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8.武装解除
しおりを挟む景色はあっという間に変わった。
寮を出たことには気づけなかったけれど、空を飛んでいることはわかる。
カイルがスキル『光速』と『飛行』を使ってるんだわ。
私を抱き上げてるから『怪力』も使ってるのかも…
次の瞬間には大きなお屋敷が目に入って、瞬きの間に部屋の中にいた。
「ここ、俺の部屋」
大きなベッドにゆっくり私を下ろしながら、カイルが言った。
「へ?」
「王都の屋敷な、うちの」
カイルの・・・つまり、プレスティッジ侯爵家のお屋敷・・・
「えぇっ???!!」
私が驚いてる間に、カイルは一旦部屋の外へ出て誰かに何かを伝えてる。
私はカイルのベッドの上で、シーツにくるまったまま部屋を見渡す。
淡いブルーを基調とした、上質でセンスの良いインテリアに、思わずため息がもれてしまった。
「リナ、まずは風呂に入ってさっぱりしたい。礼装仕様でカチカチになった髪とかなんかイヤなんだよ、俺。お前もこの綺麗な髪を下ろしたところ、俺に見せてくれ。な?」
カイルは私の頬を撫で、抱き寄せるとつむじにキスを落とした。
ドクンと心臓が跳ね上がる。
もう、今の私には自分を守るスキルという名の盾がないのに。
動揺が限界を超えたからか、さっきから特殊スキルは全く発動してくれない。
でも、こんなただのリナリーにも何故だかカイルは優しい。そしてとっても甘い・・・
顔が熱いわ。
真っ赤になってるのが自分でもわかるくらいに・・・
何も言えなくて、上目づかいでただじーっとカイルを見つめていると、
「あー、リナ待って。俺、我慢してんだから。別の浴室行ってくるから、お前はこの部屋の使って」
なぜかカイルは早足で部屋を出て行ってしまった。
入れ替わるように3人の侍女さんが入ってきて、私の前に並ぶ。
「さぁさぁお嬢様、こちらへ」
流れるような動きで浴室へと誘われ、シーツも剥ぎ取られ、あれよあれよと言う間に身体を磨き上げられてしまった。
「お嬢様は美の女神の化身でいらっしゃるのでしょうか?」
髪を乾かしてくれている侍女さんが、真顔でそんなことを言い出した。
「いや、そんな」
「本当に・・・カイル様もさすがでございますね、このように美しい方をお連れするなんて…」
「見事なピンクブロンドですわ…」
「ほんとに。吸い付くようにきめ細やかなお肌ですこと」
口々に褒め称えられ、照れる暇さえ与えてもらえない。
仕上げとばかりに、どこから用意したのか総レースの扇情的な夜着を着せられてしまった。
「あっ、あの!こんな、はっ恥ずかしいです」
私は身を捩りながら、侍女さん達に訴えたけれど、
ブハッーー
「あっ、大丈夫ですか??」
侍女の1人が鼻血を吹いてしまったもんだから、慌てて近づいてタオルを渡した。
「お嬢様、お見苦しいものをお見せして申し訳ございません。この者はお嬢様のあまりの神々しさに耐えきれなかっただけ。どうかご容赦くださいませ」
そういう彼女も鼻を押さえている。一体どうしたっていうのかしら…
「それではお嬢様、素敵な夜を」
そんな言葉を残して、3人の侍女達はいなくなってしまった。
カイルの部屋に1人残される。
改めて自分の格好を見てみると・・・
アイボリーのレースでできた夜着は、下の秘所を除いてぼぼ丸見えになっていた。
胸が・・・乳首が・・・
何故にこれを着せられたのかしら??
何度も言うけれど、私はもうただのリナリーよ? 丸腰なのよ??
めちゃくちゃ恥ずかしいじゃない!
カイルはどうしてこんなものを用意しているのかしら・・・
まさか、よく女の子を呼んでいるの??
そっか・・・
そうよね。
あんなにカッコいいんだもの。だから侍女さんたちも馴れた様子でこんな、どこの馬の骨とも知れない私をもてなしてくれたのよね・・・
ベッドに座ってカイルを待っていると、しばらくしてドアが開いた。
「待たせたーーうわっっ?!」
部屋に入るなり叫んだカイル。
「だ、大丈夫?」
私は駆け寄ってカイルの顔を覗き込んだ。
カイルは私をまじまじと見つめて、ゴクリと喉を鳴らした。
「お前はなんでそんな格好を…?」
「いや、私じゃないのよ? 侍女さん達が・・・」
「ああ、あいつらか」
思い切って聞いてみる。
「これ・・・カイルの趣味なの?」
その言葉にカイルは心外だといいたげに私を見た。
「違うの?」
「違うというか、違わないというか・・・でもそれ、お前にめちゃくちゃ似合ってる」
なんだかはっきりしないわね。
でも、照れながらも私の目を見て嬉しそうに言ってくれた。
きっとたくさんの可愛い女の子を知ってるカイル。
女の子らしくない、可愛げのない丸腰の私にもカイルはその気になってくれるのかしら・・・
少し不安に思ったからか、カイルが私の目をじっと見ていた。
「どうした? 」
聞かれて、でも今の私には直接的な言葉を口にする勇気もなかなか出てこなくて・・・
「リナ?」
「・・・あの私、ただのリナリーだけど、その・・・大丈夫?」
「ただのリナリー?」
聞き返しながら、バスローブ姿のカイルがベッドまで手を引いてくれる。
促されてとりあえず腰を落とす。
2人並んで座ると、すかさず肩を抱き寄せられた。
は、はわわ・・・
夜着のレース越しに触れられる手のひらから、カイルの体温が伝わってきてとっても恥ずかしいっ。けれど、横に並ぶと顔が見えないからまだ有難いわね・・・
しぃん、と部屋が静まり返る。
私はもぞもぞと体を動かして、一度だけカイルの顔を伺いみたのだけれど、ただニコリと笑みを返されただけだった。
伝えなきゃ・・・
全部でなくても、話せるだけのことは話さなきゃ・・・
私はゆっくりひとつ深呼吸をして、それから少しだけ身体をカイルに向けた。
「あ、あのね、今の私は何のスキルも発動できてない『ただのリナリー』なの・・・それでも、こうしてカイルにお、女の子扱いしてもらえることが正直、すごくすごく嬉しいの」
顔が熱を持つのがわかった。
恥ずかしくて、俯いてしまう。
「ーーっ」
カイルはさらにギュっと私を抱き寄せた。
でも、私の話を促すかのように何も言わなかった。
「・・・私ね、特殊スキルを持ってるの・・・」
「・・・」
カイルの様子を伺いつつ、ゆっくり言葉を吐き出していく。
カイルもなんらかの予想はしていたようで、それには驚かなかった。
「おっ、男の人を誘う・・為の特殊スキルがね、3つも・・・」
「っはぁ!?」
さすがにこれには無反応でいられなかったみたい。
カイルが私の顔を覗き込んできた。
「だからお前、あんなっ⁈」
「うん。あの、でもね、これまで1度も、誰にも使ったことないのよ?」
青紫色の瞳が少しだけホッとしたように緩んで私を熱く見つめ返す。
「・・・じゃあ、お前はまだ誰とも?」
「うん・・・私ね、ずっとスキルを封印してきたの。でも、カイルのこと・・・ずっと好きで・・・だからどうしても私のは、は、初めてをもらって欲しかったの」
言い切った後は恥ずかしくて、ただ目の前のカーテンの模様を目で追っていた。
しばらくの沈黙のあと、
「・・・なんでっ」
カイルがボソッと呟いた。
「ん?」
「じゃあ、なんで普通に気持ちを伝えてくれなかったんだよ」
愛しそうに私の肩を撫でながら、少し責めるような口調でカイルは言ったけど・・・
「えー、伝えようとしたわよ? 昨日・・・とりあえず普通にエスコートをお願いしてみたんだけど、カイルがみんなと笑い飛ばしたんじゃない・・・」
私が答えたら、
「あ~~っっあれか!!」
とか言いながら、カイルはもう片方の手で顔面を覆って天を仰いだ。
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