【R18】逆襲〜片想いの相手に奇襲かけたら、反撃されたのち囚われました〜

ことりちゃん

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2.『傾国の美貌』

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「誰?」
「えっ? あんな美女、うちの学園にいた?」

「ちょ、お前声掛けて名前聞いてこいよ」
「・・・ムリ、目が潰れる」



カイルにエスコートを断られたから、私は仕方なく1人でパーティー会場である学園のホールに入ったわ。
会場入りしてから、周囲の視線を独り占めしているのはこの私、リナリー・クロッカ。クロッカ男爵家の三女よ。

今までは訓練のため、いつも引っ詰めて小さく纏めてたピンクブロンドの髪。今日はハーフアップにして、下ろした毛先は緩く巻いて可愛らしさを演出してみたの。

ペリドットのようなこの若葉色の瞳は、なぜか熱っぽく潤んで見えるでしょ?
スキル発動中はそういう仕様みたいね、どうやら。


騎士科で3年間あんなに鍛えたのに、ちっとも筋肉がつかない華奢なままの身体。
日焼けもしない白肌は、シルクのように滑らかだしね。
この特殊スキルを持っているとこんな感じで基本的な美が保たれてしまうらしいの。


私は小さい頃から、このスキルに何度となく悩まされてきたわ。
小さい時はスキルのオンオフをコントロール出来なくて、溢れ出る魅力を抑えることができなかったからなおさらね。

人攫いにあったり、変態に追いかけ回されたり・・・

異性からは無駄に好意を向けられ、同性からは意味無く妬まれるという理不尽も経験済みよ。


大きくなるにつれスキルのオンオフをマスターした後は、スイッチは常時オフよ。
さらに地味に装うことを覚えて『目立たず大人しく』をモットーに、競って煌びやかに飾り立てる令嬢たちに埋もれて生きてきたわ。


 
そんな私が今夜初めて意図的にスイッチをオンに切り替えたのよ。
ほら、こうして着飾れば、一体どこのお姫様?!って自分ツッコミしてしまうほどの完璧な仕上がりだわ。


私の持つ3つの特殊スキルのうち、まず発動させたのはこれ。


*☼*―――――――――――

特殊スキル『傾国の美貌』

―――――――――――*☼*




みんな見てるわね、ほら、あっちに騎士科の面々が揃ってるからちょっとビックリさせてやろう。







「皆様、ごきげんよう」

私はこれまで見せたことも無い令嬢スマイルで、同級生たちに挨拶してみたの。

『風使い』のマークも、『獣化(ヒョウ)』のクリストファーも、マッチョなトビアスも、みんなみんな口を開けたまま固まってる。

そのままみんなの頬は赤く染まって、面白いくらい噛みながら挨拶し始めたわよ。



「こっ、こんばんは、ご令嬢!私はマーク・ブリンナーと申します。ブリンナー侯爵家次男でふっ」


知ってるわ。
私がカイルに押し負けて吹っ飛ばされた時、マークがこっそり風で守ってくれてたの気づいてたわよ。



「あっあの、私はリンデル子爵家嫡男、キュり、クリストファー・リンデルです!」


うん、知ってる。
私が泣きそうになって、1人になりたい時はいつも自然にそういう時間を作ってくれてたのも知ってるんだから。



「じっ、自分はトビアス・バードウィッスルと申しましゅ、よっよろしければあなた様のお名前をお、お伺いしたく・・・」


ふ、ふふふっ
だから、知ってるって。
私がケガしたら誰よりも早く駆けつけて、声をかけるより先に『治癒』のスキルで治してくれたわね?



もう、みんな何言ってんのかしら。
私は思わず笑みが込み上げて、扇で口元を隠した。

私はリナリーよ?
あなた達、昨日カイルと一緒に私のことボロくそ言って笑ってたじゃない。

胸が板だとか、トビアスの大胸筋揉んだ方がマシだとか・・・
女じゃないとか、ね?


あなた達のその目は今、何を見ているのかしら?
あら、3人とも同時にゴクリと唾を飲み込んだわね。

彼らの目線は今、若草色のドレスに包まれた私の胸の谷間に釘付けよ。



「あらやだ、冗談はよして下さらない?
私はリナリーよ。リナリー・クロッカ、騎士科で一緒に頑張ってきた仲じゃない。ヒドいわ、わからないなんて・・・」


「「「えっ??!」」」


3人はその場で固まった。


「髪の色・・・確かに珍しいピンクブロンドだが・・・」
「いや、そんなバカな・・・別人だろうどう見ても」
「乳が・・・リナリーは貧乳では無かったか?」


みんな混乱してるわね、面白い。



「私、昨日カイルに断られたでしょう? だからダンスのパートナーがいないの。どなたかご一緒して頂けないかしら?」



私は絹のグローブに包まれた左手を彼らの前に出して、首をこてんと倒した。
哀願するようにペリドットの瞳が一層潤んで、自然に上目遣いにもなる。


先程、2つ目の特殊スキルを発動させたのよ。

*☼*―――――――――

特殊スキル『籠絡』

―――――――――*☼*


女の子らしさから最もかけ離れた生活を送ってきた私に、こんなにも自然に媚びる仕草をさせてしまう、ほんと恐ろしいスキルだわ。素では絶対無理だもの。


さあ、もうすぐパーティーが始まる。
カイルは当然モテまくりだから、誘い出すタイミングが重要ね。

何しろ、短く刈ったアッシュブロンドに紫がかった青の瞳を持つ彼は、その辺の貴族令嬢よりもよっぽど見目麗しいんだもの。

鍛え上げられた身体は頼もしくて家柄も申し分ない上、将来を約束されたエリートときたら女がたからないわけがないじゃない。





「ちょっ!待て、ここはひとつ公平に勝負しようじゃないか」
 

あら?
考えこんでいる間に、何か揉めてるみたいね。


「あの、良かったら1曲ずつ踊ってほしいの。みんなにはほんとお世話になったもの。ほら、いろいろ助けてもらったでしょう? それに・・・今日でお別れだから・・・」


私は一旦俯いて、それから顔を上げると儚げに笑ってみせた。
心持ち、視界が滲んで見える。
次の瞬間、瞬きひとつで涙がこぼれ落ちた。


3人が息を飲む。


もうヤダ、このスキル。
同性に嫌われることこの上ないわね。



「「「リナリー・・・」」」


3人が、聞いたこともない優しい声で名前を呼んでくれた。そして、それぞれが一歩ずつ歩み寄って私の正面に並ぶ。

真ん中に立つクリストファーがいち早くハンカチを取り出して、少し固い表情を浮かべたままそっと私の涙を拭いてくれた。



「よ、よし!ダンスなら任せろ、まず最初は俺だ」
マークが息巻いて言ったけど、

「いや、ここは俺だろ」
ハンカチをポケットにしまいつつ、クリストファーが強く出る。

そこへ、
「抜けがけはよせ、腕相撲で決めよう」
と、どうしてもパワーで決めたい筋肉自慢のトビアス。


あらあら、結局揉めるのね。
仕方ないんだから・・・


とりあえず最初はマークにお願いしようと手を伸ばしかけたところで、急に後ろから腰を抱かれた。


ーーっ!!


ビックリして、息が止まるかと思ったわ。


「カイル?!」


抱き寄せられたまま横に立つカイルを見上げると、いつもよりずっと大人っぽい礼装仕様のカイルが、なぜかとぉっても不機嫌そうな顔をして私を見下ろしていた。



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