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21.三つ巴プラスα

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「ちょっ、こっちに座るの?」

店の奥のテーブル席は4人掛けで、前にクルトと一緒に来た時もここだったんだけど、ヴィルは私を奥に座らせるとそのまま通路側に並んで腰掛けた。

通路を挟んだ向いには、クルトと同僚さんが座ってて、

「あ、コジマ、体調はどうだ?」

って、ヴィルを挟んだ向こう側からクルトが遠慮がちに聞いてきた。


「うん、心配かけてゴメンね。お腹減ってご飯食べに来てるくらいだから、もう大丈夫だよ」


私が普段通り笑って答えると、


「・・・ヴィルヘルムに本当の名前を呼んでもらったんだな・・・」

って、問いかけるっていうか独り言のようにクルトが言った。


「え?お前、解き方知ってたのか?」


私より先にヴィルがクルトにそう尋ねると、


「今朝、ウラ婆が教えてくれたんだ。コンラートも一緒に聞いていた」


そうなんだ。
じゃあ、もしヴィルが私の名前を呼ばなくてもコンラートかクルトが私に名前を尋ねてくれたんだね。

でも、ヴィルでよかった。

あ・・・なんか、そう思ってしまった。
りっくんとの電話の後、何も言ってないのにヴィルは自分から私の名前を呼んでくれたもん。
私はそれがすごく嬉しかったんだ・・・


「あの・・・良かったら俺にも君の名前を教えてくれないか?」


クルトが遠慮がちに尋ねてきたから、


「もちろん。改めまして、私の名前はモガッーー


言ってる途中で横からヴィルが口を塞いできた。
ちょっとー!!??
その手を外して軽く抗議する。


「っ何なの!?」

「だって、お前の名前はなんか特別っていうか・・・」


なぁに、その顔?
唇とんがってるから・・・ちょっとカワイイから・・・


「・・・もう、何言ってんのよ。今まで誰にも聞かれなかっただけで、聞いてくれたら初めて会う人にだって名乗るよ?」



とりあえず私は一旦ヴィルと目を合わせたあと、大丈夫だよってつもりで頷いてみせた。
それからもう一度、ヴィルの向こう側にいるクルトに向かって、


「私の名前はリコ。リコ・コジマ。でも、これまで通り「へぇ! リコって言うのかー!」


私が、これまで通りコジマって呼んでねって言おうとしたタイミングで、いつの間にお店に入ってきてたのか、コンラートが大声で割り込んできた。

両手にはなぜかお料理をたくさん乗せたトレイを持っている。


「ほらよ。マルクスさんは腰がヤベーからな。俺が運んでやったぞ」

そんなことを言いながら、コンラートは慣れた手つきで私たちのテーブルにお料理を並べていく。

で、そのまま流れるようにテーブルを挟んだ私たちの対面へ腰を下ろした。


「コンラート!お前はいつも通りカウンターへ行けよ!」

ヴィルがすっごく嫌そうに言い放ってるけど、

「おやっさーん、ここ、エール3つ追加ね!」

とか言って、マルクスさんに注文までしちゃう始末・・・
ってか、私お酒はちょっと・・・


「お前、まだ陽も高いうちから飲むなよ」

「はっ、あんたには言われたくないね」

って、なんか言い合いが始まってるし。



ヴィル越しにチラッとクルトを見ると、小さな声で「リコ・・リコ・・・」ってブツブツ呟いてた。


「・・・わ、私の国ではね、家族や関係じゃないと下の名前で呼ばないんだよ」


さっきコンラートに言うタイミングを壊されたし、もう一度伝えとかないと・・・
そう思って、親しい関係を強調したつもりだったんだけどね。


「じゃあ、俺らの仲だし問題ねーな、リコ!」

って。


コンラート・・・
ワザとかな?ワザとだよね。

「はぁ・・・」

思わずため息ついてたら、


「へぇー、コジマのホントの名前はリコって言うのかい?」


なんて言いながらジョッキのエールを3つ、テーブルに並べていくマルクスさん。


「いや、まあ。コジマもホントの名前ですけどね。名字なだけで」

「そうなのかい? いやぁ、それにしても、なんだ。今まで知らなかったとは言え、こんな別嬪さんにマッサージしてもらってたなんてなぁ・・・今度からちょっと構えちまうなぁ」


ボリボリとほっぺを掻きながら、マルクスさんが照れた表情で言うもんだから、


「そんなこと気にせず、これからも今まで通り気軽に通ってくださいね?」


って声をかけたら、


「・・・俺も行ってみようかな」


って、クルトの同僚さんがボソッと言ったんだ。

けどその後、

「イテッ!!」

って、その人の声がしたの。
クルト・・・もしかして何かした?


2人はテーブル上で無言の睨み合いをしてたかと思うと、そのまま食べ終えたお皿を片付け始めちゃった。

それから、

「おい、あれ伝えといた方がよくねぇか?」

って、立ち上がった同僚さんがクルトに言って「そうだな」ってクルト、こっちを向くとなんか急に真剣な顔をして言ったの。


「近々、ヴィルヘルムに王宮から呼び出しがあるらしい。黒竜討伐の件だ」


「ああ、それは察しがついてる」


ヴィルも真顔で返したら、クルトの同僚さんが「そっちじゃねえよ」とか言ってクルトを小突いてた。

クルトはもう一度、今度は一旦私の方を見て、それからヴィルに向き直ったんだ。


「あと、あんたが再起不能レベルのケガしてたことはかなり知れ渡ってたろ? それなのに、綺麗さっぱり治ってんのはどういうことだって、昨日の今日ですでに噂になってる。つまりその・・・コジマのことが心配だ」



え、私?

思わず自分の顔を指さして皆を見ると、クルトも同僚さんも、それからヴィルにコンラートまでもが揃ってこくんと頷いた。
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