天使様の愛し子

東雲

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プティ・フレールの愛し子

84 *R18*

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『いけない子』『お仕置き』

それは、あまりにも馴染みのない言葉だった。
『罪』や『罰』といった重苦しい感覚とはまた違う背徳的な響きに、僅かに目が泳いだ。

「アニー、どこを見てるんです?」
「えぅ…」

そんなささやかな逃げも、イヴァニエの一言で制されてしまう。
ソロソロと真上を見上げれば、優しく微笑むイヴァニエと視線が絡んだ。怒っている風には見えないが、それでもいつもとは違う様子に、落ち着かなさからモゴモゴと口を動かした。

「ぅ……お…仕置き…って、なにするの…?」
「ふ…なにをしましょうね? ……それよりアニー」
「ん…?」
「酷いことは、されてもいいんですか?」
「!」

その言葉に、ピッと肩が跳ねた。途端にじわじわと顔に熱が集まり始め、目尻が熱くなった。

(ひどい、ことって……えっと…)

イヴァニエの言う『酷いこと』が何を指しているのかは、ルカーシュカに確認し、自分でも認識済みだ。とはいえ、別段その行為自体は『酷いこと』ではないはずで、なんと返答するべきか反応に迷った。

「…ひ、ひどい、ことって…」
「はい」
「…性行為、でしょう…?」
「……大部分的な意味合いとしては、そうですね」
「…? なら、ひどいことじゃ、ないよ?」
「……酷いことじゃなければ、してもいいの?」
「う…? …うん。だって、好きな人と、交わるための、行為でしょ…っ!?」

「してもいいの?」という問いに、逆に首を傾げる。思ったままを口にすれば、勢いよくイヴァニエに抱き締められ、突然のことに体が硬直した。
肩口に埋められた鼻先から漏れる吐息と、互いの肌が直に触れる感触の熱さ、さらりと流れた長い髪の毛に全身を包み込まれるような感覚に、ゾクリとしたものが背を駆け抜けた。
ぎゅうぎゅうと抱き締める腕の力は強く、圧迫される苦しさからか、高鳴る心臓の鼓動のせいか、吐く息は浅くなった。

「ィ、イヴ…?」

首筋に当たる息の熱さと擽ったさに、名を呼ぶ声がふるりと震えた。
まだ少し緊張が残る中、イヴァニエの体温でじわりと温まってきた体に、ゆるゆると筋肉の強張りを解けば、イヴァニエの体がもぞりと動いた。
ゆっくりと離れていく温もりに寂しさを感じたのも束の間、上体を起こしたイヴァニエの瞳に宿った劣情に息を呑んだ。

「……あんまり、いやらしいことを言ってはいけませんよ」
「へ?」

思わぬ言に、間の抜けた声が出た。

(…いやらしいこと、言ったかな?)

そんなことを言ったつもりはないのだけど…と思っている間に、イヴァニエのかんばせが目前に迫り、思わずギュッと目を瞑った。

「ん…」

直後、ゆっくりと重なった唇は、ぴたりと密着した後、僅かな逢瀬を惜しむように離れていった。

「ふ…」
「…アニー、酷いことっていうのはね、あなたを傷つけるって意味じゃないんですよ?」
「ぅ…?」
「あなたを愛してるから、手を繋ぎたい、抱き締めたい、キスをしたい…そう思うのと同じように、体を重ねたいと思うんです」
「…うん」
「でも、私がアニーを求める量が、あなたが思ってる以上に多かったら、どうしますか?」
「…求める、量?」
「たくさんアニーを愛したいという気持ちに、あなたの体が耐えられなくなったら…それでも、私が自分の欲を抑えられなかったら、どうなると思いますか? アニーにとって、もしそれがとても苦しいものになってしまったとしたら、それは『酷いこと』になりませんか?」
「………」

イヴァニエの言わんとしていることが、掴めそうで掴めなくて黙り込む。
たくさん愛してもらえるのは、喜ばしいことだと思うのだが、“自分の体が耐えられない”というところが引っかかり、言われた言葉を頭の中で反芻した。

(…苦しいって、何が苦しいんだろう?)

例えば、今みたいに強く抱き締められれば、多少は苦しいだろう。だが、それ以外に思い当たるものがない。というより、そもそもという話ではないはずだ。それはイヴァニエの口ぶりからも伺える。
なんと答えるのが正解か分からないまま、チラリとイヴァニエを見上げると、恐る恐る口を開いた。

「んっと…、よく…分からないけど…」
「はい」
「…苦しいことは、イヴが…私のことが、嫌いだから、するの…?」
「天変地異が起こってもあり得ません。アニーを愛してるからと言ったでしょう?」
「…なら、いいよ」
「……アニー、ちゃんと意味を理解してますか?」
「う……、し、てない…です…」
「アニー…」
「で、でも! でも…イヴが、好きって思って、してくれることなら…ひどいことじゃないから、いい…!」
「………」
「イヴの言ってる、ひどいことは…きっと、ひどいことにならないから…いいの」
「っ…、もう…っ、本当にあなたは…!」
「わっ!」

再び抱き寄せられ、驚きから肩が跳ねるも、やんわりと優しく抱き締める腕の力に、ホッと息を吐いた。
イヴァニエの『酷いこと』というのは、きっと自分のことを思い遣っての発言だろう。
それが具体的にどういう意味なのか、結局ハッキリとは分からなかったが、自分がそれを『酷いこと』と認識しないのであれば、なんの問題もないはずだ。

(イヴなら…苦しいことされても、大丈夫)

自分の中で納得できる答えが出せたことに満足しながら、イヴァニエの背にそろりと手を回すと、その身をぎゅっと抱き締めた。

「…愛しています、アニー」
「私も、大好き」
「…優しくできるように、努力しますね」
「? イヴは、優しいよ…?」
「……ありがとう。あなたにとって、優しいままの私でいられる様、努めたいと思います」
「ん…」

言葉と共に、啄むような優しい口づけが、頬や目元、唇に落ちる。柔らかな唇が触れる感触は温かくて、気持ち良さに目を細めた。

「……アニー」
「ん…?」
「…しても、いいの?」
「!」

ここで「なにを」と聞き返すのは、きっと野暮なのだろう───そう思いつつ、口からは確認する為の単語が飛び出ていた。

「う、と……性行為?」
「……そうですね。そうなんですが…」
「…?」

困り顔で微笑むイヴァニエに首を傾げれば、彼のスラリとした指先が唇をなぞった。

「性行為という言い方は、アニーに似合いませんね。……これからは、性行為のことは『エッチ』と言って下さい」
「えっち…?」
「はい。その方が可愛らしいですから」
「…えっち…」

妙な提案だが、口にしてみれば確かに可愛らしい響きに聞こえた。
にっこりと微笑むイヴァニエの表情もどこか満足気で、言い方一つで喜んでくれるのならば…とコクリと頷いた。

「えっち…て、言う」
「ええ、是非。…でも、本当にいいんですか? 無理をしなくてもいいんですよ?」
「無理、してないよ。…えっち、する」
「……これはこれで、拙いものがありますね」
「…?」

ポツリと呟かれた声が聞き取れず、首を傾げるも、返ってきたのは淡い笑みだけだった。

「いきなり最後まではしません。今は、ただアニーに触れたい気持ちの方が強いですからね」

(…最後?)

最後とは、一体どこを指しているのだろう?
改めて生殖行為について思い出そうとするも、その思考は甘やかな口づけによって遮られた。
二度、三度と向きを変え、皮膚の表面を撫でるように離れた唇が、何度も何度も重なった。

「ん……んっ!?」

そうしている内に、薄く開いた唇の隙間からイヴァニエの舌が入り込み、舌先を舐め上げた。
ぬるりとした舌の感触と熱さ、触れるだけのキスとは異なる交わっているような感覚に、思わず背が仰け反った。

「ん…ぅ…っ」

体験としては二度目となる深い口づけに、バクバクと心臓が脈打つ。
恥ずかしさの中に混じる、好きな人と繋がっている喜びと、ぞわぞわと咥内に広がる不思議な感覚に、体温はみるみる内に上昇していく。
熱いとすら感じる口の中、不意に響いた水音に、ビクリと体が跳ねた。

「んん…っ」

イヴァニエの舌が咥内を舐め上げるたびに、クチュクチュと響く小さな音。恥ずかしさから小さく首を振るも、イヴァニエの唇が離れることはなかった。
それどころか、更に口づけは深くなり、息苦しさから目尻にはじわりと涙が滲んだ。

(苦しい…!)

密着したまま離れない唇と、咥内を舐め続ける舌先。息継ぎが上手く出来ず、無意識の内に覆い被さる体を手で押し返せば、逆に強く抱き締められてしまった。

「んぅ…っ、んう~っ! …っ!?」

苦しいのだと、訴えるように喉を震わせ、薄く瞼を開けば、すぐ間近でこちらを見据える青色の美しい瞳と目が合い、肩が跳ねた。それと同時に唇が離れ、勢いよく酸素を取り込んだ。

「ふはっ…! はぁ…っ、はぁ…っ」
「……ごめんなさい。苦しかったですね」
「ふぅ……ふぅ…」

強く抱き締められていた腕の力は緩み、抱いた背を優しく撫でられ、次第に呼吸が整い始める。
恥ずかしさと気持ち良さと酸欠で、ふわふわとした思考のまま、きゅっと眉根を寄せた。

「…今の…お仕置き…?」
「いいえ、私がしたかっただけです」
「う…」
「ふふ、少しずつ、こういうキスでも苦しくならないように、慣れていきましょうね。初めてなのに、無理をさせてしまいましたね」
「あ…」
「どうしました?」
「あ…う、と…」

(…初めてじゃ、ない…)

『初めて』は既にルカーシュカと経験済みだ。
一瞬、それを伝えるべきか迷ったが、嘘はつけない…と、おずおずと告白した。

「…あの…は、初めてじゃ、ない…」
「…ルカーシュカと、もうしてましたか?」
「うっ……ご、ごめ…」
「どうして謝るんです?」
「だって……イヴが…ヤダって、思う…」
「……アニーにそう思わせてしまうのは、私の本意ではありません。ごめんなさい。伝え方が悪かったですね」
「ん…」

そっと抱き寄せられ、鼻先がイヴァニエの肩口に埋もれた。そこから香る芳しい彼の香りを目一杯吸い込み、ほぅっと息を吐き出せば、緊張していた体からゆるりと力が抜けた。

「独り占めしたいのも、二人きりで過ごす時間は私だけのアニーでいてほしいのも本心ですが、ルカーシュカやエルダのことを忘れてくれとは言いません。二人のことを話してくれたっていいんです。アニーの自由を奪うつもりはありませんし、そんな泣きそうな顔をさせたい訳でもありません」
「…うん」
「ただできることならば、二人きりの時だけでいいですから、心は私にください。恋しいと、誰かを想わないで……私の腕の中にいる時だけは、私だけのアニーでいて下さい」
「……うん」

今にも泣き出しそうな切実な声に、堪らずその背を強く抱き返した。
紡がれた言葉の意味を、きちんとすべて理解するのは難しかったが、その声音から、なんとなく…本当になんとなくだが、イヴァニエの願いは理解できた気がした。

(…イヴが安心して、一緒にいられるようにしたい)

一緒にいて、イヴァニエが不安になったり、悲しくなったりすることがないように───そんな気持ちを込め、背中に回した指先に力を込めた。

「大好きだよ、イヴ」
「…愛しています。私のアニー」
「…お仕置きも、していいよ?」
「……どうして、ここでそれを言ってしまうんでしょうね」

苦笑気味の声に、密着していた体を離せば、なんとも言えない微笑みを浮かべたイヴァニエの顔が見えた。

「…? しないの?」
「してほしいの?」
「だって…いけないこと、しちゃったから…」
「…私が勝手に嫉妬していただけですから、もういいですよ。でも今度同じことがあったら、その時はお仕置きですからね?」
「…ん」
「それより、今はアニーとエッチなことがしたいんですが…」
「っ…!」
「ダメ?」
「う…うぅん…っ」

改めて求められた行為に、じんわりと火照る頬を隠すように俯くと、フルリと首を横に振った。

「……イヴと、えっちなこと、する」

そう呟くように告げた途端、猛烈に恥ずかしくなり、熱くなった頬を手で隠すも、その手はイヴァニエによって外され、嬉しそうに瞳を細めて笑う彼と、三度みたび口づけを交わした。




「はぁ……ふ…」

二度目の長い口づけを終え、ソファーに寝そべったまま酸素を取り込んでいると、上体を起こしたイヴァニエの手が腰紐へと伸びた。

「あ…」

シュルリといとも簡単に解けた腰紐と、呆気なく晒された素肌に、反射的に隠そうと手が動いたが、その手は呆気なくイヴァニエに捕まってしまった。

「ダメですよ、アニー。ちゃんと見せて」
「うぅ…」

前開きの簡単な作りの服は、腰紐を解いてしまえばただの一枚布で、ほとんど裸の状態だ。一応、足と股間部は薄絹のような生地で隠されているが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
恥ずかしさを紛らわすように足を捩っていると、イヴァニエがほぅ…とうっとりするような溜め息を零した。

「綺麗ですよ。綺麗で、愛らしくて…なんていやらしいんでしょう」
「ゃ…やらしく、ないよ…」
「ふふ、アニーは本当に可愛いですね。…こんなに透けていては、全部丸見えなのにね」
「う…?」
「エッチで可愛い子ですね、アニー」
「ん…」

ゆっくりと重なった唇に、瞳を閉じる。
チュッ、チュッと触れては離れる口づけに身を委ねていると、イヴァニエの大きな手の平が両脇を撫で、その擽ったさに肌が粟立った。

「ひゃっ…!」

ゆるゆると肌の上を滑る手の平が、脇腹を通り、胸元へと辿り着く。それと同時に唇から頬、頬から首筋へとイヴァニエの唇が移動し、時たま肌を熱い舌が舐め上げた。
サワサワと両の胸を撫でる手つきは優しく、温かな体温を気持ち良いと感じ始めた時だった。
───胸の小さな突起を指先で撫でられた瞬間、ゾクリとしたものが背筋を走り、突然のことに声が漏れた。

「ふゃっ!?」

そのまま両胸の突起を優しく転がすように撫で回され、ゾクゾクしたものが止まらなくなる。

「やっ…あ…、ゃ…や…!」

(なに!? なにこれ…!)

咄嗟に身を捩ろうとするも、イヴァニエの手の平でがっちりと押さえつけられた上半身に逃げ場はなく、指先だけがゆっくりと動き続けた。

「や…っ、まって…! イヴ…ッ、これ、おかしぃ…んむっ」

一旦止めてほしくて、胸を撫でるイヴァニエの手に自身の手を添えるも、ささやかな抵抗を叱るように深い口づけを受け、発する声は彼の口の中へと飲まれていった。
小さな突起をクニクニと撫で回されるたび、ピクピクと肌が震える。優しく触れられているはずなのに、途切れることのない波が押し寄せるような感覚に、口からは勝手に声が漏れた。

「んっ…、んうぅ…!」

腰周りに広がり始めた言葉にし難い感覚に、いよいよ耐えきれなくなり、無理やり重なっていた唇を離すと、必死になって静止の言葉を吐いた。

「ふは…っ、ぁやっ…、まって…! 触るのやめて…!」

イヤイヤと首を触れば、突起を撫でていた指先がピタリと止まった。
実際に触れられていた時間は短いはずなのに、既に胸には違和感が広がっていて、ジンジンと響くような初めての感覚に戸惑うばかりだった。

「なに…? なんで…?」
「……アニーの体は随分と敏感なんですね」
「う…? ん…っ」

指先が動きを止めたことにホッとしたのも束の間、再び頬や首筋にイヴァニエの唇が落ち、それと同時に彼の長い髪の毛が肌の表面を撫でるように流れた。

「んっ……ふ…」
「これも気持ち良いんですね。ああ…本当に、なんて可愛らしいんでしょう」
「ふ…ゃ…っ」
「少しずつ覚えてくれればと思いましたが…その必要もなさそうですね」
「…?」
「……アニー、もう少しだけ、アニーの可愛いお胸を弄ってもいいですか?」
「ぅ…」
「お願い、アニー」
「……う」
「ふふ、ありがとうございます」

恥ずかしさを堪えて小さく頷けば、イヴァニエが嬉しそうに破顔した。
胸の突起を撫でられる感覚を思い出し、身を固くしていると、イヴァニエの体が少しずつ視界の端に下がっていくのが分かり、頭に疑問符が浮かぶ。
首筋から鎖骨を啄んでいた唇が、少しずつ少しずつ肌の上を移動していき───そこで初めて、その先にあるものに気づき、「あっ」と声が漏れた。

「ま…て、まって…! イヴ…ッ」

咄嗟に静止の声を掛けるも既に遅く、無防備に晒していた胸の粒は、呆気なく彼の口の中に含まれてしまった。

「ひっ…、ぁ…~~~…っ!」

熱い舌が乳輪ごと突起を包み込み、柔らかな肉でじんわりと溶かすように突起を転がされる感覚に、大きく背が仰け反った。
ゆっくりと肌の上を這う熱い舌に、ゾクゾクとしたものが止まらず、驚きと混乱から、イヴァニエの体を押し返すように肩を掴んだ。

「イヴ…! まって…っ、舐めるのやめ…っ!?」

ささやかな抵抗の手はイヴァニエに取られ、指先を絡めたまま、ソファーの上に縫い付けられてしまった。

「んゃ…」
「アニー、良い子ですから、もう少しだけ頑張りましょう? ね?」
「……少し、だけ…?」
「ええ、少しだけ。…大丈夫ですよ、優しく撫でてあげますからね」
「ひ…ぁ…」

その言葉の通り、ねっとりと舐め上げる舌の動きは優しく穏やかで、激しさは微塵もない。
それでも、小さな粒がコロコロと転がされるたび、どんどん大きくなる波と腰周りが重くなるような感覚に、我慢できずに身を捩った。

「ふぅ…っ、うゃっ…、イヴ…! やだ…やだぁ…っ」
「…怖くなっちゃいましたか?」
「わかんな…、分かんない…」
「…アニーがやだって思うのは、どうして?」
「…お胸……変…」
「どう変なの?」
「…体…びくって、しちゃうし……なんか…ぞわってなる…」
「ふふ、本当にアニーは可愛いですね。…アニー、それはね、気持ちいいってことなんですよ?」
「…きもちい…?」

そう教えられても、即座に理解できずにパチリと目を瞬く。
自分の知っている『気持ち良い』とはまったく違う感覚に戸惑っていると、イヴァニエのあやすようなキスが頬に落ちた。

「初めてのことで、体がびっくりしてしまったんですね。怖いことじゃありませんから、大丈夫ですよ」
「…う…」
「アニー、気持ちいいって、口に出してみましょう? そうしたら、怖いことじゃないって分かりますから」
「…まだ、舐めるの?」
「ダメ?」
「……ちょっと、だけ…」
「ええ、あとちょっとだけ、アニーとエッチなことさせて下さい」
「……ん…、んうぅっ」

なんとか了承の返事をすれば、それに応えるようにイヴァニエの唇が肌に吸い付き、悲鳴のような声が漏れた。
既に体験した感覚を再び味わうのは、知ってしまった後だと余計に強く意識してしまう。覚えたばかりの感覚をなぞるように、胸の粒を熱い舌で転がされ、体がピクリ、ピクリと跳ねた。

「や…ぅ…、あ…っ」
「アニー、気持ちいいって言ってごらん」
「あゃ…っ」

イヴァニエの声が胸元で低く響く。その吐息が突起を掠める僅かな刺激にすら腰が揺れるも、チュッと音を立ててキスをされた胸に広がった甘い疼きに、口からはとろりと言葉が漏れた。

「…きもちぃ…っ」
「上手ですよ。そのまま、もっと気持ちいいって言って?」
「あ、あ、や…っ」

その言葉と共に、イヴァニエの舌と唇と指先で、胸の突起を舐められ、撫でられ、優しく優しく『気持ちいいこと』を覚えさせられた。

「きもちい…っ、ぁ、きもちいぃよぉ…っ」
「…上手に気持ち良くなれて、良い子ですね、アニー」
「ひぅ…っ、や…、きもち…っ、きもちいぃ…っ」

「気持ちいい」と口にするたび、肉体がどんどん敏感になっていくのが分かった。
途切れることなく続く愛撫で、緩やかに溜まっていく熱。
次第に体の中で渦巻き始めたそれをどうしたらいいのか分からなくて、未知の感覚と混乱に、いよいよ涙腺から涙が溢れ出した。

「やだ…、もぅきもちいいのやだぁ…!」
「! ああ、ごめんなさい、アニー。怖くなってしまいましたね」
「んうぅ…」

胸元から唇を離し、上体を起こしたイヴァニエに抱き寄せられ、やわやわと頭を撫でられる。それだけで、ホッと気が緩んだ。

「お胸を弄るのは、もう終わりにしましょうね」
「…ぅん」
「…気持ちよかったですか?」
「……ん…」
「良かった。アニーが気持ちいいことを知ってくれて、私も嬉しいです」
「ん…」

睫毛を濡らす雫をイヴァニエの指先が拭い、唇が触れるだけのキスを何度も交わす。
昂っていた熱と鼓動が、少しずつ蕩けていくような甘い口づけに、頭がぼんやりとし始めるも、太腿を撫でる手の平の存在に、意識はすぐに引き戻された。

「っ…、…なに…?」
「アニー、もう少しだけ、気持ちいいことをしましょうか」
「へ…?」
「射精して、おちんちんをスッキリさせてから、終わりにしましょうね?」
「…おちんち…? ……っ!?」

瞬間、あらぬ場所にイヴァニエの温もりを感じ、ビクンッと腰が跳ねた。
驚いて視線を下げれば、自身の性器が屹立し、薄絹から完全にはみ出ている様を直視してしまい、ギョッとする。
ましてやその性器にイヴァニエの指先が絡んでいる現状に、一瞬で顔面が熱くなった。

「っ!? やっ…な、なんで…!?」
「胸への愛撫で、勃ってしまったみたいですね。ちゃんと気持ち良くなってくれたみたいで、嬉しいですよ」
「そ…そ、かも…だけど…!」

微笑むイヴァニエの顔はとても美しく、本当に嬉しそうなのが余計に恥ずかしい。
生理現象としての知識はあれど、実際自分の体の変化として起こったのは初めてで、それをイヴァニエに見られ、あまつさえ局部を触れられていることに、恥ずかしさから眩暈がしそうだった。

「や…! 触っちゃダメ…!」
「でもアニー、触らないと射精できませんよ?」
「しゃ、射精…て…」
「知っているでしょう?」
「し、知ってる、けど…」
「このままだと、辛くなるのはアニーですよ?」
「ひゃっ」

そう言いながら、イヴァニエの指先が性器を下から上へとツ…と撫で上げた。
それだけ、たったそれだけで駆け抜けた快感に、それまで意識の外にあったはずの性器に溜まった熱が全身を巡り、腰が戦慄いた。
胸の突起を撫でられ、舐められるたびに高まっていた熱…それを吐き出す術が射精なのだと、たった一撫でで知ってしまった。

「や…やぁ…」
「大丈夫ですよ。怖いことじゃありませんから…このままだと、服が着れませんよ?」
「やだ…っ、やだぁ…!」
「…アニー、良い子だから、頑張っておちんちん射精させてあげましょう? 優しく撫でるだけにしますから…ね?」
「うぅ…」

あやすような口づけを頬やこめかみに受けている間も、視界の端ではピクリと性器が揺れていた。
ドキドキと鳴る心臓の鼓動に合わせ、じわじわともどかしさを覚え始めた下腹部に、キュッと唇を喰むと、観念するようにポツリと呟いた。

「……射精…する…」

そう口にした途端、余計にその存在を意識してしまい、熱を吐き出したくて堪らないズクズクとした疼きから、もじもじと腰が揺れた。

「ん…、ふぅ…」
「そんなに不安そうなお顔をしないで。本当に優しく撫でるだけです。…ちょっとだけ零れてますからね、たぶんすぐに射精できますよ」
「…? 零れ…?」
「…もう少しだけ、頑張りましょうね」
「ふゃっ!?」

言い終わると同時に、イヴァニエの手が性器をやんわりと包んだまま、ゆるゆると上下に動き始めた。
それは言葉の通り、とても優しい手つきで、性急さは微塵もなかったが、それでも自分にとっては過ぎた刺激だった。

「あっ、あっ、や…っ!」

ゾクゾクと尾骶骨から何かが駆け抜けるような感覚は、胸を弄られていた時に感じたそれと同じで、それが『気持ちいいこと』であると認識することはできても、理解できるほどの余裕はなく、訳も分からないまま泣きじゃくった。

「イヴ…! イヴ…ッ、やだっ、やだぁ…っ!」
「アニー、良い子ですから、もうちょっとだけ頑張って…ほら、ぎゅーってしていいですから、ね?」
「うっ…んうぅ…っ」

言われるがまま、イヴァニエの首に両腕を回すと、しがみつくように抱き締めた。
そうしている間も性器を撫でる手の動きは緩まず、次第にクチクチと濡れた音が混じり始めるも、それがなんの音かなんて分かるはずもなかった。

「やっ、あっ、あっ、ダメ…、ダメッ…! なんか漏れちゃう…!」
「漏らしていいんですよ。大丈夫、怖くないですから…我慢しないで」
「あっ、やっ、出る、出ちゃ…っ!」

途切れることのないゾクゾクとした痺れがピークに達する手前、今まで味わったことのない感覚に襲われるも、耳元で囁くイヴァニエの声に誘われ、溜まっていた熱がズルリと引き摺り出された。

「───イッて、アニー」
「ひゃっ、あ…っ、ん…~~~っ!!」

甘く響いた声を引き金に、性器からは精が溢れ、初めての絶頂による快楽と吐精の余韻に、頭がクラクラした。
許容量を超えた初めての体験に、心臓は激しく脈打ち、体は乱れた呼吸を繰り返すので精一杯だった。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
「大丈夫ですか、アニー?」
「はぁ……はぁ…、ぁ…」
「…真っ赤なお顔をこんなに蕩けさせて…とっても可愛らしいですが、今日はもう何もできませんね」
「は、ぁ……ん…」

しがみついていた腕を解かれ、ふわふわと茹だった頭のままイヴァニエの体に凭れかかれば、大きな手の平が労るように頬を撫でてくれた。

「ふぅ……ふ…」
「上手に射精できて、偉かったですね。アニーの射精はとろとろ溢れるだけで、ちゃんとイけたのか心配でしたが…この様子だと、問題はなさそうですね」
「…?」
「アニーは射精も可愛いねっていうお話です。…さぁ、エッチなことはもうお仕舞いですよ」
「…ん…」
「…ありがとう、アニー。私を求めてくれて、とても嬉しかったです。今はゆっくり、おやすみなさい。…また後でね」
「……ん…」

目尻に落ちた唇に合わせ瞼を閉じれば、絶頂からの急激な落差による疲労から、あっという間に意識が薄れていく。
何か忘れているような気がするのだが、そこに思考を割くほどの余力もなく、意識はそこでふつりと途切れた。

───眠りに落ちる瞬間、耳元でイヴァニエが何か呟いていたのだが、その言葉が記憶に残ることは無かった。










--------------------
ようやく!80話以上書いてきてようやく!初めての!えっち回です!
いきなり本番まではいきませんいけません。ここからじわじわと、アドニスくんの性のお勉強が始まるのです٩( ᐛ )وヒューッ!

プチ補足:アドニスくんの下着について
ほぼノーパン(広義)だと思って下さい。というより実は4章前まではずっとノーパンでした(まさかの)
生地は足に身に付けてる透け透けストッキング的な素材と同じ物で、股下の無い褌(前と後ろに垂れ有り)みたいな下着というよりただのスケベアイテムと考えて頂いてOKです。勿論、安心と信頼のエルダくんチョイスです。
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