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今日こそ言うのよ、アリス。

ふぅ、と息を吐き、今にも飛び出してしまいそうな心臓の鼓動を感じながら、なんとか意識を保つ。


目の前にいる無表情なこの騎士に、私は今から想いを告白するのだ。


「マートスっ」


しまった。
声が裏返ってしまった。


もうっ、今更そんなの関係ないわ。


「はい。...一体何ですか?いきなり話があると呼び出されて、結構時間が経ってますし。今日は護衛の仕事が詰まっていて忙しいのですが」


少し気怠そうに話す姿も様になる。でも、この態度は主人である私に対する騎士の態度とは思えないのだけれど。


悔しいけれど、仕方がない。
私は幼い頃から今までずっと、この人が好きだったのだから。


こんな態度ですら、私の胸はときめいて仕方がないのだ。


さぁ、言うのよ。


「マートス、私と婚約しなさい」


言った。言ったわ。


私はぎゅうっと目をつぶる。
マートスはどんな反応をするのかしら。


驚いているかしら。


いつも無表情な彼がどんな表情をしているのか、ドキドキと胸を鳴らしながら、私はそっとマートスを見た。


え?

む、無表情なんですけど。


マートスは少しの間無表情で私を見つめたかと思うと


「良いですよ」


あまりにもあっさりと答えた。少しの迷いもなく。考える素振りも見せず。


私はそれにひどく動揺した。


マートスは表情を変えず、おろおろと焦る私を眺めている。


「こ、婚約よ!...いいの?」


いや、何で私がこんな風に聞いてるのよ。


自分でもおかしいと思いながらも、聞かずにはいられなかった。


マートスが何を考えているのかわからなかった。いつも彼は無表情だが、少しくらい動揺してもおかしくないくらいのことを私は言っているはずなのに。


そんな私の心情を知ってか知らずか、マートスは更に驚くべき言葉を続けた。


「はい。俺はアリスお嬢様のことずっと好きでしたし」


「なっ....」


待って、どういうこと?


マートスが、私のことをずっと好き?


いやいやいや。


...え?


頭の中が混乱して働かない。
こんな返答を受けるなんて、誰が予想できるっていうのよ。


「アリスお嬢様」


「は、はいっ」


いや。はいって何よ。
思わず口から出た返答に、自分でも苦笑いを浮かべてしまう。


「もう、今から俺と貴方は婚約者ということでよろしいですよね?」


「そっ...そう、ね」


婚約者という言葉に動揺しながらも、何とか冷静さを取り戻しながら答える。


「では」


ぐっと腕を引っ張られたかと思うと、私はすっぽりとマートスの腕の中に収まった。


「なっ、マッ、マッ....!」


驚きすぎて言葉にならず、固まってしまった。そんな私に、マートスはようやく表情を変え、ふっと笑いながら見つめていた。


「俺が貴方に興味がないと思ったら大間違いですよ。もう、随分前に伯爵様とは話がついています。すぐに婚姻の準備を始めましょう」


...ようやく貴方は俺のものだ。


ボソッと、マートスが呟く声が聞こえた気がした。
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