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13.晴れて囚われの身

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ご両親が出ていかれた後の扉をじぃっと見つめていると、カイルが私の正面に立った。

そしてそのまま片膝を立てた姿勢で跪くと、じっと下からあの青紫の瞳で私を見つめてくる。



カイルは右手で私の左手を取り、そっと指先に口付けた。そして手の甲にも・・・


ーーっ


全ての動きがスローモーションで見える・・・
芸術品のような美しいカイルが、こんな夢のような仕草で私に伝えたいことって・・・


「リナ、結婚しよう」


ドクンと心臓が跳ねた。
もう一度さっきの言葉を口にして、カイルは今度私の手のひらへと唇を寄せた。


どうしよう・・・

嬉しいとか、信じられないとか言いたいことたくさんあるのにひとつも言葉に出来なくて・・・

でも、それより先に伝える事がある。



「あのっ、あのね、カイル。私、大事なことを話してないのよ」

カイルにまだ左手を取られたままで、カイル自身もまだ膝をついたまま。

「なに?」

「私、実は第7に配属されるの。それでね、再来週からは隣国にーー「それ、無理だから」

へ?
また被せて言われて、思わずカイルを見つめる。
カイルは立ち上がって、そっと私を抱きしめながら言った。

「リナ、特殊スキルを持っているのはリナだけじゃない。俺もなんだよ」

「え、なん・・の?」

理解が追いつかない頭でなんとか考えてみて、そして思い当たる。

「もしかして・・・これ?」

服の上から胸の谷間、紋章がある位置をゆびさすと、

「ああ、正解。それは『束縛』と言って我がプレスティッジ家の男子のみが受け継ぐスキルなんだ」

「束縛・・・」

思わず言葉を繰り返す。

「リナはこれから先、生涯俺から離れられないんだ」

・・・え?

「城下へ買い物へ行く時も実家へ帰る時も、俺の許可無しに外出なんてさせない」

・・・え?

「できればうちから出したくないし、今なら母上にあんなベールを身に着けさせる父上の気持ちがよぉーくわかる」


あの、ちょっとカイルさん?


「ちょっと待って、カイル、でも私、小さい時から国の命令で第7に入ることが決まってて・・・」

「だから、それは問題ないんだよ。リナが特殊スキルを悪用しないように、あと他国に利用されないようにって国が管理したいだけなんだから。俺に束縛されてりゃそんな必要もないだろ?」


・・・まぁ、たしかに。


「え、でもそんな簡単なことじゃ・・・」「大丈夫だよ、団長の許可はすでに得たし、国へも報告済だから。すぐに承認も下りるって父上も仰ってた」

そりゃまあ騎士団長がお父上だから、話も早いのかもしれないけれど。



「だけど、ほら、私って男爵家の三女だし、全然つり合わないし」

「母上なんて商家の娘だったよ」


え⁈
なんか、何を言ってもことごとくクリアされてしまう感じで・・・あ!


「でも、カイルって私の他にも女の子たくさん連れ込んでるんじゃないの?」

「なんで!?」

「だって、侍女さん達めちゃくちゃ慣れてたし、あの透け透けの夜着とかも!」


カイルは、はぁ・・・と思いっきりため息をついた。
それから改まって、


「リナ、侍女たちがああいった世話に慣れているのは俺のせいじゃない。親のアレコレを言いたかないが、あの人達は未だにめちゃくちゃ仲がいい」


カイルは嫌そうに言い放った。
あ~、なるほど。
そうよね、両親の夜の事情なんて想像したくもないわよね。


「そ、そうなのね・・・あ、じゃあ、あの色っぽい夜着は・・・奥様の?」

「いや、あれは・・・」


ん?
なぜか口籠もるカイルに、私は視線で続きを促してみる。

じーっと見つめていると、


「成人の祝いに父上からデザイン集を頂いてさ。まだ見ぬ『唯一』に着せるならどれがいいかって聞かれて、半分ノリで選んだんだ、超エロいやつ」


ってまぁ、たしかにすっごく透け透けのいやらしい夜着だったけれど・・・


「だけどリナ、めちゃくちゃ似合ってた」


そんな満面の笑みで言わなくても・・・
たしかに私も恥ずかしくはあったけど、綺麗なレースだなとは思ったわよ。


「それで?」

「え?」

「他に言いたいことはないか?」


って聞かれて、「あ!」とまた思い出す。


「寮の荷物、取りに行かなきゃ」

「ああ、それはもう手配した。あと、リナのご実家にも連絡済み。結婚のお許しもすでに頂いてある」


え?


「いつ?」

「昨晩、うちへ来てから色々とな。あと、朝一から各方面に遣いを出したり、了承を得たりで忙しかった」


へー・・・


私が寝てる間にねぇ。
起きたら外堀が埋められてた感じなんですけど・・・


「なあ、返事まだ?」

「なんの?」

「だから俺のプロポーズの」


カイルは私の髪を一房すくい取り、また見せつけるように口元へ持っていくとチュって口付けた。


あー、もう退路なんてないじゃない!
逃げてもムダ。スピード勝負で勝てないことはこの3年間で痛感してる。

もう、わかったわよ!



「監禁は犯罪よ?」

「ああ、やらないと思う。たぶん」

「たぶんって何よ!」


アハハ!って楽しそうに笑うカイルと、ここから先もこんな風に一緒に居られるんだなって思うと、やっぱりすごく幸せだなって。


・・・ちょっと怖いけれど。



「カイル、私も大好きよ」



それから強く抱き合って、私たちは長い長いキスを交わした。







(おしまい)



ーーーーーーーーーーーーーーーーー

最後まで読んでくださってありがとうございました!

なんとか終われて良かったです。
おまけの後日談を近日中にアップします(^^)

その他に20話程度の異世界モノをいくつか書いているので、終わりが見え次第上げていきます。
また気が向いたら読んで頂けると嬉しいです(´∀`)










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