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幼少期に両親を亡くして孤児院で暮らしていた俺は、10歳を迎えた頃、伯爵様に引き取られ騎士として仕えるようになった。
「パパ、あたちこのお兄ちゃんと遊ぶ!」
俺が住んでいた孤児院は伯爵家の管理下で、その日はたまたま街に出たいと言うアリスお嬢様を連れ、見回りに来た日だった。
バチっと、お嬢様と目が合った。
ぱあっと何やら彼女の目が輝いたようにも見えたが俺には関係ない。
なんだ、金持ちの娘か。
そんなことを思いながら、俺は気にせず当番となっていた中庭の掃除を続けた。
「なんだアリス、この子が気に入ったか」
「うん!お兄ちゃん、アリスと遊ぼう」
何だこのちっこいのは。
彼女はグイグイと俺の手を引き、満足そうににこーっと笑った。
「君、名前は何という?」
隣に立っていた人の良さそうな顔の父親が俺に聞いてきた。
「...マートス」
「マートスか。顔立ちも良いし体格も良さそうだ。よしっ、気に入った」
何やら俺は気に入られたようだ。
その日から俺を引き取る手続きが取られ、以来伯爵家の騎士団の一員として伯爵家に仕えている。
「マートス、遊ぼう!」
人懐っこく可愛らしい笑みを浮かべながら俺にトコトコとついて来ていたアリスお嬢様は、いつしか口調も強くなり、純粋な姿はどこへやら、ある意味で立派な御令嬢となっていた。
「マートス、来なさい!」
「...何でしょうか」
腕を組みながら俺を呼ぶアリスお嬢様。
その手には何やら可愛らしい包装紙に包まれたものがあり、俺がアリス様の前に立つと同時にぐいっとその手を俺の前に突きつけるように出した。
「あっ、あげるわ。失敗したから美味しくないとは思うけど、ありがたく受け取りなさい」
「あー、はい」
「勘違いしないでよね。貴方のために作ったわけではないからねっ」
「はあ...」
何度目だろうか。
どうやら俺はアリスお嬢様に気に入られているらしい。
言い方こそきついものの、顔を赤らめ、ふるふると微かに震えるその腕を見たら、誰もが好意を持っているのが分かるはずだ。
隣にいる侍女がニマニマとしながら俺見る。
...居心地が悪いんだが。
人から好意を持たれることに慣れていない俺は、お嬢様にどう対応して良いかわからずに困っていた。
「おおっ、王子様のお出ましだ」
俺が騎士の練習部屋へ戻った瞬間、ヒューッと同僚の騎士達が冷やかしの声を上げる。
「今日は手作りのクッキーか。やるなぁ~」
「...やめてくれ」
アリスお嬢様が俺に対して好意を持っているということはお嬢様本人以外の誰もが周知の事だった。
どうしたものか。
頭を悩ませていたのはそれだけではない。
ある日伯爵様に呼ばれて部屋に行くと、伯爵様は何やら山積みになった冊子を机の上に並べ、熱心にそれを見ていた。
「伯爵様、マートスです」
「おお、入れ」
「失礼致します」
お辞儀をし、部屋へと足を踏み入れる。
...なんだ。
物凄く嫌な予感がするのだが。
「いやぁ見てくれ。私の娘もそろそろ縁談が来てもおかしくない歳だろう。こんなにたくさん縁談話が届いてねぇ」
困ったもんだよと、全く困った様子もなく話す伯爵様。
話があると言われて来たのだが、いったい何なんだ。入っていきなりアリスお嬢様の縁談話について聞かされ、訳がわからずとりあえずそうですか、と返事を返す。
「おっ!これはまた綺麗な顔立ちで...はぁー、この公爵もなかなかだ」
「.....」
「こんなに良い縁談が来るとはなぁ」
「......」
チラッチラッと俺の方を見ながら大袈裟に冊子に載っているであろう縁談相手を褒めちぎる。
どこかで見た光景だな。
思い出した。アリスお嬢様が俺に何かを渡した時に、試すように俺をチラッと見るのと同じだ。
...血は争えないということか。
無反応な俺を見て、ちぇっという風に口をすぼめたかと思うと、もう良い、公務に戻れと部屋を追い出された。
親子して何がしたいんだ。
ふぅ、と俺は小さくため息をついた。
「パパ、あたちこのお兄ちゃんと遊ぶ!」
俺が住んでいた孤児院は伯爵家の管理下で、その日はたまたま街に出たいと言うアリスお嬢様を連れ、見回りに来た日だった。
バチっと、お嬢様と目が合った。
ぱあっと何やら彼女の目が輝いたようにも見えたが俺には関係ない。
なんだ、金持ちの娘か。
そんなことを思いながら、俺は気にせず当番となっていた中庭の掃除を続けた。
「なんだアリス、この子が気に入ったか」
「うん!お兄ちゃん、アリスと遊ぼう」
何だこのちっこいのは。
彼女はグイグイと俺の手を引き、満足そうににこーっと笑った。
「君、名前は何という?」
隣に立っていた人の良さそうな顔の父親が俺に聞いてきた。
「...マートス」
「マートスか。顔立ちも良いし体格も良さそうだ。よしっ、気に入った」
何やら俺は気に入られたようだ。
その日から俺を引き取る手続きが取られ、以来伯爵家の騎士団の一員として伯爵家に仕えている。
「マートス、遊ぼう!」
人懐っこく可愛らしい笑みを浮かべながら俺にトコトコとついて来ていたアリスお嬢様は、いつしか口調も強くなり、純粋な姿はどこへやら、ある意味で立派な御令嬢となっていた。
「マートス、来なさい!」
「...何でしょうか」
腕を組みながら俺を呼ぶアリスお嬢様。
その手には何やら可愛らしい包装紙に包まれたものがあり、俺がアリス様の前に立つと同時にぐいっとその手を俺の前に突きつけるように出した。
「あっ、あげるわ。失敗したから美味しくないとは思うけど、ありがたく受け取りなさい」
「あー、はい」
「勘違いしないでよね。貴方のために作ったわけではないからねっ」
「はあ...」
何度目だろうか。
どうやら俺はアリスお嬢様に気に入られているらしい。
言い方こそきついものの、顔を赤らめ、ふるふると微かに震えるその腕を見たら、誰もが好意を持っているのが分かるはずだ。
隣にいる侍女がニマニマとしながら俺見る。
...居心地が悪いんだが。
人から好意を持たれることに慣れていない俺は、お嬢様にどう対応して良いかわからずに困っていた。
「おおっ、王子様のお出ましだ」
俺が騎士の練習部屋へ戻った瞬間、ヒューッと同僚の騎士達が冷やかしの声を上げる。
「今日は手作りのクッキーか。やるなぁ~」
「...やめてくれ」
アリスお嬢様が俺に対して好意を持っているということはお嬢様本人以外の誰もが周知の事だった。
どうしたものか。
頭を悩ませていたのはそれだけではない。
ある日伯爵様に呼ばれて部屋に行くと、伯爵様は何やら山積みになった冊子を机の上に並べ、熱心にそれを見ていた。
「伯爵様、マートスです」
「おお、入れ」
「失礼致します」
お辞儀をし、部屋へと足を踏み入れる。
...なんだ。
物凄く嫌な予感がするのだが。
「いやぁ見てくれ。私の娘もそろそろ縁談が来てもおかしくない歳だろう。こんなにたくさん縁談話が届いてねぇ」
困ったもんだよと、全く困った様子もなく話す伯爵様。
話があると言われて来たのだが、いったい何なんだ。入っていきなりアリスお嬢様の縁談話について聞かされ、訳がわからずとりあえずそうですか、と返事を返す。
「おっ!これはまた綺麗な顔立ちで...はぁー、この公爵もなかなかだ」
「.....」
「こんなに良い縁談が来るとはなぁ」
「......」
チラッチラッと俺の方を見ながら大袈裟に冊子に載っているであろう縁談相手を褒めちぎる。
どこかで見た光景だな。
思い出した。アリスお嬢様が俺に何かを渡した時に、試すように俺をチラッと見るのと同じだ。
...血は争えないということか。
無反応な俺を見て、ちぇっという風に口をすぼめたかと思うと、もう良い、公務に戻れと部屋を追い出された。
親子して何がしたいんだ。
ふぅ、と俺は小さくため息をついた。
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