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4.『籠絡』

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卒業パーティーが始まったと思ったら、生徒会長や学園長、それに来賓の方々からの挨拶、挨拶、挨拶・・・

ダンスタイムまでのそんな長い時間、私の隣には片時も離すまいとギュッと腰を抱くカイルがいるのだけど・・・


「どうして? 昨日、私の誘い断ったじゃない」

「・・・」


なんで無視なの?


「・・・なにか喋ってよ」

「・・・」


スキル全開で、私はカイルに向けて甘く話しかけているつもり。
行き場のない両手を胸の前で組むと、ボリューム感たっぷりの白いふくらみがおしつぶされた。


カイルが仏頂面でダンマリを決め込んでるから、私も仕方なく考えこんでしまうじゃない。



ずっと、このスキルのことがあって恋をするのが怖かった。それにスキルのせいで無条件に好かれるのも嫌だったわ。


でも、初めて好きになったこの人は私のことを女の子だと思ってなくて・・・


いつも私の肩にのしかかるように腕を回してきて(決して肩を抱くようにではないの)、私、重いのを我慢してたんだから・・・

意識しないようにするのだって大変だったのよ?

お互いの意見が割れたら、あなたって必ずスピード勝負で決めたがったわね。私の『音速』スキルじゃあなたの『光速』に勝てないでしょ、もうズルいんだから・・・
 
学食ではあなたの嫌いなものばっかり食べさせられたし、私の好きなものは必ず奪っていったわね。
扱いは酷かったけど、それでもとても楽しくて・・・

この3年、私は誰よりもあなたのそばで過ごせたと思うの。


その間、好きだなんて一言どころかひとかけらだって、顔にも態度にも出さなかったけれど。


だからこうして今、女の子扱いしてもらえてることが本っ当に嬉しいの。
わかってる。もちろんこれはすべて私自身のスキルのお陰なんだってこと・・・



少し身動ぎすると、さらにキツく抱き寄せられた。

見上げると、苦しそうな表情のカイルが私を熱く見つめている。
ああ、スキルに当てられたのね・・・


『傾国の美貌』に『籠絡』だなんて、国家転覆も狙える毒婦みたいだわ、私・・・


だから国もきちんと管理しときたいのよね。貴族令嬢とはいえ、末端男爵家の3女なんて、たいした価値ないんだもの。

私は卒業後、第7師団への配属が決まってるの。

第7は一般にはその存在が秘匿されているのよ。国が危険視する特殊スキルを持った者だけが集められた特殊部隊でね。

私は自分のこのお色気スキルを活かして諜報任務に着くことになってる。
つまりはハニートラップ要員として国のために役立てと、そういうこと。






弦楽器のなめらかな演奏が聴こえてくる。それに合わせて、男女のペアが滑るようにしてホールへと広がっていく。
ようやくダンスタイムが始まったわね。


相も変わらず不機嫌顔のカイルにエスコートされて、私たちもホールの中央に踊り出た。

向かい合って、背中に手を回される。
初めてよね、あなたとこうしてダンスを踊るなんて・・・


あなたは社交界に顔を出しているのよね、侯爵家の跡取だもの。
でも私はね、2年前のデビュタント以来一度も社交の場には出ていないのよ。
だって、スキルを発動しなくても、着飾ればそれなりには目立つもの・・・ほんと贅沢な悩みだってわかってるけど、下手に誰かに目をつけられるわけにはいかないの。

第7への入団は国からの命令なのだから。



ねぇカイル、そろそろなんか喋って?

カイルは睨むように私を見ているけど、あなたの不機嫌顔には慣れているからちっとも怖くないのよ。

曲に揺れながら、私は触れている部分からカイルの逞しい身体を感じてとても満ちたりた気持ちよ。
私の背中を支えているこの腕がよく鍛えられていることも、手袋越しでもわかる重ねた手のひらの厚さも、全部全部知ってるわ・・・



私ね、あと1つ特殊スキルを隠してるんだけど、それも今日使うつもりなのよ。


「ねぇ、カイル?」
「・・・何?」


ああ、やっと応えてくれたわね。


「今日は私と踊ってくれてありがとう」


私はスキルではなくて、心からの笑顔でカイルに伝えたわ。


「ーーっ」


なのにカイルは思わずと言った様子で息を呑むと、サッと顔を背けてしまった。


あらあら、ダンスの途中でパートナーから目を逸らしちゃだめよ。
よく見るとカイルの耳が紅くなってて、つまり照れてるみたい。

珍しい・・・
そっか、素直にありがとうとか、面と向かって言ったことなかったわ。


「・・・カイル、お願いがあるの。この後、他の女の子たちと踊った後でいいから、私に少し付き合ってほしいの」


今度はスキルをしっかり発動させて可愛いくお願いしてみたわ。
胸元をカイルに押し付けつつ、上目遣いでね。ほら、これでどう?


ちょうど曲が終わりにさしかかり、次のパートナーに選んで貰おうと、私たちの周囲には徐々に人が集まってきてる。

たくさんの令嬢たち、これはもちろんカイル目当て。
そして、同じくらいの令息たち、教師たち、さらには来賓のお偉い様方。
彼らは言わずもがな私のスキルに当てられた方々。


ちょっとマズいわね。
場が混乱するから、一旦引こうかしら・・・と思っていると、ダンス終了とともにまた強く腰を抱かれた。


えっ??

そのまま、なぜかカイルのスキル『光速』で、誰の目にも止まらぬ速さで移動させられて・・・


「ちょっ、カイル? 待って? あなた、他の女の子たちとダンスは?」


私には今日大事な目的があるから嬉しいんだけど、こんな早い段階で会場から消えることになるとは思ってもみなくて・・・



「カイル? ねぇ、カイル? どうして何も喋ってくれないの?」



カイルは、学園の男子寮まで戻ると自分の部屋に私を連れ込んだ。
今はパーティーの最中で、寮には誰もいない。



「ねぇ、カイル? 怒ってるの?」



部屋に着いてもカイルは私を離してくれなくて。
そのまま正面からギュッと抱きしめられて・・・まぁっ、今、頭のてっぺんにキスを落とされたのかしら!?


あぁ、そうよね。
カイルは今日、私の一番近くにいるんだもの・・・
そうよ、スキルの効果が直撃してるんだわ・・・


抱き合った事で、私は気づいてしまったの。
トラウザーズの中で、カイルのあ、あああそこが硬く反応し始めていることに・・・



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