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11.5 コジマの知らぬ間に・・・
しおりを挟む(騎士クルト視点)
「なぁ、ウラ婆」
「なんだい?」
俺が呼びかけると、薬屋のカウンターで新聞を広げているウラ婆が面倒くさそうに顔を上げた。
「コジマは・・・?」
俺は結局、もう2週間以上彼女のマッサージを受けていないのだが。
まぁ、そのうち10日は俺自身が怖気づいてコジマに会いに来れなかっただけだ。ああそうさ、自業自得だ。
「あー、あの子はね、今ちょっと厄介事に巻き込まれてっから隠れてんだよ」
何だって?
それは一体・・・はっ、まさかこないだの鍛治職人か?!
「今、コンラートのこと考えたろ? 違う違う。あの子なんか大した脅威になりゃしないさ。あたしが言ってんのは・・・・おっと、おいでなすったよ。あんた、そっち隠れてな!」
ウラ婆に促され、俺はすかさず薬屋の奥の相談コーナーに身を隠した。
ーギィィ
ドアが開いて、見るからに高位の貴族が伴を従えて店へ入ってきた。
っというか、王弟のゲオルグ殿下じゃないかーー?!!!!
「ようこそおいで下さいました、殿下」
「殿下はよせ。今はお忍びなんだ」
どこが?
という言葉はもちろん抑え込む。
厄介事って、王弟殿下絡みかよ!!
一体何をやってこんな大物を引っ張り出してきたんだ?
「ねぇ。いい加減観念して僕にあの子を渡してよ。あの美しき黒髪の女神を」
ーーッ!!?!
あ、危なかった。
驚いて声を上げるとこだった。
にしても、なぜコジマの真の姿がバレている?
いや、そうか、わかったぞ。
王族のあのシトリンの瞳は真実を映すと言われているからーーーくそっ!
そんなのズルじゃないか!
「・・・あれは私が見せた夢だと何度も申し上げておりますが?!」
「いーや、僕は分かってる。あなたが彼女を隠していることも、うちの侍従が必死に会わせまいとしていることもね」
「はぁ・・・しょうがないお人だねぇ」
「ふふ・・・やっと会わせる気になったかい?」
殿下は嬉しそうに身を乗り出して仰った。
侍従は諦め顔で傍観している。
「あの子はね、この世界の人間じゃないんだよ」
え?
ウラ婆の言葉に驚いたのは・・・俺だけか?
「そりゃそうだ、天界の女神だもの」
したり顔で言い切る殿下に、
「ゲオルグ様、恐れながら私には魔界のモノにしか見えませんでした」
と、遠慮がちに言う侍従。
「そんなにあの夜の快感が忘れられないのかい?」
「ぶ、無礼であろう!」
なにか今、聞き捨てならない言葉が聞こえたような?!
侍従がしゃしゃり出てきて、ウラ婆に詰め寄るが・・・
なんだ、あの夜の・・・快感って??
コジマ・・・一体、殿下に何をやらされたんだ??
・・・いつものマッサージ、だよな?
「いいんだよ、ヨナタン。その通りなんだから」
殿下は何を思い出されたのか、僅かに頬を染めておられる。
手振りで侍従を下がらせると、カウンターのウラ婆に更に近づいてからこう仰った。
「僕はね、もうすぐ継承権を放棄して臣籍に下るんだ。でね、兄上から公爵領を賜って、婚姻も認めてもらえることになるんだって・・・わかる?僕のいいたいこと」
まさか・・・
コジマをその、お相手に・・・??
「はっ・・・そりゃダメだ。いいかい、これから大魔女ウラ・グルースアルティヒの名において発言する。王家の坊ちゃん、心して聞きな!」
突然声を張ったウラ婆に、殿下も侍従も、そして俺も思わず姿勢を正した。
「コジマを手に入れる為に必要なものは金でも地位でも名誉でもない。あの子が欲しけりゃ、あの子の孤独を理解し癒してやることから始めな!」
◇◇
大魔女の名において・・・か。
薬屋を後にして、俺は歩きながらずっと考えている。
ウラ婆のあの前置きによって、どうやら発言中の不敬が免責されたらしい。
侍従はポカンと口を開けて固まっていたが、さすが王弟殿下、笑っていらっしゃったな。
『そうか、女神様の名はコジマと仰るのか』
とか言って。それに、
『僕にもまだ可能性はあるのだな!』
と、随分前向きな発言まで残して帰られたし。
・
・
・
おい、クルト!
ウラ婆は俺にもヒントをくれたんだぞ、しっかりしろよ!
『コジマを手に入れる為に必要なものは金でも地位でも名誉でもない』
なら、俺にだってチャンスはあるわけだ。
『あの子が欲しけりゃ、あの子の孤独を理解し癒してやることから始めな!』
コジマの孤独ってなんだろうな・・・
俺は彼女のことを何にも知らない。
いや、本当にそうか?
あの日、初めて2人で食事に行ったあの時、コジマ言ってたな。
いつもは料理してるって。
それに、兄が2人に双子の弟が1人いるんだって。
このこと、他に知ってるやついるか?
コジマの孤独・・・
それは家族に会えないこと、か?
よし、王弟殿下のように前向きに考えよう。俺にもチャンスはある。
まずはコジマのことを知ること、話はそれからだ。
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