカ。
何?
なんであんな少し不機嫌なの?
「まだ無理はしないように。次の視察までは私と一緒に乗っていこう」
「大丈夫です、私はもう見ての通りバッチリ乗れますから」
「いや、ダメだ。万が一のことがある。この校庭10周以上を同じ速度で回れるようになってから一人で乗ることを許可しよう」
次の視察はルカの言う通りに一緒に乗った。その後、10周どころか20周を同じ速度で、落ちることなく走り切った姿を見て、ルカが渋々許可を出してくれた。
その様子を、オレフィスがまるで面白いものを見たかのように、何故かクスクスと笑いながら見ていた。
ルカに許可をとり、瞬間移動で家に帰ることもあった。ルカの視察に同行していると知ってから、心配の手紙が届くようになったのだ。無事だと安心させたかった。
最初は、宮殿に行って戻ってくるはずのない娘が突然目の前に現れて、驚いた両親を気絶させてしまった。エドワードは気絶まではいかずとも、目をまん丸くしてその場で固まっていた。
しかし、瞬間移動を使えるのだと伝えると驚きながらも理解してくれた。
いつ呼び出しがあるかわからないため長いはできないけれど、家族の安堵する姿を見て初めて瞬間移動の魔法を使えて良かったと思えた。
「マルスティア様、この場合はどのような魔法を使われるのですか?」
「ええっと、この時はここの中心に魔力を送るようにすればいいのよ」
「おおおおぉーー!」
「ふふっ、大袈裟」
私がお手本を見せると、他の騎士たちは感嘆の声を上げる。素直な人たちが多いのね。最初は反応も様々だったけれど、次第に私は騎士たちと打ち解けていくようになった。私の知らない間に、ルカはその様子を遠くの方で微笑ましそうに見ていた。
私の倒し方を身につけた騎士たちはグングンと成長し、着実に実力を身につけていった。
クリスティアはマークと仲睦まじく宮殿内を歩く姿を度々見かけるようになった。お互いに心を開いて打ち解けているようだった。そして私の姿を見るたびに嬉しそうに駆け寄ってきてくれる。
クリスティアは聖女として国民を守ろうと、怪物が入ってくる結界をなんとか修復できないかと奮闘しているようだった。
ルカと共に視察に行って怪我をしないかと心配していたので、少しの傷であれば魔法で治療出来ると言うと驚いていた。
「マルスティア様も聖女の素質があるのでは?」
「まさか!魔力が強いだけで、たまたまだわ」
「そう…?」
クリスティアは納得してなさそうだけれど、物語の中で聖女が2人も登場するはずがないもの。
クリスティアともたわいもない会話を楽しめる仲になった。
そんな日常に慣れてきた頃、変化は突然起きた。
夜中に突如大きなサイレンの音が鳴り響いたかと思うと、けたたましい地響きがどんどんと近づいてくるのがわかった。
最近は珍しく怪物も出ておらず、視察に行く機会が減っていた。だから完全に油断してしまっていた。わずかな変化が、どれほどこの物語を変えてしまうのかということを、私はすっかり忘れてしまっていたのだ。
普通の令嬢ではありえない光景が私の日常になっていった。
最初こそ驚いてやめて欲しいと言ったけれど、「あれだけの実力を見せられて挨拶せずにはいられません!」と何故か尊敬の眼差しで見られて以来、皆んながいいなら別にいいか、と半ば諦めて受け入れることにした。
ルカは相変わらず忙しそうだが、視察の際は必ず先頭を切って進んでいく。状況を確認した上で指示を出し、他の騎士たちに任せるのだ。
オレフィスが騎士団長ではあるものの、実質的にはルカが全てを従えているようだった。部下に危ない思いをさせたくはないという、ルカなりの考えがあるようだ。
初めは騎士団長として信用がないのではないかと悩んだ時期もあったそうだが、ルカの思いを聞いてからは考えを変えたという。
騎士は主人を守るものだと教えられてきたが、ルカは部下を守るのが主人の務めだと言ったそうだ。危険な場所に行く時も自分の危険を顧みずに進むため、こちらがヒヤヒヤすると、オレフィスが困ったように笑っていた。
「美味しいか?」
「はいっ、とっても!」
「それは良かった」
ルカは約束(?)通り、視察後は私の好物ばかりを食卓に並べた食事を振る舞ってくれた。その席には必ずルカがいる。
その時間が私にとっては何よりも幸せだった。お菓子やフルーツまで並べられており、どれを食べても美味しいのだ。
この世界の特徴なのか、食べても食べても全く体重に変化もない。幸せの極みだ。なんて幸せなんだろう。
ルカは私がもぐもぐと幸せそうに食べる姿を見て、笑いながら「よく噛んで食べろ」と注意しつつもどこか嬉しそうだった。
馬での移動にも徐々に慣れてきた。ルカに教えてもらい、私は一人でも馬に乗れるようになった。
「ルカ皇太子様、乗れました!!」
やった!
馬に乗るのってこんなに楽しいんだ。
最初は怖かったけれど、馬との信頼関係を少しずつ積み重ねてきたからか、私が落ちないように速度も調整してくれているようだった。知らなかった、馬ってこんなにも賢いのね。
「…あぁ、そのようだな」
颯爽と馬を走らせる私を見て、どこか不満げな様子のルカ。
何?
なんであんな少し不機嫌なの?
「まだ無理はしないように。次の視察までは私と一緒に乗っていこう」
「大丈夫です、私はもう見ての通りバッチリ乗れますから」
「いや、ダメだ。万が一のことがある。この校庭10周以上を同じ速度で回れるようになってから一人で乗ることを許可しよう」
次の視察はルカの言う通りに一緒に乗った。その後、10周どころか20周を同じ速度で、落ちることなく走り切った姿を見て、ルカが渋々許可を出してくれた。
その様子を、オレフィスがまるで面白いものを見たかのように、何故かクスクスと笑いながら見ていた。
ルカに許可をとり、瞬間移動で家に帰ることもあった。ルカの視察に同行していると知ってから、心配の手紙が届くようになったのだ。無事だと安心させたかった。
最初は、宮殿に行って戻ってくるはずのない娘が突然目の前に現れて、驚いた両親を気絶させてしまった。エドワードは気絶まではいかずとも、目をまん丸くしてその場で固まっていた。
しかし、瞬間移動を使えるのだと伝えると驚きながらも理解してくれた。
いつ呼び出しがあるかわからないため長いはできないけれど、家族の安堵する姿を見て初めて瞬間移動の魔法を使えて良かったと思えた。
「マルスティア様、この場合はどのような魔法を使われるのですか?」
「ええっと、この時はここの中心に魔力を送るようにすればいいのよ」
「おおおおぉーー!」
「ふふっ、大袈裟」
私がお手本を見せると、他の騎士たちは感嘆の声を上げる。素直な人たちが多いのね。最初は反応も様々だったけれど、次第に私は騎士たちと打ち解けていくようになった。私の知らない間に、ルカはその様子を遠くの方で微笑ましそうに見ていた。
私の倒し方を身につけた騎士たちはグングンと成長し、着実に実力を身につけていった。
クリスティアはマークと仲睦まじく宮殿内を歩く姿を度々見かけるようになった。お互いに心を開いて打ち解けているようだった。そして私の姿を見るたびに嬉しそうに駆け寄ってきてくれる。
クリスティアは聖女として国民を守ろうと、怪物が入ってくる結界をなんとか修復できないかと奮闘しているようだった。
ルカと共に視察に行って怪我をしないかと心配していたので、少しの傷であれば魔法で治療出来ると言うと驚いていた。
「マルスティア様も聖女の素質があるのでは?」
「まさか!魔力が強いだけで、たまたまだわ」
「そう…?」
クリスティアは納得してなさそうだけれど、物語の中で聖女が2人も登場するはずがないもの。
クリスティアともたわいもない会話を楽しめる仲になった。
そんな日常に慣れてきた頃、変化は突然起きた。
夜中に突如大きなサイレンの音が鳴り響いたかと思うと、けたたましい地響きがどんどんと近づいてくるのがわかった。
最近は珍しく怪物も出ておらず、視察に行く機会が減っていた。だから完全に油断してしまっていた。わずかな変化が、どれほどこの物語を変えてしまうのかということを、私はすっかり忘れてしまっていたのだ。
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