2 / 15
2.『傾国の美貌』
しおりを挟む「誰?」
「えっ? あんな美女、うちの学園にいた?」
「ちょ、お前声掛けて名前聞いてこいよ」
「・・・ムリ、目が潰れる」
カイルにエスコートを断られたから、私は仕方なく1人でパーティー会場である学園のホールに入ったわ。
会場入りしてから、周囲の視線を独り占めしているのはこの私、リナリー・クロッカ。クロッカ男爵家の三女よ。
今までは訓練のため、いつも引っ詰めて小さく纏めてたピンクブロンドの髪。今日はハーフアップにして、下ろした毛先は緩く巻いて可愛らしさを演出してみたの。
ペリドットのようなこの若葉色の瞳は、なぜか熱っぽく潤んで見えるでしょ?
スキル発動中はそういう仕様みたいね、どうやら。
騎士科で3年間あんなに鍛えたのに、ちっとも筋肉がつかない華奢なままの身体。
日焼けもしない白肌は、シルクのように滑らかだしね。
この特殊スキルを持っているとこんな感じで基本的な美が保たれてしまうらしいの。
私は小さい頃から、このスキルに何度となく悩まされてきたわ。
小さい時はスキルのオンオフをコントロール出来なくて、溢れ出る魅力を抑えることができなかったからなおさらね。
人攫いにあったり、変態に追いかけ回されたり・・・
異性からは無駄に好意を向けられ、同性からは意味無く妬まれるという理不尽も経験済みよ。
大きくなるにつれスキルのオンオフをマスターした後は、スイッチは常時オフよ。
さらに地味に装うことを覚えて『目立たず大人しく』をモットーに、競って煌びやかに飾り立てる令嬢たちに埋もれて生きてきたわ。
そんな私が今夜初めて意図的にスイッチをオンに切り替えたのよ。
ほら、こうして着飾れば、一体どこのお姫様?!って自分ツッコミしてしまうほどの完璧な仕上がりだわ。
私の持つ3つの特殊スキルのうち、まず発動させたのはこれ。
*☼*―――――――――――
特殊スキル『傾国の美貌』
―――――――――――*☼*
みんな見てるわね、ほら、あっちに騎士科の面々が揃ってるからちょっとビックリさせてやろう。
「皆様、ごきげんよう」
私はこれまで見せたことも無い令嬢スマイルで、同級生たちに挨拶してみたの。
『風使い』のマークも、『獣化(ヒョウ)』のクリストファーも、マッチョなトビアスも、みんなみんな口を開けたまま固まってる。
そのままみんなの頬は赤く染まって、面白いくらい噛みながら挨拶し始めたわよ。
「こっ、こんばんは、ご令嬢!私はマーク・ブリンナーと申します。ブリンナー侯爵家次男でふっ」
知ってるわ。
私がカイルに押し負けて吹っ飛ばされた時、マークがこっそり風で守ってくれてたの気づいてたわよ。
「あっあの、私はリンデル子爵家嫡男、キュり、クリストファー・リンデルです!」
うん、知ってる。
私が泣きそうになって、1人になりたい時はいつも自然にそういう時間を作ってくれてたのも知ってるんだから。
「じっ、自分はトビアス・バードウィッスルと申しましゅ、よっよろしければあなた様のお名前をお、お伺いしたく・・・」
ふ、ふふふっ
だから、知ってるって。
私がケガしたら誰よりも早く駆けつけて、声をかけるより先に『治癒』のスキルで治してくれたわね?
もう、みんな何言ってんのかしら。
私は思わず笑みが込み上げて、扇で口元を隠した。
私はリナリーよ?
あなた達、昨日カイルと一緒に私のことボロくそ言って笑ってたじゃない。
胸が板だとか、トビアスの大胸筋揉んだ方がマシだとか・・・
女じゃないとか、ね?
あなた達のその目は今、何を見ているのかしら?
あら、3人とも同時にゴクリと唾を飲み込んだわね。
彼らの目線は今、若草色のドレスに包まれた私の胸の谷間に釘付けよ。
「あらやだ、冗談はよして下さらない?
私はリナリーよ。リナリー・クロッカ、騎士科で一緒に頑張ってきた仲じゃない。ヒドいわ、わからないなんて・・・」
「「「えっ??!」」」
3人はその場で固まった。
「髪の色・・・確かに珍しいピンクブロンドだが・・・」
「いや、そんなバカな・・・別人だろうどう見ても」
「乳が・・・リナリーは貧乳では無かったか?」
みんな混乱してるわね、面白い。
「私、昨日カイルに断られたでしょう? だからダンスのパートナーがいないの。どなたかご一緒して頂けないかしら?」
私は絹のグローブに包まれた左手を彼らの前に出して、首をこてんと倒した。
哀願するようにペリドットの瞳が一層潤んで、自然に上目遣いにもなる。
先程、2つ目の特殊スキルを発動させたのよ。
*☼*―――――――――
特殊スキル『籠絡』
―――――――――*☼*
女の子らしさから最もかけ離れた生活を送ってきた私に、こんなにも自然に媚びる仕草をさせてしまう、ほんと恐ろしいスキルだわ。素では絶対無理だもの。
さあ、もうすぐパーティーが始まる。
カイルは当然モテまくりだから、誘い出すタイミングが重要ね。
何しろ、短く刈ったアッシュブロンドに紫がかった青の瞳を持つ彼は、その辺の貴族令嬢よりもよっぽど見目麗しいんだもの。
鍛え上げられた身体は頼もしくて家柄も申し分ない上、将来を約束されたエリートときたら女が集らないわけがないじゃない。
「ちょっ!待て、ここはひとつ公平に勝負しようじゃないか」
あら?
考えこんでいる間に、何か揉めてるみたいね。
「あの、良かったら1曲ずつ踊ってほしいの。みんなにはほんとお世話になったもの。ほら、いろいろ助けてもらったでしょう? それに・・・今日でお別れだから・・・」
私は一旦俯いて、それから顔を上げると儚げに笑ってみせた。
心持ち、視界が滲んで見える。
次の瞬間、瞬きひとつで涙がこぼれ落ちた。
3人が息を飲む。
もうヤダ、このスキル。
同性に嫌われることこの上ないわね。
「「「リナリー・・・」」」
3人が、聞いたこともない優しい声で名前を呼んでくれた。そして、それぞれが一歩ずつ歩み寄って私の正面に並ぶ。
真ん中に立つクリストファーがいち早くハンカチを取り出して、少し固い表情を浮かべたままそっと私の涙を拭いてくれた。
「よ、よし!ダンスなら任せろ、まず最初は俺だ」
マークが息巻いて言ったけど、
「いや、ここは俺だろ」
ハンカチをポケットにしまいつつ、クリストファーが強く出る。
そこへ、
「抜けがけはよせ、腕相撲で決めよう」
と、どうしてもパワーで決めたい筋肉自慢のトビアス。
あらあら、結局揉めるのね。
仕方ないんだから・・・
とりあえず最初はマークにお願いしようと手を伸ばしかけたところで、急に後ろから腰を抱かれた。
ーーっ!!
ビックリして、息が止まるかと思ったわ。
「カイル?!」
抱き寄せられたまま横に立つカイルを見上げると、いつもよりずっと大人っぽい礼装仕様のカイルが、なぜかとぉっても不機嫌そうな顔をして私を見下ろしていた。
37
あなたにおすすめの小説
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。
みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。
死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。
母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。
無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。
王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え?
「ファビアン様に死期が迫ってる!」
王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ?
慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。
不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。
幸せな結末を、ぜひご確認ください!!
(※本編はヒロイン視点、全5話完結)
(※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします)
※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。
【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【完結まで執筆済み】筋肉が語る男、冷徹と噂される騎士団長レオン・バルクハルト。
――そんな彼が、ある日突然、婚約破棄されたという噂が城下に広まった。
「……えっ、それってめっちゃ美味しい展開じゃない!?」
破天荒で豪快な令嬢、ミレイア・グランシェリは思った。
重度の“筋肉フェチ”で料理上手、○○なのに自由すぎる彼女が取った行動は──まさかの自ら押しかけ!?
騎士団で巻き起こる爆笑と騒動、そして、不器用なふたりの距離は少しずつ近づいていく。
これは、筋肉を愛し、胃袋を掴み、心まで溶かす姉御ヒロインが、
推しの騎士団長を全力で幸せにするまでの、ときめきと笑いと“ざまぁ”の物語。
転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!
「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」
王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。
不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。
もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた?
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)
図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました
鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。
素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。
とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。
「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~
紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。
ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。
邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。
「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」
そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。
腹黒メガネっ娘が宰相の父をぎゃふんと言わせて成り上がるぞ物語
しゃもん
恋愛
平凡顔で地位も金もある実父をギャフンと言わせるために同じく平凡顔の素直なレイチェルが、ビバ、ご先祖様の魔法書を見つけて最強魔法を習得し、超絶美形の恋人をつくり周りのいじめにもくじけず。
いつの間にか腹黒になって人生勝ち組になっていくお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる