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後日談
しおりを挟む「見るな。喋るな、寄りつくな」
「ちょっ、なんだよそれ、俺ら一応お前らの友人だろ?」
「独占欲が強すぎるのもどうかと思うけど?」
「そうだそうだ!」
今日は王室主催のパーティーで、私はカイルの婚約者としてエスコートされ会場入りしたのだけれど・・・
卒業パーティーから3ヶ月。
マーク達には結局なんの挨拶も出来なくて、ずっと会いたいと思っていたの。
あと、できれば今度こそみんなと一曲ずつ踊りたいと思っているのだけれど・・・
「だーかーらー、リナは俺の奥さんになるんだから、お前らはあっち行ってなさい」
さっきから酷いこと言ってるカイルと、いつものメンバーが私の周りを囲んで楽しく、と言えるかは微妙だけれど、まぁ歓談しているところよ。
「それにしてもリナリー、ほんっと綺麗だな」
マークが私をまっすぐ見つめて、少し照れた風に伝えてくれる。
「はい、マーク退場!」
ちょっとカイル?!
落ち着きなさいよ、ほんと・・・
「あのね、カイル。私は今日、久しぶりにみんなと会えるの楽しみにして来たのよ?」
「・・・・・・わかってる」
仕方ない、わかってる・・・とぶつぶつ言いながら、カイルはマークから距離をとった。
それを合図にマークが私の前に立ち、ペコリと礼をする。
「リナリー嬢、どうか一曲お相手願えませんか?」
私はじっとマークを見つめて微笑んで返した。
「ええ、喜んで」
カイルとは違うマークのホールド。彼も器用な人だから、ダンスも申し分なくリードしてくれる。
「マーク、3年間私を守ってくれてありがとう」
ずっと言いたかった。
マークは『風使い』のスキルを持つから、訓練中に力技で吹っ飛ばされる私をいつも柔らかく風のバリアで包んでくれた。
「やっぱり気付いてた?」
「もちろんよ。マークのお陰で怪我の程度も回数も激減したわ」
マークはブリンナー侯爵家の次男だけれど、今日はお兄様の代理で参加しているのだとか。
「騎士団ではどう?」
「ああ、相変わらず鍛錬の毎日だよ。俺は第2に配属されて王都の警備に回ってる」
「そう、じゃあ近くにいるのね」
何気なく言った言葉。
「うん・・・でも、もう二度と手が届かないけどね」
マークが今まで見たこともないくらい真剣な眼差しで私を見つめる。
「・・・」
「好きだったよ、リナリー」
その言葉にハッと息を呑んでしまう。
「別に困らせたいわけじゃない。わかってたことだ・・・君はずっとカイルを見てた」
「・・・マーク」
ダンスの曲がもうすぐ終わる。
互いに距離をとり礼をとるために手を離す、その瞬間にこの時を名残惜しむかのように指先がつかまった。
「どうか幸せに・・・」
そして互いに礼をして、私が顔を上げた時にはマークはもういつもの落ち着いた顔に戻っていた。
「じゃあ次は俺と踊ろう」
そう言って、私を引っ張って行くのはリンデル子爵家嫡男のクリストファー。
「ふふ、気遣いの人クリストファーにしては強引なのね」
「えー、俺ってリナリーの中では『気遣いの人』止まりだった?」
そんなことを聞くから、思わず言葉に詰まってしまう。
その間もさっきとは違うワルツの曲に身体を揺らしている。
「って、ごめん。困らせたいわけじゃなくて、あーつまりは俺もずっとリナリーを見てたよってこと」
ハハハって笑う、クリストファーの自嘲めいた笑みが妙に切なかった。
「私ね、クリストファーの気遣いにすごく救われたのよ。いつも一人で泣かせてくれた。隠れて見守ってくれてたのも知ってた」
「えー、気付いてた? なんかカッコ悪いなぁ・・・」
「そんなことない、クリストファーはカッコ良かった。特に『獣化』でヒョウになった時なんか最高にカッコ良かったわ!」
これはほんと。
雪豹になったクリストファーの見た目はとても美しかった。それと、モフモフ・・・
「・・・そう?」
「ええ、あの尻尾の触り心地は生涯忘れないわ」
私がつい思い出して右手をワキワキしていると、
「ハハッ、かなわないなぁ・・・」
って、悲しそうな顔をして笑うものだからなんだか寂しくなってしまう。
また、曲が終わりに近づいている。
2人とも黙って、最後の数小節を惜しむかのように丁寧に踊った。
最後、クリストファーから身体を離す瞬間、ほんの一瞬だけ背中に添えられた手に力が込められる。
別に抱きしめられたわけじゃないけれど、クリストファーの手から彼の体温を感じた。
「どうかお幸せに」
そう言って、クリストファーはにっこり笑った。やっぱり、いつも見ていた笑顔よりは少しだけ元気がなかったけれど、私が返すのはもちろんこれよね。
私は自分にできる最高の笑顔でクリストファーに答えた。
「ええ。今までありがとう」
「さぁ、もういいか、ここらで一旦リナを休ませよう」
私は全然大丈夫なのに、カイルがそばにきてギュッと腰を抱いてくる。
「私はまだ大丈夫よ?」
「いや、ダメだ」
「何言ってるの? まだトビアスと踊ってないんだから」
私がカイルから離れようと彼の胸に手を当てて押していると、
「そうだぞ、カイル。あんなに一緒にいて知らないはずないよな? リナリーは結構スタミナあるんだぜ? さぁ、踊ろうリナリー」
そう言って、カイルより一際筋肉質な腕が私をダンスへと誘う。
私はまだカイルに腰を抱かれたままだったけど、そのまま差し出されたトビアスの手に右手を乗せた。
ぐいっと強引にカイルの側から私を引き剥がしたトビアスは、わざと挑戦的な笑みを見せている。
トビアスはカイルより長身の上、趣味は筋トレなのでとにかくゴツい。
パワー勝負だけでみると、唯一カイルが勝てなかった相手だ。
それなのに彼は王国騎士団には入らなかった。
「教会での仕事はどう?」
「まぁな、やりがいはある」
力強いホールドで踊るのは安定感があっていい。
「・・・トビアス、3年間ありがとう」
トビアスを見上げて、今までたくさん癒やしてもらったお礼を伝える。
「いや、俺が治したかっただけだ」
筋肉バカで単純なトビアスは根がとてもピュアで・・・照れるとすぐに目を逸らす。
「教会じゃ自慢の筋肉も活躍の場がないんじゃないの?」
「そんなことはない。毎日子供たちのタックルを受け止めるには役立ってる」
「タックル・・・」
「しかも総出だ」
フフ、思わず想像して笑ってしまった。
そうこうしてる間にこのダンスも終わりに近づいて、気づいたらトビアスがじぃっと私を見つめていた。
「トビアス?」
「できれは生涯君を癒していたかったが・・・叶わなかった」
次の瞬間、白い光に身体が包まれる。
これはよく知ったスキル、トビアスの『治癒』だ。
「身体があったかい・・・とても軽くなったわ」
私が笑顔で言うと、
「疲れが取れたろ?」
そう言って、トビアスがニッと笑った。
それから、
「俺は『聖者』候補になった。だからこのパーティーにも呼ばれたんだ。これから先、この国の人々の幸福を祈って暮らしたいと思う。お前も含めて、な」
トビアスの顔は、もうすでに学生のそれではなく、どこか神聖な光を帯びていた。
そして私は、ダンスをする前よりはるかに元気になってカイルの元へと返される。
「ほらよ、お前の大事なお姫様をお返しする。しかも気力体力を全回復してやったぞ、感謝しろよ?」
「ああ、ありがとう。助かるよ」
なんでカイルが助かるのかしら・・・と首を傾げたところでまさかの考えに思い至る。
「え?」
今はまたカイルの腕の中。いかに婚約者と言ってもこの公の場でちょっと顔が近いわよ、カイル。
耳元に唇を寄せたカイルが言った。
「今日は寝られると思うなよ?」
「え? ちょっと?」
「じゃあみんな、またな!」
こうして、私達はお城からプレスティッジ侯爵家まで『光速』で帰ってきてしまいました。
そしてこの夜、それはもう・・・
(めでたしめでたし?)
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ここまで読んでくださってどうもありがとうございました!
後日談が一番長くなってしまったけど書くの楽しかったです。
お気に入り登録もめちゃくちゃ嬉しいです!
また次の作品も早く上げられるように頑張ります( ´∀`)
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